平成30年司法試験論文式公法系第2問
設問1(1)の補足説明(3)

1.前回の記事(「平成30年司法試験論文式公法系第2問設問1(1)の補足説明(2)」)では、処分の相手方以外の者の原告適格の一般的な検討方法について、説明しました。今回は、本問の具体的検討に入ります。まずは、Dから検討してみましょう。

 

(問題文より引用)

環境部長:まず,Dについては,既にDの墓地は余り気味で,空き区画が出ているそうです。本件墓地は規模が大きく,本件墓地の経営が始まると,Dは,自らの墓地経営が立ち行かなくなるのではないかと懸念しています。墓地経営には公益性と安定性が必要であり,墓地の経営者の経営悪化によって,墓地の管理が不十分となることは,法の趣旨目的から適切ではないと考えることもできるでしょうね。

(引用終わり)

 

 Dが主張したい具体的利益とは、墓地経営者の経営上の利益だろうということがわかります。また、上記の「墓地の経営者の経営悪化によって,墓地の管理が不十分となることは,法の趣旨目的から適切ではない」という部分は、墓埋法及び本件条例において、墓地の経営者の経営悪化が生じる場合には、許可をしてはならない、という趣旨が含まれるかどうかを検討しなさいよ、ということを示唆しています。では、そのような趣旨が読み取れる規定はあるか。墓埋法の方には、直ちにそのように読み取れるものはなさそうです。本件条例の方は、どうか。本件条例を見ても、「墓地の経営者の経営悪化が生じる場合には、許可をしてはならない。」ことを直接定めた規定は見当たりません。もっとも、直接にはそのような規定がなくても、墓地の経営者の経営悪化が生じるにもかかわらず許可をすることが裁量逸脱濫用として違法になる場合はあり得ます。前回の記事でも紹介した新潟空港事件判例は、そのような場合です。

 

新潟空港事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 申請に係る事業計画に従つて航空機が航行すれば、当該路線の航空機の航行自体により、あるいは従前から当該飛行場を使用している航空機の航行とあいまつて、使用飛行場の周辺に居住する者に騒音障害をもたらすことになるにもかかわらず、当該事業計画が適切なものであるとして定期航空運送事業免許が付与されたときに、その騒音障害の程度及び障害を受ける住民の範囲など騒音障害の影響と、当該路線の社会的効用、飛行場使用の回数又は時間帯の変更の余地、騒音防止に関する技術水準、騒音障害に対する行政上の防止・軽減、補償等の措置等との比較衡量において妥当を欠き、そのため免許権者に委ねられた裁量の逸脱があると判断される場合がありうるのであつて、そのような場合には、当該免許は、申請が法一〇一条一項三号の免許基準に適合しないのに付与されたものとして、違法となるといわなければならない。

(引用終わり)

 

 逆に、墓地の経営者の経営悪化を考慮して許可をしないという裁量判断が許されないのであれば、Dの原告適格は否定されるでしょう。病院の開設許可の取消訴訟において付近の医療施設開設者の原告適格を否定した最判平19・ 10・19は、そのような事案でした(※1)。
 ※1 勧告不遵守の場合には保険医療機関の指定を受けることができなくなり、事実上病院開設を断念せざるを得なくなるとして、勧告につき処分性が認められるとした最判平17・7・15においても、「医療法上は,上記の勧告に従わない場合にも,そのことを理由に病院開設の不許可等の不利益処分がされることはない。」とされています。

 

(最判平19・ 10・19より引用。※注及び太字強調は筆者。)

 法30条の3は,都道府県は医療を提供する体制の確保に関する計画(以下「医療計画」という。)を定めるものとし(同条1項),そこに定める事項として「基準病床数に関する事項」を掲げており(同条2項3号),法30条の7は,医療計画の達成の推進のために特に必要がある場合には,都道府県知事が病院開設の許可の申請者に対し病院の開設等に関し勧告することができるものとしているが,病院開設の許可の申請が医療計画に定められた「基準病床数に関する事項」に適合しない場合又は更に当該申請をした者が上記の勧告に従わない場合にも,そのことを理由に当該申請に対し不許可処分をすることはできないと解される(最高裁平成14年(行ヒ)第207号同17年7月15日第二小法廷判決・民集59巻6号1661頁(※注 開設中止を求める勧告の処分性を認めたもの。),最高裁平成15年(行ヒ)第320号同17年10月25日第三小法廷判決・裁判集民事218号91頁参照)。
 …そうすると,上告人らは,本件開設許可の取消しを求める原告適格を有しないというべきである。

