平成29年司法試験論文式民事系第3問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.現在の司法試験の論文式試験において、ほとんどの科目では、合格ラインに達するための要件は、概ね以下の3つです。

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを摘示できている。

 もっとも、民訴法は、必ずしも上記が当てはまらない独特の傾向でした。設問の内容自体は易しく、誰もが簡単に解答できてしまうものなのですが、その説明の仕方が出題趣旨に沿っていないと、点が付かない。そこでポイントになっていたのは、概ね以下の3つでした。

(ア)問題文で指定されたことだけに無駄なく答えている。
(イ)参照判例がある場合、まずその判例の趣旨を確認している。
(ウ)例外が問われた場合、まず原則論を確認している。

 上記(ア)から(ウ)までを守っていないと、理論的には全く正しい内容を書いているのに、全然点が付かない。一方で、上記(ア)から(ウ)を守ることさえ考えていれば、無難に合格点が取れる。このように、民訴は、他の科目とは異なる独特の採点傾向を把握しておくことが必要でした。

2.ただ、昨年は、上記の傾向に変化が生じていました。上記の傾向に合致する部分がある反面、他の科目同様の事例処理的な傾向も混在していたのです(「平成28年司法試験論文式民事系第3問参考答案」)。漏洩事件を受けた考査委員の交代の影響によるものなのでしょう。

 今年も、そのような混在傾向が続いています。まず、設問1をみてみましょう。修習生に対する課題に答えるという形式は、従来と同様です。前記の(ア)を意識する必要があります。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

J1:今日の証拠調べの結果をどのように評価しますか。率直な意見を聴かせてください。

P:取引経緯に関するAの証言は具体的で信用できるため,Yの代理人AとXとの間で,本件絵画の時価相当額を代金額とする売買契約が成立し,その額は200万円であると考えられます。Xはこの200万円を支払っていませんから,売買を理由に,「Yは,Xから200万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件絵画を引き渡せ。」との判決をすべきではないでしょうか。

J1:私の心証も同じですが,あなたの言うような判決を直ちにすることができるのでしょうか。まず,Yの代理人AとXとの間で契約が締結されたとの心証が得られたとして,その事実を本件訴訟の判決の基礎とすることができるのかについて,考えてみてください。

P:両当事者がその点を問題にしなかったのだからいいように思いましたが,考えてみます。

(引用終わり)

 

 「Yの代理人AとXとの間で契約が締結されたとの心証が得られたとして,その事実を本件訴訟の判決の基礎とすることができるのかだけを答える、というのがポイントで、ここでは、「贈与契約」、「売買契約」ではなく、単に「契約」となっているのがポイントになります。つまり、贈与か売買か、という訴訟物レベルの話はしなくてよい。要するに、処分権主義の話はするな、ということです。したがって、当事者は直接取引しか主張していないのに、代理人による契約成立を認定することは弁論主義に反しないか、その話だけを書けばよいのです。
 ここまでは、従来の傾向に沿っているといえます。しかし、ここまでです。ここから先、従来であれば、参照判例として、最判昭33・7・8が示されたことでしょう。

 

最判昭33・7・8より引用。太字強調は筆者。)

 斡旋料支払の特約が当事者本人によつてなされたか、代理人によつてなされたかは、その法律効果に変りはないのであるから、原判決が被上告人と上告人代理人Dとの間に本件契約がなされた旨判示したからといつて弁論主義に反するところはなく、原判決には所論のような理由不備の違法もない。

(引用終わり)

 

 仮に、これが示された場合には、前記1の(イ)によって、判例の趣旨を確認する必要があることになる。判例は、「効果が同じなんだから不意打ちにもならないでしょ。」という趣旨だろう。そう考えると、前記の(ウ)によって、「主要事実について異なる認定をすることは許されない。」という原則を確認した上で、「その趣旨は、通常当事者に不意打ちになるという点にある。したがって、不意打ちにならない場合は例外だ。」という流れで例外論を書くことになります。このように、原則・例外の形式に整理して書くのが、前記(ウ)のポイントです。
 しかし、本問は、そこまでの参照判例の掲載なり、設問での誘導なりがありません。ですから、従来の事例処理の書き方、すなわち、前記(1)から(3)までの書き方でも、十分解答できてしまいます。端的に、弁論主義違反となるための基準を示して、事実を摘示して当てはめる。配点が15しかないことからして、それで十分合格答案なのでしょう。参考答案は、そのような書き方をしています。ここが、事例処理型が混在している部分です。

 設問2です。小問(1)は、従来の傾向どおり、比較的詳細な誘導があります。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

J1:次に,あなたの言うような判決はXの請求に対する裁判所の応答として適当なのか,すなわち,本件の訴訟物は何かを考える必要もありますね。
 そして,Xは,第1回口頭弁論期日に,「仮にこの取引が売買であり,本件絵画の時価相当額が代金額であるとしても,その額は200万円にすぎない。」と主張していますが,これには,どのような法的な意味合いがありますか。

P:Xが単に譲歩をしただけで,あまり法的に意味のある主張には見えませんが。

J1:本当にそうでしょうか。
 他方,Yは,「本件絵画をXに時価相当額で売却し,その額は300万円である。」と主張していますが,その法的な意味合いも問題になりますね。

P:はい。Xの主張する請求原因事実との関係で,Yのこの主張がどのように位置付けられるか,整理したいと思います。

J1:本件は,訴訟代理人が選任されていないこともあり,紛争解決のために,両当事者の曖昧な主張を法的に明確にする必要がありそうです。
 訴訟物の捉え方については様々な議論がありますが,あなたの捉える本件の訴訟物は何になるかを示した上で,各当事者から少なくともどのような申立てや主張がされれば,「Yは,Xから200万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件絵画を引き渡せ。」との判決をすることができるか,考えてみてください。その際,先ほどお願いしたYの主張の位置付けの整理も行ってください。これを課題1とします。

(引用終わり)

 

 ここで、前記(ア)を意識します。課題1の直接的な内容は、上記引用部分の最後のJ1発言に示された以下の3つです。

1.本件の訴訟物は何か。
2.引換給付判決をするためには、各当事者からどのような申立てや主張がされることを要するか。
3.上記1及び2を検討するに当たり、Yの主張の位置付けを整理する。

 まず、1の訴訟物は、訴状の記載から贈与契約に基づく本件絵画の引渡請求であることが明らかです。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 Xは,訴状において,次のように主張した。
 「Xは,かねてよりYの事業の支援をしていたが,平成27年9月1日,Yから,これまでの支援の御礼として,本件絵画の贈与を受けた。Yから受け取った念書には,YがXに本件絵画を譲る旨や同年10月1日にY宅で本件絵画を引き渡す旨が記載されている。その後,Xが約束どおりY宅に出向いて本件絵画の引渡しを求めたのに,Yはこれを拒み,一切の話合いに応じないので,贈与契約に基づく本件絵画の引渡しを求めるため,本件訴えを提起した。贈与の事実の証拠として,この念書を提出する。」

(引用終わり)

 

