令和2年予備試験口述試験(最終)結果について(2)

1.以下は、直近5年の年齢層別の受験者数の推移です。

年齢層 平成28 平成29 平成30 令和元 令和2
19歳以下 70 84 76 107 100
20~24歳 3437 3422 3631 3791 3573
25~29歳 1373 1348 1297 1372 1200
30~34歳 998 989 1014 1079 962
35~39歳 987 1045 988 1036 908
40~44歳 920 950 980 1006 899
45~49歳 852 906 959 992 810
50~54歳 645 706 761 817 769
55~59歳 528 566 615 692 616
60~64歳 308 335 382 434 388
65~69歳 222 256 270 281 211
70~74歳 46 79 110 120 129
75~79歳 47 44 36 31 30
80歳以上 13 17 22 13

  ここ数年の特徴の1つとして、若手受験者の増加傾向が頭打ちになったということがあります。予備試験が始まった初期の頃の数字と比較すると、そのことがよくわかります。以下は、平成23年から平成26年までの20代の受験者数の推移です。


(平成)
20代
受験者数
前年比
23 1780 ---
24 2431 +651
25 4137 +1706
26 4944 +807

 この頃は、若手受験者が急増していました。今年の20代の受験者数は4773人ですから、平成26年の頃よりも171人減少しています。全体の受験者数は、平成26年が10347人、今年は10608人で、261人の増加です。全体の受験者数が増えているのに、若手の受験者数は、むしろ減っている。後記のとおり、今年は新型コロナウイルス感染症の影響で受験者数全体が昨年より減少していますが、平成26年との比較という点では、「若手の受験者数が減ったのは、新型コロナウイルス感染症の影響で受験者数全体が減少したからだ。」という説明は、成り立たないのです。
 予備試験については、「若手が抜け道としてどんどん予備に流れている。」というイメージがありますが、実際には、若手の予備試験受験者がどんどん増えていくという状況にはなっていないのです。既存のマス・メディアだけでなく、ブログやSNS等のインターネット上の情報でも、このようなことは、適切に指摘されていません。イメージだけで書かれた記事が多く、真面目に数字を追っている人が、とても少ないのです。
 若手受験者が伸び悩む一方で、年配の受験者は、近時、増加傾向にありました(「令和元年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」。今年は、どうか。以下は、昨年からの年齢層別の受験者数の増減をまとめたものです。

年齢層 昨年 今年 前年比
増減
19歳以下 107 100 -7
20~24歳 3791 3573 -218
25~29歳 1372 1200 -172
30~34歳 1079 962 -117
35~39歳 1036 908 -128
40~44歳 1006 899 -107
45~49歳 992 810 -182
50~54歳 817 769 -48
55~59歳 692 616 -76
60~64歳 434 388 -46
65~69歳 281 211 -70
70~74歳 120 129 +9
75~79歳 31 30 -1
80歳以上 22 13 -9

 今年は、70代前半を除き、すべての年齢層で昨年より受験者が減少していることがわかります。これは、出願したものの受験しなかった人が増えたことによります。昨年は、出願者ベースの受験率は、81.2%でした。これが、今年は69.2%にまで大幅に下落しています。新型コロナウイルス感染症の影響によるものと考えてよいでしょう。したがって、今年の受験者数についてはイレギュラーな要因が大きく寄与してしまっており、傾向分析の基礎とするには適さないといえます。

2.以下は、昨年と今年の最終合格者数の比較表です。

年齢層 昨年 今年 前年比
増減
19歳以下 +2
20~24歳 324 299 -25
25~29歳 60 62 +2
30~34歳 32 33 +1
35~39歳 24 14 -10
40~44歳 17 10 -7
45~49歳 11 -2
50~54歳 +7
55~59歳 -1
60~64歳 -1
65~69歳 ---
70~74歳 ---
75~79歳 ---
80歳以上 ---

 20代前半の最終合格者数が若干減少しているのが目に付きます。ただ、若手優位の傾向は、例年どおりです。受験者段階でみると、今年は、29歳以下は全体の45.9%です。すなわち、30代以上の方が多数派なのです。それが、最終合格段階になると、今年は29歳以下が81.6%圧倒的多数を占めるに至るのです。この若手優位の傾向は、現在の司法試験・予備試験の特性を考える上で、重要な意味を持ちます。

