1.今年は、4466人が受験して、1502人合格ですから、受験者合格率は、33.6%ということになります。概ね3人に1人が受かる、という感じですね。以下は、これまでの受験者数、合格者数及び受験者合格率の推移です。なお、昨年以前の年の表記は、平成の元号によります。
年 | 受験者数 | 合格者数 |
受験者 合格率 |
18 | 2091 | 1009 | 48.2 |
19 | 4607 | 1851 | 40.1 |
20 | 6261 | 2065 | 32.9 |
21 | 7392 | 2043 | 27.6 |
22 | 8163 | 2074 | 25.4 |
23 | 8765 | 2063 | 23.5 |
24 | 8387 | 2102 | 25.0 |
25 | 7653 | 2049 | 26.7 |
26 | 8015 | 1810 | 22.5 |
27 | 8016 | 1850 | 23.0 |
28 | 6899 | 1583 | 22.9 |
29 | 5967 | 1543 | 25.8 |
30 | 5238 | 1525 | 29.1 |
令和元 | 4466 | 1502 | 33.6 |
合格率は、分母の受験者数と、分子の合格者数の相関関係で変動します。平成23年までの合格率の低下傾向は、主として分母の受験者数の増加によるものでした。新しい司法試験の開始当初は受験回数制限による退出者が生じないので、どんどん不合格者が滞留していき、それが合格率を押し下げたのです。
平成24年及び平成25年に、合格率が上昇に転じたのは、主に受験者数の減少によるものです。受験回数制限が本格的に機能するようになったことに加えて、それ以前から生じていた志願者数の減少が、この頃になって、法科大学院修了生の減少、すなわち受験者数の減少という形で、表れるようになってきたのです。
平成26年に2つの特殊要因が生じます。1つは、平成27年から受験回数制限が緩和されることが明らかになったことによる受控えの減少です。これは、分母の受験者数を増加させ、合格率の下落要因となりました。もう1つは、分子である合格者数の減少です。平成20年から平成25年まで2000人台であった合格者数が、平成26年になって、1800人台となったのです。こうして、分母が増加する一方で分子が減少した結果、平成26年は、合格率が急激に下落したのでした。今振り返ってみると、この平成26年が、最も合格率の低い年となっています。
平成27年及び平成28年は、数字の上では合格率はほぼ同じです。ただ、平成27年は、平成26年から受験者数も合格者数もほぼ変化がなかった結果の数字でしたが、平成28年は、分母(受験者数)と分子(合格者数)の減少が同時に生じた結果、昨年と同じ水準に落ち着いた、というものでした。
平成28年以降からは、新たな段階に入りました。それは、分母(受験者数)の減少は続いているのに、分子(合格者数)については、「1500人の下限」により横ばいが続く、という状況です。この結果、合格率はどんどん上昇していきます。今年は、平成20年をやや超える水準にまで達しました。司法試験は、どんどん受かりやすい試験になっているのです。
2.各年の受験者合格率は、いわゆる「修了生7割」という累積合格率の目標値との関係でも、重要な意味を持ちます。
「修了生7割」というのは、「法科大学院では修了生の7~8割が合格するような教育をすべきだ。」という理念のことです。これは、司法制度改革審議会の意見書に記載され、閣議決定にも盛り込まれています。その趣旨は、法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるようにすることにありました。要するに、合格率が低いようでは、受験勉強に専念してしまうからよくない、ということですね。
(司法制度改革審議会意見書より引用。太字強調は筆者。)
「点」のみによる選抜ではなく「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備するという趣旨からすれば、法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるような仕組みとすることが肝要である。このような観点から、法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が後述する新司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきである。厳格な成績評価及び修了認定については、それらの実効性を担保する仕組みを具体的に講じるべきである。
