1.4月8日に公式発表された司法試験・予備試験の延期。これについては、事務方が事前の調整を経て延期を決定したというよりは、政治的要因によって見切り発車的に決定された可能性の方が高そうです。
(衆院議院運営委員会令2・4・7より引用。太字強調は筆者。)
遠藤敬(維新)委員 総理に四点、時間がありませんので、恐縮ではございますけれども、続けてお伺いをしたいと思います。
不要不急の定義についてお伺いをいたします。
どこまでが不要不急なのかわからないという声が多く寄せられております。大阪府の吉村知事は、今後、不要不急の言葉を余り使わずに、入院や食料品等の購入、通勤等、生活維持に必要な外出以外はやめてくださいと話しています。不要不急の線引き、受けとめは人や業種によって異なりますが、不要不急の意味を国民にわかりやすく総理から御説明をいただきたいと思います。
そして、もう続けていきます。
次に、この期に及んで、五月には、全国に司法試験の本試験及び予備試験が予定されています。また、一会場数千人規模の、複数日にわたり密集する。クラスター阻止のための延期は不可欠と考えますが、いかがでしょうか。
(以下略)
安倍晋三内閣総理大臣 まず、この不要不急の意味でありますが、例えば仮にその活動をきょうやめたとしても何とかほかにやり方があるかもしれないというものについては、自粛をしていただきたいということになります。
そこで、例えば司法試験についてでありますが、本年の司法試験及び司法試験予備試験の実施については、現在、実施主体である司法試験委員会において、新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて検討中というふうに聞いております。
(以下略)
(引用終わり)
不要不急の例として、「例えば司法試験」と名指しされています。もちろん、司法試験について質問があったので、それに答えたまでといえばそうでしょう。しかし、不要不急の定義に関する質問と、司法試験・予備試験の実施に関する質問は別個のものとしてなされているわけですから、それらについて個別に答えれば足りるところです。例えば、次のように答弁すればよかったはずなのです。
【答弁の例】
まず、この不要不急の意味でありますが、例えば仮にその活動をきょうやめたとしても何とかほかにやり方があるかもしれないというものについては、自粛をしていただきたいということになります。
それから、司法試験及び司法試験予備試験の実施に関する御質問を頂きました。本年の司法試験及び司法試験予備試験の実施については、現在、実施主体である司法試験委員会において、新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて検討中というふうに聞いております。
(以下略)
答弁するに当たり、不要不急の具体例として、わざわざ司法試験を位置付ける必要はない。これは、敢えてそうしているとみるべきところです。内閣総理大臣が直接に延期を明言することは、司法試験委員会の独立性との関係で問題となりますから、このような遠回しな表現となったとみえるわけですね。「仮にその活動をきょうやめたとしても何とかほかにやり方があるかもしれないというものは自粛しろ、例えば司法試験だ。今の日程での実施をやめたとしても何とかほかにやり方があるかもしれないだろう。そういうのは自粛しろや。」というメッセージとして、司法試験委員会としては受け止めたことでしょう。
また、延期の発表がなされた後、森まさこ法相は、わざわざTwitterにこれを投稿しています。
(森まさこTwitter2020年4月9日11:21投稿記事を引用)
#新型コロナウイルス の感染拡大状況を踏まえ、#司法試験、#予備試験
を延期することとしました。これまで一生懸命勉強をして準備されてこられたと思いますが、受験生をはじめ国民の命と健康を守るためです。どうかご理解ください。
実施時期は決まり次第法務省HPで公開します
(引用終わり)
森法相の4月9日のその他のツイートは、大阪拘置所の職員に対する防護服の着脱方法等の教育のため陸上自衛官5名の派遣を受けたことを報告し、自衛隊に対する感謝の意を表するもの、その件について河野防衛大臣及び自衛隊に改めて感謝の意を伝えるもの、安倍総理の緊急事態宣言後の記者会見全文を紹介するもの、その翌日の安倍総理の記者会見を紹介するもの、の4つだけです。これらと比較するとわかりますが、司法試験・予備試験の延期というのは、本来は事務的な内容です。それを、わざわざTwitterに投稿している。しかも、その文面は、司法試験委員会が延期を決定した旨を報告する、というのではなく、森法相が「延期することとしました。」というものです。政治判断によって延期が決定され、それが積極的にアピールされている、と感じさせます。その背景には、司法試験・予備試験の実施について、これを問題視する世論や、一部の積極的なロビイングがあったのでしょう。
2.このように、今回の延期が、事務的な段取りがほとんどない中で、見切り発車的に決まったことだとすると、容易には日程は決まらないでしょうし、日程の公表のタイミングも、受験生の立場に十分な配慮を払ってなされない可能性が高いといえるでしょう。以前の記事(「令和2年司法試験・予備試験の実施延期に関する注意点」)でも説明したとおり、受験生としては、その心の準備をしておく必要がありそうです。
3.もっとも、「早く日程決めてくれよ。」という落ち着かなさを別にすれば、学習計画において特に困ることはない、というのが、当サイトの立場です。これまでどおり、習慣になっている学習を続けていけばよい。司法試験に関していえば、「無心になって論文を書いていると、気持ちが落ち着いてくるよね。」という境地。これが合格レベルの証です。いつも同じように、自然と頭と手が動いて、気が付いたら合格答案が完成している。車の運転やゲーム、スポーツなどでもそうでしょうし、楽器の演奏や編み物、料理や化粧などもそうでしょう。手慣れてくると、ほとんど自然に行動でき、無心でそうやっていると、何となく心地よい。その境地に達してしまえば、その期間が多少長くなっても、特に苦にはならないものです。逆に、そうなっていないということは、まだ足りていない。そうであるなら、延期はかえって好都合でしょう。その境地に達するまで、毎日やるしかない。そういうことなのだろうと思います。予備試験については、初受験など短答に自信がない人は、従来どおり短答のインプットを続ければよく、これはインプットの時間が増えてよかったという話でしょう。他方、短答に自信のある人は、以前の記事(「令和2年司法試験・予備試験の実施延期に関する注意点」)でも説明したとおり、先行して論文の学習を開始することを考慮すべきでしょう。予備段階で上記の境地に達するのは難しいかもしれませんが、虚心坦懐に論文を書きまくる作業は、いずれにしても必要になることです。
このように、司法試験・予備試験については、ある特定の日にピークをもっていくというのではなく、「いつ受けても合格答案は書けますよ。」というフラットな状況になる人の方が受かりやすい。これが、これまでの経験則を踏まえた当サイトの立場です。アスリートに妥当するようなピーク・パフォーマンス論は、司法試験には妥当しない。そんなわけで、当サイトは、「延期の日程がわからない現時点でどの辺りにピークをもっていくべきか。」式の議論は、そもそも前提が適切でないと考えているのです。