 「訴訟物の捉え方については様々な議論がありますが」とわざわざ書いてありますから、訴訟物を示す際には、旧訴訟物理論に立つことを示しておくべきなのでしょう。旧訴訟物理論からは、贈与契約に基づく本件絵画の引渡請求が訴訟物になる。これを端的に示せば足ります。
 次に、上記2ですが、ここまで検討した段階で、訴訟物が贈与契約に基づく本件絵画の引渡請求のままでは、引換給付になる余地がないことに気付くはずです。ここで、3を考慮する必要があるということがわかる。「本件絵画をXに時価相当額で売却し、その額は300万円である。」という主張は、現在の訴訟物との関係では、贈与契約成立の請求原因に対する積極否認でしかありません。そこまで気付けば、引換給付とするには、訴訟物が売買契約に基づく本件絵画の引渡請求であって、Yの「本件絵画をXに時価相当額で売却し、その額は300万円である。」という主張が、同時履行の抗弁権となることが必要だ、ということがわかる。後は、「各当事者から少なくともどのような申立てや主張がされれば」という問題文の問い方に対応させて考えればよいわけです。すなわち、Xは、売買の請求を追加する必要があるわけですから、訴えの追加的変更の申立てをする必要がありますし、この場面での同時履行の抗弁権は権利抗弁となりますから、Yは、その権利主張をする必要がある、ということになる。そして、引換給付判決は質的一部認容判決ですから、一応これが可能であることを書いておく。以上を無駄なく端的に示せれば、上位の合格答案でしょう。
 上記のことは、十分な体調で、余裕のある精神状態で問題文を読めば、比較的容易に読み取ることができるはずです。しかし、実際の試験現場では、これを普通に読み解ける人は、案外少ないだろうと思います。民訴は、体感的に最も辛い2日目の最後の科目です。疲労がピークに達し、誰もが正常な判断能力を失ってしまっている。問題文に明らかに「各当事者から少なくともどのような申立てや主張がされれば」と書いてあるのに、当事者の申立てや主張について一切触れていない人も、相当数出るはずです。ですので、上記のうちの3分の2程度が書けていれば、合格ラインだろうと思います。その意味では、この部分の参考答案は、冷静になれば難しいことは何一つ書いていないわけですが、実際には、合格ラインより上の水準にあるといえるでしょう。

 さて、残るは設問2の小問(2)と設問3です。これらは、論理的に相互にリンクしているので、まとめて説明したいと思います。ここは、伝統的な学説の理解と、判例の理解とで、考え方の筋道が違ってくるところです。
 まずは、伝統的な学説の理解に沿って考えてみましょう。設問2の小問(2)は、処分権主義の問題でしょうか。それとも、弁論主義の問題でしょうか。「えっ?単なる量的一部認容の可否でしょ?処分権主義に決まってるじゃん。」と思った人は、処分権主義の対象が審判対象、すなわち、訴訟物であることを思い出す必要があります。小問(1)の申立て及び主張がされた前提で、引換給付判決がされる場合の訴訟物は、伝統的な学説に従えば、「売買契約に基づく本件絵画の引渡請求」ということになるでしょう。そう考えた場合に、以下の判決を一部認容判決としてすることはできるでしょうか。

 

(判決主文の例その1)

1.被告は、原告に対し、原告から200万円の支払を受けるのと引換えに、本件絵画を引き渡せ。
2.原告のその余の請求を棄却する。

(判決主文の例その2)

1.被告は、原告に対し、原告から220万円の支払を受けるのと引換えに、本件絵画を引き渡せ。
2.原告のその余の請求を棄却する。

(判決主文の例その3)

1.被告は、原告に対し、原告から180万円の支払を受けるのと引換えに、本件絵画を引き渡せ。
2.原告のその余の請求を棄却する。

 

 これらは、いずれも原告の請求についての質的一部認容判決として認められる、というのが、一部認容判決に関する普通の理解です。「いや、180万円の場合は被告Yに不意打ちになるからダメじゃないの?」と思うかもしれません。確かに、一部認容判決をするための考慮要素ないし要件として、当事者の意思に反しないこととか、不意打ちとならないということが言われます。しかし、それは、「原告の請求に含まれているか。」という点についてです。当事者の意思に反するとか、被告に不意打ちになるから許されない場合とは、例えば、建物の引渡請求において、以下のような判決をする場合です。

 

(判決主文の例その4)

1.被告は、原告に対し、本件建物のうち、屋根、廊下の床板及び勝手口の扉を引き渡せ。
2.原告のその余の請求を棄却する。

 

 このような判決をみれば、「いやいや確かに建物の一部だけどさ。それはさすがに原告の請求に含まれてるとは思わないだろ。」となるでしょう。このことを指して、「当事者の意思に反するから許されない。」などと表現するのです。これに対し、本件絵画と代金との引換給付は、通常は、それが原告の請求に含まれているという点においては異論は生じないはずです。ですから、その意味において、当事者の意思に反するとか、被告の不意打ちになるとはいえないのです。
 それでも、「代金額が変化すると、引換給付判決の執行段階でYが受け取れる金額が変わるのだから、処分権主義の問題なんじゃないの?」と思うかもしれません。しかし、伝統的な学説にそのまま従うなら、この引換給付部分は、原告の設定した審判対象=訴訟物に含まれない以上、処分権主義の問題とはならないのです。このことは、設問3の既判力の客観的範囲の理解にそのままリンクします。
 とはいえ、「当事者の主張していない金額を勝手に裁判所が認定しても構わないの?」という疑問はあるでしょう。それはそのとおりですが、それは、「当事者の主張しない事実を基礎とする場合」ですから、弁論主義の第1原則の問題です。
 もう少し詳しく考えてみましょう。本問において、具体的な代金額の主張立証責任は、XとYのどちらが負うのでしょうか。この問いに対し、「Xでしょう。」と答えるのは、中級者です。「Yですよね。」と答えるのは、初学者と上級者です。どういうことか。引換給付が問題になる場合の訴訟物は、売買契約に基づく本件絵画の引渡請求ですから、請求原因において、Xは売買契約の成立を主張・立証する必要があります。そして、売買の要素は目的物と代金ですから、Xは、目的物だけでなく、代金額をも特定して主張・立証する必要があるということになりそうです。ここに気付くことができれば、少なくとも中級者です。これにすら気付くことなく、引換給付を受けるのはYだから、という安易な理由だけで「Yですよね。」と答えるのは、初学者です。
 上記を文字どおりに理解すると、どうなるか。Xが具体的な代金額の立証に失敗すれば、売買の成立が否定されるということです。すなわち、Xの請求は棄却される。売買代金支払請求であれば、代金がいくらか確定できない以上、棄却の結論もやむを得ないでしょう(その場合でも最低限認められる金額を認定するのが実務的ですが。)。しかし、目的物引渡請求の場合に、具体的な代金額が立証できないというだけで請求が棄却されてしまうのは、おかしい。そこで、売買に基づく引渡請求については、一般に、売買契約の成立を認めるに当たり具体的な代金額の立証までは必要でなく、例えば、「時価相当額」という程度の主張・立証がされれば足りる、と解されています。そして、本問は、まさにその場合なのです。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者)