.これまで司法試験委員会は、若手有利になるように出題及び採点を必死に工夫してきました。司法試験は、法に関する知識・理解を問う試験ですから、普通に考えると、勉強量の多い年配者が有利で、勉強量の少ない若手は不利になる。しかし、10年以上受験を繰り返してようやく法曹になるというような制度では、合格後に活躍できる期間は限られてしまいますし、そもそも、そんなことでは、誰も司法試験を受けようとは思わなくなってしまいます。だから、知識・理解がそのまま結果に反映されるような試験にするわけにはいかない。問題文や採点方法を工夫して、知識・理解が十分な年配者が不合格になり、知識・理解が不十分でも若ければ受かるようにしたい平成以降の司法試験の歴史は、ほぼこの努力の繰り返しでした。このことを、知らない人が多いのです。「司法試験は法の知識・理解を試す試験なのだから、若ければ有利になるような試験であるはずがない。そんなものは陰謀論だ。」と思うかもしれません。しかし、これは国会でも明示的に議論されてきたことなのであって、決して荒唐無稽な陰謀論ではありません。今から29年前の時点で、既にこのことが議論されています。

 

参院法務委員会平成03年04月16日より引用。太字強調は筆者。)

参考人(中坊公平君) この司法試験につきまして近時この試験に多数回受験の滞留現象という一種の病的な現象が発生し始めてまいりました。多数回受験の滞留現象と申しますのは、受験者の数が多いにかかわらず合格の数が余りにも少ないということから、合格水準に達しながらなお合格しない受験者が数多く滞留しておるということであります。この現象の結果は、合格平均年齢が現在では二十八歳を超え、また合格までの平均受験回数は七回に近い状態になってくることになりました。しかも、このような状態が長期間継続することによりまして大学卒業者が司法試験を敬遠することになり、出願者数も最近では減少傾向にあります。この結果、司法試験の本来の目的である幅広く多様な人材を得ること自体がまた困難になってきたという現象が発生してきたわけであります。

 (中略)

 先ほど言いましたような滞留現象というものがどうしても改善しなければ、…もっと考査委員が先ほどから言うように学識じゃなしに応用能力を本当に見られる、長期間要した者が有利にならないような問題の出題ができ、そしてまたその採点ができるというような体制に持っていかなければならない

 

政府委員(濱崎恭生君) 司法試験は、御案内のとおり、裁判官、検察官、弁護士となるための唯一の登竜門としての国家試験でございますが、最近といいますか昭和五十年ごろから急速に、合格までに極めて長期間の受験を要する状況になっております。その状態は大勢的には次第に進行しておりまして、今後放置すればますます進行するということが予想されるわけでございます。
 具体的には、現在、合格者の平均受験回数が六回ないし七回。それに伴って合格者の平均年齢も二十八歳から二十九歳ということになっておりまして、二年間の修習を経て実務につくのは平均的に三十歳になってからという実情になってきているわけでございます。そのこと自体大変大きな問題でございますが、そういうことのために法曹となるにふさわしい大学法学部卒業者が最初から司法試験というものをあきらめてしまう、そんな難しい試験は最初からチャレンジしない、あるいは一、二回試験を受けてそれであきらめてしまうというような、いわゆる試験離れの状況を呈しております。これは法曹界に適材を吸引するという観点から大変大きな問題であろうと思っております。
 さらには、合格者の年齢がそういうことから総体的に高くなっていることによって、裁判官、検察官の任官希望者の数が十分に確保できないのではないかという懸念が次第に強くなってきているわけでございます。
 そういうことで、こういう状態は一刻も放置できない、何らかの改革を早急に実現しなければならないということで取り組んでまいったわけでございまして、今回の改正の目的を端的に申しますと、こうした現状を緊急に改善するために、法曹としての資質を有するより多くの人がもっと短期間の受験で合格することができる試験にしようということでございます。もっと短い期間で合格する可能性を高めるということが今回の改正の目的でございます。

 (中略)

 御指摘の合格枠制、若年者にげたを履かせるという御指摘でございました。これが短絡的な発想ではないか、あるいは便宜的ではないかという受け取り方をされがちでございますけれども、こういう改革案を必要とする理由については、先ほど来るる申し上げさせていただきました。やはり合格者を七百人程度に増加させるということを踏まえました上で、もう少し短い期間で合格する可能性を高めるという方策といたしましてはこういう方策をとるほかはない、こういう制度をとらなくてもそういう問題点が解消できるということならばそれにこしたことはないというふうに思っておりますが、この制度はすべての受験者にとってひとしく最初の受験から三年以内は合格しやすいという利益を与えるわけでございまして、決して試験の平等性を害するというものではないと思っております。

