1.以下は、平成26年以降の職種別の受験者数の推移です。ただし、法務省の公表する資料において、「公務員」、「教職員」、「会社員」、「法律事務所事務員」、「塾教師」、「自営業」とされているカテゴリーは、まとめて「有職者」として表記し、「法科大学院以外大学院生」及び「その他」のカテゴリーは省略しています。なお、「無職」には、アルバイトを含みます。
年 | 有職者 | 法科大学院生 | 大学生 | 無職 |
平成 26 |
2936 | 1846 | 2838 | 2298 |
平成 27 |
3092 | 1710 | 2875 | 2233 |
平成 28 |
3268 | 1611 | 2881 | 2265 |
平成 29 |
3527 | 1408 | 3004 | 2353 |
平成 30 |
3834 | 1298 | 3167 | 2391 |
令和 元 |
4240 | 1265 | 3340 | 2475 |
前々回の記事(「令和元年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で、若手受験者の増加が頭打ちになっていることを確認しました。職種別の受験者数でみると、大学生が増加傾向である一方で、法科大学院生は減少傾向であることがわかります。大学生の増加と法科大学院生の減少が相殺されて、若手受験者全体でみると、微増となったようにみえたわけです。受験者の主力が法科大学院生から大学生へと移行しているというのが、現在の予備試験の顕著な傾向です。
一貫して増加傾向にあるのが、有職者です。今年は、406人の増加です。大学生の増加が173人にとどまっていることを考えると、かなり増えているという印象です。この有職者のカテゴリーには、旧司法試験時代から受験を続けているような、苦節20年、30年というタイプの人が含まれます。もっとも、そのような人は、基本的に毎年受験するので、昨年と比較する場合の増加要因とはなりません。この層が増加していることは、新たに法曹を目指して予備試験に参入する人や、司法試験で受験資格を喪失し、就職したが、諦めきれずに予備試験を受験する人が増えているという可能性を示唆します。「若者の抜け道にしか使われていない。」などと批判されがちな予備試験ですが、現在では、社会人の新規参入の方がむしろ多くなっているのです。このようなことは、数字をみればすぐわかることですが、マス・メディアはもちろん、法科大学院や予備校等でも、適切に説明されていないように思います。
無職の受験生も、基本的に増加傾向です。今年は、84人の増加となっています。受験回数制限を使い切って予備に回る人は、無職(アルバイトを含む)であることが多いでしょうから、この層の増加は、受験回数制限を使い切って予備に回る人が増えていることを示唆しています。もっとも、有職者と比較すると、増加幅は小さくなっています。平成27年にややイレギュラーな減少をみせたのは、受験回数制限が5年5回に緩和されたために、一時的に受験回数を使い切る人が減少したためでしょう。
2.では、最終合格者数でみると、どうか。以下は、直近5年の職種別の最終合格者数の推移です。
年 | 有職者 | 法科大学院生 | 大学生 | 無職 |
平成 27 |
54 | 137 | 156 | 35 |
平成 28 |
39 | 153 | 178 | 31 |
平成 29 |
50 | 107 | 214 | 66 |
平成 30 |
62 | 148 | 170 | 47 |
令和 元 |
62 | 115 | 250 | 40 |
昨年、これまで順調に合格者数を伸ばしてきた大学生が、急激に失速しました。当サイトでは、これを、論文の若年化方策の効果が薄まってきた表れではないか、と考えたのでした(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(4)」)。しかし、今年は大幅に合格者数を増加させています。このことは、論文の若年化方策が、いまだに強力に作用していることを示しているといえるでしょう。
他方で、有職者は、昨年から合格者数を増やすことができませんでしたが、過去の数字と比較すると、それなりに合格者数を伸ばしてきていることがわかります。このことをもって、若年化方策の効果が薄まりつつある微表とみる余地もないわけではないでしょう。もっとも、無職をみると、受験者数は増加傾向を維持しているのに、合格者数は平成29年をピークに、むしろ減少傾向となっています。無職は、滞留者の典型であって、若年化方策によって落としたい一番の標的です。その目的は、よく達成されているといえるでしょう。このように、まだまだ若年化方策は有効に機能しているのです。本来、専業受験生として受験勉強に集中すれば、有利になるのが当たり前です。それが、見事に逆の結果となっている。敵ながらあっぱれというほかはありません。
3.短答合格率をみてみましょう。以下は、今年の職種別の短答合格率(受験者ベース)です。
職種 | 受験者数 | 短答 合格者数 |
短答 合格率 |
有職者 | 4240 | 924 | 21.7% |
法科大学院生 | 1265 | 287 | 22.6% |
