平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(4)

1 以下は、直近5年の職種別の受験者数の推移です。ただし、法務省の公表する資料において、「公務員」、「教職員」、「会社員」、「法律事務所事務員」、「塾教師」、「自営業」とされているカテゴリーは、まとめて「有職者」として表記し、「法科大学院以外大学院生」及び「その他」のカテゴリーは省略しています。なお、「無職」には、アルバイトを含みます。


(平成)
有職者 法科大学院生 大学生 無職
26 2936 1846 2838 2298
27 3092 1710 2875 2233
28 3268 1611 2881 2265
29 3527 1408 3004 2353
30 3834 1298 3167 2391

 前々回の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で、20代前半は増加に転じ、20代後半は減少を継続していることを確認しました。職種別の受験者数でみると、概ね前者が大学生の増加に、後者が法科大学院生の減少に対応していることがわかります。直近5年では、大学生の増加、法科大学院生の減少という傾向になっています。
 一貫して増加傾向にあるのが、有職者です。今年は、307人の増加です。この有職者のカテゴリーには、旧司法試験時代から受験を続けているような、苦節20年、30年というタイプの人が含まれます。もっとも、そのような人は、基本的に毎年受験するので、昨年と比較する場合の増加要因とはなりません。この層が増加していることは、新たに法曹を目指して予備試験に参入する人や、司法試験で受験資格を喪失し、就職したが、諦めきれずに予備試験を受験する人が増えているという可能性を示唆します。
 無職の受験生も、基本的に増加傾向です。今年は、38人の増加となっています。受験回数制限を使い切って予備に回る人は、無職(アルバイトを含む)であることが多いでしょうから、この層の増加は、受験回数制限を使い切って予備に回る人が増えていることを示唆しています。もっとも、有職者と比較すると、増加幅は小さくなっています。平成27年にややイレギュラーな減少をみせたのは、受験回数制限が5年5回に緩和されたために、一時的に受験回数を使い切る人が減少したためでしょう。

2 では、最終合格者数でみると、どうか。以下は、直近5年の職種別の最終合格者数の推移です。


(平成)
有職者 法科大学院生 大学生 無職
26 38 165 114 34
27 54 137 156 35
28 39 153 178 31
29 50 107 214 66
30 62 148 170 47

 一貫して増加傾向にあった大学生が、今年は急激に失速しています。一方で、法科大学院生は、大幅に合格者が増加している。もっとも、以前の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(1)」)でも説明したとおり、法科大学院生の合格者数の増加は、イレギュラーな結果とみるべきでしょう。これに対し、大学生の合格者数の減少は、以前の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」、「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)で説明した論文の若年化方策の効果が薄まってきていることの表れとみることができます。
 同様に、有職者の合格者数の増加も、論文の若年化方策の効果が薄まってきていることを示すものといえるでしょう。他方、無職の合格者数は減少していますが、平成28年以前よりは増えています。昨年の増加がやや大きすぎただけで、緩やかな増加基調は続いているとみる余地もあるでしょう。とはいえ、絶対数としては圧倒的に大学生・法科大学院生が強いことには変わりがありません。若年化方策の効果はわずかに薄まったとはいえ、いまだに強力に作用しているのです。

3 短答合格率をみてみましょう。以下は、今年の職種別の短答合格率(受験者ベース)です。

職種 受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
有職者 3834 905 23.6%
法科大学院生 1298 348 26.8%
大学生 3167 631 19.9%
無職 2391 668 27.9%

 短答は、勉強時間が長く確保できれば、受かりやすくなる。無職は、多くの場合、専業受験生です。したがって、最も多く勉強時間を確保できる。それが、短答合格率に反映されています。また、法科大学院生も、最近では早い段階から短答対策の勉強をしているので、合格率は高くなっています(※1)。他方、勉強時間が最も少ないのは、大学生です。大学生は、短答では最も苦戦しているのです。このことは、若年化方策をとることなく、知識で勝負がつく試験にした場合、専業受験生の無職が合格し、大学生は受からない試験になってしまうことを意味しています。
 ※1 この傾向は、平成24年から生じたものです(「平成24年司法試験予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)。平成23年は、法科大学院生の短答合格率は16.6%に過ぎませんでした(「平成23年司法試験予備試験口述試験(最終)結果について」)。

