平成28年司法試験の結果について(16)

1.第76回法科大学院特別委員会の配付資料として、「平成28年司法試験受験状況」が公表されています。この資料には、合格発表のときに公表される資料には含まれていない重要な情報が含まれています。

2.以下は、短答、論文の各段階の受験回数別合格率をまとめたものです。短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベース及び受験者ベースの数字を掲載しています。

受験回数 短答合格率
(受験者ベース)
論文合格率
(短答合格者ベース)
論文合格率
(受験者ベース)
1回目 63.1% 49.2% 31.0%
2回目 63.4% 29.9% 18.9%
3回目 62.4% 20.9% 13.0%
4回目 71.5% 17.8% 12.8%
5回目 83.1% 21.4% 17.8%

 まず、短答合格率をみてみましょう。短答は、勉強量を増やせば単純に受かりやすくなるので、受験回数が増えると、合格率が高くなります。今年に関しては、2回目の合格率が、1回目よりそれほど高くなっていないこと、3回目の合格率が、むしろ1回目より低くなっていることを除けば、例年どおりの傾向といえるでしょう。特に、注目したいのは、4回目と5回目の合格率の高さです。この短答合格率の高さには、単純に勉強時間が長い、というだけでなく、4回目、5回目の再受験率の低さも影響しています。以下は、昨年に受験して合格しなかった者のうちの、何割が今年も受験したかをまとめたものです。

今年の
受験回数
昨年受験した
不合格者数
今年の
受験者数
再受験率
2回目 1812 1627 89.7%
3回目 1825 1506 82.5%
4回目 1656 930 56.1%
5回目 758 297 39.1%

 4回目、5回目になると、急激に再受験率が下がっていることがわかります。4回目、5回目になってくると、自主的に撤退してしまう人が増えるということです。ここで、撤退する人がどういう人か、ということを考えてみると、上記の短答合格率と関連があることに気付きます。3回受験して、短答にすら受からないレベルだったとすると、さすがにもう諦めよう、ということになりやすいでしょう。もちろん、論文まで行って諦める人もいるでしょうが、論文まで行く人は、「あと一歩」という感覚があるので、なかなか諦めきれないものです。全体の割合からすると、短答に受からないレベルの人から、優先的に撤退していく。そうすると、諦めずに4回目、5回目の受験をする人は、短答合格レベルの人ばかりである、ということになる。その結果、上記のような、単に勉強量が増えたというだけでは、説明が難しいほどの短答合格率の上昇という現象が生じたのです。
 次に、論文合格率をみてみましょう。論文は、最低限の論点と規範を覚えていれば、後は答案のスタイルと、文字を書く速さで差が付きます。そのため、ある程度以上の水準を超えると、勉強量はまったく合否に影響しなくなる。そのため、「受かりにくい人は、何度受けても受からない」法則が成立します。受かりやすい人は、早い段階で合格してしまい、いなくなってしまう。これに対し、受かりにくい人は、翌年、また翌年と滞留していく。その結果、受験回数が増えると、「受かりにくい人」ばかりが滞留することになるので、論文合格率が下がる。これは、毎年みられる顕著な傾向です。今年の短答合格者ベースの論文合格率をみると、4回目までは、その傾向どおりの結果となっていることがわかります。ところが、5回目だけは、なぜか合格率が上がっています。それも、3回目より高い数字になっている。これが、今年の最大の特徴です。5回目の受験生は、短答で圧倒的な強さを見せ、論文でも3回目を超える合格率をキープした結果、受験者ベースの最終合格率は、2回目受験生に肉薄する高さになっています。
 現在のところ、なぜ、5回目受験生が論文で崩れなかったのかという理由は、わかっていません。上記の再受験率の低さは、1つの要因でしょう。論文にある程度自信のある人だけが、再受験したとすれば、論文合格率が高くなりやすいからです。しかし、再受験率の低さがそこまで決定的な要因であれば、同じく再受験率の低かった4回目受験生の論文合格率が、もっと高くなってもよいはずです。そう考えると、それだけが理由とは考えにくい。何か、イレギュラーな要因があったのかもしれません。今年は、初めて5回目受験生が参入した年でした。来年以降、5回目受験生の論文合格率が上昇するという傾向が続くのか、それとも、今年だけのイレギュラーな結果なのか、注目したいところです。

3.次は、予備組です。「平成28年司法試験受験状況」では、予備試験合格年別の数字が記載されています。予備組は例年、ほぼ全員短答に合格するので、短答合格率をみても、あまり意味はありません。そこで、予備試験合格年別の短答合格者数、論文合格者数、短答合格者ベースの論文合格率をまとめると、以下のようになります。合格年欄の括弧書きは、受控えをしない場合の通常の受験回数を示します。

