平成29年司法試験の結果について(3)

1.今回は、論文式試験の全科目平均点をみていきます。以下は、これまでの全科目平均点及び受験者数の推移をまとめたものです。全科目平均点のかっこ書は、最低ライン未満者を含む数字、受験者数前年比の括弧書きは、変化率を示しています(なお、各年の全科目平均点を比較することの意味については、「平成26年司法試験の結果について(4)の補足」を参照)。

全科目
平均点
前年比

受験者数

前年比
18 404.06 ---

2087

---
19 393.91 -10.15

4597

+2510
(+120.2%)
20 378.21
(372.18)
-15.70

6238

+1641
(+35.6%)
21 367.10
(361.85)
-11.11
(-10.33)

7353

+1115
(+17.8%)
22 353.80
(346.10)
-13.30
(-15.70)

8163

+810
(+11.0%)
23 353.05
(344.69)
-0.75
(-1.41)

8765

+602
(+7.3%)
24 363.54
(353.12)
+10.49
(+8.43)
8387 -378
(-4.3%)
25 361.62
(351.18)
-1.92
(-1.94)
7653 -734
(-8.7%)
26 359.16
(344.09)
-2.46
(-7.09)
8015 +362
(+4.7%)
27 376.51
(365.74)
+17.35
(+21.65)
8016 +1
(+0.0%)
28 397.67
(389.72)
+21.16
(+23.98)
6899 -1117
(-13.9%)
29 374.04
(360.53)
-23.63
(-29.19)
5967 -932
(-13.5%)

 全科目平均点と受験者数の間には、緩やかな逆相関性があります。いつの年にも、上位層というのは、一定の限られた人数しかいないものです。ですから、受験者数が増加することは、下位層の増加を意味することになりやすい。その結果、受験者数が増加すると、全科目平均点は下がりやすい、という緩やかな関係性があるというわけです。ただし、必ずしも、受験者数の増減幅に応じて全科目平均点が上下する、という関係にはありません。平成25年のように、逆相関の関係にない年もある。「緩やかな」と表現した所以です。とはいえ、平成26年までは、それで概ね説明が付きました

2.しかし、平成27年は、受験者数にほとんど変化がないのに、全科目平均点が急上昇しました。これは、上記の全科目平均点と受験者数の関係性からは説明が付きません。当時、当サイトでは、この異常な全科目平均点の急上昇の主な要因として、考査委員間で得点分布の目安を守ろうという申し合わせがあったのではないか、と説明していました(「平成27年司法試験の結果について(3)」)。「法科大学院制度がうまくいかないのは、司法試験が難しすぎるせいだ。(法科大学院が悪いのではなく、司法試験委員会が悪い。)」という法科大学院関係者からの批判を契機として、司法試験の成績評価の在り方が、検証の対象とされるようになったからです。

 

法曹の養成に関するフォーラム論点整理(取りまとめ)(平成24年5月10日)より引用。太字強調は筆者。)

 現在の合否判定は,受験者の専門的学識・能力の評価を実質的に反映した合理性のあるものになっているか疑問とする余地があり,合格者数が低迷しているのは合格レベルに達しない受験者が多かったからだと直ちに断定することはできず,合否判定の在り方についても見直す必要があるのではないか,法曹になるために最低限必要な能力は何かという観点から合格水準について検討すべきではないか,新たな法曹養成制度の下で司法試験合格者に求められる専門的学識・能力の内容や程度について,考査委員の間に共通の認識がないのではないか,新司法試験の考査委員には,法科大学院での教育やその趣旨についての理解が十分でないまま,旧来の司法試験と同様の意識や感覚で合否の決定に当たっている者も少なくないのではないかと疑われるとの意見があり,また,この立場から,考査委員の選任や考査委員会議の在り方等について工夫してはどうか(例えば,考査委員代表者を中心にする少人数の作業班により答案の質的レベル評価を反映する合格ラインの決定を行う等)との意見があった。

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第48回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

井上正仁座長代理 やはり旧来どおりの司法試験の在り方やその結果が絶対だと見る既存のものの考え方が根強く残っている。新しい法曹養成制度になったときに、制度の趣旨に照らしてその点を見直し、その結果として前のとおりで良いと意識的に判断して、そうしているならば、それはそれで一つの考え方だと思うのですけれども、果たしてそのような意識的な検討が十分なされたのかどうか。新たな法曹養成制度の下で、特に多様なバックグラウンドの方をたくさん受け入れて、法曹の質を豊かなものにしていこうというのが大きな理念であるはずですが、それに適合した選別の仕方がなされているのかどうか。その辺について内部では議論されているのかもしれないのですけれど、司法試験委員会ないし考査委員会議は、守秘義務の壁の向こうにあるものですから、よく分からない。しかし、そういったところも、やはり検証する必要がある

井上正仁座長代理 司法試験については、司法試験委員会ないし法務省の方の見解では、決して数が先にあるのではなく、あくまで各年の司法試験の成績に基づいて、合格水準に達している人を合格させており、その結果として、今の数字になっているというのです。確かに、閣議決定で3,000人というのが目標とはされているのだけれども、受験者の成績がそこまでではないから、2,000ちょっとで止まっているのだというわけです。それに対しては、その合格者決定の仕方が必ずしも外からは見えないこともあり、本当にそうなのかどうか、合格のための要求水準について従来どおりの考え方でやっていないかどうかといった点も検証する必要がある

(引用終わり)

法科大学院特別委員会(第68回)議事録より引用。太字強調は筆者。)