J1:今日の証拠調べの結果をどのように評価しますか。率直な意見を聴かせてください。

P:取引経緯に関するAの証言は具体的で信用できるため,Yの代理人AとXとの間で,本件絵画の時価相当額を代金額とする売買契約が成立し,その額は200万円であると考えられます。Xはこの200万円を支払っていませんから,売買を理由に,「Yは,Xから200万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件絵画を引き渡せ。」との判決をすべきではないでしょうか。

 (中略)

J1:…ところで,本件絵画の時価相当額については,当事者からより適切な証拠が提出されれば,別の金額と評価される可能性もあると思います。課題1で必要となる各当事者の申立てや主張がされたという前提の下で,仮に,本件絵画の時価相当額が220万円と評価される場合あるいは180万円と評価される場合には,それぞれどのような判決をすることになるのかについても,考えてみてください。これを課題2とします。
 なお,課題1及び2の検討においては,設問1で検討した点に触れる必要はありません。
 また,あなたの言うとおり,本件絵画の時価相当額を代金額とする売買契約が成立したものとして,考えてください

(引用終わり)

 

 大事なことなので、二度書いてある。しかし、試験の現場でこの正確な意味に気が付いた人は、ほとんどいなかったでしょう。こうして、請求原因が認められ、Yが同時履行の抗弁権を主張する番になる。さて、ここで、Yは、抗弁を基礎付ける事実として、何か主張・立証する必要があるでしょうか。通常は、同時履行の関係が請求原因に表れているので、抗弁権を行使する趣旨の権利主張があれば足り、それ以外に何らの主張・立証も要しないとされています(代金支払は再抗弁)。ところが、本問のように請求原因段階で、代金額が「時価相当額」としか特定されていない場合にも、同じように考えてよいのでしょうか。ざっくりと考えると、2つの考え方がありそうです。1つは、代金額が具体的に問題となった以上、翻ってXにおいて、請求原因として具体的な代金額を立証しなければならない、という考え方。もう1つは、同時履行の抗弁権の内容として、「○○円を支払うまでは」という事実主張が必要である以上、Yにおいて、具体的な代金額を主張・立証すべきであるという考え方です。売買契約においては、代金債権を有する売主において、代金債権の内容である代金額の具体的な主張・立証をすべきである、という考え方からは、後者の立場が妥当だということになるでしょう。こうして、本問において、具体的な代金額を主張・立証すべき者は、Yだ、ということになる。ここまでわかっていた人は、間違いなく上級者といえるでしょう。
 さて、ここまで理解した上で、小問(2)で問題となっていることを考えましょう。Xは200万円と主張し、Yは300万円と主張している。それなのに、両者の主張しない220万円や180万円を、裁判所が勝手に認定できるのか。処分権主義の枠組みで一部認容と考える場合には、X・Yにとって有利か不利か、という視点で考えればよかったのです。しかし、弁論主義の第1原則の問題として考える場合、220万円も180万円も、当事者が主張していないことには変わりがないから、ダメだということになりそうです。特に、設問1で問答無用に弁論主義違反を認めた人は、ここでも両方弁論主義違反としなければ、筋が通らないでしょう。ところが、「当事者が特定の代金額を主張している場合には、その主張に係る売買契約と同一性を有する範囲で黙示的にそれ以外の代金額も主張していると考えられるから、その範囲であれば裁判所は当事者の主張するものと異なる代金額を認定することができる。」とするのが、一般的な見解です。本問でいえば、180万円も220万円も、本件絵画の代金として同一性を有する範囲内といえるでしょうから、裁判所はいずれも認定可能である、ということになります。ちなみに、同一性を欠く場合とは、例えば、代金額を1億円とか10円と認定するような場合で、そのような場合は、「それはもはや本件絵画ではなくて、何か別のものの代金額を認定してしまっていませんか?」という意味で、「同一性を欠く」と表現するのです。
 さて、上記のような理解に立って、今度は設問3を考えましょう。これは要するに、引換給付判決の既判力の客観的範囲とその作用が問われている。ただ、それだけの問題ともいえます。これは、旧司法試験でもそのまま問われている内容です。

 

(旧司法試験平成15年度論文式試験民事訴訟法第2問)

 甲は,乙に対し,乙所有の絵画を代金額500万円で買い受けたとして,売買契約に基づき,その引渡しを求める訴えを提起した。
 次の各場合について答えよ。

1. 甲の乙に対する訴訟の係属中に,乙は,甲に対し,この絵画の売買代金額は1000万円であるとして,その支払を求める訴えを提起した。

(1)甲は,乙の訴えについて,反訴として提起できるのだから別訴は許されないと主張した。この主張は,正当か。

(2) 裁判所は,この二つの訴訟を併合し,その審理の結果,この絵画の売買代金額は700万円であると認定した。裁判所は,甲の請求について「乙は甲に対し,700万円の支払を受けるのと引換えに,絵画を引き渡せ。」との判決をすることができるか。一方,乙の請求について「甲は乙に対し,絵画の引渡しを受けるのと引換えに,700万円を支払え 」。 との判決をすることができるか。

2. 甲の乙に対する訴訟において,「乙は甲に対し,500万円の支払を受けるのと引換えに,絵画を引き渡せ。」との判決が確定した。その後,乙が,甲に対し,この絵画の売買代金額は1000万円であると主張して,その支払を求める訴えを提起することはできるか。

 

 ただし、現在の司法試験では、前記の(ア)、すなわち、問題文で指定されたことだけに無駄なく答えることが必要です。問題文では、以下のような指示がなされています。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 J2:本件は,Yの訴訟代理人の主張するように,前訴判決に沿って,直ちに請求認容判決をすべきなのでしょうか。

Q:今まで考えたことがないのですが,既判力の範囲に関する民事訴訟法の規定に遡って考えないといけないように思います。

J2:そうですね。それを出発点としつつ,前訴判決の主文において引換給付の旨が掲げられていることの趣旨にも触れながら,後訴において,XY間の本件絵画の売買契約の成否及びその代金額に関して改めて審理・判断をすることができるかどうか,考えてみてください。

(引用終わり)

 

 まず、「既判力の範囲に関する民事訴訟法の規定」が、114条1項であることは明らかです。

 

(民事訴訟法114条1項)

 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。

 

 形式的には、「Xから200万円の支払を受けるのと引換えに」の部分も、主文に含まれています。しかし、伝統的な学説は、この部分には既判力は生じないと考える。その理由は、「前訴判決の主文において引換給付の旨が掲げられていることの趣旨」にあります。すなわち、114条1項の「主文に包含するもの」とは、訴訟物に対する判断を指しているところ、引換給付の旨が主文に掲げられる趣旨は執行の条件を指定するにすぎないから、訴訟物に対する判断には含まれないからだ、ということです。この「執行の条件」とは、具体的には民事執行法31条1項に示されています(意思表示の擬制の場合は174条2項)。

 

(民事執行法31条1項)

 債務者の給付が反対給付と引換えにすべきものである場合においては、強制執行は、債権者が反対給付又はその提供のあつたことを証明したときに限り、開始することができる。

 