(引用終わり)
(規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定) より引用。太字強調は筆者。)
法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が新司法試験に合格できるよう努める。
(引用終わり)
ポイントは2つあります。1つは、「司法試験委員会が、修了生の7~8割を受からせる。」のではなく、「法科大学院が、修了生の7~8割が合格するような教育を行うべきだ。」というにとどまるということです。つまり、法科大学院は修了生の7~8割が受かるように教育すべきではあるが、合否を決めるのは司法試験委員会なので、必ず7~8割が受かるとは限らない、ということです。
(参院法務委員会平成17年03月18日議事録より引用。太字強調は筆者。)
国務大臣(南野知惠子君) 審議会の意見には、法曹となるべき資質また意欲を持つ人が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることがこれ不可欠の前提といたしていますので、その上で法科大学院では、課程を修了した人のうち相当程度…七割から八割という方たちに相当するわけですが、その方が新司法試験に合格できるように充実した教育を行うべきであるという願望がそこの中にございますので、七、八割の人をオーケーよということとはちょっと違うかなというふうに思います。
そういうふうに教育を行うべきであるとされておりますが、これは法科大学院におけます教育内容…とか教育方法に関する記述でありまして、新司法試験におきましては法科大学院の修了者の七、八割が合格することを記述したものではないということでございます。
七、八割は必ず合格しますよということじゃなく、七、八割が合格するようにみんな総力を挙げて教育に当たりましょうというようなところが一つの大きなポイントでありまして、したがって、この点、審議会意見とは矛盾するものではないと思うということが、そのように御答弁申し上げたいところでございます。
(引用終わり)
もう1つのポイントは、この「7~8割」というのは、各年の受験者合格率ではなく、修了生が受験回数制限を使い切るまでに、最終的に7~8割が合格すればよいという意味だ、ということです。したがって、「修了生7割」が達成されても、各年の受験者合格率は70%より低い数字になる。このことは、制度創設時から、意識されていたことでした。
(司法制度改革審議会第57回(平成13年4月24日)議事録より引用。太字強調は筆者。)
北村敬子委員 75%といって、落ちた人が次の年に受けて、また3回まで受けられるということになると、最後の年は50を切るんですね。今すぐには計算が出てこないんですが、これは非常に厳しい試験だなというふうな感じもするんですね。だから、75というのはごまかしの数字で、これは初年度が非常に有利なのであって、だんだん厳しくなっていくという計算になっているなというふうな感じがするんです。
(中略)
だから、75というのが一人歩きして、何か全部、毎年75%の人が合格していくなというような試験ではないんだということを、ちょっと認識しておいていただいた方がいいかなということです。
(引用終わり)
それにもかかわらず、各年の受験者合格率が70%~80%になるという趣旨の誤った報道がされ続けた時期がありました。新司法試験実施前は、「毎年7割8割が合格できるから、誰にでもチャンスがある。」などと説明し、実施後は、「合格率が70%~80%になるはずなのに、そうならないのはおかしい。」という論調だったのです。当サイトでは、かなり以前から、それが誤りであることを指摘し続けてきました(「法科大学院定員削減の意味(2)」、「平成22年度新司法試験の結果について(2)」) 。政府の公表資料でも、この点についての混乱があった時期もありました。しかし、現在では、修了生が受験回数制限を使い切るまでの最終的な合格率を「累積合格率」という用語で定義し、「7~8割」とは、この累積合格率を指す、という形で、正しく説明されています。
(「法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価」より引用。太字強調は筆者。)
法科大学院は、司法試験(法科大学院の教育内容を踏まえた新たな司法試験をいう。以下同じ。)、司法修習と連携した基幹的な高度専門教育機関として位置付けられており、多様なバックグラウンドを有する人材を広く受け入れ、密度の高い授業により、将来の法曹として必要な学識、その応用能力等を修得させることが求められている。
