公表された試験当日の対応策に関する留意点

1.法務省(司法試験委員会)より、試験当日の対応が公表されました(「令和2年司法試験及び司法試験予備試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染防止対策について」、「令和2年司法試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染を防止するための対策について」、「令和2年司法試験予備試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染を防止するための対策について」)。そのほとんどは事前に予想されたとおりのものですが、これまでに当サイトで説明してきた内容のおさらいも含めて、みていきたいと思います。

2.試験当日はマスクを着用する必要がある旨が示されました。

 

(「令和2年司法試験及び司法試験予備試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染防止対策について」より引用。太字強調は筆者。)

1 マスクの着用等について

 試験当日は,感染防止のため,マスクの着用をお願いします。また,飛沫飛散防止のため,休憩時間や昼食時も含めて試験場内での私語は慎んでください。
 試験場に手指消毒用のアルコール液を設置しますので,適宜使用してください。 

 (引用終わり)

 

 文言上は、「お願いします。」となっていますが、これは義務であると考えておくべきです。試験当日、マスクをせずに会場に行って、「『お願い』だから任意ですよね?」などと主張しても、通らないでしょう。執拗な説得を受けた上、それでも従わない場合には、監督員の指示に従わなかったということで、受験させない措置がとられることになるでしょう。

 

(「令和2年司法試験受験案内」、「令和2年司法試験予備試験受験案内」より引用。太字強調は筆者。)

 不正の手段によって試験を受け,若しくは受けようとした場合又は法若しくは司法試験法施行規則(以下「施行規則」という。)第5条(受験者が守るべき事項等)に違反した場合は法第10条に基づき処分されることがあります

(引用終わり)

(司法試験法施行規則5条。太字強調は筆者。)
 司法試験の受験者は、司法試験の実施に関し、司法試験委員会の指示に従わなければならない
2 予備試験の受験者は、予備試験の実施に関し、司法試験委員会の指示に従わなければならない
3 司法試験又は予備試験の受験者は、いずれかの科目について、当該科目の試験が開始されるまでに指定された試験室に入室せず、又は当該科目の試験の開始から終了までの間において司法試験委員会の指示に反して当該試験室から退室したときは、当該科目の試験及びその余の科目の試験を受けることができない。

(司法試験法10条。太字強調は筆者。)
 司法試験委員会は、不正の手段によつて司法試験若しくは予備試験を受け、若しくは受けようとした者又はこの法律若しくはこの法律に基づく法務省令に違反した者に対しては、その試験を受けることを禁止し、合格の決定を取り消し、又は情状により五年以内の期間を定めて司法試験若しくは予備試験を受けることができないものとすることができる

 

 マスクについては、以前にも、当サイトにおいて、いくつかの注意点を説明していました。

 

(「8月受験に関する若干の留意点」より引用)

 受験会場では、マスクの着用を要請される可能性が高そうです。まず、最低限のマスクの準備が必要でしょう。
 また、普段、マスクを付けたまま問題を解くという経験は、あまりしていないでしょう。試験当日になって実際にやってみると、想像以上に息苦しく感じるかもしれません。メガネをしている場合、曇りが生じることもある。それがストレスになって、普段の力が出せなかった、というのは、避けたいものです。事前に、マスクを着用した状態で問題を解いてみるなどして、慣れておくのがよさそうです。マスクの調達に余裕があり、様々な種類のものを試せるのであれば、通気性やフィット感等を確認して、試験当日の着用に最適と思われるものを選んで、準備できるとよいかもしれません。

(引用終わり)

(「試験中の飲料について」より引用)

 今年は、マスク着用で受験することになる可能性が高いでしょう。試験中は緊張していて、解答に集中しているので、飲む動作が無意識的になりがちです。マスクをした状態で不用意に飲もうとすると、予想外にうまく飲めずにこぼしてしまったり、マスクを汚してしまうかもしれません。マスクをした状態でペットボトルの飲料を最小限の時間でスムーズに飲む方法(片手でマスクの片側を素早く外し、他方の手でペットボトルを持ち、一口飲んで素早く元に戻すとか、マスクを少し上にずらして下からペットボトルの口を滑り込ませて飲むなど)を確認しておくとよさそうです。

(引用終わり)

 