大学生 | 3340 | 701 | 20.9% |
無職 | 2475 | 658 | 26.5% |
短答は、勉強時間が長く確保できれば、受かりやすくなる。無職は、多くの場合、専業受験生です。したがって、最も多く勉強時間を確保できる。それが、短答合格率に反映されています。また、法科大学院生も、最近では早い段階から短答対策の勉強をしているので、合格率は高くなっています(※1)。他方、勉強時間が最も少ないのは、大学生です。大学生は、短答では最も苦戦しているのです。このことは、若年化方策をとることなく、知識で勝負がつく試験にした場合、専業受験生の無職が合格し、大学生は受からない試験になってしまうことを意味しています。
※1 この傾向は、平成24年から生じたものです(「平成24年司法試験予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)。平成23年は、法科大学院生の短答合格率は16.6%に過ぎませんでした(「平成23年司法試験予備試験口述試験(最終)結果について」)。
4.では、論文になると、どうなるか。以下は、今年の職種別の論文合格率(短答合格者ベース)です。
職種 | 短答 合格者数 |
論文 合格者数 |
論文 合格率 |
有職者 | 924 | 64 | 6.9% |
法科大学院生 | 287 | 118 | 41.1% |
大学生 | 701 | 255 | 36.3% |
無職 | 658 | 48 | 7.2% |
有職者と無職を落とし、法科大学院生と大学生を受からせることに成功しています。これが、若年化方策の効果です。ロー生や大学生は、特に対策を考えなくても、普通の感覚で受ければ、論文はクリアできます。ところが、社会人や無職の専業受験生は、知識・理解が過剰になっているので、普通に受けると極端に受かりにくい。当サイトで繰り返し指摘している、「論文に受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則です。そのような人は、まず、勉強の範囲を規範部分に絞ることが必要です。その上で、当てはめに入る前に規範を明示する、事実は問題文から忠実に引用する、というスタイルを守った答案を書けるようにする。そのためには、一定の文字数が必要になりますから、速く書く訓練をし、試験時間中に書き切れるだけの筆力を身に付ける。やろうと思えば、訓練次第で十分可能なことなのですが、これを実行できる人は、少ないのが現実です。障害になるのは、心理面の抵抗です。上記のような割り切った書き方は、今まで自分がやってきたこだわりと衝突する。「趣旨・本質に遡るんだ。いきなり規範なんて書きたくない。」、「自分は○○先生の連載を読んで、○○先生の考え方が正しいことを理解している。だから、その考え方で書きたい。」、「今まで勉強してきた深い理解を答案に表現したい。規範と事実だけを書くなんて我慢できない。」、「判例の規範は、実は間違っているんだ。そんな間違った規範は使いたくない。」、「問題文の事実をそのまま引くなんてバカみたいだ。そんなものは省略して、自分の言葉で事実の評価を書きたい。」、「コンパクトな答案の方が切れ味があると思う。自分は規範や事実を書き写すようなバカっぽい答案は書きたくない。」、「速く字を書く訓練なんて法の知識、理解と何の関係もなくてバカバカしいからやりたくない。」。このようなことは、長期間勉強した受験生なら、誰しも思うことです。これを捨てることは、今までの数年間(場合によっては数十年間)は何だったのか、ということになる。この未練が、とても大きな障害になってしまうのです。これを乗り越えることが、何より重要です。
さて、上記の若年化方策の効果が薄まっているのではないか、というのが、近年の1つのテーマでした。以下は平成28年と昨年、今年の職種別の論文合格率(短答合格者ベース)の比較表です。
職種 | 平成28年 | 平成30年 | 令和元年 |
有職者 | 5.6% | 7.7% | 6.9% |
法科大学院生 | 40.9% | 44.5% | 41.1% |
大学生 | 32.2% | 28.2% | 36.3% |
無職 | 5.8% | 7.4% | 7.2% |
全体 | 17.6% | 17.2% | 18.3% |
全体の論文合格率でみると、それほど大きな違いはありません。しかし、職種別で見ると、昨年は、大学生の合格率が大きく下落しています。今年は、法科大学院生の合格率が下がっている。一方で、有職者や無職の合格率は、平成28年よりもやや高い数字です。昨年は大学生の下落分を、今年は法科大学院生の下落分を、有職者と無職が奪い取っているという構図で捉えることもできるでしょう。これらの数字をみると、若年化方策の効果が、わずかながら薄まっているのではないか、と感じさせます。とはいえ、大学生・法科大学院生と、有職者・無職の合格率の差はいまだ歴然としています。今年は、大学生が一気に合格率を伸ばし、平成28年より大幅に高い合格率になっています。繰り返し説明しているとおり、若年化方策は、その効果が薄まっているとも感じさせる数字が部分的にみられるようになったとはいえ、いまだ強力に作用しているのです。