(引用終わり)

 

 では、本問で、「墓地の経営者の経営悪化が生じる場合には、許可をしてはならない。」というような、市長の裁量を覊束する趣旨の規定はあるのでしょうか。この点について、問題文では以下のようなヒントが示されています。

 

(問題文より引用)

弁護士F:ええ。そのことと本件条例が墓地の経営主体を制限していることとの関連も検討する必要がありそうです。

(引用終わり)

 

 これが、本件条例3条を指していることは、明らかでしょう。

 

(本件条例3条)

 墓地等を経営することができる者は,原則として地方公共団体とする。ただし,次の各号のいずれかに該当し,B市長(以下「市長」という。)が適当と認める場合は,この限りでない。

(1) 宗教法人法(中略)に規定する宗教法人で,同法の規定により登記された事務所を,B市(以下「市」という。)の区域内に有するもの
(2) 墓地等の経営を目的とする公益社団法人又は公益財団法人で,登記された事務所を,市の区域内に有するもの

2 前項に規定する事務所は,その所在地に設置されてから,3年を経過しているものでなければならない。

 

 この規定から、「墓地の経営者の経営悪化が生じる場合には、許可をしてはならない。」という趣旨を読み取ることはできるのでしょうか。もう一度、Dの主張として問題文で示唆されているものを確認してみると、それが見えてきます。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

環境部長:まず,Dについては,既にDの墓地は余り気味で,空き区画が出ているそうです。本件墓地は規模が大きく,本件墓地の経営が始まると,Dは,自らの墓地経営が立ち行かなくなるのではないかと懸念しています。墓地経営には公益性と安定性が必要であり,墓地の経営者の経営悪化によって,墓地の管理が不十分となることは,法の趣旨目的から適切ではないと考えることもできるでしょうね。

(引用終わり)

 

 「公益性と安定性」というキーワードが出ています。公益性とは、営利性と対になる言葉であることを想起すれば、要は墓地経営で金儲けされたら困るということだろうと見当が付きます。「安定性」とは、数年で墓地の管理を投げ出すようなことがあっては困るということでしょう。これを意識して本件条例3条を見ると、1項の、「地方公共団体」、「宗教法人」、「公益社団法人又は公益財団法人」が、「公益性」とリンクしているな、と感じ取ることができるでしょう。また、同条2項の「3年を経過しているもの」は、「安定性」とリンクしていると感じさせます。それから、「墓地の管理が不十分となることは,法の趣旨目的から適切ではない」の部分についても、墓埋法1条を見てみると、意味がわかります。

 

(墓埋法1条。太字強調は筆者。)

 この法律は,墓地,納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が,国民の宗教的感情に適合し,且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障なく行われることを目的とする

 

 すなわち、墓地の管理に支障が生じることは、法1条の目的に反するということです。ここまで理解すると、以下のような論理が成り立ちそうだとわかるでしょう。

「本件条例3条は経営主体を制限しているが、その趣旨は、墓地経営の公益性と安定性を確保することによって、墓地の管理に支障が生じないようにする点にある。それなのに、既存の墓地の経営者の経営が悪化することを知りながら敢えて市長が新しい墓地の経営に許可を出すということは、既存の墓地の安定性を害するものである。これは、墓地の管理に支障を生じさせるから、法1条の目的に反する。そうである以上、そのような許可をすることは、市長に与えられた裁量の逸脱・濫用となる。」