 最近では、マスクの入手は以前ほど難しくなくなってきています。試験当日は、複数枚のマスクを準備していくとよいでしょう。予備のマスクがあれば、着脱の際にヒモが切れてしまったり、飲食の際に汚してしまったりした場合に、ストレスなく取り替えることができます。
 なお、フェイスシールドについては、使用自体はできますが、それがマスクの代用になるとはされていません。ですので、フェイスシールドを付ければマスクをしなくてよい、というわけではなさそうです。

 

(「令和2年司法試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染を防止するための対策について」、「令和2年司法試験予備試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染を防止するための対策について」より引用。太字強調は筆者。)

 試験当日フェイスシールド(透明で顔全体の表情等が試験監督員等から確認できるものに限る。),手袋(透明で音が出ないものに限る。),消毒液(アルコール除菌シート含む。)及びウェットティッシュについては,使用して差し支えありませんので,使用する場合には,試験開始時刻までにフェイスシールド及び手袋は着用し,消毒液・ウェットティッシュについては机上に置いてください。

(引用終わり)

 

 また、口元だけをカバーするプラスチック製のマウスシールドのようなマスク代用品も市販されていますが、それでは受験できない可能性が高いでしょう。当日になって受験できないと言われても困りますから、いずれにしてもマスクの準備は必須だろうと思います。

3.試験室の換気について、試験時間中も含めて行う旨が示されました。

 

(「令和2年司法試験及び司法試験予備試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染防止対策について」より引用。太字強調は筆者。)

2 試験室等の換気について

 試験室等は,換気のため,試験時間中も含めてドア等を開放することがありますので御承知おきください。

(引用終わり)

 

 試験中の換気についても、当サイトでは、既に説明をしています。

 

(「8月受験に関する若干の留意点」より引用)

 これは今年に限ったことではありませんが、試験会場や座席の位置によって、空調の当たり外れがあります。エアコンの風が直撃して寒くてたまらんという場合もあれば、会場の方針で節電しているのか、エアコンの調子が悪いのか、クソ暑くてたまらんという場合もある。そのような場合に備えて、上着や膝掛けなど、着脱可能な衣類で調節できるようにしておく必要があります。

 

(「令和2年司法試験に関するQ&A」より引用)

Q52 空調等により寒い(暑い)と感じた場合,席を変えてもらうことはできますか?
A  席を変えることはできません。体感温度は個人差がありますので各自衣服の着脱により調整してください。

Q53 座布団を使用することはできますか?また,防寒のため,膝掛け,ストール,マフラー等を使用することはできますか?
A  座布団,膝掛け,ストール,マフラー等を使用して差し支えありません。
   ただし,試験監督員が試験実施上問題(不正行為の疑い等)があると判断した場合は使用を取りやめていただくことがありますので,その際は,速やかに指示に従ってください。

 (引用終わり)

(「令和2年司法試験予備試験に関するQ&A」より引用)

Q41 空調等により寒い(暑い)と感じた場合,席を変えてもらうことはできますか?
A       席を変えることはできません。体感温度は個人差がありますので各自衣服の着脱により調整してください。

Q42 座布団,膝掛け,ストール,マフラー等を使用することはできますか?
A       座布団,膝掛け,ストール,マフラー等を使用して差し支えありません。ただし,試験監督員が試験実施上問題(不正行為の疑い等)があると判断した場合は使用を取りやめていただくことがありますので,その際は,速やかに指示に従ってください。

(引用終わり)

 

 今年は、これに加えて、さらに条件が悪くなります。まず、8月といえば真夏ですから、試験当日は気温がかなり高いことが予想されます。試験会場の空調の状態や座席の位置による温度差は、より大きくなりやすいでしょう。しかも、今年に関しては、感染防止のため、監督員が頻繁に換気をしようとする可能性があります。換気のために窓を開けたりすれば、熱風が入ってくる。当然、室内の温度は急上昇するでしょう。そして、換気が終わると、今度は冷房が効いてきて、急に寒くなる。これが、試験中に繰り返される可能性があるのです。これは、本当にそうなったとすれば、かなり過酷な環境ではないかと感じます。いつも以上に、柔軟な調節ができるように、当日の服装等には気を付ける必要がありそうです。
 また、試験中の換気によって風が吹いてきて、答案用紙、受験票等が飛ばされそうになる、という面倒な事態も想像できます。飛ばされないように筆箱や定規などを重しにすればよさそうですが、そのようなわけにはいきません。試験中は、机上に出せるものが限られているからです。  

 

 (「令和2年司法試験に関するQ&A」より引用)