 このように考えると、前訴判決主文中、「Xから200万円の支払を受けるのと引換えに」の部分には、既判力は生じないということになります。そうすると、単に、「Yは、Xに対し、本件絵画を引き渡せ。」 という判決と同じに考えればよい。では、この前訴判決の既判力は、後訴において、どのように作用するのでしょうか。ここは、非常に誤解の多いところなので、基本的なところから詳しく説明しましょう。
 既判力の作用は、端的にいえば、後訴裁判所が、前訴判決の既判力で確定された判断内容を基礎にして判断しなければならなくなる、ということで、一般にこれは積極的作用と呼ばれています。そして、このことから、後訴裁判所は、前訴判決の既判力と矛盾する主張等を排斥しなければならない、という裁判所に対する消極的作用が導かれます。このことは、同時に、当事者が前訴判決の既判力と矛盾する主張等をすることができないという当事者に対する消極的作用をも意味するのでした。このことを逆方向から説明すると、当事者が前訴判決の既判力と矛盾する主張等をすることができないのは、後訴裁判所が前訴判決の既判力と矛盾する主張等を排斥しなければならないからであり、それは、後訴裁判所が、前訴判決の既判力で確定された判断内容を基礎にして判断しなければならないからだ、ということになる。以上のような連関を、敢えて図示すれば、以下のようになるでしょう。

1.積極的作用→裁判所に対する消極的作用→当事者に対する消極的作用
2.積極的作用←裁判所に対する消極的作用←当事者に対する消極的作用

 「なんでこんな当り前のことを一々説明するのか。」と思うかもしれませんが、これを事前に確認していないので、様々な誤解が生じているのです。
 さて、上記の作用は、具体的にどのような場面で表れてくるのか。一般に、既判力は、前訴と後訴の訴訟物に同一関係、矛盾関係又は先決関係がある場合に作用するとか、判決理由中の判断には既判力は及ばない、などと説明されます。それは、間違ってはいませんが、誤解を招きやすい表現です。例えば、以下のような誤解です。

 「既判力は、前訴と後訴の訴訟物に同一関係、矛盾関係又は先決関係がある場合にのみ作用する。したがって、同一関係、矛盾関係又は先決関係のいずれにも当たらない場合には、後訴裁判所が前訴判決の既判力で確定された判断内容と矛盾する判断をすることができる。」

 「既判力は判決理由中の判断には及ばないから、例えば、前訴の訴訟物が甲土地の所有権確認の訴えである場合には、その判決理由中で示された甲土地の売買契約の成否についての主張は、後訴において前訴の既判力によって遮断されることはない。」

 どうしてこれらが誤解なのか。まず、以下の事例を考えてみましょう。

 

【事例1】

1.Xは、Yに対し、売買契約に基づく目的物引渡請求訴訟を提起し、Yは売買契約の成立を争ったが、裁判所は売買契約の成立を認めて、Xの請求を認容する判決をし、この判決は確定した。
2.その後、Xは、再度、Yに対し、売買契約に基づく目的物引渡請求訴訟を提起した。

 

 Xの再度の訴訟提起については、訴えの利益も問題になりますが、時効中断の必要等から訴えの利益は認められるという前提で考えて下さい。この事例で、「Yは、後訴において、Xが請求原因として主張する売買契約の成立に係る主張を否認できますか?」と質問すると、多くの人が、「前訴と後訴は同一関係にあるので、Yは売買契約の成立を否認できません。」と答えるでしょう。これは正解です。しかし、「え?売買契約の成否に関する判断は、前訴における判決理由中の判断ですよね?それでも否認できないんですか?」と、さらに問われると、「あうあう。」となってしまう人が多いのが実情です。これは、要件事実の主張と、そこから生じる法律関係とを整理できていないことから起こる混乱です。裁判所が、Yが売買契約を否認することを認め、売買契約の成立は認められない、と判断すると、どのような法律関係になるか。売買契約の不成立は、売買契約に基づく目的物引渡請求権の不発生を帰結します。これは、前訴基準時に、XのYに対する売買契約に基づく目的物引渡請求権が存在した、という前訴確定判決の既判力と矛盾する。そのような既判力と矛盾する法律関係を基礎付ける主張等は、許されない。こうして、Yが売買契約を否認したとしても、後訴裁判所は、それを排斥しなければならなくなるのです。
 次に、以下の事例を考えます。

 

【事例2】

1.Xは、Yに対し、甲土地の所有権確認の訴えを提起したのに対し、Yは、Xから甲土地を買い受けたので自分が所有権者であり、Xは所有権者ではないとして争ったが、裁判所はXY間の売買契約の成立を認めず、Xの請求を認容する判決をし、この判決は確定した。
2.その後、Yは、Xに対し、甲土地の所有権確認の訴えを提起した。

 

 この事例で、「Yは、後訴において、前訴基準時前にXY間で甲土地につき売買契約が成立した旨の主張をすることができますか?」と質問すると、多くの人が、「前訴と後訴は矛盾関係にあるので、Yはそのような主張をすることができません。」と答えるでしょう。これは正解です。しかし、「え?売買契約の成否に関する判断は、前訴における判決理由中の判断ですよね?それでも売買契約の成立を主張することができないんですか?」と、さらに問われると、やはり、「あうあう。」となってしまう。この事例で、裁判所が、Yによる「前訴基準時前にXY間で甲土地につき売買契約が成立した。」旨の主張を認め、売買契約の成立が認められる、と判断すると、どのような法律関係になるか。それは、Yの所有権取得を基礎付けると同時に、一物一権主義によって、反射的にXに所有権がない、という法律関係を認めることになります。これは、前訴基準時に、Xが甲土地の所有権を有していた、という前訴確定判決の既判力と矛盾します。そのような既判力と矛盾する法律関係を基礎付ける主張は、許されない。こうして、Yが売買契約の成立を主張したとしても、後訴裁判所は、それを排斥しなければならないのです。ここにおいて、前に紹介した、以下の命題が誤りであることが明らかになります。

 「既判力は判決理由中の判断には及ばないから、例えば、前訴の訴訟物が甲土地の所有権確認の訴えである場合には、その判決理由中で示された土地の売買契約の成否についての主張は、後訴において前訴の既判力によって遮断されることはない。」

 このような誤解が生じるのは、「既判力と矛盾する法律上の主張は許されない。」という抽象的な記述しか普段学んでおらず、そのような既判力と矛盾する法律上の主張を基礎付ける事実主張とはどのようなものか、という思考をすることがほとんどないからです。少し考えてみればわかりますが、主文(訴訟物に対する判断)は法律関係の存否に関するものなのですから、事実の存否に関する判断は、すべて判決理由中の判断に含まれます。それなのに、「既判力は主文に包含するものにのみ及び、判決理由中の判断には及ばないから、主文に含まれない事実の存否に関する判断は、既判力で遮断されることはない。」などと言ってしまえば、事実の主張はおよそ遮断される余地がなくなってしまいます。基本書等では紙幅の関係で省略されがちな部分を、具体的に考えてみる必要があるのです。
 もう1つ、以下の事例を考えましょう。