これについては、「司法制度改革審議会意見書-21 世紀の日本を支える司法制度-」(平成 13
年6月。以下「審議会意見」という。)において、法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきとされている。また、この内容は、「規制改革推進のための3か年計画」(平成
19 年6月 22 日閣議決定)、「規制改革推進のための3か年計画(改定)」(平成 20 年3月 25
日閣議決定)及び「規制改革推進のための3か年計画(再改定)」(平成 21 年3月 31 日閣議決定)に重点計画事項として盛り込まれている。
各年度の法科大学院修了者を母数として、法科大学院修了後5年間の受験機会を経た後の合格率(以下「累積合格率」という。)をみると、平成
17 年度修了者は 69.76%と目標の中で例示された合格率の下限にほぼ到達したが、18 年度修了者は 49.52%と目標の中で例示された合格率に達していない。
これを法科大学院別にみると、平成 17 年度修了者が目標の中で例示された合格率を達成したものは、57 校中 26 校(45.61%)、18
年度修了者では、68 校中7校(10.29%)である。
平成 17 年度修了者と 18 年度修了者との達成状況に相当な差異があるのは、17
年度修了者が既修者(注) のみであるのに対し、18 年度修了者は未修者と既修者の両方となっていることによる。
(引用終わり)
3.この「修了生7割」の目標については、「合格者数3000人の目標が撤回されたのだから、修了生7割の目標も既に撤回されたのではないか。」と思っている人もいるかもしれませんが、「修了生7割の目標」については、現在でも維持されています。
(「法曹養成制度改革の更なる推進について」平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定より引用。太字強調は筆者。)
平成27年度から平成30年度までの期間を法科大学院集中改革期間と位置付け、法科大学院の抜本的な組織見直し及び教育の質の向上を図ることにより、各法科大学院において修了者のうち相当程度(※)が司法試験に合格できるよう充実した教育が行われることを目指す。
※ 地域配置や夜間開講による教育実績等に留意しつつ、各年度の修了者に係る司法試験の累積合格率が概ね7割以上。
(引用終わり)
そして、例の「合格者数1500人の下限」というのは、この「修了生7割」の目標と、密接な関係にあります。なぜなら、現在の法科大学院の定員規模は、「合格者数1500人の下限」と「修了生7割」から逆算して算出されたものだからです。
(「法曹人口の在り方に基づく法科大学院の定員規模について」より引用。太字強調は筆者。)
累積合格率7割の達成を前提に、1,500人の合格者輩出のために必要な定員を試算すると、以下のとおりとなる。
○ 法科大学院では厳格な進級判定や修了認定が実施されており、これまでの累積修了率は85%であること。
○
予備試験合格資格による司法試験合格者は、平成26年は163名であるが、うち103名は法科大学院に在籍したことがあると推測されること。
上記2点を考慮した計算式:(1,500 - 163) ÷ 0.7 ÷ 0.85 + 103 ≒ 2,350
○ さらに、法科大学院を修了しても司法試験を受験しない者がこれまでの累積で6%存在すること。
上記3点を考慮した計算式:(1,500 - 163)÷ 0.7 ÷ 0.85 ÷ 0.94 + 103 ≒ 2,493
(引用終わり)
(衆院文部科学委員会令和1年5月8日議事録より引用。太字強調は筆者。)
柴山昌彦文部科学大臣 収容定員の上限でありますけれども、現状の定員規模である二千三百人程度を想定しておりますが、この人数は、法曹養成制度改革推進会議の決定において、司法試験合格者数において当面千五百人程度は輩出されるよう必要な取組を進めること、また、法科大学院修了のうち、累積合格率でおおむね七割程度が司法試験に合格できるように充実した教育が行われることを目指すこととされていることを踏まえ、これらの目標を達成するために必要な法科大学院の定員規模を逆算というか試算をして設定したものであります。
(引用終わり)
本来、法科大学院で充実した教育が行われる結果として「修了生7割」を達成する、という話だったはずが、それは現実には難しいので、人為的に合格者数と入学定員を固定することによって、機械的に「修了生7割」を実現しようというわけです。このことが、「合格者数1500人の下限」が、いつまで守られることになるのか、ということを考えるに当たって、重要な要素になります。