 このように考えると、「墓地の経営者の経営悪化が生じる場合には、許可をしてはならない。」という趣旨を読み取ることができそうです。ちなみに、問題文の「【検討会議の会議録】」では示唆されていませんが、本件条例13条3項、9条2項5号も、墓地経営の安定性を確保する趣旨の規定です。

 

(本件条例13条3項)

 墓地等の土地については,当該墓地等の経営者(地方公共団体を除く。)が,当該墓地等の土地を所有し,かつ,当該土地に所有権以外の権利が設定されていないものでなければならない。ただし,市長が当該墓地等の経営に支障がないと認めるときは,この限りでない。

 

 例えば、土地を賃借して墓地等を経営している場合、経営悪化により賃料不払に至れば賃借権を失うおそれがあり、墓地経営が安定しないだろう、ということですね。本件条例9条2項5号が経営に係る資金計画書を許可申請の添付書類としているのは、申請の許否を判断する際に、同項ただし書を充足するかについての判断をするためのものです。本件条例では要求されていませんが、土地所有者の承諾書、土地の登記簿謄本等や土地賃貸借契約書の写しを提出させることも、考えられるところです。

 

(「墓地経営・管理の指針等について」(生衛発第1764号平成12年12月6日厚生省生活衛生局長)より引用。太字強調は筆者。)

 墓地に永続性が求められることにかんがみ、墓地予定地は自己所有であることが原則とされるべきである。 ただし、特に大都市等においては、土地事情からこれを求めることが困難な場合も想定され、墓地不足に対処するなどの観点から、都道府県等の方針により借地であっても認めざるを得ない場合も考えられなくはないしかし、この場合であっても、墓地という特殊な用途に供することはその後の土地利用が半永久的に大幅に制限されることとなると考えられることから、少なくとも土地所有者の承諾を書面で事前に得ておく必要があろう。また、墓地予定地の権利関係が明らかになる登記簿謄本等を提出させるとともに、借地の場合には土地賃貸借契約書の写しを提出させ、当該土地で永続的な墓地経営が可能かどうか十分に審査する必要がある。さらに、許可後の一定期間内に当該土地を買い取り、自己所有にすることを許可の条件(附款)とし、所有権登記をした時点でその旨の届出をさせることも必要であろう。

(引用終わり)

 

2.ここまでで、墓地経営者の経営上の利益を具体的利益として保護している、と断定できるかというと、実は必ずしもそうではありません。もう一度、先に示した論理を思い出してみましょう。

「本件条例3条は、経営主体を制限しているが、その趣旨は墓地経営の公益性と安定性を確保することによって、墓地の管理に支障が生じないようにする点にある。それなのに、既存の墓地の経営者の経営が悪化することを知りながら敢えて市長が新しい墓地の経営に許可を出すということは、既存の墓地の安定性を害するものである。これは、墓地の管理に支障を生じさせるから、法1条の目的に反する。そうである以上、そのような許可をすることは、市長に与えられた裁量の逸脱・濫用となる。」

 太字強調部分に注意して冷静に読み直してみると、墓地の経営者の経営が悪化すると困るのは、経営者の利益が害されるからではなくて、墓地の安定性が害されて墓地の管理に支障が生じるからだということに気付きます。そして、墓地の管理に支障が生じて困るのは、周辺住民や墓地の利用者等です。ですから、上記のように考えても、墓地経営者の経営上の利益を具体的利益として保護する趣旨である、とは直ちにはいえない。これが、出題者の想定するDの主張とB市側の反論の対応ということになるのでしょう。実際には、Dの主張と本件条例3条、13条3項、9条2項5号などをそのまま参照して、簡単に原告適格を認めてしまう答案が多いでしょうから、ここまでの問題意識が答案に示されているだけでも、十分な合格答案です。参考答案は、その程度のことだけを、問題文を書き写す形で端的に書いています(「平成30年司法試験論文式公法系第2問参考答案」)。

3.ここからは、「正解」は何か、という観点から、もう少し検討してみましょう。本問のような既存の業者の経営上の利益が問題になった事例としては、公衆浴場営業者に関する最判昭37・1・19と、一般廃棄物処理業の許可業者に関する最判平26・1・28があります。結論は、両者とも原告適格を肯定するものなのですが、これらの判例は、ここまで説明してきた理解を踏まえて捉えようとすると、理解が難しい面があります。

