1.法務省から、平成30年司法試験の受験予定者数が公表されています。受験予定者数は5726人で、出願者数の5811人よりも85人減っています。出願したものの、法科大学院を修了できなかった人が、85人いたということです。出願者数公表時には含まれていなかったその他の情報について、簡単にみていきましょう。
2.まず、受験回数別の受験予定者数です。以下は、直近5年の受験回数別受験者数の受験予定者数全体に占める割合の推移です。
年 (平成) |
1回目 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 |
26 | 43.5% | 32.2% | 24.1% | --- | --- |
27 | 35.0% | 29.4% | 24.2% | 11.3% | --- |
28 | 34.9% | 25.0% | 22.4% | 13.4% | 4.1% |
29 | 34.2% | 24.3% | 19.3% | 15.6% | 6.4% |
30 | 35.4% | 21.9% | 19.0% | 14.2% | 9.3% |
2回目、3回目の受験生の割合が減少傾向にある一方で、5回目の受験生の割合が1割に近いところまで増加してきています。5回目の受験生は、短答に強い反面、論文には弱いことがわかっています(「平成29年司法試験の結果について(13)」)。5回目の受験生の割合が増加することは、受験回数の少ない受験生にとっては、相対的に短答の難易度を上げ、論文の難易度を下げることになります。
3.受験回数別の受験予定者数から、わかることがあります。それは、昨年の受験予定者で合格しなかったもののうちの、何割が今年も受験しようとしているか。すなわち、どのくらいの割合が再受験したかという、「再受験率」です。具体的には、昨年の受験回数別受験予定者数から受験回数別合格者数を差し引いて得た数字を今年の受験回数別受験予定者数で除した数字を「再受験率」として算出します。これをまとめたものが、下の表です。厳密には、昨年の受験予定者で合格しなかったものの中には、受控えをした者が含まれていますが、ここでは便宜上、「昨年の不合格者」と表記しています。
今年の 受験回数 |
昨年の 不合格者 |
今年の 受験予定者 |
再受験率 |
2回目 | 1359 | 1254 | 92.2% |
3回目 | 1281 | 1088 | 84.9% |
4回目 | 1076 | 815 | 75.7% |
5回目 | 884 | 537 | 60.7% |
受験回数が増えると、再受験率が低下しています。一度不合格になった程度では諦めないが、不合格の回数が重なってくると、撤退を考える人の割合が増えてくる。自然なことといえるでしょう。もっとも、過去の数字と比較すると、少し気になる傾向が見えてきます。以下は、平成28年以降の受験回数別の再受験率の推移です。
年 (平成) |
2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 |
28 | 84.3% | 81.7% | 54.7% | 36.9% |
29 | 93.4% | 82.9% | 69.7% | 47.9% |
30 | 92.2% | 84.9% | 75.7% | 60.7% |
全体的に、再受験率は上昇傾向であることがわかります。特に、4回目、5回目の再受験率が、顕著に上昇している。受験回数制限が5年3回から5年5回に緩和された直後は、受験回数制限が緩和される前の段階で受控えをしていたために、5回受ける前に受験資格を喪失した人が相当数いたことや、法科大学院に進学する段階では受験回数制限は3回だったので、「3回不合格になったら就職しよう。」というライフプランを想定していた人が多く、比較的撤退する人が多かったことがあったのでしょう。それが、次第に「受験できるのだから、5回まで受けるのが当たり前。」という感覚になってきた。このことは、上記2でみた5回目受験生の割合の増加と符合しています。
3回目、4回目で撤退した人が予備試験に回るということは、途中で受控えをした人を除けば、通常ほとんどないでしょう。受験資格が残っているのに受験しなかったということは、就職など、他の道を選んだ可能性が高いからです。一方で、5回目まで受験し、不合格になった人の中には、そこで諦めきれず、予備試験に回る人が一定数います。ですから、5回目の再受験率の上昇は、さらに予備試験に回る人の増加も意味しているのです。このことは、旧司法試験時代に存在した滞留問題が、再び深刻なものとして顕在化しそうな予兆を示しています。
(参院法務委員会平成14年11月21日より引用。太字強調は筆者。)