4 では、論文になると、どうなるか。以下は、今年の職種別の論文合格率(短答合格者ベース)です。

職種 短答
合格者数
論文
合格者数
論文
合格率
有職者 905 70 7.7%
法科大学院生 348 155 44.5%
大学生 631 178 28.2%
無職 668 50 7.4%

 年配者の多い無職や有職者を落とし、ロー生と大学生を受からせることに成功しています。これが、若年化方策の効果です。ロー生や大学生は、特に対策を考えなくても、普通の感覚で受ければ、論文はクリアできます。ところが、社会人や無職の専業受験生は、知識・理解が過剰になっているので、普通に受けると極端に受かりにくい。当サイトで繰り返し指摘している、「論文に受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則です。そのような人は、まず、勉強の範囲を規範部分に絞ることが必要です。その上で、当てはめに入る前に規範を明示する、事実は問題文から忠実に引用する、というスタイルを守った答案を書けるようにする。そのためには、一定の文字数が必要になりますから、速く書く訓練をし、試験時間中に書き切れるだけの筆力を身に付ける。やろうと思えば、訓練次第で十分可能なことなのですが、これを実行できる人は、少ないのが現実です。障害になるのは、心理面の抵抗です。上記のような割り切った書き方は、今まで自分がやってきたこだわりと衝突する。「趣旨・本質に遡るんだ。いきなり規範なんて書きたくない。」、「自分は○○先生の連載を読んで、○○先生の考え方が正しいことを理解している。だから、その考え方で書きたい。」、「今まで勉強してきた深い理解を答案に表現したい。規範と事実だけを書くなんて我慢できない。」、「判例の規範は、実は間違っているんだ。そんな間違った規範は使いたくない。」、「問題文の事実をそのまま引くなんてバカみたいだ。そんなものは省略して、自分の言葉で事実の評価を書きたい。」、「コンパクトな答案の方が切れ味があると思う。自分は規範や事実を書き写すようなバカっぽい答案は書きたくない。」、「速く字を書く訓練なんて法の知識、理解と何の関係もなくてバカバカしいからやりたくない。」。このようなことは、長期間勉強した受験生なら、誰しも思うことです。これを捨てることは、今までの数年間(場合によっては数十年間)は何だったのか、ということになる。この未練が、とても大きな障害になってしまうのです。これを乗り越えることが、何より重要です。
 上記の「論文に受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則は、意識して訓練すれば、ある程度は克服可能です。そのことを、若年化方策の効果が薄まりつつあることが示している。以下は、職種別の論文合格率(短答合格者ベース)の一昨年(平成28年)と今年の比較表です。

職種 一昨年
(平成28年)
今年 両者の差
有職者 5.6% 7.7% +2.1%
法科大学院生 40.9% 44.5% +3.6%
大学生 32.2% 28.2% -4.0%
無職 5.8% 7.4% +1.6%
全体 17.6% 17.2% -0.4%

 全体の論文合格率でみると、平成28年と今年はほぼ同じです。しかし、職種別でみると、大学生が大幅に合格率を下げ、他の職種はすべて合格率を上昇させています(※2)。若年化方策の効果が、わずかながら薄まっていることが、ここでも確認できます。若年化方策の仕組みを理解し、これに対応した努力をすれば、「論文に受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則を克服できるそれが、この数字に表れているといえるでしょう。とはいえ、大学生・法科大学院生と、有職者・無職の合格率の差は歴然としています。繰り返し説明しているとおり、若年化方策の効果は、薄まっているとはいえ、いまだ強力に作用しているのです。
 ※2 法科大学院生の上昇幅の大きさが際立っていますが、以前の記事(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(1)」)で説明したとおり、これにはややイレギュラーな要素もあるとみるべきでしょう。短答合格率は例年並みでしたから、今年のイレギュラーな法科大学院生の躍進は、論文段階で生じていたといえます。

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