4.「修了生7割」の基準となる累積合格率。この累積合格率と、単年の合格率には、どのような関係があるのか。これは、簡単な試算が可能です。累積合格率とは、失権する前に合格する者の割合ということになりますから、単純化すれば、5年連続で不合格になった者以外の者の割合ということになる。そこで、単年の合格率をPとし、全体から5回連続で不合格になる割合を差し引いた数字を考えると、以下の算式となります。
1-(1-P)5
ここに、今年の合格率である33.6%を代入して計算すると、累積合格率は、約87.0%となります。ただし、これは予備組も含めた数字です。法科大学院修了の資格で受験した者に限ると、どうなるか。今年は、4081人の法科大学院修了生が受験して、1187人が合格なので、受験者合格率は29.0%になります。これを上記に代入すると、81.9%。法科大学院修了生に限ってみても、既に8割を超えてしまっているのです。
上記の政府の試算では累積合格率が70%になるように計算していたのに、どうしてそうなるのか。上記の試算は、入学定員数と実入学者数が等しい場合を想定しています。しかし、実際には、かなりの定員割れが生じています。以下は、法科大学院の入学定員数と実入学者数の推移です。昨年以前の年の表記は、平成の元号によります。
年度 | 入学定員 | 前年比 | 実入学者 | 前年比 |
20 | 5795 | --- | 5397 | --- |
21 | 5765 | -30 | 4844 | -553 |
22 | 4909 | -856 | 4122 | -722 |
23 | 4571 | -338 | 3620 | -502 |
24 | 4484 | -87 | 3150 | -470 |
25 | 4261 | -223 | 2698 | -452 |
26 | 3809 | -452 | 2272 | -426 |
27 | 3169 | -640 | 2201 | -71 |
28 | 2724 | -445 | 1857 | -344 |
29 | 2566 | -158 | 1704 | -153 |
30 | 2330 | -236 | 1621 | -83 |
令和元 | 2253 | -77 | 1862 | +241 |
既に平成26年の時点で、実入学者数は2300人を下回る数字になっています。ですから、上記の試算どおりに1500人を合格させ続ければ、累積合格率が7割を大きく超えていってしまうことは、当然のことなのです。累積合格率が低いのは問題ですが、高すぎるのも問題です。今度は、法曹の質の問題が問われることになるからです。そう考えると、累積合格率が高くなりすぎないように、来年は1500人も合格させないのではないか、という予測も、十分成り立ち得ます。
もっとも、直近の実入学者数をみると、241人の増加です。これまでの減少傾向から反転して、来年以降は上昇傾向になるのではないか、とも思えるところです。そうだとすれば、累積合格率が8割を超えるような状況は、一時的であるとみることもできる。そのように考えて、来年も1500人を維持するのではないか、という予測も、十分成り立ち得るでしょう。
5.この「合格者数1500人の下限」については、別の観点から、来年以降は維持されない、とする話があります。それは、「1500人の下限」についての法曹養成制度改革推進会議決定の文言にあります。
(「法曹養成制度改革の更なる推進について」(平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定)より引用。太字及び『 』による強調は筆者。)
新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、『当面』、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。
(引用終わり)
この「当面」という文言に着目すると、「当面は最低1500人受からせるけれど、それを過ぎたら1500人を割り込みますよ。」という意味に理解できます。そうなると、この「当面」が、どのくらいの期間を想定しているのか、気になるところです。かつて、政府は、この「当面」とは、平成27年7月15日から起算して5年程度である、と明言していたのでした。
(衆院法務委員会平成27年05月22日議事録より引用。太字強調は筆者。)
階猛(民主)委員 この中で、「当面、」という表現が出てきます。千五百人程度は輩出されるよう必要な取り組みを進めるということで、「当面、」という表現が出てきますけれども、この「当面、」というのは具体的にはいつからいつまでを指すのか、教えてください。