 

【事例3】

1.Xは、Yに対し、甲土地の所有権確認の訴えを提起したのに対し、Yは、Xから甲土地を買い受けたので自分が所有権者であり、Xは所有権者ではないとして争ったが、裁判所はXY間の売買契約の成立を認めず、Xの請求を認容する判決をし、この判決は確定した。
2.その後、Xは、Yに対し、所有権に基づく甲土地明渡請求訴訟を提起した。

 

 この事例で、「Yは、後訴において、Xの請求原因を認めた上で、前訴基準時前にXY間で甲土地につき売買契約が成立した旨の主張をして所有権喪失の抗弁を提出することができますか?」と質問すると、多くの人が、「前訴と後訴は先決関係にあるので、Yは所有権喪失の抗弁を提出できません。」と答えるでしょう。これは正解です。しかし、「え?売買契約の成否に関する判断は、前訴における判決の理由中の判断ですよね?それでも売買契約の成立を主張することができないんですか?」と、さらに問われると、またしても「あうあう。」となる。この事例で、裁判所が、Yによる前訴基準時前にXY間で甲土地につき売買契約が成立した旨の主張に基づく所有権喪失の抗弁について、売買契約の成立が認められ、抗弁が成立する、と判断すると、どのような法律関係になるか。それは、「所有権喪失の抗弁」の名前のとおり、Xに所有権がない、という法律関係を認めることになります。これは、前訴基準時に、Xが甲土地の所有権を有していた、という前訴確定判決の既判力と矛盾します。そのような既判力と矛盾する法律関係を基礎付ける主張等は、許されない。こうして、Yが売買契約の成立を主張して所有権喪失の抗弁を提出したとしても、後訴裁判所は、それを排斥しなければならないのです。
 以下の事例はどうでしょうか。

 

【事例4】

1.Xは、Yに対し、所有権に基づく甲土地明渡請求訴訟を提起したのに対し、Yは、Xから甲土地を買い受けたので自分が所有権者であり、Xは所有権者ではないとして争ったが、裁判所はXY間の売買契約の成立を認めず、Xの請求を認容する判決をし、この判決は確定した。
2.その後、Yは、Xに対し、甲土地の所有権確認の訴えを提起した。

 

 この事例で、「Yは、後訴において、前訴基準時前にXY間で甲土地につき売買契約が成立した旨を主張することができますか?」と質問すると、多くの人が、「ハハッちゃんと勉強してますよ。甲土地の所有権の帰属は判決理由中の判断だから、同一関係、矛盾関係、先決関係のいずれにも当たらず、既判力が作用しないので、Yはそのような主張をすることができます。」と答えるでしょう。これは正解です。しかし、「え?これまでに確認したように、売買契約の成否に関する判断は前訴における判決理由中の判断ですが、それでも売買契約の成立を主張することができない場合があったじゃないですか。それとの違いはどこにあるんですか?」と、さらに問われると、結局は、「あうあう。」となる。前にも説明したとおり、要件事実の主張(売買契約の成否)と、それによって生じる法律関係(所有権の存否ないし所有権に基づく物権的請求権の存否)とを区別して理解することが、ここでも重要です。この事例で、裁判所が、Yによる前訴基準時前にXY間で甲土地につき売買契約が成立した旨の主張を認め、売買契約の成立が認められる、と判断すると、どのような法律関係になるか。それは、Yの所有権取得を基礎付けると同時に、一物一権主義によって、反射的にXに所有権がない、という法律関係を認めることになります。これは、前訴基準時に、Xが、Yに対し、所有権に基づく甲土地明渡請求権を有していた、という前訴確定判決の既判力と矛盾するでしょうか。極めて少数の異説を除き、所有権と、所有権に基づく物権的請求権は別個の権利であることから、所有権がないことと、所有権に基づく物権的請求権を有することとは直ちに矛盾しない、という理解をするのが定説となっています。こうして、Yが売買契約の成立を主張しても、後訴裁判所は、それを排斥する必要はない、ということになるのです。
 このように、「同一関係、矛盾関係又は先決関係に当たるから既判力が作用する。」という説明は必ずしも的確ではなく、既判力の積極的作用・消極的作用との関係で、具体的に考える必要があるのです。そして、既判力の消極的作用によって主張等が排斥される場合が生じることを、「既判力が作用する。」と一般に表現しているわけです。その上で、既判力が作用する場合を、敢えて3種類に分類してみると、同一関係、矛盾関係又は先決関係に分類できるだろう。このことを、「既判力が作用するのは、同一関係、矛盾関係又は先決関係に当たる場合である。」と表現しているのです。ですから、前に紹介した、以下のような命題は誤っているのです。

 「既判力は、前訴と後訴の訴訟物に同一関係、矛盾関係又は先決関係がある場合にのみ作用する。したがって、同一関係、矛盾関係又は先決関係のいずれにも当たらない場合には、後訴裁判所が前訴判決の既判力で確定された判断内容と矛盾する判断をすることができる。」

 既判力の消極的作用によって主張等が排斥される場合が生じることを、「既判力が作用する。」と呼び、既判力が作用する場合を同一関係、矛盾関係又は先決関係に分類しているわけだから、「同一関係、矛盾関係又は先決関係のいずれにも当たらないが、後訴裁判所が前訴判決の既判力で確定された判断内容と矛盾する判断をする場合」などというものは、およそ生じ得ないわけです。ですから、「確かに既判力の客観的範囲の及ぶ事項と矛盾する主張ですが、本問は同一関係、矛盾関係又は先決関係のいずれにも当たらず、既判力が作用する場面ではないので、既判力によって主張が遮断されることはありません。」などという説明は、誤っているのです。