合格年
(平成)
短答
合格者数
論文
合格者数
論文
合格率
27
(1回目)
264 195 73.8%
26
(2回目)
44 21 47.7%
25
(3回目)
30 10 33.3%
24
(4回目)
31 24.1%
23
(5回目)
22.2%

 論文は受験回数が増えると、合格率が下がる。この傾向どおりの結果となっています。論文特有の「受かりにくい人は、何度受けても受からない」法則は、予備組にも例外なく妥当するのです。
 目に付くのは、予備組は、2回目以降の受験者の絶対数が少ない、ということです。これは、「予備組はほとんどの人が一発で司法試験に受かる。」ことを意味しています。予備組は、全員、予備試験の論文に受かっているわけですから、ほとんどの人が「受かりやすい人」です。だから、ほとんどが1回目ですんなり受かる。ただ、現在の予備試験の論文は、規範の明示と事実の摘示が必ずしも十分でなくても、受かってしまう場合があります。そういう受かり方をした人は、本来「受かりにくい人」ですから、司法試験でも、なかなか受からない。しかし、上記の表を見ればわかるとおり、それは少数派です。そして、その少数派は、「受かりにくい人」ですから、2回目以降になると、全体受験生の1回目の合格率である49.2%よりも低い数字になってしまうのです。このことは、予備試験の論文に受かる者は、基本的に論文に「受かりやすい人」であるが、例外的に「受かりにくい人」も合格する場合があり、その者は、司法試験では、やはり「受かりにくい」ために、「何度受けても受からない」ということを意味しています。予備試験合格者で、今年不合格だった人は、その点を意識する必要があります。
 それと、興味深いのは、予備組の5回目受験生は、4回目受験生より合格率が下がっている、という点です。前記2でみたような、「5回目受験生の健闘」は、予備組にはみられませんでした。もっとも、予備組の5回目受験生は9人しかいませんから、母数が小さすぎます。仮に、あと1人合格していれば、論文合格率は33.3%まで跳ね上がるところでした。ですから、これだけでは、まだ何ともいえないかな、という印象です。

4.さて、以前の記事(「平成28年司法試験の結果について(11)」)で、「後日確認したい」としていた、「上位既修ローと予備の1回目受験生対決」です。以下は、予備組、東大既修、京大既修、一橋既修、慶応既修の初回受験(平成27年予備合格又は平成27年度ロー修了)の受験者数、最終合格者数、受験者合格率です。

  受験者数 最終
合格者数
受験者
合格率
予備 267 195 73.0%
東大
既修
118 82 69.4%
京大
既修
113 81 71.6%
一橋
既修
56 42 75.0%
慶応
既修
148 95 64.1%

 一橋が、予備を上回る合格率です。京大はほぼ同水準。東大、慶応はやや後れをとっています。とはいえ、ざっくりとみれば、ほぼ7割前後で互角に近い戦いと言ってよいでしょう。このように、初回受験生同士で比較しても、予備組と上位ロー既修は、ほぼ同水準の実力なのです。これは、理屈の上でも当然の現象だといえます。なぜなら、予備組と上位ロー既修の実力が等しいところで均衡するような構造が、存在するからです。
 例えば、予備の合格レベルの方が、上位ロー既修より下の水準だったとしましょう。そうすると、上位ロー既修在学中の者は、どんどん予備に受かって抜けていってしまいます。その結果、上位ロー既修に残っている者のレベルが下がっていきます。やがて、予備の合格レベルの水準と等しくなるまで下がってくると、それ以上は上位ロー既修が受験しても受からなくなる。したがって、そこでレベルの低下が止まり、均衡するというわけです。
 このように、予備試験の合格者数を増加させて、予備の合格レベルを下げていくと、それに応じて上位ロー既修のレベルも下がっていくのです。このような仕組みがある限り、閣議決定が目標とする「法科大学院生と予備試験合格者の合格率の均衡」が、いつまでたっても達成できないことは、以前の記事(「平成26年予備試験短答式の結果について(4)」)で説明したとおりです。そして、このこともあって、この合格率の均衡は、「ロー修了生の低い合格率に予備組の合格率を合わせるという意味ではなく、ロー修了生の合格率を引き上げるように頑張れという意味に過ぎない。だから、予備の合格者数を増やす必要はない。」として空文化する解釈がされるようになり、事実上無視されるに至ったのが、現在の状況です(「平成27年予備試験論文式試験の結果について(1)」)。

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