1.法務省から、平成29年司法試験の受験予定者数が公表されています。受験予定者数は6624人で、出願者数の6716人よりも92人減っています。出願したものの、法科大学院を修了できなかった人が、92人いたということです。その他、出願者数公表時には含まれていなかった情報について、簡単にみていきましょう。
2.まず、受験回数別の受験予定者数です。以下は、直近5年の受験回数別受験者数の受験予定者数全体に占める割合の推移です。
1回目 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | |
平成25 | 43.6% | 33.2% | 23.0% | --- | --- |
平成26 | 43.5% | 32.2% | 24.1% | --- | --- |
平成27 | 35.0% | 29.4% | 24.2% | 11.3% | --- |
平成28 | 34.9% | 25.0% | 22.4% | 13.4% | 4.1% |
平成29 | 34.2% | 24.3% | 19.3% | 15.6% | 6.4% |
4回目、5回目の受験生が、初めて全体の2割を超えてきました。4回目、5回目の受験生は、短答に強いことがわかっています(「平成28年司法試験の結果について(16)」)。短答合格者数の枠のうち、一定数は、4回目、5回目の受験生が取っていくということです。特に、初回の受験生は、短答を甘くみていると、思わぬ結果になりかねないので、注意すべきでしょう。
3.受験回数別の受験予定者数から、わかることがあります。それは、昨年の受験予定者で合格しなかったもののうちの、何割が今年も受験しようとしているか。すなわち、どのくらいの割合が再受験したかという、「再受験率」です。具体的には、昨年の受験回数別受験予定者数から受験回数別合格者数を差し引いて得た数字を今年の受験回数別受験予定者数で除した数字を「再受験率」として算出します。これをまとめたものが、下の表です。厳密には、昨年の受験予定者で合格しなかったものの中には、受控えをした者が含まれていますが、ここでは便宜上、「昨年の不合格者」と表記しています。
今年の 受験回数 |
昨年の 不合格者 |
今年の 受験予定者 |
再受験率 |
2回目 | 1723 | 1611 | 93.4% |
3回目 | 1543 | 1280 | 82.9% |
4回目 | 1484 | 1035 | 69.7% |
5回目 | 894 | 429 | 47.9% |
受験回数が増えると、再受験率が低下しています。一度不合格になった程度では諦めないが、不合格の回数が重なってくると、撤退を考える人の割合が増えてくる。自然なことといえるでしょう。ただ、5回目の再受験率がここまで低いのは、やや意外な感じもします。4回目まで受験したのであれば、最後まで受験してみたい、と思う方が、自然なようにも思えるからです。5回目の再受験率の低さの要因の1つには、論文試験特有の、「受かりにくい人は、何度受けても受からない」法則があるのでしょう。論文は、勉強量を増やしただけでは成績が上がりませんから、2回、3回、4回と受験しても、論文の成績はなかなか上がらない、むしろ、下がってしまうことも普通です。そのため、「もう受かる気がしない。」と考えて、5回目の受験を諦める人が多いのかもしれません。
4.それから、法科大学院在学中の予備試験合格者について、少しみておきましょう。法科大学院在学中の予備試験合格者で、出願段階で法科大学院を修了する見込みのものは、予備試験の資格で受験するか、法科大学院を修了した場合は法科大学院修了の資格で受験するかを、願書記入の段階で選ぶことができます。
(「平成29年司法試験 受験願書の記⼊要領」より引用)
法科大学院課程修了と司法試験予備試験合格の両方の受験資格を取得している場合は,いずれの受験資格に基づいて出願するか(「1」,「2」又は「3」)を選択し記入します。
(引用終わり)
今年の出願者数公表の段階では、「司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」が408人、「法科大学院課程修了見込者で、同課程修了の資格に基づいて受験するが、同課程を修了できなかったときは司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」は138人でした。それが、受験予定者数公表の段階では、「司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」は、410人になっています。これは、出願段階で、「法科大学院課程修了見込者で、同課程修了の資格に基づいて受験するが、同課程を修了できなかったときは司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」であった138人のうち、2人が法科大学院を修了しなかったことを意味しています。逆にいえば、残りの136人は、法科大学院を修了したので、「法科大学院課程修了の資格に基づいて受験する者」の方にカウントされている、ということになります。
このように、法科大学院在学中の予備試験合格者については、受験者の任意の選択によって、法科大学院修了者としてカウントされたり、予備試験合格者としてカウントされたりするのです。そのために、法科大学院在学中の予備試験合格者に関する情報が、統計情報として扱いにくくなってしまっています。法科大学院関係者の中には、「法科大学院在学中の予備試験合格者は、法科大学院のおかげで司法試験に合格できたのだから、一律に法科大学院修了者としてカウントすべきだ。」と考えている人もいるようです。
(法科大学院特別委員会(第76回) 議事録より引用。太字強調は筆者。)
上田信太郎(北海道大学大学院法学研究科教授)委員「本人の司法試験の受験願書を書く際の自己申告に基づいてということになっていると思うのですけども,やはりどこかで歯止めというか,制度化をしていかないと,この司法試験に合格した功績というのが,予備試験なのか,それとも法科大学院なのかという問題があると思います。今,結構シビアな議論ずっとしていますので,こういう場合には,例えば修了生についてはもう法科大学院という形でカウントしていくというようなことを決めていかないと,ちょっと予備試験と法科大学院の教育の質というか,そういったものがないまぜになってしまうような感じが致します。あるいは,どこかで歯止めを掛けていく必要があるのではないかと思いますがどうでしょうか。」
(引用終わり)
しかし、そのようなことが可能なのであれば、「法科大学院修了の資格のみを有する者」、「予備試験合格の資格のみを有する者」、「法科大学院修了及び予備試験合格の資格を有する者」に区分して統計を取ればよいのです。それができないのは、現状の方式では受験資格の有無を出願時に提出される資料によってしか確認できないからです。そのようなことを可能にするためには、どちらの資格で受験するかにかかわりなく、保有する資格をすべて願書に記載させる必要があります。その場合、予備試験合格の資格で受験するのに、法科大学院修了の資格を有することまで申告させてよいか、というような問題が一応生じますが、現在でも、受験の可否に必ずしも関係のない学歴等の情報を自己申告させていますから、そのような記載を自己申告で求めることは、不可能ではないでしょう。いずれにせよ、この点は、もう少し改善の余地があるように思います。