1.以下は、直近5年の司法試験受験経験別の受験者数の推移です。
受験経験 | 平成25 | 平成26 | 平成27 | 平成28 | 平成29 |
受験なし | 4553 | 6025 | 6384 | 6560 | 6729 |
旧試験のみ | 3929 | 3358 | 3095 | 2779 | 2740 |
新試験のみ | 263 | 385 | 317 | 409 | 365 |
両方受験 | 479 | 579 | 538 | 694 | 909 |
一貫して減少しているのが、「旧試験のみ」のカテゴリーです。旧司法試験はもう実施されていないわけですから、これは当然といえるでしょう。とはいえ、旧司法試験から予備に転じて、ずっと受け続けている人が、まだ2740人もいる。旧司法試験最後の論文試験が実施されたのが、平成22年ですから、もう既にそれから7年が経過しています。これが、長年憂慮されてきた、滞留者問題です。
滞留者問題という意味では、「両方受験」のカテゴリーが急増している点が、怖いと感じさせます。このカテゴリーは、旧司法試験を受験していたが、合格できずに法科大学院に入学し(※1)、新司法試験を受けたが、それでも合格できずに受験回数を使い切ってしまい、予備試験に流れた、という人達です。平成27年は受験回数制限緩和の影響で一時的に減少していましたが、昨年はまた増加し、今年はさらに増加のペースが増しています。このような人達がこれまでに費やしてきた資金、時間、労力は、莫大なものがあります。受験を諦めることは、それらが完全に無駄になってしまうことを意味する。だから、やめられない。これが、滞留者の陥りがちな心理状態です(※2)。
「両方受験」と同じように、平成27年に一時的に減少し、昨年また増加傾向に戻ったかにみえたのが、「新試験のみ」のカテゴリーですが、今年は、再度減少に転じています。このカテゴリーは、新司法試験を受験して受験回数を使い切った人で、旧司法試験は受験したことがない人達です。平成27年に一時的に減少したのは、受験回数制限緩和によるものですが、今年は、そのような特殊要因はありません。このカテゴリーの人数が再度減少に転じたことは、「旧試験のみ」、「両方受験」のカテゴリーとは対照的です。絶対数としては、新司法試験のみ受験して受験回数制限を使い切った人の方が、旧司法試験と新司法試験の両方を受験して受験回数制限を使い切る人よりも多いはずです。しかし、予備試験に回った人の数は、「両方受験」のカテゴリーよりも、「新試験のみ」のカテゴリーの方が少ない。新司法試験しか受験経験のない人は、これまでに費やしてきた資金、時間、労力が、旧司法試験受験経験者ほど大きくはないので、諦めがつきやすいということでしょう。その意味では、受験回数制限は、滞留者防止に一定の役割を果たしているといえるでしょう。
それから、一貫して増加傾向にあるのが、「受験なし」のカテゴリーです。今年は、169人増加しています。このカテゴリーは、新規参入者を示しています。新規参入者としては、大学生と法科大学院生が思いつきますが、今年の大学生の受験者は3004人、法科大学院生の受験者は1408人で、合わせても4412人。「受験なし」の受験者は6729人ですから、4412人を差し引いても2317人残ります。この2317人は、大学生でも法科大学院生でもない。無職の受験者の多くは専業受験生で、受験経験のない者はあまりいないと考えると、これは有職者である可能性が高いと考えることができるでしょう。今年の有職者の受験者は、3527人います。仮に、上記2317人が全員新規参入の有職者だとすると、有職者の受験者の3分の2程度は新規参入者であることなる。前回の記事(「平成29年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)で、有職者の受験者の増加は、新たに法曹を目指して予備試験に参入する社会人や、司法試験で受験資格を喪失し、就職したが、諦めきれずに予備試験を受験する人が増えているという可能性を示唆しているという説明をしましたが、この「受験なし」のカテゴリーの受験者数をみるかぎり、前者の可能性が高いといえるでしょう。
※1 厳密には、旧司法試験受験経験者が予備試験に合格し、新司法試験を受験したが、受験回数を使い切った、という人も含まれます。もっとも、第1回予備試験が実施されたのが平成23年ですから、受験回数を使い切って今年の予備試験を受験することができるのは、平成23年の予備試験合格者だけです(そのような人は、少なくとも11人存在することがわかっています(「平成28年司法試験受験状況」))。
※2 ある程度以上高齢になってしまうと、公務員や民間企業の採用枠から外れてしまうということも、重要な要素です。受験を継続するか否かを考えるに当たっては、この辺りも考慮した上で、判断する必要があるでしょう。そうしないと、がむしゃらに受験を継続し、気が付いたら他の選択肢がなくなっていた、ということになりかねません。
2.今度は、最終合格者数をみていきます。以下は、直近5年の司法試験受験経験別の最終合格者数の推移です。
受験経験 | 平成25 | 平成26 | 平成27 | 平成28 | 平成29 |
受験なし | 196 | 277 | 319 | 344 | 370 |
旧試験のみ | 101 | 42 | 45 | 35 | 28 |
