令和3年司法試験の結果について(11)

1.以下は、直近5年の選択科目別の最低ライン未満者割合、すなわち、その科目を選択して短答に合格した者に占めるその科目で最低ライン未満となった者の割合の推移です。

平成29 平成30 令和元 令和2 令和3
倒産 1.80% 2.77% 2.76% 2.39% 1.91%
租税 3.20% 2.92% 1.29% 0.49% 2.81%
経済 2.71% 1.33% 1.19% 4.25% 2.00%
知財 3.80% 7.06% 0.91% 3.30% 5.12%
労働 7.48% 0.63% 1.94% 3.20% 0.48%
環境 1.99% 0.54% 0.61% 0.87% 4.90%
国公 0.00% 0.00% 5.12% 3.03% 2.85%
国私 4.88% 2.63% 0.60% 2.11% 0.78%

 かつては、倒産法で最低ライン未満者が多いというのが、確立した傾向でした。短答・論文の合格率が最も高い傾向を示す倒産法で、最低ライン未満者が多数出ていることは、ある意味不思議な現象でした。当サイトでは、実力者が倒産法を選択しているという傾向がある一方で、倒産法の採点は厳しく、素点で最低ライン未満になる危険性が高いことから、倒産法を選択するということには、そのようなリスクがある、という説明をしていたのでした(「平成26年司法試験の結果について(10)」)。一方で、労働法は、毎年最低ライン未満者が少なく、その意味では安全な科目であるということができました。
 それが、最近では、年ごとに最低ライン未満者の多い科目が変動するようになってきました。平成29年は労働法、平成30年は知的財産法が突出して高い最低ライン未満者割合でした。令和元年は、国際公法(ただし、短答合格者39人中2人。)が高い数字となりました。そして、昨年は、租税法・環境法を除くすべての科目でそれなりの最低ライン未満者を出すという結果でした。
 今年は、知的財産法・環境法で高めの最低ライン未満者割合となりました。このように、年ごとに最低ライン未満者の多い科目が変動するというのが、最近の傾向です。現時点では、最低ライン未満になるリスクを考慮して選択科目を選ぶという考え方は、適切ではないといえるでしょう。

.選択科目ごとの素点の傾向をみてみましょう。以前の記事(「令和3年司法試験の結果について(9)」)でみたとおり、厳し目な採点がされやすい要注意の科目かどうかは、素点段階と得点調整後に最低ライン未満の得点となる者の数を比較すれば、ある程度わかります。以下は、素点段階の最低ライン未満者数と、得点調整後に最低ライン未満の得点となる者の数をまとめたものです。

素点
ベース
調整後
ベース
倒産 19
租税
経済 10 32
知財 19 27
労働 40
環境
国公
国私 10

 調整後の数字の方が小さくなっているのは、環境法だけですが、その差がほとんどないので、さほど気にする必要はないでしょう。かつては、倒産法で調整後の数字が小さくなることが多く、厳しい採点がされている可能性が高いという傾向がありましたが、現在では、そのような確立した傾向はみられなくなったので、選択に当たり採点傾向を考慮する必要もなくなったといえるでしょう。

3.上記のとおり、現時点では、選択した科目によって最低ライン未満となるリスクが高まったり、採点が厳しくなりやすい、という傾向は、ほとんどみられなくなりました。基本的には、自分の興味のある科目を選択すればよいと思います。学部やローで講義を受講できるかどうかも1つの要素ですが、特にこだわりがなければ、選択者の多い科目を選んでおくのが無難かもしれません。
 以下は、今年の選択科目別受験者数及びその全体に占める割合をまとめたものです。

受験者数 割合
倒産 437 12.9%
租税 277 8.2%
経済 639 18.8%
知財 486 14.3%
労働 1009 29.7%
環境 143 4.2%
国公 46 1.4%
国私 355 10.5%

 労働法が圧倒的に多く、3割近い受験生が選択しています。それ以外では、倒産法、経済法、知的財産法、国際私法が1割から2割の間の水準です。租税法、環境法は1割を下回るマイナー科目で、国際公法はその存在意義が疑われかねないほど選択者が少ない科目となっています。
 このような状況からすれば、特に好みがないなら、労働法を選択しておけばよいのかな、と思います。労働法は、選択科目の中でも、当サイトが繰り返し説明している、「規範と事実」のパターンにはまりやすい科目です。司法試験向けの教材が多く、必須科目と比べて論文の書き方に特殊な点がないという点からも、労働法は選択しやすい科目といえるでしょう。ただ、覚えるべき規範の量は、他の科目より少し多めです。
 覚える量が少ない科目としては、経済法国際私法が挙げられることが多いですが、それは必ずしも楽な科目であるということを意味しない点に注意が必要です。知識量で差が付きにくいということは、現場での事務処理の比重が上がるということを意味します。ちょっとした論点落ちや、当てはめの事実の抽出不足が致命的になりやすいという意味では、逆にリスクが高いともいえるでしょう。どちらの科目も、ややクセのある思考方法が必要だったりするので、的確な事例処理をするためには、相応の演習時間を確保する必要もあります(逆に、そのクセを体得すれば安定するともいえますが。)。その意味では、必ずしも勉強時間を確保しなくて大丈夫、というわけでもないのです。
 かつて、労働法より人気があったのが、倒産法でした。法科大学院で履修しやすい科目であったこと、民事系科目との親和性が強いことが要因だったのでしょう。しかし、前回の記事(「令和3年司法試験の結果について(10)」)で説明したとおり、倒産法は実力者が選択する傾向があるために、得点調整で不利になりやすいことや、かつて最低ライン未満者が毎年多かったこともあって、一時期は敬遠されがちな科目となっていました。もっとも、最近では、最低ライン未満者数もかつてほど多くはなくなってきています。倒産法は教材もそれなりに充実していて学習しやすいという面があり、また受験者が増えてくる可能性はありそうです。
 知的財産法もそれなりに人気がありますが、受験上の優位性というより、興味関心から選択者を集めているようです。また、知財に詳しい社会人受験生の選択も一定数ありそうです。それだけに、きちんと学習している人が多い印象で、他の科目より選択者のレベルがやや高いという印象です。

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