1.以下は、直近5年の職種別の受験者数の推移です。ただし、法務省の公表する資料において、「公務員」、「教職員」、「会社員」、「法律事務所事務員」、「塾教師」、「自営業」とされているカテゴリーは、まとめて「有職者」として表記し、「法科大学院以外大学院生」及び「その他」のカテゴリーは省略しています。なお、「無職」には、アルバイトを含みます。
年 (平成) |
有職者 | 法科大学院生 | 大学生 | 無職 |
24 | 2571 | 526 | 1636 | 2122 |
25 | 2739 | 1456 | 2444 | 2198 |
26 | 2936 | 1846 | 2838 | 2298 |
27 | 3092 | 1710 | 2875 | 2233 |
28 | 3268 | 1611 | 2881 | 2265 |
前々回の記事(「平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で、20代が減少傾向にあることを確認しました。職種別の受験者数でみると、それが法科大学院生の減少に対応していることがわかります。他方、大学生は昨年より6人増えています。もっとも、前々回の記事で確認したとおり、19歳以下の受験生が20人増えていることからすると、20代の大学生(概ね3年次から4年次)の受験は、むしろ減っていることになります。
一貫して増加傾向にあるのが、有職者です。ただし、前回の記事(「平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)でみたとおり、30代後半から50代後半までの層は、苦節○○年という長期受験者である可能性が高い。したがって、ここでいう有職者も、社会人経験のある人が、ある日一念発起して予備試験の勉強を始めた、というよりは、司法試験に合格できずに就職したが、諦めきれずに予備試験を受けている、そういう人達であるとみた方がよさそうです。この層が増加しているのは、受験回数制限を使い切った後、就職して予備試験を受験している人や、旧司法試験が終了した時点で一度撤退したものの、予備試験の合格者数が思ったよりも多いことを知り、再度参入してきた人が増えているためでしょう。
一方で、やや不思議な動きを示しているのが、無職です。昨年は減少したのに、今年はまた増加に転じている。これは、前々回の記事で説明した30代前半の動きに対応しています。すなわち、受験回数制限が5年5回に緩和されたために、一時的に受験回数を使い切る人が減少した。受験回数制限を使い切って予備に回る人は、無職(アルバイトを含む)であることが多いので、これが無職のカテゴリーの数字に反映されているというわけです。
2.では、最終合格者数でみると、どうか。以下は、直近5年の職種別の最終合格者数の推移です。
年 (平成) |
有職者 | 法科大学院生 | 大学生 | 無職 |
24 | 42 | 61 | 69 | 41 |
25 | 38 | 162 | 107 | 36 |
26 | 38 | 165 | 114 | 34 |
27 | 54 | 137 | 156 | 35 |
28 | 39 | 153 | 178 | 31 |
一貫して増加傾向にあるのが、大学生です。昨年に引き続き、ロー生を上回る合格者数になっています。一方で、受験者数が一貫して伸びていた有職者は、ほとんど横ばいです。無職も、横ばいか、やや減少傾向。若年化方策が、うまく機能していることがわかります。
3.短答合格率をみてみましょう。以下は、今年の職種別の短答合格率(受験者ベース)です。
職種 | 受験者数 | 短答 合格者数 |
短答 合格率 |
有職者 | 3268 | 724 | 22.1% |
法科大学院生 | 1611 | 391 | 24.2% |
大学生 | 2881 | 576 | 19.9% |
無職 | 2265 | 631 | 27.8% |
短答は、勉強時間が長く確保できれば、受かりやすくなる。無職は、多くの場合、専業受験生です。したがって、最も多く勉強時間を確保できる。それが、短答合格率に反映されています。他方、勉強時間が最も少ないのは、大学生です。大学生は、短答では最も苦戦しているのです。このことは、若年化方策をとることなく、法律の知識で勝負がつく試験にした場合、専業受験生の無職が合格し、大学生は受からない試験になってしまうことを意味しています。
4.では、論文になると、どうなるか。以下は、今年の職種別の論文合格率(短答合格者ベース)です。
職種 | 短答 合格者数 |
論文 合格者数 |
論文 合格率 |
有職者 | 724 | 41 | 5.6% |
法科大学院生 | 391 | 160 | 40.9% |
大学生 | 576 | 186 | 32.2% |
無職 | 631 | 37 | 5.8% |
年配者の多い無職や有職者を落とし、ロー生と大学生を受からせることに成功しています。これが、若年化方策の効果です。ただ、論文も全く法律の知識・理解が不要かといえば、そうではない。最低限の規範を覚え、どのような事案でどの規範を用いるべきか、規範に当てはまる事実はどれか、その程度の判断はできるようになっていなければなりません。その差が、ロー生と大学生の合格率の差として、表れているといえます。逆にいえば、その程度で十分であり、それ以上の学習をすれば、当局が落としたい受験者層になってしまいかねません。
このように、ロー生や大学生は、特に対策を考えなくても、普通の感覚で受ければ、論文はクリアできます。ところが、社会人や無職の専業受験生は、法律の知識・理解が過剰になっているので、普通に受けると極端に受かりにくい。当サイトで繰り返し指摘している、「論文に受かりにくい人は、何度受けても受からない」法則です。そのような人は、まず、勉強の範囲を規範部分に絞ることが必要です。その上で、当てはめに入る前に規範を明示する、事実は問題文から忠実に引用する、というスタイルを守った答案を書けるようにする。やろうと思えば簡単なことなのですが、これを実行できる人は、少ないのが現実です。障害になるのは、心理面の抵抗です。上記のような割り切った書き方は、今まで自分がやってきたこだわりと衝突する。「趣旨・本質に遡るんだ。いきなり規範なんて書きたくない。」、「自分は○○先生の連載を読んで、○○先生の考え方が正しいことを理解している。だから、その考え方で書きたい。」、「今まで勉強してきた深い理解を答案に表現したい。規範と事実だけを書くなんて我慢できない。」、「判例の規範は、実は間違っているんだ。そんな間違った規範は使いたくない。」、「問題文の事実をそのまま引くなんてバカみたいだ。そんなものは省略して、自分の言葉で事実の評価を書きたい。」、「コンパクトな答案の方が切れ味があると思う。自分は規範や事実を書き写すようなバカっぽい答案は書きたくない。」。このようなことは、長期間勉強した受験生なら、誰しも思うことです。これを捨てることは、今までの数年間(場合によっては数十年間)は何だったのか、ということになる。この未練が、とても大きな障害になってしまうのです。これを乗り越えることが、何より重要です。