 

(最判昭37・1・19より引用。太字強調は筆者。)

 公衆浴場法は、公衆浴場の経営につき許可制を採用し、第二条において、「設置の場所が配置の適正を欠く」と認められるときは許可を拒み得る旨を定めているが、その立法趣旨は、「公衆浴場は、多数の国民の日常生活に必要欠くべからざる、多分に公共性を伴う厚生施設である。そして、若しその設立を業者の自由に委せて、何等その偏在及び濫立を防止する等その配置の適正を保つために必要な措置が講ぜられないときは、その偏在により、多数の国民が日常容易に公衆浴場を利用しようとする場合に不便を来たすおそれを保し難く、また、その濫立により、浴場経営に無用の競争を生じその経営を経済的に不合理ならしめ、ひいて浴場の衛生設備の低下等好ましからざる影響を来たすおそれなきを保し難い。このようなことは、上記公衆浴場の性質に鑑み、国民保健及び環境衛生の上から、出来る限り防止することが望ましいことであり、従つて、公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠き、その偏在乃至濫立を来たすに至るがごときことは、公共の福祉に反するものであつて、この理由により公衆浴場の経営の許可を与えないことができる旨の規定を設け」たのであることは当裁判所大法廷判決の判示するところである(昭和二八年(あ)第四七八二号、同三〇年一月二六日判決、刑集九巻一号二二七頁)。そして、同条はその第三項において右設置場所の配置の基準については都道府県条例の定めるところに委任し、京都府公衆浴場法施行条例は各公衆浴場との最短距離は二百五十米間隔とする旨を規定している。
 これら規定の趣旨から考えると公衆浴場法が許可制を採用し前述のような規定を設けたのは、主として「国民保健及び環境衛生」という公共の福祉の見地から出たものであることはむろんであるが、他面、同時に、無用の競争により経営が不合理化することのないように濫立を防止することが公共の福祉のため必要であるとの見地から、被許可者を濫立による経営の不合理化から守ろうとする意図をも有するものであることは否定し得ないところであつて、適正な許可制度の運用によつて保護せらるべき業者の営業上の利益は、単なる事実上の反射的利益というにとどまらず公衆浴場法によつて保護せられる法的利益と解するを相当とする。

(引用終わり)

(最判平26・1・28より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 一般廃棄物処理業は,市町村の住民の生活に必要不可欠な公共性の高い事業であり,その遂行に支障が生じた場合には,市町村の区域の衛生や環境が悪化する事態を招来し,ひいては一定の範囲で市町村の住民の健康や生活環境に被害や影響が及ぶ危険が生じ得るものであって,その適正な運営が継続的かつ安定的に確保される必要がある上,一般廃棄物は人口等に応じておおむねその発生量が想定され,その業務量には一定の限界がある。廃棄物処理法が,業務量の見込みに応じた計画的な処理による適正な事業の遂行の確保についての統括的な責任を市町村に負わせているのは,このような事業の遂行に支障を生じさせないためである。そして,既存の許可業者によって一般廃棄物の適正な処理が行われており,これを踏まえて一般廃棄物処理計画が作成されている場合には,市町村長は,それ以外の者からの一般廃棄物処理業の許可又はその更新の申請につき,一般廃棄物の適正な処理を継続的かつ安定的に実施させるためには既存の許可業者のみに引き続きこれを行わせるのが相当であり,当該申請の内容が当該一般廃棄物処理計画に適合するものであるとは認められないとして不許可とすることができるものと解される(最高裁平成14年(行ヒ)第312号同16年1月15日第一小法廷判決・裁判集民事213号241頁参照)。このように,市町村が市町村以外の者に許可を与えて事業を行わせる場合においても,一般廃棄物の発生量及び処理量の見込みに基づいてこれを適正に処理する実施主体等を定める一般廃棄物処理計画に適合すること等の許可要件に関する市町村長の判断を通じて,許可業者の濫立等によって事業の適正な運営が害されることのないよう,一般廃棄物処理業の需給状況の調整が図られる仕組みが設けられているものといえる。