 さて、ここまで確認して初めて、本問を検討する準備が整いました。まず、前訴の既判力の客観的範囲を確認しておきましょう。前に説明したとおり、伝統的な学説の立場によれば、前訴の既判力は、「前訴基準時に、XのYに対する売買契約に基づく本件絵画の引渡請求権が存在した 。」という点にのみ及ぶ、と考えればよかったのでした。そして、後訴の訴訟物は、YのXに対する売買代金支払請求です。後訴の請求原因としてYが主張・立証すべきは、本件絵画の売買契約の成立です。したがって、「XY間には本件絵画の贈与契約が成立したのであって、Xは売買代金の支払義務を負わない」 旨の主張は、売買契約の成立に対する積極否認ということになるでしょう。さあ、Xは、売買契約の成立を否認することができるでしょうかここまできちんと読んできた人であれば、「売買契約の成立は前訴の判決理由中の判断なので、Xは売買契約の成立を否認することができます!」などとは答えないでしょう。本問で、裁判所が、Xが売買契約を否認することを認め、売買契約の成立は認められない、と判断すると、どのような法律関係になるか。売買契約の不成立は、売買契約に基づく本件絵画の引渡請求権の不発生を帰結します。これは、前訴基準時に、XのYに対する売買契約に基づく本件絵画の引渡請求権が存在した、という前訴確定判決の既判力と矛盾する。そのような既判力と矛盾する法律関係を基礎付ける主張等は、許されない。こうして、後訴裁判所は、Xが売買契約を否認したとしても、それを排斥しなければならなくなるのです。 (※)
 では、「その代金額は150万円であり、Xはその限度でしか支払義務を負わない」旨の主張については、どうか。まずは、この主張の位置付けを整理しておきましょう。Yは、請求原因として売買契約の成立を主張・立証するわけですが、売買の要素として、目的物と代金を具体的に主張・立証することになる。そして、前訴と異なり、後訴は代金支払請求ですから、「時価相当額」という程度の特定では足りず、請求の趣旨に記載された200万円という代金額を具体的に立証する必要があるわけです。そうすると、「その代金額は150万円であり、Xはその限度でしか支払義務を負わない」旨の主張とは、このYの請求原因としての売買代金額の主張に対する積極否認ということになる。さて、Xは、Yの代金額の主張を否認することができるのでしょうか。代金額の主張を否認するとは、すなわち、売買契約の成立を否認することである、と考えると、やはり、それは許されないということになりそうです。しかし、さすがにそれはおかしい、と直感的に思うでしょう。ここで、売買契約に基づく引渡請求の場合には、請求原因において「時価相当額」程度の特定で足りる、と考えた趣旨を思い出す必要があるのです。売買契約に基づく引渡請求が訴訟物である場合には、売買契約の同一性を確保する趣旨で代金額の特定が求められていたにすぎず、厳密に代金額が特定されていなくても、売買契約の成立は否定されない。このことからすれば、後訴で代金額の主張を否認したからといって、直ちに売買契約の成立を否定する趣旨ではなく、あくまで代金額のみを争う趣旨である、と理解することが可能でしょう。こうして、後訴裁判所は、代金額が150万円であるという主張を既判力によって直ちに排斥するのではなく、代金額について改めて審理できるか否かについて、その主張が信義則に反するか否かという観点から判断すべきことになるのです。

 ※ なお、これは、「法的性質決定の既判力」とは無関係です。「法的性質決定の既判力」とは、主に新訴訟物理論に立つ場合に、考える実益のある概念です。新訴訟物理論では、「目的物の引渡しを受ける法的地位」などが訴訟物となりますから、これに対する判決の既判力も、例えば、「Xは、Yから本件絵画の引渡しを受ける法的地位にある。」となるはずです。それが実体法上売買に基づくのか、贈与に基づくのか、といったことは、何ら特定できないか、あるいは、「引渡しを基礎付ける法律原因をすべて統合した規範に基づく地位」などを想定することになります。しかし、それでは当事者が実体法上どのような権利を行使したのかすらわからないことになる。そこで、「せめて実体法上どの権利に基づいてその法的地位が認められたのか、というところまでは、既判力で特定していないとヤバくない?」という発想が生じてくるわけですね。これが、「法的性質決定の既判力」というものです。旧訴訟物理論では、もともと、訴訟物と実体法上の権利が1対1対応になっていますから、それほどこの概念を用いる必要性はありません。旧訴訟物理論の論者がこの言葉を使う場合には、せいぜい、「請求の趣旨の内容を特定する場合に請求原因を参照するのと同じように、主文に表示された訴訟物に対する判断がどのような法律関係に関するものであるかについて、判決理由中の判断を参照してその法的性質を特定する場合がある。」という程度の意味を有しているにすぎません。

 

 以上が、伝統的な学説からの理解でした。しかし、判例であれば、これとは異なる筋道で本問を解決しそうです。ここからは、設問2小問(2)と設問3について、判例の立場を簡単に説明したいと思います。
 設問2の小問(2)は、伝統的な学説からは、引換給付の部分は訴訟物に含まれないのだから、弁論主義の問題だ、という整理でした。その根拠としては、引換給付は執行の条件にすぎない、ということがありました。しかし、判例は、不執行の合意の存在について、訴訟物に準ずるものとして審判の対象となるとします。

 

最判平5・11・11より引用。太字強調は筆者。)

 給付訴訟の訴訟物は、直接的には、給付請求権の存在及びその範囲であるから、右請求権につき強制執行をしない旨の合意(以下「不執行の合意」という。)があって強制執行をすることができないものであるかどうかの点は、その審判の対象にならないというべきであり、債務者は、強制執行の段階において不執行の合意を主張して強制執行の可否を争うことができると解される。しかし、給付訴訟において、その給付請求権について不執行の合意があって強制執行をすることができないものであることが主張された場合には、この点も訴訟物に準ずるものとして審判の対象になるというべきであり、裁判所が右主張を認めて右請求権に基づく強制執行をすることができないと判断したときは、執行段階における当事者間の紛争を未然に防止するため、右請求権については強制執行をすることができないことを判決主文において明らかにするのが相当であると解される(最高裁昭和四六年(オ)第四一一号同四九年四月二六日第二小法廷判決・民集二八巻三号五〇三頁参照)。

(引用終わり)

 

 この判例の趣旨からすれば、執行の条件についても、訴訟において主張された場合には、訴訟物に準ずるものとして審判の対象となると理解することができるでしょう。そうなると、これは処分権主義(に準ずる)の問題だ、という余地が十分出てくるということになります。その場合には、180万円と認定することは、200万円というXの(請求に準ずる)主張の範囲に含まれていないので、処分権主義(の趣旨)に反し許されない、ということになり得るでしょう。
 このような理解は、設問3にもそのまま論理的にリンクしてきます。執行の条件が訴訟物に準ずるものとして審判の対象になるのであれば、それに対する応答としての判決についても、執行の条件に既判力に準ずる効力が生じる、ということになるでしょう。判例が、このような論理関係を前提にしていることは、明らかです。なぜなら、上記の最判平5・11・11が明示的に引用している「最高裁昭和四六年(オ)第四一一号同四九年四月二六日第二小法廷判決・民集二八巻三号五〇三頁」とは、以下の判例だからです。

 

最判昭49・4・26より引用。太字強調は筆者。)

  被相続人の債務につき債権者より相続人に対し給付の訴が提起され、右訴訟において該債務の存在とともに相続人の限定承認の事実も認められたときは、裁判所は、債務名義上相続人の限定責任を明らかにするため、判決主文において、相続人に対し相続財産の限度で右債務の支払を命ずべきである
 ところで、右のように相続財産の限度で支払を命じた、いわゆる留保付判決が確定した後において、債権者が、右訴訟の第二審口頭弁論終結時以前に存在した限定承認と相容れない事実(たとえば民法九二一条の法定単純承認の事実を主張して、右債権につき無留保の判決を得るため新たに訴を提起することは許されないものと解すべきである。けだし、前訴の訴訟物は、直接には、給付請求権即ち債権(相続債務)の存在及びその範囲であるが、限定承認の存在及び効力も、これに準ずるものとして審理判断されるのみならず、限定承認が認められたときは前述のように主文においてそのことが明示されるのであるから、限定承認の存在及び効力についての前訴の判断に関しては、既判力に準ずる効力があると考えるべきであるし、また民訴法五四五条二項によると、確定判決に対する請求異議の訴は、異議を主張することを要する口頭弁論の終結後に生じた原因に基づいてのみ提起することができるとされているが、その法意は、権利関係の安定、訴訟経済及び訴訟上の信義則等の観点から、判決の基礎となる口頭弁論において主張することのできた事由に基づいて判決の効力をその確定後に左右することは許されないとするにあると解すべきであり、右趣旨に照らすと、債権者が前訴において主張することのできた前述のごとき事実を主張して、前訴の確定判決が認めた限定承認の存在及び効力を争うことも同様に許されないものと考えられるからである。
 そして、右のことは、債権者の給付請求に対し相続人から限定承認の主張が提出され、これが認められて留保付判決がされた場合であると、債権者がみずから留保付で請求をし留保付判決がされた場合であるとによつて異なるところはないと解すべきである。