(引用終わり)

 

 これは、当時、旧司法試験に合格枠制(合格者の一定数を受験回数3回以内の者から選抜する制度。いわゆる丙案。)を導入する際の法改正について議論していたときのものです。この合格枠制は、受験回数が3回以内なら、知識・理解というレベルでは4回以上の受験者より劣っていても合格させようというもので、上記の「法律の知識・理解がそのまま結果に反映されるような試験にするわけにはいかない。」という発想が如実に表れた制度でした。なお、この合格枠制の発想は、その後、新司法試験における受験回数制限へと形を変えて受け継がれていくことになります。上記の政府委員の発言で、「もう少し短い期間で合格する可能性を高めるという方策といたしましてはこういう方策をとるほかはない」とありますが、当時、既に、若手でも受かる試験にするための様々な方策が採られていました。その1つが、若手でも点が取れるような基本的な問題にする、ということでした。

 

参院法務委員会平成03年04月16日より引用。太字強調は筆者。)

政府委員(濱崎恭生君) 現在の試験問題の出題の方針につきましては、正しい解答を出すために必要な知識は大学の基本書などに共通して触れられている基礎的な知識に限る、そういう基礎的な知識をしっかり理解しておれば正解を得ることができる、そういう考え方で問題の作成に当たり、そのためのそういう問題づくりについて鋭意努力をしていただいておるところであるということをつけ加えさせていただきます。

(引用終わり)

 

 しかし、単純に考えればわかりますが、若手でも解けるように問題を簡単にすれば、勉強量の多い年配者は、さらに確実に正解してきます。したがって、そのような方策には限界がある。そのことは、当時の考査委員も認めていました。

 

衆院法務委員会平成03年03月19日鈴木重勝参考人の意見より引用。太字強調は筆者。)

 早稲田大学の鈴木と申します。・・・まず、司法試験が過酷だとか異常だとか言われるのは、本当に私ども身にしみて感じているのでありますけれども、何といっても五年も六年も受験勉強しなければ受からないということが、ひどいということよりも、私どもとしますと、本当にできる連中がかなり大勢いまして、それが横道にそれていかざるを得ないというところの方が一番深刻だったのです。
 だんだん申し上げますけれども、初めは試験問題の改革で何とかできないかということで司法試験管理委員会から私ども言われまして、本当はそれを言われるまでもなく私ども常々感じていましたから、何とか改善できないかということで、出題を、必ずしも知識の有無とか量によって左右されるような問題でなく、また採点結果もそれによって左右されないような問題をやったのですけれども、これは先生方ちょっとお考えいただけばわかるのですけれども、例えば三年生と四年生がいましてどっちがよくできるかといえば、これはもう四年生の方ができるに決まっているのです今度は四年生と三年も浪人した者とどっちができるかといえば、こっちの方ができるに決まっているのです。ですから、逆に言いますと、在学生でも十分な解答ができると思うような問題を一生懸命つくりましても、そうすると、それはその上の方の連中ができるに決まっておる。しかも、単にできるのじゃなくて、公平に見ましても緻密で大変行き届いた答案をつくり上げます。表現も的確です。ですから、これはどう考えても初めから軍配が決まっていた感じはするのです。
 ところが、それでは問題が特別そういうふうに難しいのかと申しますと、これははっきり申し上げますけれども、確かにそういう難しいという批判はございます。例えば裁判官でもあるいは弁護士でも、二度とおれたちはあの試験は受からぬよ、こう言うのですけれども、それはもう大分たたれたからそういうことなんでありまして、現役の学生、現場の受けている学生にとりましては、そんな無理のないスタンダードの問題なんですね。どのくらいスタンダードかと申し上げますと、例えば、まだことしは始まっておりませんけれども、ことし問題が出ます。そうしますと、ある科目の試験問題、大体二問でできておりますから、二問持たせまして、そして基本参考書一冊持たせます。学校で三年、四年ぐらいの、二年間ぐらい終わった連中に基本参考書一冊持たせて、そして一室に閉じ込めて解答してみろとやります。そうすると、ほぼ正解というか、合格答案がほとんど書ける状況なんです。ですから、私ども決して問題が特別難しいとは思っていないわけでありますけれども、やはり長年やっていた学生、いわゆるベテランの受験生はそこのところは大変心得ておりまして、合格できるような答案を物の見事につくり上げるのです。
 その秘密は、見てみますと、大体長年、五年でも六年でもやっている連中は、もちろんうちにいるだけじゃなくて、さっきから何遍も言っておりますように、予備校へ参ります。そうしますと、模擬試験とか答案練習という会がございます。そこで、私どもがどんなに工夫しても、その問題と同じ、あるいは類似の問題を既に練習しているのですね。例えば五年、六年たちました合格者で、模擬試験で書かなかった問題がないと言われるくらい既に書いているわけです。ですから、これはよくできるのは当たり前。しかも、それは解説つきで添削もしてもらっていますから。ところが、そうすると現役の方はどうかといいますと、それほど経験も知識もありませんから、試験場で初めてその問題と直面して、そもそも乏しい知識を全知全能を絞ってやるわけですけれども、やはりこれは知れているものです。差が出てくるという、初めから勝負が決まっているという感じがします。
 こういうところから、私ども何とかできないか、試験の出題とか採点でできないかと思ったのでありますけれども、どうもそれには限界があるということがだんだんわかってきました。時には私どもちょっと絶望していた時期もありますけれども、何とかならないかということで、試験問題もだめ、それから採点の方もうまくいかない・・・(後略)。