 (中略)

 一般廃棄物処理業に関する需給状況の調整に係る規制の仕組み及び内容,その規制に係る廃棄物処理法の趣旨及び目的,一般廃棄物処理の事業の性質,その事業に係る許可の性質及び内容等を総合考慮すると,廃棄物処理法は,市町村長から一定の区域につき一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けて市町村に代わってこれを行う許可業者について,当該区域における需給の均衡が損なわれ,その事業の適正な運営が害されることにより前記のような事態が発生することを防止するため,上記の規制を設けているものというべきであり,同法は,他の者からの一般廃棄物処理業の許可又はその更新の申請に対して市町村長が上記のように既存の許可業者の事業への影響を考慮してその許否を判断することを通じて,当該区域の衛生や環境を保持する上でその基礎となるものとして,その事業に係る営業上の利益を個々の既存の許可業者の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。したがって,市町村長から一定の区域につき既に廃棄物処理法7条に基づく一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けている者は,当該区域を対象として他の者に対してされた一般廃棄物処理業の許可処分又は許可更新処分について,その取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

(引用終わり)

 

 むしろ、前者の判例における池田克意見及び奥野健一反対意見後者の判例における原審の立場の方が、理解がしやすいでしょう。

 

(最判昭37・1・19における池田克意見より引用。太字強調は筆者。)

 およそ、営業許可は、本来自由なるべき営業に対する禁止を解除しその自由を回復せしめるにとどまり、新らたに独占的な財産権を付与するものではない。公衆浴場の営業許可についても、その本質が右のごとき普通一般の営業許可の本質と異なる所以を見出し得ない。もつとも、公衆浴場法は特に配置の適正ということを許可の要件として規定しているので、濫立の防止によつて既設業者が経済的利益をうけることは事実であるが、右の規定は、専ら、公衆浴場が国民多数の日常生活に必要欠くべからざる厚生施設であることにかんがみ、公衆衛生の維持・向上を図らうとする公益的見地に出たものであつて、直接業者の経済的利益を保護する趣旨に出たものでないことは、本来業者の自由競争に委かさるべき公衆浴場営業を許可制にした同法の立法目的に徴しても、また前叙のごとき営業許可の本質からみても、疑を容れないところである。従つて、右の規定を有する公衆浴場法の下においても、既設業者のうける利益を、多数説のように一種の法的利益と解することはできず、単なる反射的利益に過ぎないというべきである。

(引用終わり)

(最判昭37・1・19における奥野健一反対意見より引用。太字強調は筆者。)

 元来公衆浴場営業は何人も自由になし得るものであるが、公衆浴場法は公衆衛生の維持、向上の目的から公衆浴場営業を一般的に禁止し、公衆衛生上支障がないと認められる場合に特定人に対してその禁止を解除し、営業の自由を回復せしめることとしている。しかして、このような制限は専ら公衆衛生上の見地からなされるものであつて、既設公衆浴場営業者の保護を目的とするものではない。尤も公衆浴場営業が許可を要するとされることから、競業者の出現が事実上ある程度の抑制を受け、その結果既設業者が営業上の利益を受けることがあつても、それはいわゆる反射的利益に過ぎないのであつて、決して許可を受けた既設業者に一種の独占的利益を与えようとするものではない
 そして、公衆浴場法二条二項は「都道府県知事は、……その設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは前項の許可を与えないことができる。……」と定めているが、これも専ら公衆衛生の維持、向上を目的とする規定であつて、既設業者の営業上の利益の保護を目的とするものではない。従つて、右二条二項の規定は、新規の営業許可にかかる浴場の設置場所が適正を欠くことを理由として、既設業者からその許可の無効を主張することを許す趣旨のものとは到底解することができない。それ故、これと同趣旨の理由により本訴請求は訴の利益がないものとしてこれを棄却した第一審判決及びこれを支持した原判決は正当であつて、本件上告は理由がない。

