1.今回は、選択科目についてみていきます。まずは、選択科目別にみた短答式試験の受験者合格率です。
科目 | 短答 受験者数 |
短答 合格者数 |
短答 合格率 |
倒産 | 452 | 376 | 83.1% |
租税 | 288 | 203 | 70.4% |
経済 | 683 | 517 | 75.6% |
知財 | 525 | 393 | 74.8% |
労働 | 1104 | 873 | 79.0% |
環境 | 161 | 114 | 70.8% |
国公 | 48 | 33 | 68.7% |
国私 | 403 | 284 | 70.4% |
短答は、選択科目に関係なく同じ問題ですから、どの科目を選択したかによって、短答が有利になったり、不利になったりすることはありません。ですから、どの選択科目で受験したかと、短答合格率の間には、何らの相関性もないだろうと考えるのが普通です。しかし実際には、選択科目別の短答合格率には、毎年顕著な傾向があるのです。
その1つが、倒産法の合格率が高いということです。例年、倒産法は短答合格率トップでした。昨年は労働法にトップの座を奪われましたが、今年は、再びトップの座に返り咲いています。このことは、倒産法選択者に実力者が多いことを意味しています。倒産法ほど顕著ではありませんが、労働法も似たような傾向で、昨年は倒産法を抑えてトップとなり、今年は倒産法にトップを奪還されたものの、3位以下にかなりの差を付けて2位となりました。
逆に、国際公法は、毎年短答合格率が低いという傾向があります。今年も、最下位の合格率です。このことは、国際公法選択者に実力者が少ないことを意味しています。国際公法ほど顕著ではありませんが、環境法も類似の傾向です。
また、新司法試験開始当初は、国際私法も合格率が低い傾向だったのですが、次第にそうでもない、という感じに変わってきました。その原因の1つには、大学在学中の予備試験合格者の選択が増えている、ということが考えられました。国際私法は、他の選択科目よりも学習の負担が少なく、渉外系法律事務所への就職を狙う際に親和性がありそうにみえる、ということが、その理由のようでした。もっとも、昨年は、国際公法に次ぐ低めの合格率でした。今年も、租税法とともに、国際公法に次ぐ低い合格率になっています。このことは、予備試験合格者の科目選択の傾向に変化が生じた可能性を示唆しています。
2.論文合格率をみてみましょう。下記は、選択科目別の短答合格者ベースの論文合格率です。
科目 | 短答 合格者数 |
論文 |
論文 合格率 |
倒産 | 376 | 204 | 54.2% |
租税 | 203 | 97 | 47.7% |
経済 | 517 | 269 | 52.0% |
知財 | 393 | 200 | 50.8% |
労働 | 873 | 481 | 55.0% |
環境 | 114 | 46 | 40.3% |
国公 | 33 | 13 | 39.3% |
国私 | 284 | 140 | 49.2% |
論文段階では、どの科目を選択したかによる影響が多少出てきます。もっとも、各選択科目の平均点は、全科目平均点に合わせて、どの科目も同じ数字になるように調整され、得点のバラ付きを示す標準偏差も、各科目10に調整されます。ですから、基本的には、選択科目の難易度によって、有利・不利は生じないはずなのです(※)。したがって、論文段階における合格率の差も、基本的には、どのような属性の選択者が多いか、実力者が多いのか、そうではないのか、といった要素によって、変動すると考えることができます。
※ 厳密には、個別のケースによって、採点格差調整(得点調整)が有利に作用したり、不利に作用したりする場合はあり得ます。極端な例でいえば、ある選択科目が簡単すぎて、全員100点だったとしましょう。その場合、全科目平均点の得点割合が45%だったとすると、得点調整後は全員が45点になります(なお、この場合は調整後も標準偏差が10にならない極めて例外的なケースです。)。この場合、選択科目の勉強をたくさんしていた人は、損をしたといえるでしょうし、逆に選択科目をあまり勉強していなかった人は、得をしたといえます。もっとわかりやすいのは、ある選択科目が極端に難しく、全員25点未満だった場合です。この場合は、素点段階で全員最低ライン未満となって不合格が確定する。これは、その選択科目を選んだことが決定的に不利に作用したといえるでしょう。このように、特定の選択科目が極端に易しかったり、難しかったりした場合などでは、どの科目を選んだかが有利・不利に作用します。とはいえ、通常は、ここまで極端なことは起きないので、科目間の難易度の差は、それほど論文合格率に影響していないと考えることができるのです。
論文合格率についても、かつては倒産法がトップになるという傾向が確立していました。ところが、平成26年に初めて国際私法がトップになって以降、この傾向に変化が生じました。以下の表は、平成26年以降で論文合格率トップとなった科目をまとめたものです。
年 | 論文合格率 トップの科目 |
平成26 | 国際私法 |
平成27 | 経済法 |
平成28 | 倒産法 |
平成29 | 国際公法 |
平成30 | 経済法 |
令和元 | 倒産法 |
令和2 | 労働法 |
平成30年までは、倒産法がトップになったのは平成28年だけで、経済法が2回トップになっているものの、トップになる科目が安定しない結果でした。また、上位の科目については、論文合格率にそれほど大きな差が付かない状況が続いていました。昨年は、再び倒産法がトップとなり、しかも、他の科目にそれなりに差を付けました(「令和元年司法試験の結果について(10)」)。今年も、倒産法はそれなりに高い合格率です。しかし、労働法がこれを上回り、トップとなりました。一時期の流動的な状況と比較すると、倒産法の強さが戻ってきてはいるものの、かつてのような圧倒的な強さではない、という感じです。今年論文トップの労働法は、短答でも2位となっており、選択者も多いことから、安定感のある選択肢となっています。
一方、下位については、国際公法が圧倒的に論文合格率が低いという傾向で安定しています。今年も、圧倒的に低い合格率でした。平成29年に一度論文合格率トップとなっていますが、これは母数が少ないことによるイレギュラーな結果とみるべきでしょう。また、環境法は、国際公法と似た傾向で、今年も、国際公法に次ぐ低い合格率でした。「国際」・「環境」というキーワードに惹きつけられやすい層というのは、忍耐強く司法試験の学習を続けていくには向かない人が多いのかもしれません。ブレが大きいのが国際私法で、かつては国際公法と同様に低い合格率でしたが、近年は、前記のとおり、大学在学中の予備試験合格者の選択が増えたことで、むしろ合格率上位のグループに属する傾向となっていました。ところが、昨年・今年と続けて低い合格率に沈んでいます。短答の合格率も下がっているところからみて、予備組があまり選択しなくなったのかもしれません。倒産法・労働法の強さと併せて考えると、予備組の選択傾向が国際私法から倒産法・労働法に移った可能性もありそうです。