大塲亮太郎内閣官房法曹養成制度改革推進室長 検討結果の取りまとめ案における「当面、」とは、推進会議において結論が出された後に、例えば、社会的、経済的な諸事情の推移等によりますけれども、差し当たり五年程度の期間を言うのではないかと考えております。
階猛(民主)委員 五年というのは、ことしを含んで五年なのか、来年から五年なのか。ことしの合格者から始まるのかどうか、教えてください。
大塲亮太郎内閣官房法曹養成制度改革推進室長 今申し上げましたように、ことしの推進会議において結論が出された後と申しましたけれども、これは設置期限が七月十五日ということですので、近々出るわけですけれども、そこから五年という意味であります。
(引用終わり)
上記の答弁を額面どおりに受け取れば、「当面」は今年の司法試験までを意味するということになります。したがって、来年以降は、「1500人の下限」は適用されない、ということになりそうです。当サイトでも、そのような趣旨の記事を書いたことがありました(「平成30年司法試験の結果について(2)」)。おそらく、来年は上記政府答弁を根拠にして、「1500人を割り込むことは確実だ。」などという言説が、SNS等で流布されることになりそうです。明確な政府答弁があるので、急激に拡散し、信じる人が出てきても不思議ではありません。
しかし、上記政府答弁は、現在では、うやむやにされてしまっています。
(衆院法務委員会平成30年3月30日議事録より引用。太字強調は筆者。)
藤原崇(自民)委員 平成二十七年六月三十日の法曹養成制度改革推進会議決定ということで、「法曹養成制度改革の更なる推進について」ということで出されております。今、集中改革期間として進んでおるんですが、この中に、こういう文言があります。当面、これより規模が縮小するとしても、千五百人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、とどまることなく、最善を尽くし、中略して、目指すべきであると。つまり、当面はこういう方向を目指すべきである、そういうふうに書いてあるんですね。
二十七年からはもう三年近くがたってまいりました。もちろん、この当面という文言は何年後という一義的なものではないのであると思うんですが、この当面というのはどれくらいの期間を想定しているのかということについて、法務省の見解をお伺いしたいと思います。
小出邦夫法務省大臣官房司法法制部長 お答えいたします。
委員御指摘の法曹養成制度改革推進会議決定、平成二十七年六月のものでございますが、御指摘のとおり、新たに輩出される法曹の規模につきまして、当面、千五百人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、より多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきであるとされているところでございます。
今後、あるべき法曹の輩出規模が改めて示される際には、裁判事件数の推移や法曹有資格者の活動領域の拡大を含む法曹に対する社会の法的需要、また司法アクセスの改善状況を含む全国的な法曹等の供給状況といった要因のほか、輩出される法曹の質の確保の観点から、御指摘ございました、文科省において現在進められております法科大学院の集中改革の進捗状況やその結果等の事情が考慮されることになるものと考えております。
このように、あるべき法曹の輩出規模につきましては、多岐にわたる事情、要因を考慮する必要がございまして、そのためのデータ集積には一定の期間を要するというふうに考えておりまして、現時点において、この千五百人程度という政府方針の見直しを行う時期を明示するのは困難なところがございます。
ただ、推進会議決定における法科大学院の集中改革期間は平成三十年度までとされていることもありますので、これを踏まえつつ、また、あるべき法曹の輩出規模について適切な時期に的確な検討が行えるよう、改革の推進状況や改革の成果の把握も含めて、必要なデータ等の集積や、法務省が行うべき活動領域の拡大に向けた取組等を引き続きしっかり行ってまいりたいというふうに考えているところでございます。
藤原崇(自民)委員 ありがとうございます。 当面というのはどのときかというのは一義的には難しいということで、それはそうなんだろうと思います。
ただ、一つのポイントになるのは、平成三十年度までの法科大学院の集中改革期間、これの改革の結果とか成果、どこまでを見るかというのはあるんですが、そういうことを踏まえてということだと思いますので、そろそろ集中改革期間が終わるという意味では、一つの区切りが近くなってきたのかなと思っております。