 Q56 定規,付箋,カッターナイフ,指サック,筆記用具入れ等を使用することはできますか?
A  定規,付箋,カッターナイフ,指サック,筆記用具入れ等は使用できません。試験時間中は,受験票,時計(ストップウォッチを含む),鉛筆,消しゴム,ボールペン,万年筆,ラインマーカー,色ペン,色鉛筆,シャープペンシル,鉛筆削り以外の試験に必要のないものは,全てかばんの中にしまってください。机の中には何も入れないでください。ただし,受験特別措置の申出により,司法試験委員会から認められたものは使用することができます。

Q58 試験時間中にハンカチ,ティッシュペーパーは使用できますか?
A  ハンカチ,ティッシュペーパーを使用して差し支えありません。ただし,あらかじめ机上に置いておき,試験時間中にかばんの中から出したりしないでください。ポケットティッシュのケース(元々のビニール以外)は外してください。また,ボックスティッシュ等の大きなものは机上に置くことはできません。

 (引用終わり)

 (「令和2年司法試験予備試験に関するQ&A」より引用)

 Q47 鉛筆のキャップ,定規,付箋,カッターナイフ,指サック,筆記用具入れ等を使用することはできますか?
A      鉛筆のキャップ,定規,付箋,カッターナイフ,指サック,筆記用具入れ等は使用できません。試験時間中は,受験票,受験番号シール(バーコード),時計(ストップウォッチを含む),鉛筆,消しゴム,ボールペン,万年筆,ラインマーカー,色ペン,色鉛筆,シャープペンシル以外の試験に必要のないものは,全てかばんの中にしまってください。また,机の中には何も入れないでください。ただし,受験特別措置の申出により,司法試験委員会から認められたものは使用することができます。

Q49 試験時間中にハンカチ,ティッシュペーパーは使用できますか?  
A  ハンカチ,ティッシュペーパーを使用して差し支えありません。ただし,あらかじめ机上に置いておき,試験時間中にかばんの中から出したりしないでください。ポケットティッシュのケース(元々のビニール以外)は外してください。また,ボックスティッシュ等の大きなものは机上に置くことはできません。

 (引用終わり)

 

 例えば、時計を重し代わりにするとか、ボールペンや消しゴムを少し多めに準備して、受験票の上に並べて置いて飛ばされないようにする、などの対策は考えられるかもしれません。事前に頭の中でシミュレーションをして心の準備をしておけば、当日にそのようなことになっても、ストレスが少ないでしょう。

(引用終わり) 

(「試験中の飲料について」より引用)

 今年に関していえば、8月受験ということになるので、例年より暑さが格段に厳しいという点は考慮しておくべきでしょう。また、感染防止のため、窓を開けて換気をすることによって、試験室内の温度が高くなる可能性もあります。試験中に熱中症で倒れるなどということは、絶対に避けなければなりません。普段は試験中に飲み物を飲まない人でも、今年に関しては、念のために水分補給用の飲料を十分に準備しておいた方がよさそうです。

(引用終わり)

 

 その他の影響としては、ドアを開放することによって、外の騒音が聴こえやすくなる、ということもあるでしょう。時期的に、付近でイベント等があると、騒音が想像以上にひどいかもしれません。事前に、心の準備をしておきましょう。

4.試験場の入口で検温をする旨が示されました。

 

(「令和2年司法試験及び司法試験予備試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染防止対策について」より引用。太字強調は筆者。)

3 試験場への集合等について

 試験場入口にサーモグラフィを設置するなど,体温測定を実施する予定ですので,時間に余裕を持って試験場に到着するようにしてください。なお,試験場への移動に際しても,公共交通機関及び試験場周辺等において多人数が密集する状態を避けるよう配慮してください。

(引用終わり)

 

 例年、試験開始時間の直前に来る受験生が相当数いますが、今年に関しては、検温している間に試験開始時間を過ぎてしまい、受験できなかった、ということになりかねませんので、注意しましょう。

 

(「令和2年司法試験に関するQ&A」より引用)

Q13 試験開始後に遅れて試験室に入室することはできますか?
A  試験開始時刻までに試験室に入室していない場合は,当該科目及びその他の科目について,受験できません。

(引用終わり)

 (「令和2年司法試験予備試験に関するQ&A」より引用)

Q16 試験開始後に遅れて試験室に入室することはできますか?
A    試験開始時刻までに試験室に入室しない場合は,当該科目及びその他の科目について,受験できません。

(引用終わり)