(引用終わり)

 

 これは、多くの人が知っているでしょうし、本問に関する予備校等の解説でも、断片的に出てくるでしょう。しかし、大事なことは、前記の最判平5・11・11が、これを明示的に引用している、ということです。判例は、明らかに「準ずる」場合について、審判対象と既判力の範囲をリンクさせているのです。そして、不執行の合意や責任範囲に関する留保は、いずれも訴訟物たる権利に付着する付款といえます。そして、執行の条件もまた、訴訟物たる権利に付着する付款です。このことからすれば、上記各判例の趣旨は、本問にも及ぶと考えることができるというわけです。
 さて、このように考えると、設問3は、どのような処理になるのか。Xの主張のうち、「XY間には本件絵画の贈与契約が成立したのであって、Xは売買代金の支払義務を負わない」旨の主張については、既に説明した伝統的な学説と同様に、引換給付部分以外の判決主文に生じる既判力によって排斥されます。問題は、「仮に贈与契約でなく売買契約が成立したと判断されたとしても,その代金額は150万円であり,Xはその限度でしか支払義務を負わない」という主張との関係です。本問の前訴判決主文中、「Xから200万円の支払を受けるのと引換えに」とする部分についても、既判力に準ずる効力が生じるわけですが、これは、具体的にはどのように後訴に作用するのでしょうか。
 これまでに説明したように、「Xから200万円の支払を受けるのと引換えに」とする部分は、執行の条件を示すものです。これを踏まえて既判力の生じる判断内容を表現するなら、「Xは、Yに対し、Yに200万円を支払うことを条件として、本件絵画の引渡しを求める権利を有する。」ということになるでしょう。そして、ここで、問題文の「前訴判決の主文において引換給付の旨が掲げられていることの趣旨」を、判例の立場に沿って考えてみる。これは、前に引用した各判例の「執行段階における当事者間の紛争を未然に防止するため、右請求権については強制執行をすることができないことを判決主文において明らかにする」(最判平5・11・11)、「権利関係の安定、訴訟経済及び訴訟上の信義則等の観点から、判決の基礎となる口頭弁論において主張することのできた事由に基づいて判決の効力をその確定後に左右することは許されない」(最判昭49・4・26)という判示部分に示されています。この趣旨からすれば、Yの売買代金額の主張に対して、代金額が150万円であるとしてこれを否認することは、「Yに200万円を支払うことを条件として」という執行の条件を変更することを意味しますから、「執行段階における当事者間の紛争を未然に防止するため」に「前訴判決の主文において引換給付の旨が掲げられていることの趣旨」に反するでしょうし、「権利関係の安定、訴訟経済及び訴訟上の信義則等の観点から、判決の基礎となる口頭弁論において主張することのできた事由に基づいて判決の効力をその確定後に左右することは許されない」といえるでしょう。こうして、後訴裁判所は、代金額が150万円であるというXの主張について、既判力に準ずる効力と矛盾するとして排斥すべきであり、代金額について改めて審理することはできない、ということになるのです。

 以上のことは、どうみても難しすぎます。これを試験の現場でスラスラ書ける受験生がいるとしたら、「薔薇」や「躑躅」をスラスラ書ける小学生と同じくらい怖い。ですから、ここは「みんなで堂々と赤信号を渡る。」というテクニックが重要になります。参考答案は、そのような観点から、受験生の多数が安直に考えて書きそうなことを、「規範の明示と事実の摘示」という原則を守りながら書いてみました。これで十分合格答案でしょう。参考にしてみてください。
 なお、設問2の小問(2)と設問3の論理的整合性については、かつての旧司法試験であれば、何の説明もなく前者を処分権主義の問題とし、後者について引換給付部分は訴訟物に含まれないと説明すれば、それだけでG評価(当時の最低の得点ランク)になったでしょう。これでは、それなりに実力のある中級者の多くが、引っかかってしまいます。その結果生じた現象として、旧司法試験時代には、法的構成すらほとんど明らかにしないスカスカ答案が、なぜか合格答案になるということが起きたのでした。そのカラクリは、「法的構成すら明らかにしていないので、論理矛盾と判定されない。」ということにあったのです。

 

法曹養成制度検討会議第12回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

鎌田薫(早大総長)委員 「かつての旧試験の末期は,論文試験ではともかく減点されないように,最低限のことしか書くなという指導が,受験予備校などで行われていた。これがまさに受験指導で,そういう指導をするなというのが法科大学院での受験指導をするなということの意味で,試験に役立つ起案・添削などはもちろんやっているんですけれども,旧試験時代には減点されないような答案を書きなさいという指導が行き渡っていて,全員ほぼ同じ文章を書く。これは分かっているのか,分かっていないのかわからないので,分かっているというふうにして,点をあげないと合格者がいなくなるので,どんどん点をあげていたのです」

(引用終わり)

 

 しかし、現在では、そのような論理性に着目する極端な採点は、ほとんどなされていません。その結果、かつてのようなスカスカ答案が、合格答案として浮上することはほとんどなくなりました。このことは、再現答案等を検討するときや、旧司法試験合格者のアドバイスを参考にする際に、少し頭の片隅にでも置いておくとよいでしょう。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.Yの代理人AとXとの間で契約が締結されたとの事実を本件訴訟の判決の基礎とすることは、弁論主義の第1原則に反しないか。

2.弁論主義の第1原則とは、裁判所は、当事者の主張しない事実を判決の基礎とすることができないことをいう。弁論主義の第1原則に違反するか否かは、主要事実に食い違いがあるか、当事者に対する不意打ちとなるかという観点から判断する。

3.主要事実とは、法律効果の発生、消滅等の要件に該当する具体的事実をいう。具体的には、請求原因、抗弁等がこれに当たる。
 訴状記載の請求原因は、XY契約成立である。これに対し、Yの代理人AとXとの間で契約が締結されたとの事実は、AX契約成立、AのXに対する顕名、YのAに対する先立つ代理権授与を請求原因とするから、主要事実に食い違いがある。

4.当事者に対する不意打ちとなるか否かは、当事者の攻撃防御の機会を失わせるか否かの観点から判断する。
 Aは、Yの申請した証人である。証人尋問において、Aが、契約はAがYの代理人としてXと締結したものであると述べたのに、AがYの代理人であったか否かについては、両当事者とも問題にしなかった。契約の成立という点で法律効果に変わりはない。以上から、XとYの攻撃防御の機会を失わせるとはいえない。
 したがって、当事者に対する不意打ちとなるとはいえない。