(引用終わり)

(最判平26・1・28より引用。太字強調は筆者。)

 原審は,要旨,次のとおり判断して,上告人は本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有しないとしてこれらの取消請求に係る訴えを却下すべきものとし,国家賠償法に基づく損害賠償請求を棄却すべきものとした。
 廃棄物処理法7条は,一般廃棄物収集運搬業又は一般廃棄物処分業(以下,併せて「一般廃棄物処理業」という。)の許可において,その許可の申請をする者が一般廃棄物処理業を的確にかつ継続して行うことができる経済的基盤を有することをその要件としているが(同条5項3号,10項3号),その目的は飽くまでも市町村の固有の事務である一般廃棄物の処理の継続的かつ安定的な実施や当該市町村における生活環境の保全に支障が生ずることを避けることにあり,同条に基づく一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けた者(以下「許可業者」という。)の営業上の利益を個別的利益として保護する趣旨を含むものではないから,上告人は本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有するものではなく,また,被上告人は上告人に対してその営業上の利益に配慮しこれを保護すべき義務を負うものではないのであって,上告人の国家賠償法に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。

(引用終わり)

 

 実は、上記2つの判例の理解を難しくしている原因は、両者を「処分の相手方以外の者」の原告適格の枠組みの中で理解しようとしていることにあります。何を言いたいのか。補助線として、東京12チャンネル事件判例を参照すると、そのことがよく理解できます。

 

(東京12チャンネル事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 訴外財団と被上告人とは、係争の同一周波をめぐつて競願関係にあり、上告人は、被上告人よりも訴外財団を優位にあるものと認めて、これに予備免許を与え、被上告人にはこれを拒んだもので、被上告人に対する拒否処分と訴外財団に対する免許付与とは、表裏の関係にあるものである。そして、被上告人が右拒否処分に対して異議申立てをしたのに対し、上告人は、電波監理審議会の議決した決定案に基づいて、これを棄却する決定をしたものであるが、これが後述のごとき理由により違法たるを免れないとして取り消された場合には、上告人は、右決定前の白紙の状態に立ち返り、あらためて審議会に対し、被上告人の申請と訴外財団の申請とを比較して、はたしていずれを可とすべきか、その優劣についての判定(決定案についての議決)を求め、これに基づいて異議申立てに対する決定をなすべきである。すなわち、本件のごとき場合においては、被上告人は、自己に対する拒否処分の取消しを訴求しうるほか、競願者(訴外財団)に対する免許処分の取消しをも訴求しうる(ただし、いずれも裁決主義がとられているので、取消しの対象は異議申立てに対する棄却決定となる。)が、いずれの訴えも、自己の申請が優れていることを理由とする場合には、申請の優劣に関し再審査を求める点においてその目的を同一にするものであるから、免許処分の取消しを訴求する場合はもとより、拒否処分のみの取消しを訴求する場合にも、上告人による再審査の結果によつては、訴外財団に対する免許を取り消し、被上告人に対し免許を付与するということもありうるのである
 したがつて、論旨が、本件棄却決定の取消しが当然に訴外財団に対する免許の取消しを招来するものでないことを理由に、本件訴えの利益を否定するのは早計であつて、採用できない。

(引用終わり)

 

 競願関係、すなわち、一方の業者に許認可等をすることが、同時に他方に対する拒否処分を帰結する関係にある場合には、拒否処分の相手方である業者は、許認可等について「処分の相手方以外の者」というよりは、「処分の直接の相手方」に準じるものであるから、許認可等の取消訴訟について原告適格が認められる。この判例は、このような趣旨と理解できます。

 

(「司法試験定義趣旨論証集(行政法)」より引用)

競願関係にある者の原告適格

重要度:B
 競願関係にある一方の業者への免許等の付与が、他方業者に対する拒否処分と表裏の関係にある場合には、拒否処分を受けた業者は、競願者に対してされた免許等を付与する処分に係る抗告訴訟の原告適格を有する。なぜなら、上記場合には免許等付与処分と拒否処分とは密接不可分であるから、拒否処分を受けた業者も免許等付与処分の直接の相手方と同視し得る地位にあるといえるからである(東京12チャンネル事件判例参照)。 