新試験のみ | 17 | 15 | 11 | 10 | 11 |
両方受験 | 37 | 22 | 24 | 16 | 35 |
合格しているのは、圧倒的に「受験なし」、すなわち、新規参入者であることがわかります。新規参入者には、大学生、法科大学院生だけでなく、社会人もいるわけですが、前回の記事(「平成29年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)でみたとおり、最終合格者を職種別にみると、大学生が214人、法科大学院生が107人で、合わせて321人ですから、有職者の新規参入者は、多めに見積もっても49人くらいしか受かっていない計算になります。有職者の新規参入者は、勉強時間が短いために短答で苦戦し、しかも、論文段階では若年化方策によって、筆力に乏しい年配者は不利になるので、二重に厳しい立場に追い込まれています。
3.では、合格率はどうなっているか。まずは、短答合格率(受験者ベース)です。
受験経験 | 短答 合格率 |
受験なし | 16.9% |
旧試験のみ | 25.0% |
新試験のみ | 29.5% |
両方受験 | 40.0% |
短答は、受験経験を積むごとに、合格率が上がっていきます。特に、新司法試験の受験経験があると、合格率が高くなっている。旧司法試験時代は、憲法と刑法は論理問題が多く、知識の比重が低かった(※3)ために、旧司法試験の受験経験は、新司法試験の受験経験よりも短答合格率への寄与度が低くなっているのでしょう(※4)。知識だけで勝負すると、旧司法試験と新司法試験の両方を経験した年配者が圧倒的な差で勝利します。仮に、知識だけで最終合格が決まる試験であれば、誰も新規参入をしたがらなくなるでしょう。そこで、論文段階で強力な若年化方策が必要とされるというわけです。
※3 当時の憲法、刑法の論理問題は、短答段階において知識のない者を受からせるための若年化方策でした。
※4 旧司法試験時代の短答の試験科目は憲民刑の3科目でしたが、平成26年以前の新司法試験の短答の試験科目は7科目で、予備試験の短答の試験科目と重なっていたことも、重要な要素です。
4.さて、その論文合格率(短答合格者ベース)をみてみると、以下のようになっています。
受験経験 | 論文 合格率 |
受験なし | 33.5% |
旧試験のみ | 5.0% |
新試験のみ | 12.9% |
両方受験 | 10.4% |
短答で苦戦していた「受験なし」の新規参入者が、圧倒的な差を付けて受かっていく。これが若年化方策の効果であり、「論文に受かる人は、すぐに受かる」が「論文に受からない人は、何度受けても受からない」法則です。繰り返し説明しているとおり、この結果は、当局が意図的にそのような出題・採点をしているために、そうなっているのです。ただ、今年は、ややその効果が薄まっている。昨年の数字と比較すると、それがわかります。以下は、昨年と今年の論文合格率(短答合格者ベース)の比較表です。
受験経験 | 昨年 | 今年 |
受験なし | 29.8% | 33.5% |
旧試験のみ | 4.8% | 5.0% |
新試験のみ | 8.1% | 12.9% |
両方受験 | 6.2% | 10.4% |
昨年と比較すると、「受験なし」のカテゴリーだけでなく、「新試験のみ」と「両方受験」のカテゴリーの合格率も、上昇していることがわかります。一方で、「旧試験のみ」の合格率は、ほとんど上昇していない。これは、興味深い現象です。「新試験のみ」と「両方受験」のカテゴリーに属する者は、いずれも新司法試験を受験して、受験回数を使い切っています。受験回数を使い切る過程で、若年化方策によって出力される成績を通知されている。だから、当サイトなどの情報によって、これが意図的なカラクリによるものであることを示されると、実際の自分の経験と照らし合わせることで、確認し、納得しやすいのです。旧司法試験しか受験していないと、体感が伴わないので、規範と事実が重要と言われても、その意味を十分に理解しにくいという面があるのでしょう。若年化方策のカラクリを実感を伴って理解できるかどうか、その差が、表れているといえます。「旧試験のみ」のカテゴリーの人は、旧試験時代から、一生懸命に勉強を続けてきたはずです。それなのに、論文では5%しか受からない。毎年、がむしゃらに勉強しても、ますます、当局が落としたい人、受かりにくい人になってしまうだけです。逆に、若年化方策のカラクリを逆手に取って、若手が書くような答案、すなわち、抽象論は極力省略する一方で、当てはめに入る前に規範を明示し、事実を問題文から丁寧に引用するということを強く意識した答案を書くようにすれば、勉強量は少なくても、受かってしまいます。ただし、そのためには、かなりの文字数を限られた時間で書き切る筆力が必要になります。これは、特に年配者に欠けている能力です。これを克服するには、文字を速く書く訓練をするしかありません。最低限、時間内に4頁びっしり書き切れる筆力を身に付ける。予備試験は、70分(実務基礎は90分)で4頁ですから、若手の上位者は平気で4頁をびっしり、それも、小さな字で一行35~40文字くらいを書いてきます。知識・理解よりも、筆力が合否を大きく左右する。このことをよく知った上で、来年に向けた学習計画を考える必要があるのです。