1.以下は、司法試験受験経験別の受験者数の年別の推移です。
受験経験 | 平成23 | 平成24 | 平成25 | 平成26 | 平成27 |
受験なし | 1629 | 2517 | 4553 | 6025 | 6384 |
旧試験のみ | 4512 | 4159 | 3929 | 3358 | 3095 |
新試験のみ | 91 | 152 | 263 | 385 | 317 |
両方受験 | 245 | 355 | 479 | 579 | 538 |
「受験なし」のカテゴリーは、新規参入組です。昨年まで受験者数が急増していましたが、今年は、増加のペースが急激に鈍っていることがわかります。これまで、当サイトでは、新規参入組の多くは、大学生と法科大学院生である、と説明してきました(「平成26年予備試験口述試験(最終)結果について(6)」)。しかし、今年は、大学生は昨年より37人増えただけで、法科大学院生に至っては136人減ってしまっています。ですから、今年の「受験なし」、すなわち、新規参入組の増加は、大学生や法科大学院生以外の社会人の受験者が増加したことによる、ということになるでしょう。過去に新旧いずれかの司法試験を受験して合格できなかった社会人が予備に参入したのではなく、これまで司法試験を受けたことのない社会人の受験が増えている。これは、これまでには見られなかった傾向です。
他方で、それ以外のカテゴリーは、全て減少しています。旧司法試験は、もう実施されていませんから、「旧試験のみ」が減少するのは当然のことです。それでも、3000人程度の人が、諦めきれずに受験を続けています。
やや意外なのは、「新試験のみ」も減少に転じたということです。昨年までは、増加を続けていました。受験回数制限を使い切る人は毎年生じているわけですから、これは自然なことです。それが、今年は減少に転じている。1つの原因としては、受験回数制限が5年5回に緩和されたので、新規に受験回数制限を使い切る人が減ったということがあるでしょう。もっとも、それは増加幅の抑制の説明にはなっても、減少することの説明にはなりません。諦めて撤退する人が増えているということです。
「両方受験」が減少するのは、旧司法試験受験経験者自体が減ってきていますから、当然のことでしょう。ただ、昨年までは、このカテゴリーも、増え続けていました。それは、旧司法試験に合格できずに法科大学院に行き、そこから新司法試験に挑戦したものの合格できず、受験回数制限を使い切る人が増えていたことを意味します。今年になってこのカテゴリーが減少した原因としては、そもそも旧司法試験受験経験者自体の数が減っていることに加えて、「新試験のみ」のカテゴリーが減少したのと同じ原因、すなわち、受験回数制限が5年5回に緩和されたので、新規に受験回数制限を使い切る人が減ったということと、諦めて撤退する人が増えたという2つが考えられます。
2.今度は、上記の各カテゴリーについての今年の短答、論文合格率を見てみましょう。なお、短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベースの数字です。
受験経験 | 短答 合格率 |
論文 合格率 |
受験なし | 18.4% | 29.1% |
旧試験のみ | 24.7% | 6.2% |
新試験のみ | 33.4% | 12.2% |
両方受験 | 45.5% | 9.7% |
短答は、受験経験を積むごとに、合格率が上がっていきます。特に、新試験の受験経験があると、短答合格率は高くなる。旧試験は憲民刑しか短答がなく、しかも、憲法や刑法は論理問題の比重が高かったということが影響しています。新試験と予備試験の短答は、ほぼ同一の傾向ですから、新試験対策で勉強をしていた人は、短答合格率が高くなりやすいというわけです。ただし、今年から司法試験の短答が憲民刑の3科目となりました。他方で、予備の短答は7科目のままです。そうすると、将来的には、司法試験の受験回数制限を使い切った人が予備に回る場合、その頃に予備の短答が7科目のままだとすると、現在より相関性が弱まる可能性があるでしょう。
一方、論文は、「受験なし」が圧倒的です。短答は受験経験が増えると合格率が上がるのに、論文は受験経験のない者が圧倒的に高い合格率になる。当サイトで繰り返し説明している、短答と論文の特性を反映した対照的な傾向です。受験経験のある人は、ほとんどの人が論文不合格経験者です。「受かりにくい人は何度受けても受からない」法則が、ここにも現れています。受験経験のある人の中では、「新試験のみ」のカテゴリーが、一応それなりの合格率を維持しています。まだ3回しか論文で不合格になっていないという意味で、負のセレクションをあまり受けていないというのが一つの理由です。もっとも、今後は、受験回数制限緩和により、予備に回る人は5回不合格を経験することになります。将来的には、その影響が合格率に現れてくるでしょう。
それ以外に、「新試験のみ」のカテゴリーの合格率がやや高い理由として、新試験の採点基準による成績評価を経験したこともあるでしょう。旧試験と新試験は、配点の付き方が違います。旧試験は学説、理由付け(本質論や趣旨)、論理性の比重が高かったのですが、新試験では判例、規範、当てはめ(事実の引用)の比重が高い。そして、このことは、予備試験でも同様です。旧試験では、多論点型は規範を示さずにいきなり当てはめればよかったのですが、現在はそれでは点が伸びません。他の論述を犠牲にしても、まずは規範を示すべきなのです。このような現在の採点基準による成績評価を一度体感しているかどうかが、論文合格率に反映されているといえるでしょう。「両方受験」のカテゴリーは、旧試験時代の感覚がまだ残っているために、合格率が「新試験のみ」よりも低くなっているという理解も可能でしょう。旧試験時代から勉強をしていた人は、どうしても旧試験のイメージが残っています。意識して合格答案のイメージを変える必要があるのです。