5.以上から、弁論主義の第1原則に反しない。

6.よって、Yの代理人AとXとの間で契約が締結されたとの事実を本件訴訟の判決の基礎とすることができる。

第2.設問2

1.小問(1)

(1)訴訟物は、実体法上の請求権を基準として判断すべきである(旧訴訟物理論)。
 したがって、本件の訴訟物は、贈与に基づく引渡請求である。

(2)Yの「本件絵画をXに時価相当額で売却し、その額は300万円である。」の主張は、請求原因である贈与契約締結の事実に関する積極否認である。裁判所は、贈与契約締結の事実を認めない場合には、請求を棄却することになる。

(3)Xの「仮にこの取引が売買であり、本件絵画の時価相当額が代金額であるとしても、その額は200万円にすぎない。」の主張は、贈与に基づく引渡請求とは別個の訴訟物である売買に基づく引渡請求を予備的に追加する趣旨といえる。
 そのためには、少なくとも、Xは訴えの追加的変更の申立て(143条1項)をする必要がある。

(4)上記(3)の売買に基づく引渡請求との関係では、Yの「本件絵画をXに時価相当額で売却し、その額は300万円である。」の主張は、請求原因を自白した上で、代金の支払があるまでは引渡しを拒む趣旨といえる。
 履行請求に対する同時履行の抗弁権は権利抗弁である。したがって、Yが上記の趣旨を実現するためには、少なくとも、「XがYに対し300万円を支払うまでは、本件絵画を引き渡さない。」旨の権利主張をすることが必要である。

(5)一部認容判決は、原告の意思に反することなく、被告の不意打ちともならない場合には、246条に反しない。一般に、引渡請求に対して同時履行の抗弁権の主張がされた場合に引換給付判決をすることは、債務名義を得ることのできる点で原告の意思に反しないし、原告から無条件の引渡請求を受けていた以上、被告にも不意打ちとならないから、質的一部認容判決として許される。

(6)よって、少なくとも(3)の申立て及び(4)の権利主張があるときは、「Yは、Xから200万円の支払を受けるのと引換えに、Xに対し、本件絵画を引き渡せ。」との判決をすることができる。

2.小問(2)

(1)原告の意思に反しないか、被告の不意打ちとならないかという観点から、一部認容判決の可否を検討する。

(2)Yが300万円と主張しているから、180万円の場合はもちろん、220万円の場合であっても、Xの意思に反するとはいえない。

(3)他方、Xは200万円の主張しかしていないから、Yとしては、220万円の場合には不意打ちとならないが、180万円の場合には不意打ちとなる。

(4)以上から、220万円と認定することは許されるが、180万円と認定することは許されず、その場合はXの主張する200万円と認定すべきである。

(5)よって、本件絵画の時価相当額が220万円と評価される場合には、「Yは、Xから220万円の支払を受けるのと引換えに、Xに対し、本件絵画を引き渡せ。」との判決をすることになり、本件絵画の時価相当額が180万円と評価される場合には、「Yは、Xから200万円の支払を受けるのと引換えに、Xに対し、本件絵画を引き渡せ。」との判決をすることになる。

第3.設問3

1.確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する(114条1項)。前訴の確定判決の主文は、「Yは、Xから200万円の支払を受けるのと引換えに、Xに対し、本件絵画を引き渡せ。」というものであるから、「Xから200万円の支払を受けるのと引換えに」とする部分も、形式的には主文に含まれている。

2.しかし、114条1項が、「主文に包含するものに限り」とした趣旨は、訴訟物の存否に対する判断について既判力を及ぼせば紛争解決に十分であり、それ以外の事項に既判力が生じるとすると、それを恐れた当事者が無用の主張・立証を強いられ、争点が拡散し、訴訟経済を害するという点にある。
 したがって、「主文に包含するもの」とは、訴訟物の存否に対する判断をいう。
 前訴の訴訟物は、XのYに対する本件絵画の引渡請求権であるから、確定判決の「主文に包含するもの」として既判力が生じるのは、「Yは…Xに対し、本件絵画を引き渡せ。」の部分、すなわち、Xが、Yに対し、本件絵画の引渡請求権を有するという点に限られ、「Xから200万円の支払を受けるのと引換えに」とする部分には、既判力は生じない。

3.既判力が作用するのは、前訴と後訴の訴訟物の間に同一関係、矛盾関係、先決関係がある場合である。

(1)同一関係とは、後訴の訴訟物が、前訴で既判力が生じた権利・法律関係と同一である場合をいい、矛盾関係とは、後訴の訴訟物が、前訴で既判力が生じた権利・法律関係と法律上両立しない場合をいう。。
 本件で、前訴の訴訟物は、XのYに対する本件絵画の引渡請求権であるのに対し、後訴の訴訟物は、YのXに対する本件絵画の代金支払請求権である。前訴と後訴の訴訟物は同一ではない。本件絵画の引渡請求権の存否と本件絵画の代金支払請求権の存否はそれぞれ両立する法律関係である。
 したがって、同一関係、矛盾関係のいずれにも当たらない。

(2)先決関係とは、前訴で既判力が生じた権利・法律関係が、後訴の訴訟物の存否を判断する前提となる場合をいう。
 後訴の訴訟物である本件絵画の代金支払請求権の存否の判断の前提となる事実は、本件絵画を目的とする売買契約の成立、代金債務の消滅原因の存否等であって、本件絵画の引渡請求権の存否は、直接後訴の訴訟物の存否を左右しない。
 したがって、先決関係にも当たらない。

(3)以上から、前訴の既判力は、後訴に作用しない。

4.既判力によって遮断されない場合であっても、訴訟上の信義則(2条)に反するときは、後訴での主張は許されない。
 信義則に反するか否かは、前訴で容易に主張し得たか、相手方に前訴判決によって紛争が解決したとの信頼が生じるか、相手方を長期間不安定な地位に置くものといえるか等の観点から判断すべきである(判例)。
 Xは、前訴において、既に贈与の主張及び代金額の主張をしていた。Xから委任を受けた弁護士が改めて事実関係を争うべきであると考えたのは、Bから、本件絵画の取引は贈与である旨の証言を得られそうだとの感触を得たこと、同弁護士が本件絵画の写真数点を古物商に見せたところ、高くても150万円相当であるとのことであったことにあるが、これらは、いずれも前訴で容易に主張し得た。前訴では、「Yは、Xから200万円の支払を受けるのと引換えに、Xに対し、本件絵画を引き渡せ。」との判決がされ、この判決は確定したから、Yに紛争が解決したとの信頼が生じる。Xは、前訴を提起しておきながら、自らの事業の経営状態が悪化したこともあり、代金を支払ってまで本件絵画を手に入れることに熱意をなくしてしまっており、Yを長期間不安定な地位に置くものといえる。
 以上から、Xの主張は、信義則に反する。

5.よって、裁判所は、後訴において、XY間の本件絵画の売買契約の成否及びその代金額に関して改めて審理・判断をすることはできない。

以上

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