福島瑞穂君 …受験回数が制限されている試験って余りないと思うんですね。医師の国家試験に何回落ちたら駄目とか、美容師さんの試験を何回受けたら駄目ということはないけれども、新司法試験では五年間に三回と制限が付いております。その理由と適否についていかがでしょうか。
政府参考人(山崎潮君) 長期受験をするということの弊害、いろいろ言われております。
まず、試験に受かることだけが人生の目的になるわけでございますので、どうしても受験技術優先に勉強するということで、人間の幅がなくなるということでございます。こういう状態を招致していいのかという点が一つございます。それと、やはりあたら人材が司法試験浪人として人生、将来の人生をそこで失うこともあるわけでございます。そういう問題の弊害があるというふうに指摘がされているわけでございます。
今回、新しい法曹養成制度を構築いたしまして、それも今のままでということになれば、せっかくロースクールを修了いたしまして試験を受けようといったときにも、やはり大量の受験生が滞留するということになります。そうなりますと、またそこから受験予備校に行くなんというような弊害が出てくるわけでございます。こういうことはやはり避けなければならないというのが今回、受験制限を設けた理由でございます。
五年のうちに三回ということでございます。これは、少なくとも三回ということが、これは意見書、改革審の意見書でも書かれておりますし、合理的な回数かなと思いますが、毎年毎年受けるという事情、これは人によって変わるわけでございますので、五年という幅を持ちながらその中で三回の受験をしていただくと。そこで、いったんは人生の、自分の人生をどうするか、そこで選択をしていただきたいということで、もう一度チャンスを与えるという意味にもなると思います。
ただ、これは、じゃ一切、未来永劫受けられないかということではございません。その後、新たに受験資格を得る、新しいロースクールに行って卒業をする、あるいは予備試験に合格をするということになれば、そこからまた五年間の間に三回と、これ一生繰り返すことも当然できるわけでございますけれども、それぞれ一つずつ期間を区切って、自分の人生を見直すという機会にもなるということでございます。
(引用終わり)
一度、司法試験の勉強をする生活に慣れてしまうと、ただがむしゃらにそれを繰り返すだけになってしまいがちです。他のことは、ほとんど何も考えられない。仮に受験資格を喪失しても、「自分の人生を見直すという機会」にはほとんどならず、「まだ予備試験がある。」という発想になりやすいでしょう。そうなると、受験回数制限はあまり意味をなさないことになります。そのような状況の人が、次第に増えつつあるということです。
4.最後に、法科大学院在学中の予備試験合格者について、少しみておきましょう。法科大学院在学中の予備試験合格者で、出願段階で法科大学院を修了する見込みのものは、予備試験の資格で受験するか、法科大学院を修了した場合は法科大学院修了の資格で受験するかを、願書記入の段階で選ぶことができます。
(「平成30年司法試験 受験願書の記⼊要領」より引用)
法科大学院課程修了と司法試験予備試験合格の両方の受験資格を取得している場合は,いずれの受験資格に基づいて出願するか(「1」,「2」又は「3」)を選択し記入します。
(引用終わり)
今年の出願段階では、「司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」が442人、「法科大学院課程修了見込者で、同課程修了の資格に基づいて受験するが、同課程を修了できなかったときは司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」は100人でした。受験予定者段階でも、「司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」は、442人です。これは、出願段階で、「法科大学院課程修了見込者で、同課程修了の資格に基づいて受験するが、同課程を修了できなかったときは司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」であった100人全員が、法科大学院を修了したことを意味しています。この100人は、「司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者」ではなく、「法科大学院課程修了の資格に基づいて受験する者」の方にカウントされている、ということになります。
このように、法科大学院在学中の予備試験合格者については、受験者の任意の選択によって、法科大学院修了者としてカウントされたり、予備試験合格者としてカウントされたりするのです。そのために、法科大学院在学中の予備試験合格者に関する情報が、統計情報として扱いにくくなってしまっています。