(引用終わり)

 

 その後、平成10年以降になってくると、単に簡単な問題を出す、というのではなく、より新たな試みがなされました。それは、「大学受験の国語のような、知識で差が付かないような問題」を出す、ということです。これが最も顕著だったのは、短答式試験の穴埋め、並替え問題です。ほとんど法律の知識がなくても、文章を読んで意味が通るように並び替えれば正解になる。この種の問題の特徴は、知識で解こうとすると、解けない、ということでした。よく勉強し、知識・理解の豊富な年配者は、知識で解こうとするので、解けない。それに対し、知識の乏しい若手は、その場で文章の辻褄が合うようにするにはどうすればよいか(例えば、「甲の○○という行為」という文言を含む文章と、「甲の当該行為」という文言を含む文章であれば、前者が先で後者が後に来るように並び替えるべきことがわかる。)、という目で問題文を読むため、スラスラ解ける。このようにして、法律の知識・理解の豊富な年配者を落とし、法律の知識・理解の乏しい若手を受からせることに、一時的に成功したのでした。しかし、そのような問題は、「知識で解かない」ということがわかってしまえば、年配者でも解けるようになってしまいます。そのため、この「大学受験の国語のような問題」は、すぐに若手優遇の効果を失ってしまったのでした。

 

衆院法務委員会平成13年06月20日佐藤幸治参考人の意見より引用。太字強調は筆者。)

 私も、九年間司法試験委員をやりました。最初のころは、できるだけ暗記に頼らないようにということで、私がなったとき問題を工夫したことがあります、そのときの皆さんで相談して。そうしたら、国語の問題のようだといって御批判を受けたことがありました。しかし、それに対してまたすぐ、数年たちますと、それに対応する対応策が講じられて、トレーニングをするようになりましたその効果はだんだん薄れてまいりました
 申し上げたいのは、試験を一発の試験だけで決めようとすると、試験の内容をどのように変えても限界があるということを申し上げたいわけです。

(引用終わり)

 