(引用終わり)

 

 このことを理解した上で、許可をするか否かを判断する際に、需給状況を考慮して、既存業者の経営を悪化させる場合には許可をすべきでない場合を改めて考えてみると、この場合においても、同様の関係が生じ得ることに気付くでしょう。一方の業者に営業許可を出すと、それによって供給が飽和状態になるため、もはや他の業者に対して許可を出すことができない状態になるという場合、複数の業者による営業許可の申請は、競願関係となるのです。公衆浴場の営業許可の申請について競願関係が生じた場合に先願主義を採るべきことを判示したのが、最判昭47・5・19です。

 

(最判昭47・5・19より引用。太字強調は筆者)

 公衆浴場法は、公衆浴場の経営につき許可制を採用し、その二条二項本文において、「都道府県知事は、公衆浴場の設置の場所若しくはその構造設備が、公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは、前項の許可を与えないことができる。」と規定しているが、それは、主として国民保健および環境衛生という公共の福祉の見地から営業の自由を制限するものである。そして右規定の趣旨およびその文言からすれば、右許可の申請が所定の許可基準に適合するかぎり、行政庁は、これに対して許可を与えなければならないものと解されるから、本件のように、右許可をめぐつて競願関係が生じた場合に、各競願者の申請が、いずれも許可基準をみたすものであつて、そのかぎりでは条件が同一であるときは、行政庁は、その申請の前後により、先願者に許可を与えなければならないものと解するのが相当である。けだし、許可の要件を具備した許可申請が適法になされたときは、その時点において、申請者と行政庁との間に許可をなすべき法律関係が成立したものというべく、この法律関係は、許可が法律上の覊束処分であるかぎり、その後になされた第三者の許可申請によつて格別の影響を受けるべきいわれはなく、後の申請は、上記のような既存の法律関係がなんらかの理由により許可処分に至らずして消滅した場合にのみ、これに対して許可をなすべき法律関係を成立せしめうるにとどまるというべきだからである。

(引用終わり)

(「司法試験定義趣旨論証集(行政法)」より引用)

事業許可の競願関係が生じた場合

重要度:B
 競願関係が生じた場合において、各競願者の申請がいずれも許可基準を充たすときは、法律上特別の規定がない限り、最先出願者に許可しなければならない(先願主義、公衆浴場営業許可事件判例参照)。なぜなら、適法な申請がされた時点で申請者と行政庁間に許可をすべき法律関係が生じたといえるし、一般に許可制は職業の自由に対する強力な制限であり(薬事法事件判例参照)、自由裁量は認められないからである。

(引用終わり)

 

 ここまで来ると、先にみた2つの判例の趣旨が、理解できます。すなわち、需給状況を考慮して許可をすべきか否かを判断すべき場合には、たとえ、その目的が一般的公益を図ることにあるとしても、競願関係が生じ得る以上、一方に対する許可は、他方に対する不許可と同様の効果(※2)を生じ得るといえるから、競業関係にある他の業者にも、「処分の直接の相手方」に準じて、原告適格が認められる最判平26・1・28は、小田急線高架訴訟判例の枠組みに沿って検討しているので、上記のことをもって、「その事業に係る営業上の利益を個々の既存の許可業者の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含む」と表現していますが、典型的な「処分の相手方以外の者」についての「個別的利益」とは、意味が異なるのです。
 ※2 これから許可を申請する者にとっては、既にされた許可処分は自らに対する不許可処分を帰結するという法的な効果として、既に許可を受けて営業している者にとっては、新たな許可処分によって自らの経営状況が悪化し、廃業に追い込まれる事態となって、自らが受けていた許可が無意味になるという事実上の効果として理解することになるでしょう。

 以上のような判例法理の理解からすれば、本問のDについても、同様の理解から、原告適格を認めることができるでしょう。しかし、本試験の現場でこのようなことを書いた人は、1人もいないだろうと思います。 

戻る