平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(3)

1.以下は、年齢層別の短答合格率(受験者ベース)です。

年齢層 短答
合格率
19歳以下 7.1%
20~24歳 22.6%
25~29歳 16.8%
30~34歳 20.5%
35~39歳 26.7%
40~44歳 27.2%
45~49歳 29.8%
50~54歳 26.3%
55~59歳 26.3%
60~64歳 23.7%
65~69歳 21.1%
70~74歳 10.8%
75~79歳 8.5%
80歳以上 0%

 当サイトでも、繰り返し説明しているとおり、短答は単純に知識で差が付くので、勉強量の多い年配者が有利です。それが、合格率にはっきり表れている。30代後半から50代後半までの年代は、全て25%を超える高い合格率です。トップの40代後半の世代は、3割近い合格率を誇っています。これに対し、20代前半は22%程度に過ぎません。このことは、単純に知識だけで勝負させてしまうと、「40代後半くらいまで勉強を続けた人が一番受かりやすい。」という怖い結果が出力されかねないことを示しています。同時に、30代後半から50代後半までの受験者のほとんどは、勉強期間が長い人達である。すなわち、30代、40代、50代になって初めて法曹を目指し始めた社会人ではなく、旧司法試験時代から、苦節10年、20年、30年と勉強を続けている人達である、ということを意味しています。旧司法試験時代に存在した滞留者問題は、解消されていないのです。若年化方策が必要とされる所以です。

2.これが、論文段階だとどうなるか。以下は、短答合格者ベースの年齢層別論文合格率です。

年齢層 論文
合格率
19歳以下 0%
20~24歳 37.8%
25~29歳 24.5%
30~34歳 11.7%
35~39歳 8.3%
40~44歳 4.3%
45~49歳 4.7%
50~54歳 2.3%
55~59歳 2.1%
60~64歳 2.7%
65~69歳 0%
70~74歳 0%
75~79歳 0%
80歳以上 ---

 短答段階では、その実力を見せつけていた30代後半以降の年配者は、壊滅しています。一方で、20代は圧倒的な合格率になっている。これが、前回の記事(「平成28年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で説明した若年化方策の効果です。法律の知識・理解だけで勝負させてしまうと、40代、50代が有利になってしまう。「40代、50代になるまで勉強しないと受からない試験」など、誰も受けたくないでしょう。だから、そのような年代層が受からないような出題、採点をする。具体的には、長文の事例問題を出題し、規範と事実、当てはめ重視の採点をするということです。規範も、判例の規範であれば無条件に高い点を付けるが、学説だとかなり説得的な理由を付していなければ点を付けない。若手は、とにかく判例の規範を覚えるので精一杯です。しかし、勉強が進んでくると、判例の立場の理論的な問題点を指摘する学者の見解まで理解してしまいます。「そうか判例は間違いだったのか。」と、悪い意味で目から鱗が落ちる。こうして、年配者は、「間違った」判例ではなく、「正しい」学説を書こうとします。この傾向を逆手に取れば、若年化効果のある採点ができるというわけです。この採点方法は、「理論と実務の架橋という理念からすれば、まず判例の立場を答案に示すことが求められる。」という建前論によって、正当化することができる点でも、優れています。
 このような傾向は、若年化効果が薄れるまで続くでしょう。年配者の多数がこのことに気付いて、書き方を工夫してくるようになると、若年化効果が薄まってしまいます。その時には、また新しい方策を考えなければならなくなる。傾向変化が生じるのは、この時です。もっとも、これまでの結果をみる限り、年配者は、ほとんどこのことに気が付いていません。また、気が付いても、年配者は字を書く速度が遅いので、なかなか規範を明示し、事実を摘示して書き切ることができない。そういうことから、当分の間は、若年化効果は維持されるでしょう。したがって、この出題・採点傾向も、当分の間続くということです。
 予備試験の論文式試験の問題は、旧司法試験の問題に外見が似ています。しかし、旧司法試験時代と現在とでは、若年化方策が異なる旧司法試験時代は、比較的単純な基本重視で、とりあえず趣旨を書けば受かる、というものでした。だから、趣旨に遡る形式の予備校論証を貼っていれば、当てはめがスカスカでも受かっていたのです。これに対し、現在の予備試験は、規範の明示と事実の摘示に極端な配点を置く当てはめ重視です。ですから、論証を貼って当てはめがスカスカというのでは、危ない。今年の問題でいえば、その差が顕著に表れるのが、民訴と刑訴です。詳細は、以前の記事(「平成28年予備試験論文式民訴法参考答案」、「平成28年予備試験論文式刑訴法参考答案」)を参照して下さい。

3.このように、短答では知識重視の出題、採点をして高齢化させておいて、論文で若年化させる。現在は、そのような仕組みになっています。なぜ、短答段階でも若年化の方策を採らないのか、不思議に思う人もいるでしょう。かつての旧司法試験では、短答でも複雑なパズル問題を出題するなど、知識では解けない問題を出題して、若年化を図っていました。ところが、そのような手法は、見た目にも法律の知識・理解を問う気がないことがバレてしまう出題形式だったので、もはや法律の試験ではない、というまっとうな批判がなされました。しかも、短答段階で知識を問わなくなった結果、あまりにも知識のない者が合格してしまい、修習に支障が生じるという事態にもなりました(旧試験でも民法だけは知識重視の傾向が維持されたのは、これだけは譲れない一線だったからだと言われています。)。そして、そもそも、年配者も知識で解かないということに気付いてしまい、若年化効果が薄れてしまった。そこで、新司法試験では、そのような出題はしないこととされたのです。

 

新司法試験実施に係る研究調査会報告書(平成15年12月11日)より引用。太字強調は筆者。)

第4 短答式試験の在り方

1 出題の在り方

 (中略)

 基本的知識が体系的に理解されているかを客観的に判定するために,幅広い分野から基本的な問題を多数出題するものとし,過度に複雑な出題形式とならないように留意する

(引用終わり)

 

 このことは、毎年の考査委員会議でも、申し合わせ事項として確認されています。

 

(「司法試験における短答式試験の出題方針について」(平成27年11月18日司法試験考査委員会議申合せ事項)より引用。太字強調は筆者。)

 司法試験の短答式による筆記試験は,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とするものであるが,その出題に当たっては,法科大学院における教育内容を十分に踏まえた上,基本的事項に関する内容を中心とし,過度に複雑な形式による出題は行わないものとする。

(引用終わり)

 

 短答は、出題形式や採点方法に工夫の余地が少ないのに対し、論文は、採点をブラックボックスにできるので、工夫の余地が大きいのです。そして、現在の方策は、外見上、法律の知識・理解が問われているように見えるので、年配者も気が付きにくい。不合格になっても、来年に向けて法律の知識・理解を深めようと努力してくれれば、問題がないわけです。予備校も、今のところ、このことにほとんど気が付いていません。このことは、短答のパズル問題にいち早く予備校が対応したのとは対照的です。ですから、前記のとおり、現在の若年化方策は、当面の間、うまくいく。それはつまり、この傾向が変化しないということを意味しています。

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