1.第71回法科大学院特別委員会の配付資料として、平成27年司法試験受験状況が公表されています。この資料には、合格発表のときに公表される資料には含まれていない重要な情報が含まれています。
2.まずは、受験回数別の合格率です。今年は、初めて4回目の受験者が参加した年でした。当サイトでは、4回目の受験者は短答に非常に強いが、論文には極端に弱いため、最終的な合格率は低いだろう。従って、今年の司法試験は、4回目受験者の参入により短答は修羅場となる一方、論文はやや緩くなると予想していたのでした(「「平成25年司法試験状況」から読み取れること(下)」、「平成26年司法試験の結果について(12)」)。ところが、既に法務省が公表した資料から、出願者ベースの最終合格率では、4回目の受験者が予想外に健闘していたことがわかっています(「平成27年司法試験の結果について(11)」)。今回公表された資料で、その健闘の内訳がわかります。
下記は、短答、論文の各段階の合格率を受験回数別にまとめたものです。短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベース及び受験者ベースの数字を掲載しています。
受験回数 | 短答合格率 (受験者ベース) |
論文合格率 (短答合格者ベース) |
論文合格率 (受験者ベース) |
1回目 | 62.68% | 47.05% | 29.49% |
2回目 | 61.98% | 33.98% | 21.06% |
3回目 | 64.03% | 21.34% | 13.66% |
4回目 | 81.09% | 21.16% | 17.16% |
従来どおりの傾向として、「短答は受験回数が増えると合格率が上がるが、論文は逆に合格率が下がる」が概ね成り立っています。ただ、今年は2回目の短答合格率が、1回目よりむしろ下がっている点が例外です。また、3回目になっても、それほど短答合格率が上がっていません。これは、気になるところです。
それとは対照的に、突出しているのは、4回目の短答合格率です。1回目から3回目までが、6割台であるのに対し、4回目は急に8割台にまで急上昇、短答は勉強時間がダイレクトに反映するとはいえ、これは予想外の急上昇です。
一方で、4回目の論文合格率は予想どおり、3回目受験生より下がっています。これが、「論文に受かりにくい者は、何度受けても受からない」法則の恐ろしさです。短答で8割を誇る実力があっても、論文は1回目受験生に全くかなわないのです。とはいえ、4回目の受験生は、3回目と比べて、論文合格率微減で踏みとどまっています。圧倒的な短答合格率でリードし、論文合格率の低下をわずかにとどめて逃げ切った。これが、今年の4回目受験生の健闘の内実だったことが、上記の数字から見えてきます。ですから、最終合格率という点では予想外でしたが、短答は受験回数が多くなると受かりやすくなり、論文は受験回数が多くなると受かりにくくなるという傾向自体には、大きな変化は生じていなかったのです。
なぜ、4回目受験生がここまで急激に短答合格率を伸ばしたのか、逆に、2回目、3回目の短答合格率がなぜ、それほど伸びなかったのか。なぜ、4回目受験生の論文合格率が、それほど大きく下がらなかったのか。この辺りは、今のところ、まだわかりません。
来年以降は、5回目受験生も登場します。今年、8割短答に受かった4回目の受験生は、論文では2割強しか受かっていません。残りは、5回目の受験生として、来年も帰ってくるでしょう。この5回目受験生は、やはり短答に強いはずです。また、今年3回目の受験生だった不合格者も、来年は4回目受験生として帰ってくる。この4回目も高い短答合格率となるとすれば、来年の短答は、初受験者にとって相当厳しい修羅場となるでしょう。短答をナメていると、足元をすくわれかねません。
3.もう一つの重要な情報は、予備組の予備試験合格年別の短答・論文合格率です。下記は、短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベースの数字をまとめたものです。
合格年 (平成) |
短答 合格率 |
論文 合格率 |
26 | 98.46% | 79.17% |
25 | 96.15% | 42.00% |
24 | 97.56% | 27.50% |
23 | 92.31% | 16.67% |
短答は、あまり有意な数字とはいえません。平成23年合格者がたくさん落ちているように見えますが、これは13人受験して1人不合格になった結果の数字です。母集団が少ないので、大きく見えるだけだと考えたほうがいいでしょう。
一方で、論文合格率は、顕著に差がついています。予備組は、基本的に受控えをする理由はありませんから、上記は受験回数別の数字に近いと考えてよいでしょう。論文は受験回数が増えると、合格率が下がる。すなわち、「論文に受かりにくい者は、何度受けても受からない」法則が、予備組にも強烈に作用しているのです。
今年の受験生全体の短答合格者ベースの論文合格率は、34.85%です。平成23年、24年の予備合格者は、この全体の合格率を下回っています。予備試験に合格したとは思えない数字です。とりわけ不思議なのは、平成23年予備合格者の論文合格率の低さです。前記2で示した4回目受験生の論文合格率は17.16%ですから、これより低い数字なのです。平成23年予備合格者も、ほとんどの人は4回目の受験生でしょう。すなわち、同じ4回目受験生の平均的な合格率よりも、予備組の方が低くなってしまっているわけです。もっとも、平成23年予備合格者は母集団が少ないので、誤差の範囲といえなくもありません。今後も、「同じ受験回数で予備組の方が受かりにくい」という現象が続くのか、今年の4回目受験生の健闘が異常値だったのか、注目したいところです。
いずれにせよ、論文は、単純に勉強を増やすだけでは、受かりやすくなることはない。これは、優秀と言われる予備組であっても例外ではないということを、十分に認識すべきです。当サイトは、その主な原因は、規範を明示する意識と、事実を問題文から丁寧に引用する意識が欠けている点にあるのだろうと考えています(付随的原因として、加齢による事務処理能力の衰えもあります)。判例の規範を地道に覚える作業を繰り返し、答案にきちんと明示する。問題文から愚直に事実を引用して当てはめる。このようなことは、意外と勉強が進むにつれてやらなくなるものです。当たり前の規範など覚えたつもりになってしまい、改めて覚える作業をしない。初学者の知らない難しい抽象論をたくさん勉強したので、書きたい。問題文の引用は省略して、抽象論を展開してしまう。あるいは、抽象論を書いているうちに時間切れになって、事実を拾いきれなくなる。これが、端的に合否に影響しているのです。まずは初心に帰って、ほとんど規範と事実だけしか書かないような答案を書いてみるとよいと思います(今年の当サイトの参考答案は、そのようなコンセプトで書かれています)。びっくりするほど、すっきりした綺麗な答案に仕上がるでしょう。それだけで、評価がガラリと変わるはずです。そのような答案を安定して書けるようになったなら、余裕のあるところに限って、コンパクトに趣旨から説明したり、一言事実の評価を入れてみる。このような優先順位を意識して、答案のスタイルを抜本的に変えることが必要だと思います。「論文に受かりにくい者は、何度受けても受からない」法則から抜け出す方法は、それしかないように思います。