令和2年司法試験の結果について(7)

1.以下は、論文式試験の合計得点、公法系、民事系、刑事系についての順位と得点の対応をまとめたものです。得点欄の括弧内の数字は、1科目当たりに換算したものです(小数点以下切捨て)。

合計得点
順位 得点
1位 598点
(74点)
100位 524点
(65点)
500位 462点
(57点)
1000位 413点
(51点)
1500位 376点
(47点)
2000位 336点
(42点)
2500位 280点
(35点)

 

公法系
順位 得点
1位 161点
(80点)
100位 135点
(67点)
500位 117点
(58点)
1000位 104点
(52点)
1500位 93点
(46点)
2000位 82点
(41点)
2500位 66点
(33点)

 

民事系
順位 得点
1位 246点
(82点)
100位 207点
(69点)
500位 178点
(59点)
1000位 156点
(52点)
1500位 139点
(46点)
2000位 122点
(40点)
2500位 98点
(32点)

 

刑事系
順位 得点
1位 161点
(80点)
100位 136点
(68点)
500位 118点
(59点)
1000位 105点
(52点)
1500位 94点
(47点)
2000位 82点
(41点)
2500位 64点
(32点)

 順位と1科目当たりの得点の対応が各系別で概ね同じくらいの数字になっているのは、得点調整(採点格差調整)によって、平均点と標準偏差が一定の値に調整されるためです。
 受験生に個別に送付される成績通知には、系別の得点は記載されますが、各科目別の得点は記載されず、順位ランクのみが記載されます。なぜ、各科目別の得点を記載しないのか。法務省は、当然科目別の得点を把握しているわけですから、技術的にできないということはあり得ません。単純に、「やりたくないから。」というだけです。その主な理由は、成績通知の趣旨にあります。受験生の立場からすれば、「自分が受けた試験の結果は自己の情報なのだから、それを通知するのは当たり前ではないか。」という感覚でしょう。しかし、成績通知の当初の趣旨は、「お前は見込みがないから、早く諦めろ。」というメッセージを送ることにありました。そのため、当初は、不合格者に限って通知していたのです。

 

第15回司法制度改革審議会議事録(平成12年3月14日)より引用。太字強調は筆者。)

小津法務大臣官房人事課長  私ども管理委員会のほうでは、合格の可能性の乏しい方が長期間受験を継続するということの弊害を考えまして、論文と短答のそれぞれにつきまして、不合格の方が希望されれば、どれくらいの成績のランクだったのかということを通知するようにしております。論文は昭和56年から、短答は平成4年からということでございます。
 これは受験生に対する情報の提供ということでは有意義なことだと考えておりますが、では、それでどういう効果を、あるいは影響を与えているかということは正確にはわかりません。普通、受験を継続すると、少しずつでも成績のランクは向上いたしますから、それが見えることによって、かえってあきらめ切れなくなっているのではないかというふうに言われる方もあるわけです。

(引用終わり)

 

 そのような趣旨からすれば、細かい得点や内訳を示す必要はありません。順位ランクが低ければ、「お前は無理だ。」というメッセージとしては十分だからです。このように、成績通知は、飽くまで恩恵として教えてやっているものです。受験生の自己情報として通知しなければならない、という発想がないことは、司法試験委員の発言にも現れています。

 

司法試験委員会会議第65回議事要旨より引用)

委員 受験者からは,問ごとの得点を教えてほしいという要望が強いようである。

 (中略)

委員 そのような要望は聞いているときりがないことになるのではないだろうか。

委員長(高橋宏志) それを助長することにはなるだろう。問ごと,更には小問ごとに成績を出せなどということになる。

委員 結局は模範解答を示せというような話になりかねない。

委員長(高橋宏志) 法科大学院生も非常に点数を気にしているが,2点,3点の点数の差よりも,できたかできないかは,自分で分かるはずである。反省の材料が欲しいという気持ちは分かるが,2点,3点の差が分かることと反省とは直結していないと思う。

(引用終わり)

 

 「受験生ごときに教えてやる必要などあるものか。」という感覚が伝わってきます。「更には小問ごとに成績を出せなどということになる。」という発言がありますが、それがどうして困るのか。適切に採点されているのであれば、公開しても何ら不都合はないはずです。おそらく、考査委員が恐れているのは、小問ごとの得点が公開され、小問単位で論述内容と得点とを比較されてしまうと、同じような論述内容なのに、得点が随分違う場合があることが明らかになってしまうということでしょう。
 それはともかく、送付されてきた成績通知の順位ランクだけでも、上記の順位と得点の対応表とを照らし合わせれば、ある程度は科目ごとの得点を把握することが可能です。例えば、公法系第1問が1001位から1500位までの順位ランクであったなら、概ね46点から52点までの間の点数だったということがわかるわけです。