 このように、司法試験の歴史は、「知識・理解の豊富な年配者を落とし、知識・理解の乏しい若手を受からせる」ための方策を一生懸命考えては、挫折してきた、という歴史だったのです。知識・理解を試す試験において、知識・理解にかかわらない結果を出力させようという試みですから、常識的に考えれば挫折するのは当然の帰結でした。
 そして、法科大学院制度と受験回数制限が、最後の切り札として、採用された。法科大学院に通う人しか受験させなければ、母数が減ります。そして、受験回数制限をかければ、年配者は退出していく。これで、本来であれば、滞留による高齢化問題は解消するはずでした。ところが、様々な事情で予備試験が残ってしまい、法科大学院に通わない人も受験でき、しかも、受験回数制限によって一度受験資格を失っても、なお予備試験ルートで受験できるようになってしまいました。そのため、滞留問題は、解消されなかったのです。しかも、その後、受験回数制限が5年5回に緩和されたため、この滞留問題は、深刻化してきていたのでした。
 以上のような状況は、新しい若手優遇策を必要とします。そこで、新司法試験になって採用された、新しい若手優遇策が、長文の事例を用いた「規範と当てはめ」重視の論文試験の出題及び採点です。知識・理解の乏しい若手は、規範を明示するので精一杯です。ならば、そこに大きな配点をおけば、若手も点が取れる。他方、知識・理解の豊富な年配者は、なぜそのような規範を用いるのか、制度趣旨は何か、という抽象論に至るまでよく知っていますから、これを書きたがりますならば、そこには大きな配点を与えないようにすればよい。また、知識・理解の乏しい若手は、頭の中にある知識・理解が乏しいので、現場で目の前にある問題文を使おうとする。そのため、若手はとにかく問題文を丁寧に引用する傾向がある。これに対し、知識・理解の豊富な年配者は、事実の持つ意味付け(評価)を重視し、問題文の事実自体の引用を省略して、評価から先に書こうとしますならば、単純な事実の引用に重い配点を置き、事実の評価は加点事由程度にしてしまえばよいこの方法は、「実務と理論の架橋という新制度においては、規範を具体的事実に当てはめるという法的三段論法が特に重要である。したがって、規範の理由付けや事実の評価よりも、規範の明示と具体的事実の摘示に極端な配点を置くべきだ。」という建前論によって正当化できるという点においても、優れていたのでした。しかも、おそらくこれは考査委員自身も気が付いていないようですが、若手は字を書く速度が早いため、事実の摘示をこなせるのに対し、年配者は字を書く速度が遅いため、配点の高い事実の摘示ができないという強力な若年化効果もありました。この方法論は、司法試験の論文における顕著な若返りの傾向として、かなりの成果を挙げています(「令和元年司法試験の結果について(12)」)。そして、この方法論は、予備試験でも使われている今年の予備試験の最終合格者の平均年齢は、25.89歳です。上記引用のとおり、かつての旧司法試験では、合格者の平均年齢が28歳、29歳であったことが問題視されていました。それと比べると、相当に若い年齢です。現在の制度では若手の多くが法科大学院ルートに流れていることも踏まえると、現在の若年化方策の効果は劇的といってよいものであることがわかります。論文の学習をするに当たっては、この点を意識しておく必要があるのです。がむしゃらに勉強して、知識・理解を深めることは、かえって当局が落とそうとしている人物像に当てはまってしまうということです。知識・理解は、規範と、その規範を使うのはどのような場合かを的確に把握できる程度で十分です。後は、規範の明示と事実の摘示というスタイルで最後まで書き切る筆力を身に付ける。司法試験も予備試験も、この点は変わりません。

4.もっとも、上記の若手優遇策についても、その効果が薄れてきたのではないか、と思わせる数字がみられるようになりました。平成29年、平成30年と、2年連続で20代の予備試験合格者数が減少したこと(「平成30年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)などは、その一例です。上記の若手優遇策は、「規範と事実にあり得ない配点がある。」ことについて、多くの人が知らない、という前提があって、初めて大きな効果を生じさせます。しかし、当サイトがそのことをあからさまに指摘するようになって、既に数年が経過しました。特に、平成27年からは、規範の明示と事実の摘示に特化したスタイルの参考答案を当サイトに掲載するようになり、具体的にどのようなスタイルで書けばよいかも、わかるようになってきています。このことが、上記の若手優遇策の効果を薄れさせている可能性は、十分あるように思います。司法試験の予備組の結果にも、このことが表れています(「令和2年司法試験の結果について(8)」)。
 論文の傾向分析との関係で留意すべきことは、「現在の若手優遇策が無効になった場合には、法務省は別の若手優遇策を考えてくる。そうなると、論文の出題、採点傾向が大きく変わるであろう。」ということです。司法試験との関係では、法科大学院関係者からの「司法試験をもっと簡単にしろ。」という圧力(「令和2年司法試験の結果について(3)」)によって、事務処理の要素を緩和しようという動きがあります。

 

(「司法試験委員会会議(第155回)議事要旨」より引用。太字強調は筆者。)

・ 論文式試験については,前年の試験の検証を踏まえ,問題作成に当たり一層の工夫がなされ,全体として高評価を得たところであるが,引き続き,他の科目分野における工夫やその成果のうち特に有用なものを参考にするなどして,受験者に対して過度に事務処理能力を求める結果とならないよう,問題文,資料,設問の分量について十分に配慮しつつ,受験者の事例解析能力,論理的思考力,法解釈・法適用能力等を適切に判定することができるよう工夫することとされた。