その文書、更に下には、法務省は、法曹人口のあり方に関する必要なデータの集積を継続して行い、法曹の輩出規模について引き続き検証を行うこととするとあるが、これはどのような方法でこの検証を行っているのか、そして、検証結果の結論についていつの時点で出せるかどうか、そういう見通しをどう立てているのか、現在の状況についてお伺いをさせていただきたいと思います。
小出邦夫法務省大臣官房司法法制部長 お答えいたします。
法曹養成制度改革推進会議決定に関しましては、今後の法曹人口のあり方に関しまして、委員御指摘のとおり、「法務省は、文部科学省等関係機関・団体の協力を得ながら、法曹人口の在り方に関する必要なデータ集積を継続して行い、高い質を有し、かつ、国民の法的需要に十分応えることのできる法曹の輩出規模について、引き続き検証を行うこと」とされております。
法務省におきましては、現在、この推進会議決定に基づきまして、司法試験の受験者数、合格者数の推移、法科大学院志願者数の推移、また弁護士登録者数及び登録取消し者数の推移、また裁判事件数の推移、企業内弁護士数の推移等といった関連するデータの集積を行っているところでございます。
先ほど申し上げましたけれども、あるべき法曹の輩出規模につきましては、多岐にわたる事情、要因を考慮する必要がありますところ、これまでに集積されたデータのみでは不十分でございまして、また今後何らかの結論を得る時期を明示することもまた困難なところではございますが、法科大学院の集中改革期間が平成三十年までとされていますので、またその成果を踏まえ、また早く検証すべきであるという委員の御指摘も踏まえた上で、あるべき法曹の輩出規模について適切な時期に的確な検討が行えるよう、引き続き必要な取組を進めてまいりたいというふうに考えております。
(引用終わり)
「現時点において、この千五百人程度という政府方針の見直しを行う時期を明示するのは困難」だ、と言っています。そして、「今後何らかの結論を得る時期を明示することもまた困難」であると。これは、昨年の3月の話です。そして、この立場は、今年の4月の時点でも、変わっていません。
(衆院文部科学委員会平成31年04月24日議事録より引用。太字強調は筆者。)
笠浩史(未来日本)委員
要するに、二〇〇二年の、司法試験の合格者数を二〇一〇年ごろに年間三千人計画ということで閣議決定したものを、その半分まで減らして、今、千五百人程度というか、そういうふうにしているわけですよ。
しかし、そもそもが本当にどれぐらいの需要があるのか。そもそも、だって、そこの読み間違いから始まってきているわけでしょう。先ほどそれは文科大臣も認めておられた。仕方ないんです、誤ったことは。であるならば、今度、大改革をするというんだったら、同じことを繰り返すと、法科大学院なんかなくなっちゃいますよ、間違いなく。
だから、もっと真剣に、例えば、では法曹をもっとふやしていくという政策もあっていいんですよ。例えば、先ほどもありましたけれども、やはり法律をいろいろと学んだ人材がいろいろな場面で活躍をしていく機会というのは、大きなグローバル化であるとかデジタル化であるとか、さまざま本当に人材というのは必要になってくるわけだから。
だから、その辺を、やはりこれは政府としてもう一度しっかりと検討して、そして、これぐらいの人数はしっかりと確保していくんだという目標を明確に掲げていただけませんか。時間をしっかり、何というか、あした決めろとかそういうことじゃないんですけれども。そうしないと、例えば、この後質問しますけれども、法科大学院の定員をどうしていくのかというようなことも含めて、全て私はそこに影響が出てくると思うんですけれども。改めて、政務官、よろしくお願いします。
門山宏哲法務大臣政務官 当面は千五百人程度というふうにしているわけでございますけれども、やはりデータ集積を継続して行い、しっかりと必要な検討を行ってまいりたいと考えております。
(引用終わり)
今年4月の段階でも、「当面は千五百人程度」と言っている。「当面」が5年程度だとすると、今年からさらに5年程度ということになるのでしょうか。毎年のように「来年本気出す。」と言っている受験生のようです。そして、いまだにデータの集積をする段階だと言っているわけですから、方針転換の決定ができる段階にあるとは到底いえないでしょう。平成27年時点の政府の答弁は、忘れられてしまったか、上記各答弁によって撤回されたものと考えるほかはありません。以上のことから、「1500人の下限は来年には適用されない。そう明言した政府答弁がある。」という趣旨の言説は、現時点では不適切だということになります。このような言説がSNS等で流布し、拡散されても、惑わされないようにしましょう。