令和2年予備試験口述試験(最終)結果について(4)

1.以下は、平成26年以降の職種別の受験者数の推移です。ただし、法務省の公表する資料において、「公務員」、「教職員」、「会社員」、「法律事務所事務員」、「塾教師」、「自営業」とされているカテゴリーは、まとめて「有職者」として表記し、「法科大学院以外大学院生」及び「その他」のカテゴリーは省略しています。なお、「無職」には、アルバイトを含みます。

有職者 法科大学院生 大学生 無職
平成
26
2936 1846 2838 2298
平成
27
3092 1710 2875 2233
平成
28
3268 1611 2881 2265
平成
29
3527 1408 3004 2353
平成
30
3834 1298 3167 2391
令和
4240 1265 3340 2475
令和
3879 1064 3141 2116

 全体的に、受験者数が減少していることがわかります。前々回の記事(「令和2年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で説明したとおり、これは新型コロナウイルス感染症の影響と考えてよいでしょう。今年に関しては、経年分析の対象とするには適さないといえます。

2.以下は、直近5年の職種別の最終合格者数の推移です。

有職者 法科大学院生 大学生 無職
平成
28
39 153 178 31
平成
29
50 107 214 66
平成
30
62 148 170 47
令和
62 115 250 40
令和
64 95 243 32

 法科大学院生が20人合格者数を減らす一方で、有職者は2人とはいえ、合格者数を増加させています。過去の数字をみても、有職者はじわじわと合格者数を伸ばしてきていることがわかります。若年化方策の効果が薄まりつつある兆しを感じさせる数字の1つといえるでしょう。もっとも無職の合格者数は減少傾向が止まりません。無職の受験者に諦めて就職してもらおうというのは、若年化方策の趣旨の1つです。その意味では、今でも若年化方策は十分に機能しているといえるでしょう。

3.短答合格率をみてみましょう。以下は、今年の職種別の短答合格率(受験者ベース)です。

職種 受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
有職者 3879 901 23.2%
法科大学院生 1064 241 22.6%
大学生 3141 707 22.5%
無職 2116 574 27.1%

 短答は、勉強時間が長く確保できれば、受かりやすくなる。無職は、多くの場合、専業受験生です。したがって、最も多く勉強時間を確保できる。それが、短答合格率に反映されています。また、法科大学院生も、最近では早い段階から短答対策の勉強をしているので、合格率は高くなっています(※1)。他方、勉強時間が最も少ないのは、大学生です。今年は、例年よりやや高めの合格率で、法科大学院生とほぼ同じ水準です。とはいえ、大学生は、短答では最も苦戦しています。このことは、若年化方策をとることなく、知識・理解で勝負がつく試験にした場合、専業受験生の無職が合格し、大学生は受かりにくい試験になってしまうことを意味しています。
 ※1 この傾向は、平成24年から生じたものです(「平成24年司法試験予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)。平成23年は、法科大学院生の短答合格率は16.6%に過ぎませんでした(「平成23年司法試験予備試験口述試験(最終)結果について」)。

4.では、論文になると、どうなるか。以下は、今年の職種別の論文合格率(短答合格者ベース)です。

職種 短答
合格者数
論文
合格者数
論文
合格率
有職者 901 71 7.8%
法科大学院生 241 100 41.4%
大学生 707 247 34.9%
無職 574 36 6.2%

 有職者と無職を落とし、法科大学院生と大学生を受からせることに成功しています。これが、若年化方策の効果です。ロー生や大学生は、特に対策を考えなくても、普通の感覚で受ければ、論文はクリアできます。ところが、社会人や無職の専業受験生は、知識・理解が過剰になっているので、普通に受けると極端に受かりにくい。当サイトで繰り返し指摘している、「論文に受かりにくい人は、何度受けても受かりにくい」法則です。そのような人は、まず、勉強の範囲を規範部分に絞ることが必要です。その上で、当てはめに入る前に規範を明示する、事実は問題文から忠実に引用する、というスタイルを守った答案を書けるようにする。そのためには、一定の文字数が必要になりますから、速く書く訓練をし、試験時間中に書き切れるだけの筆力を身に付ける。やろうと思えば、訓練次第で十分可能なことなのですが、これを実行できる人は、少ないのが現実です。障害になるのは、心理面の抵抗です。上記のような割り切った書き方は、今まで自分がやってきたこだわりと衝突する。「趣旨・本質に遡るんだ。いきなり規範なんて書きたくない。」、「自分は○○先生の連載を読んで、○○先生の考え方が正しいことを理解している。だから、その考え方で書きたい。」、「今まで勉強してきた深い理解を答案に表現したい。規範と事実だけを書くなんて我慢できない。」、「判例の規範は、実は間違っているんだ。そんな間違った規範は使いたくない。」、「問題文の事実をそのまま引くなんてバカみたいだ。そんなものは省略して、自分の言葉で事実の評価を書きたい。」、「コンパクトな答案の方が切れ味があると思う。自分は規範や事実を書き写すようなバカっぽい答案は書きたくない。」、「速く字を書く訓練なんて法の知識、理解と何の関係もなくてバカバカしいからやりたくない。」。このようなことは、長期間勉強した受験生なら、誰しも思うことです。これを捨てることは、今までの数年間(場合によっては数十年間)は何だったのか、ということになる。この未練が、とても大きな障害になってしまうのです。これを乗り越えることが、何より重要です。
 さて、上記の若年化方策の効果が薄まっているのではないか、というのが、近年の1つのテーマでした。以下は平成28年と今年の職種別の論文合格率(短答合格者ベース)の比較表です。

職種 平成28年 令和2年 増減
有職者 5.6% 7.8% +2.2
法科大学院生 40.9% 41.4% +0.5
大学生 32.2% 34.9% +2.7
無職 5.8% 6.2% +0.4
全体 17.6% 18.3% +0.7

 今年は、全体の論文合格率が平成28年より0.7ポイント増加しているのに対し、有職者の論文合格率は2.2ポイントの増加となっています。この点だけに着目すれば、若年化方策の効果が、わずかながら薄まっているのではないか、と一応感じさせます。もっとも、無職の論文合格率は、全体の論文合格率の伸びに及びませんし、大学生の論文合格率の伸びは、有職者よりも大きくなっています。このように考えると、まだまだ若年化方策は強力に作用している、といわざるを得ないでしょう。当サイトが、これだけあからさまに若年化方策の存在を指摘し続けているのに、いまだに期待どおりの結果を出し続けている。敵ながらあっぱれというほかはありません。

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