(引用終わり)

 

 さらに、近時の法曹コース創設、在学中受験等の制度の改定に伴い、司法試験の在り方が検討されることとされています。そこでは、これまでの若手優遇策の効果が薄れていることへの自覚・懸念が問題意識としてあるようです。

 

司法試験委員会会議第159回議事要旨より引用。太字強調は筆者。)

 在学中受験資格の導入後も,法曹に求められる資質・能力を判定するという司法試験の位置付けや試験の難易度に変更はないが,今般の法曹養成制度改革は,プロセス教育の維持,強化が理念とされていることを念頭においた上,現行の司法試験の出題の在り方が,①法科大学院教育との適切な連携が図られたものとなっているか,②法科大学院や学生に対して学修の指針を示すという意味で適切な影響を与えているか, ③実務家登用試験として適切な選別機能を有しているか,といった観点から検討を行う必要があると考える。特に,②と③の点について,仮に,現行の試験問題が,誘導と試験対策の処理メソッドにのみ従って解答すれば一定水準の答案が作成できるような問題であれば,多くの学生の勉強はそうしたスキルの獲得に向かうこととなり,勉強の在り方として問題であるし,処理メソッドに従った解答内容で十分であるとの意識を持つ学生が増えると,学生の成績がおしなべて平準的なものとなり,ボーダーラインが適切に引けるのか危惧される

(印欧終わり)

 

 上記の「処理メソッドにのみ従って解答すれば一定水準の答案が作成できるような問題」とは、当サイトの表現を用いれば、「規範と事実を書き写すだけで合格レベルである一応の水準の真ん中より少し下の水準に達してしまう問題」という意味です。司法試験委員会も、受験生に対策を採られてしまっていることに気付き始めている。この影響は、司法試験の刑事系科目などに表れるようになってきています。このことは、現在の若手優遇策とは異なる方策が採られる可能性を示唆しています。もっとも、現在のところ、直ちに大きな傾向変化が生じる可能性は低いだろうというのが、当サイトの立場です。上記の司法試験の在り方の検討については、消極ないしは慎重な意見も出されており、すぐに劇的な成果を出せそうな感じではないからです。

 

司法試験委員会会議第159回議事要旨より引用。太字強調は筆者。)

・ 検証担当考査委員の検証状況や,検証結果の次年度の問題作成への反映状況について,科目間のばらつきの有無や反映時の問題の有無も含めて幹事会で検討するのはよいと思う。ただし,科目の特性や問題作成者の出題意図等にも配慮すべきであり,幹事会が過度に介入・干渉することは避けるべきと思われる

・まずは,前提として,検証担当考査委員会議では,法科大学院協会の方等も議論に参加しており,そういった外部の方の意見も踏まえて検証を行っていることを御理解いただきたい。ただし,検証結果が実際に出題にいかされているかを幹事会で検討することには意味があると思われる。しかしながら,問題作成者の意図もあるので,幹事会であまり細かい意見を出すのではなく,検証担当考査委員による検証について改善すべき点や良かった点を共有し,司法試験の在り方に反映させていくのが現実的なやり方ではないか

 などの意見が出された。

(引用終わり)

 

 既に説明したとおり、上記の司法試験の在り方の検討は、法科大学院修了生の合格率を上げるための「司法試験をもっと簡単にしろ。」という法科大学院関係者の圧力を背景とするものでした。そのことを理解していれば、この検討の影響が予備試験にも直接に及ぶことは考えにくい、ということになります。法科大学院関係者の立場からすれば、予備試験は、むしろ「難しくて誰も受けたがらない。」という方が望ましい。「予備試験を受けるくらいなら、法科大学院を修了する方が早道だ。」と思ってもらいたいでしょう。もっとも、予備試験の考査委員が司法試験の出題傾向を参考にすることはあり得るでしょう。その場合、間接的に予備試験にも影響が及ぶ可能性がある。今後は、その辺りを見極めていく必要がありそうです。とはいえ、上記のとおり、司法試験の方も直ちに現在の傾向から大きく変化するとは思われないところですので、予備試験に関して傾向変化が生じるのは、仮にあるとしてもかなり先のことだろう。当サイトとしては、今のところ、そう考えています。

戻る