 

 特に、試験室のある階までをエレベーターで移動するような試験会場の場合、エレベーターに乗る人数も制限される可能性があり、そのために、エレベーター前に長蛇の列ができてなかなか乗れない、ということも考えられます。東京のTOCなどは、そのおそれのある試験会場といえるでしょう。事前の下見等でそのような会場であるかどうかを把握しておき、当日のスケジュールを考える際には考慮に入れておくべきでしょう。

5.発熱や咳等の症状により受験できない場合がある旨、その際に追試験や受験料返還等の特別措置は予定していない旨が示されました。

 

(「令和2年司法試験及び司法試験予備試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染防止対策について」より引用。太字強調は筆者。)

4 体調不良の場合

(1)新型コロナウイルス感染症等(学校保健安全法施行規則第十八条で定める感染症をいう。(2)において同じ。)に罹患し,他の受験者等への感染のおそれがある場合(同規則第十九条で定める基準による出席停止の期間を経過していない場合)は,受験できません

(2)発熱や咳等の症状などから新型コロナウイルス感染症等の罹患が疑われる場合は,他の受験者等への影響を考慮し,受験を控えていただくようお願いします(試験場に来られても,受験を認めないことがあります。)。なお,(1)(2)いずれの場合についても,受験しなかった場合の追試験や受験料返還等の特別措置は予定していません

(引用終わり)

 

 前記4で触れた検温の際に発熱が確認されれば、その場で受験できないという判断がされる可能性が高いでしょう。

 

(「令和2年司法試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染を防止するための対策について」、「令和2年司法試験予備試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染を防止するための対策について」より引用。太字強調は筆者。)

 同委員会決定4(2)記載の新型コロナウイルス感染症等の罹患が疑われるとして受験を認めない場合としては,サーモグラフィ等による検温を踏まえた体調等の確認により,新型コロナウイルス感染症に係る濃厚接触者として健康観察期間中の者や試験実施日前14日以内に海外から帰国・入国した者と認められる場合などがありますので,御留意ください。

(引用終わり)

 

 その対策として、試験当日に解熱剤を飲んで行こうと考える人もいるかもしれませんが、それは極めて強い社会的な非難の対象となる行為です。今年で5年目になる受験生の場合、受験できなければそのまま受験資格を失ってしまうことになりますが、特別措置の予定がないということですから、今のところ、その救済の予定もないということになるでしょう。
 また、試験室内で何度も咳き込んだりしていると、罹患を疑われて受験を中止させられるおそれがあります。飲料を飲む際にムセてしまったりした場合、そのような誤解を生じさせかねません。受験の中止ということまではいかなくても、監督員から声をかけられ、一々説明させられる等してストレスになる可能性があります。今年は、いつも以上にムセないように注意して飲むようにすべきでしょう。

6.試験室内の座席については、例年より間隔を広げる配置とする旨が示されました。

 

(「令和2年司法試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染を防止するための対策について」、「令和2年司法試験予備試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染を防止するための対策について」より引用。太字強調は筆者。)

〇  配席(試験室の席)について
   試験室の配席については,他の受験者との距離が十分確保できる配席としています。

(引用終わり)

 

 すぐ隣に受験生がいないと、机や座席を広く使えますから、荷物等を置きやすくなりますし、試験中のペットボトルの配置も楽になります。隣の受験生の動作でストレスを感じるということも、少なくなるでしょう。この点だけは、例年よりもよいところといえそうです。

7.試験終了後の退室時間を調整する旨が示されました。

 

(「令和2年司法試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染を防止するための対策について」、「令和2年司法試験予備試験に係る新型コロナウイルス感染症等の感染を防止するための対策について」より引用。太字強調は筆者。)

〇  試験終了後の退室について
   試験終了後の密集を避けるため,各試験室ごとに退室時間を調整します。

(引用終わり)

 

 これがその日の最後の科目の試験終了後を指すのか、各科目の試験終了後を指すのかは、必ずしも明らかではありませんが、仮に後者であれば、休憩時間が想像以上に短くなる可能性があります。それでなくても、例年、試験終了時刻から退室までの間、答案の回収、回収した答案の枚数確認等の作業をするため、試験終了時刻にすぐ退室できるわけではありません監督員がグズグズしていると、休憩時間が想像以上に短くなることがあります。休憩時間を試験室の外で過ごす予定でいる場合には、そのことを十分考慮しておくべきでしょう。 

戻る