井上正仁座長 今の点は,法科大学院制度発足のときにも,必ずしも法廷活動を中心にする狭い意味の法曹の育成を専ら念頭に置いていたというわけではなく,社会のいろいろな方面に法曹資格,あるいは,それに匹敵するような能力を備えた人が進出していき,その専門的能力を活(い)かして様々な貢献をするということが目指すべき理想とされ,そういう理念で出発したはずなのですけれども,その後,現実には司法試験というものの比重が非常に重いため,どうしても狭い意味の法曹というところに焦点が絞られるというか,多くの関係者の視野が狭くなってしまっていると言うことだと思います。これまでの本委員会でも,度々同じような御意見が出,議論もあったところですが,何かもう少し具体的な形で議論できるようにすることを考えていきたいと思っています。

(引用終わり)

(「法曹養成制度検討会議取りまとめ」(平成25年6月26日)より引用。太字強調は筆者。)

 具体的な方式・内容,合格基準・合格者決定の在り方に関しては,司法試験委員会において,現状について検証・確認しつつより良い在り方を検討するべく,同委員会の下に,検討体制を整備することが期待される

(引用終わり)

 (「平成28年以降における司法試験の方式・内容等の在り方について」(平成27年6月10日司法試験委員会決定)より引用。太字強調は筆者。)

第3.出題の在り方等についての検証体制

1.検証体制の位置付け

 司法試験考査委員は,これまでも毎年の出題等に関する検証を行ってきたものであるが,今後,出題等に関するより一層の工夫が求められることを踏まえ,その工夫の趣旨や効果等を検証するとともに,各科目・分野を横断して認識を共有し,その後の出題等にいかすため,年ごとに,各科目・分野の考査委員の中から検証担当考査委員を選任し,その年の司法試験実施後において,共同してその年の試験についての検証を行うこととする。

2.検証体制の構成

 検証担当考査委員については,研究者と実務家の考査委員の双方を含めるとともに,実務家については,法曹三者を全て含めることとする。

3.検証の対象

 検証担当考査委員による検証については,その年の短答式試験及び論文式試験の出題のみならず,成績評価や出題趣旨・採点実感等も対象とする

4.検証結果の取扱い

 検証担当考査委員による検証の結果については,適切な方法で司法試験委員会に報告するとともに,その後の出題等にいかすこととする。

(引用終わり)

 (「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日)より引用。太字強調は筆者。)

 司法試験の具体的方式・内容、合格基準・合格者決定の在り方に関しては、司法試 験法の改正等を踏まえ、試験時間等に一定の変更が加えられたものであるが、今後においても、司法試験委員会において、継続的な検証を可能とする体制を整備することとしたことから、検証を通じ、より一層適切な運用がなされることを期待する

(引用終わり)

 

 上記の検証については、偶然に考査委員による情報漏えい問題と時期が一致したために、それとの関係で考えてしまう人もいるかもしれませんが、そうではありません。要するに、「司法試験をもっと簡単にしろ。」という圧力を、司法試験委員会にかけるための仕組みです。
 さて、得点分布の目安が守られた場合の全科目平均点を試算すると、概ね374.6点となります(「平成27年司法試験の結果について(3)」)。「考査委員が得点分布の目安を守ろうとした。」という仮説を前提にすると、全科目平均点は、この374.6点に近い数字になっていなければなりません。平成27年の全科目平均点は376.51点でしたから、概ねこの仮説で説明できたのです。

3.ところが、昨年の全科目平均点は、一昨年からさらに急上昇し、397.67点になってしまいました。これは、過去の数字でみると、平成18年に次ぐ高い数字で、得点分布の目安よりも、むしろ高い水準になってしまっています。この水準で定着するようなら、「考査委員が得点分布の目安を守ろうとした。」という仮説では説明が付きません。
 では、今年はどうだったかというと、昨年から20点以上も下がって、374.04点でした。これは、得点分布の目安が守られた場合の全科目平均点である374.6点にとても近い数字です。このことから、今年は、「考査委員が得点分布の目安を守ろうとした。」という仮説で説明が付くことがわかります。昨年がイレギュラーだった、ということです。昨年の全科目平均点が異常に高い数字になった原因としては、昨年も指摘したとおり、平成27年よりも受験者数が減少し、全科目平均点は上昇しやすい要素があったのに、平成27年同様の甘い採点基準を適用してしまった可能性や、考査委員から法科大学院教員が排除されたために、手堅い問題、採点基準を採用してしまった結果、従来より得点しやすくなってしまった可能性が考えられるでしょう(「平成27年司法試験の結果について(3)」)。

4.「考査委員が得点分布の目安を守ろうとした。」という仮説が正しいとするなら、これは来年も同様の傾向となるでしょう。すなわち、全科目平均点は、374点くらいで推移するだろう、と予測できることになります。
 現在のところ、全科目平均点がどのくらいの水準であるかは、合否の決定には直接の影響はありません。なぜなら、これまで、司法試験の合否は、「2000人基準」、「1800人基準」、「1500人基準」というように、人数を基準にして決定されてきたからです(「平成29年司法試験の結果について(1)」)。つまり、全科目平均点が上がれば、それに応じて合格点も上がるし、全科目平均点が下がれば、合格点もそれに応じて下がるので、全科目平均点が上がったから難易度が下がるとか、全科目平均点が下がったから難易度が上がるということはない。ただし、全科目平均点の水準は、間接的に、最低ライン未満になりやすいか否かや、採点実感等に関する意見における評価区分(優秀、良好、一応の水準及び不良)の読み方等に影響してきます。この点については、後の記事で、詳しく説明したいと思います。 

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