令和4年予備試験の出願者数について(1)

1.法務省から、令和4年司法試験予備試験の出願者数の速報値が公表されました。16145人でした。以下は、年別の予備試験の出願者数の推移です。

出願者数 前年比
平成23 8971 ---
平成24 9118 +147
平成25 11255 +2137
平成26 12622 +1367
平成27 12543 -79
平成28 12767 +224
平成29 13178 +411
平成30 13746 +568
令和元 14494 +748
令和2 15318 +824
令和3 14317 -1001
令和4 16145 +1828

 平成25年、平成26年と急激に増加した出願者数は、平成27年にいったん頭打ちとなり、これからは減少傾向に転じるのではないかとも思われました。ところが、平成28年から再び増加に転じ、それ以降は、一昨年まで、その増加幅を拡大させていたのでした。昨年は急激な減少となっていますが、これは新型コロナウイルス感染症の影響による一時的なものでした。今年は、出願期間中にいわゆる「第6波」の感染拡大が始まりました。出願期間は令和4年1月17日から同月28日まででしたが、同月17日の新規陽性者数は16860人、同月28日の新規陽性者数は82834人という状況でした(厚生労働省「国内の発生状況など」)。それでも、出願者は大幅に増加しています。一昨年と比較しても、827人の増加です。同感染症に関する状況やそれに対する各人の評価が変化し、受験に対する抵抗が薄れたという影響があるとしても、それだけでは、同感染症の発生前の水準より増加していることは説明ができません。平成28年以来続いている出願者の増加傾向を支える要因が、現在も強く作用しているということでしょう。それはどのようなものなのか。改めて確認してみましょう。

2.法曹になりたいと思う人には、法科大学院に入学するか、予備試験を受験するか、という2つの選択肢があります。このことを大雑把に数式化すると、以下のような関係となります。なお、予備試験出願者数から法科大学院在学中の者を除いているのは、既に法科大学院に通っている以上、新たな法曹志願者とはいえないからです。

 

 法曹志願者総数=予備試験出願者数(法科大学院在学中の者を除く。)+法科大学院入学者数

 

(1)まず、法科大学院入学者数に着目してみます。法曹志願者総数が一定で、法科大学院に入学する人が増えると、予備試験出願者は減少し、逆に法科大学院に入学する人が減ると、予備試験出願者が増えるというのが、単純な対応関係です。以下は、平成20年以降の法科大学院の実入学人員の推移です(「各法科大学院の平成28年度~令和2年度入学者選抜実施状況等」、「各年度修了者の令和3年までの司法試験合格状況」等参照)。

年度
実入学者数 前年比
平成20 5397 ---
平成21 4844 -553
平成22 4122 -722
平成23 3620 -502
平成24 3150 -470
平成25 2698 -452
平成26 2272 -426
平成27 2201 -71
平成28 1857 -344
平成29 1704 -153
平成30 1621 -83
令和元 1862 +241
令和2 1711 -151
令和3 1724 +13

 上記の入学者数の推移と、予備試験の出願者数が対応しているか、という目で見てみます。法科大学院の入学者数は、平成26年まで、一貫して下がり続けています。これに対して、予備試験出願者数は、平成25年、平成26年に大幅に増加していますが、平成24年はそれほど増加していない。これは、予備試験ルートの認知度が影響しています。予備試験が始まったのは平成23年ですが、当時の合格者数は116人にとどまっていました。そのため、当時はまだ、予備試験ルートを真剣に検討する人は、少なかったのです。それが、平成24年に合格者が219人とほぼ倍増したことから、「予備合格者は今後どんどん増える。予備ルートの方が近道だ。」と言われだした。そのために、平成25年から、どっと予備試験受験者が増えたのでした。このような経緯を踏まえると、平成25年、平成26年に、それまでの法科大学院入学者数の減少分を一気に吸収した結果が、予備試験の出願者数の推移に表れているとみることができるでしょう。法曹志願者のうち、法科大学院への入学を躊躇していた人が、予備にどっと流れたのが、この時期だったといえます。
 そのような流れが一時的に止まったのが、平成27年でした。この年は、法科大学院の実入学者数の減少が、わずかにとどまっています。これは、予備試験の出願者数が平成27年に一時的に減少に転じたことと符合しています。そして、平成28年になると、法科大学院の実入学者数の減少幅が、また拡大しました。予備の出願者数が増加に転じたことは、これと符合しています。
 しかし、平成29年以降は、この相関が希薄になっていきます。法科大学院の実入学者数は、徐々に下げ止まりの傾向となり、現在は横ばいといってよい状態です。一方、予備試験の出願者数は増加幅を拡大させていて、法科大学院の実入学者数の変動との対応はみられません。そうすると、近時の出願者数の増加傾向は、法科大学院の入学者数が減少したことによるものとはいえない、ということになるでしょう。

(2)次に、法科大学院在学中の予備試験出願者数をみていきます。以下は、法科大学院在学中の予備試験出願者数の推移です。

法科大学院在学中の
予備試験出願者数
前年比
平成23 282 ---
平成24 706 +424
平成25 1722 +1016
平成26 2153 +431
平成27 1995 -158
平成28 1875 -120
平成29 1678 -197
平成30 1548 -130
令和元 1499 -49
令和2 1543 +44
令和3 1255 -288

 平成26年までは、一貫した増加傾向です。特に、平成25年の増加幅が大きい。このことが、平成25年の予備試験の出願者の急増に対応しています。それが、平成27年になって、減少に転じました。平成27年は、予備試験の出願者も減少に転じていますから、この点でも、対応関係があるといえるでしょう。
 しかし、平成28年以降についてみると、昨年のイレギュラーな数字を除けば、そのような対応関係にはないことがわかります。平成28年以降の予備試験出願者の増加は、法科大学院在学中の出願者が増加したことによるものではないといえます。

3.以上のように、平成27年以前の予備試験出願者数の増減は、概ね法科大学院入学者数と法科大学院在学中の予備試験出願者の増減によって説明が付いたものの、直近の予備試験出願者の増加傾向については説明できないことがわかりました。法科大学院入学者と法科大学院在学中の予備試験出願者の増減によって説明できない予備試験出願者の増加は、法曹志願者総数の増加によって生じている平成27年くらいまでは、法曹志願者の総数に大きな変化はなく、法曹志願者が法科大学院入学を選ぶのか、予備試験受験を選ぶのか、という内訳が変動しているというだけでした。それが、最近では、新たに法曹を目指す人が、予備試験を受験しようとしているということです。
 ただし、これは必ずしも、法曹になりたいと思う若者が増えたということだけを意味していません。年齢別、職種別にみると、20代前半と大学生だけでなく、50代以降と有職者の受験者も増加傾向にあるからです(「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」、「令和3年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)。つまり、若者だけではなく、年配社会人の法曹志願者が増えたことも、予備試験の出願者の増加傾向に寄与している可能性が高いのです。「予備試験は専ら若者の抜け道として使われている。」などとよく言われますが、それとは異なる一面が、ここに表れているといえるでしょう。

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