2.それから、上記の順位と得点との対応は、論文の採点基準における優秀、良好、一応の水準、不良の各区分との関係でも、意味を持ちます。100点満点の場合の各区分と得点との対応は、以下のとおりです(「司法試験の方式・内容等について」)。

優秀 100点~75点
(抜群に優れた答案 95点以上)
良好 74点~58点
一応の水準 57点~42点
不良 41点~0点
(特に不良 5点以下)

 以下は、合計得点、公法系、民事系、刑事系のそれぞれについて、上記の各区分に対応する順位をまとめたものです。

合計得点
成績区分 順位
優秀 存在しない
良好 1位から484位まで
一応の水準 485位から2006位まで
不良 2007位以下

 

公法系
成績区分 順位
優秀 11位以上
良好 12位から561位まで
一応の水準 562位から1959位まで
不良 1960位以下

 

民事系
成績区分 順位
優秀 16位以上
良好 17位から599位まで
一応の水準 600位から1906位まで
不良 1907位以下

 

刑事系
成績区分 順位
優秀 17位以上
良好 18位から590位まで
一応の水準 591位から1944位まで
不良 1945位以下

 これを見ると、優秀の区分は概ね20位より上、一桁くらいのトップクラスを狙う場合に要求される水準だということがわかるでしょう。超上位でないと納得できない、というような人は別にして、普通に合格を考えている人にとっては、優秀という区分はほとんど関係のない世界です。
 良好の区分をみると、概ね500番より上を狙う場合に必要となる水準であることがわかります。確実に500番より上の順位で受かりたい、という人にとっては、このレベルをクリアする必要があるのでしょうが、とにかく合格したい、という人にとっては、やはりそれほど関係のない領域です。当サイトが、基本論点について、規範の明示と事実の摘示をしっかりやっていれば500番くらいは取れる、と繰り返し説明しているのは、通常はこれを守るだけで一応の水準の上位となり、場合によっては良好の領域にまで入ってしまうことが多いからです。逆にいえば、500番にも届かない場合は、基本論点を落としているか、規範を明示できていないか、事実の摘示ができていない、ということです。
 一応の水準は、概ね500番から2000番までの間の順位です。ここで、合否が分かれます。不良の区分は、はっきりした不合格答案です。

3.以前の記事(「令和2年司法試験の結果について(5)」)でも触れましたが、採点実感を読む際には、上記のことを念頭に置く必要があるのです。自分が500番より上を狙っているのであれば、「良好に該当する答案の例は~」とされている部分まで注目する必要があります。単に合格したい、というのであれば、一応の水準について言及されている部分だけに注目すれば足りる。そして、このことは、出題趣旨との関係でも、意識すべきです。出題趣旨で多くの文字数を割いて説明してあることの多くは、優秀・良好に関する部分です。優秀・良好に関する部分は、普通の受験生にはわかりにくい応用的な部分を含むので、詳細に説明をする必要があるからです。これに対し、一応の水準に関する部分は、当たり前すぎるので、ほとんどの場合、省略されている。当たり前すぎる判例の規範を明示すること、それに当てはまる事実を問題文から答案に書き写すこと。こういったことは、わざわざ出題趣旨に書いても仕方がないと考えられているわけですね。だから、出題趣旨をただ漫然と読んでも、合格レベルというものは、見えてこないのです。「俺は大体出題趣旨と同じようなことを書いたのに、ひどい点数だったぞ。」という人は、規範を明示していたか、事実を答案に書き写していたか、再度チェックすべきでしょう。もっとも、最近では、重要な判例の規範については、わざわざその内容を出題趣旨で引用する場合も増えてきました。あまりに規範を答案に明示しない人が多いので、このような対応をしているのでしょう。こうしたものは、特に合否を分ける重要な規範であることが多いので、答案に明示できるようになっておく必要があります。こういったことは、出題趣旨の各部分が、採点実感でどの区分に関するものとして整理されているかを確認すると、ある程度わかるようになります。出題趣旨を読む際にも、採点実感と対照する必要があるのです。

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