1.口述試験結果の発表と同時に、参考情報として、短答、論文段階を含めた詳細なデータが公表されます。
以下は、直近5年の年齢層別の受験者数の推移です。
年齢層 | 平成30 | 令和元 | 令和2 | 令和3 | 令和4 |
19歳以下 | 76 | 107 | 100 | 151 | 125 |
20~24歳 | 3631 | 3791 | 3573 | 3952 | 4320 |
25~29歳 | 1297 | 1372 | 1200 | 1274 | 1422 |
30~34歳 | 1014 | 1079 | 962 | 1063 | 1177 |
35~39歳 | 988 | 1036 | 908 | 1057 | 1131 |
40~44歳 | 980 | 1006 | 899 | 941 | 1037 |
45~49歳 | 959 | 992 | 810 | 898 | 991 |
50~54歳 | 761 | 817 | 769 | 844 | 946 |
55~59歳 | 615 | 692 | 616 | 638 | 766 |
60~64歳 | 382 | 434 | 388 | 440 | 540 |
65~69歳 | 270 | 281 | 211 | 256 | 288 |
70~74歳 | 110 | 120 | 129 | 150 | 188 |
75~79歳 | 36 | 31 | 30 | 31 | 50 |
80歳以上 | 17 | 22 | 13 | 22 | 23 |
19歳以下を除き、すべての年代で受験者が増加しています。コロナ禍前の令和元年と比較しても、40代後半以外は受験者が増加しており、感染を恐れて受験を控えるという雰囲気ではなくなってきたといえるでしょう。20代がコロナ禍前より増加していることから、法曹コース、在学中受験等が、必ずしも若者の受験を抑制する結果にはなっていないことがわかります。一方で、70代以上の受験者数も堅調に伸びていることについては、なんともいいがたいものを感じます。
2.以下は、今年の年齢層別最終合格者数、受験者ベースの最終合格率等をまとめたものです。
年齢層 | 受験者数 | 最終 合格者数 |
最終合格率 (対受験者) |
19歳以下 | 125 | 2 | 1.60% |
20~24歳 | 4320 | 279 | 6.45% |
25~29歳 | 1422 | 67 | 4.71% |
30~34歳 | 1177 | 34 | 2.88% |
35~39歳 | 1131 | 39 | 3.44% |
40~44歳 | 1037 | 22 | 2.12% |
45~49歳 | 991 | 11 | 1.10% |
50~54歳 | 946 | 7 | 0.73% |
55~59歳 | 766 | 7 | 0.91% |
60~64歳 | 540 | 4 | 0.74% |
65~69歳 | 288 | 0 | 0% |
70~74歳 | 188 | 0 | 0% |
75~79歳 | 50 | 0 | 0% |
80歳以上 | 23 | 0 | 0% |
20代前半が最も高いものの、それでも7%に満たない合格率です。50代以降に関しては、ほとんど絶望的な数字になっている。「よくこんな試験受けてんな。」と、感じさせます。よく、「予備試験は抜け穴として安易に利用されている。」というような指摘がされがちですが、実際には針に糸を通すような非常に狭いルートであって、「法科大学院に行かなくても、予備ルートなら簡単に法曹になれる。」等と安易に考えて受験するのは、とても危険です。仕事をしながら予備ルートで法曹になる、というのは魅力のある選択肢ですが、受験するのであれば、相応の覚悟が必要です。今年、40代以上の受験者は4829人で、合格者は51人です。毎年51人合格するとして、4829人全員が合格するには、単純計算で95年程度を要します。何となく勉強を続けて毎年受験していれば、いつかは受かるだろう、というのは、とても甘い考えです。
3.前記2のとおり、受験者ベースの最終合格率をみると、20代前半が最も高いわけですが、短答・論文段階に分けて見てみると、見え方が違ってきます。以下は、年齢層別の短答合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。
年齢層 | 受験者数 | 短答 合格者数 |
短答合格率 (対受験者) |
19歳以下 | 125 | 10 | 8.00% |
20~24歳 | 4320 | 817 | 18.91% |
25~29歳 | 1422 | 270 | 18.98% |
30~34歳 | 1177 | 239 | 20.30% |
35~39歳 | 1131 | 247 | 21.83% |
40~44歳 | 1037 | 290 | 27.96% |
45~49歳 | 991 | 262 | 26.43% |
50~54歳 | 946 | 241 | 25.47% |
55~59歳 | 766 | 212 | 27.67% |
60~64歳 | 540 | 136 | 25.18% |
65~69歳 | 288 | 67 | 23.26% |
70~74歳 | 188 | 31 | 16.48% |
75~79歳 | 50 | 6 | 12.00% |
80歳以上 | 23 | 1 | 4.34% |
短答段階では、40代前半がトップであることがわかります。次いで50代後半。60代前半でも、25%を維持しています。最終合格率トップだったはずの20代前半は19%程度と、高齢受験者に及びません。19歳以下に至っては、8%程度で、70代後半(12%)にも劣る有様です。「はっはっは。甘いんじゃよ若造め。」と言われても、仕方のない結果だといえるでしょう。短答は単純に知識で差が付くので、苦節10年、20年と勉強を続けてきた高齢受験者が有利になるのです。仮に短答だけで合否を決する仕組みであれば、若手は合格することが難しい試験となっていたことでしょう。
4.それが、論文段階になると、全く違う景色になります。以下は、年齢層別の論文合格率(短答合格者ベース)等をまとめたものです。
年齢層 | 短答 合格者数 |
論文 合格者数 |
論文合格率 (対短答合格) |
19歳以下 | 10 | 2 | 20.00% |
20~24歳 | 817 | 283 | 34.63% |
25~29歳 | 270 | 70 | 25.92% |
30~34歳 | 239 | 35 | 14.64% |
35~39歳 | 247 | 39 | 15.78% |
40~44歳 | 290 | 22 | 7.58% |
45~49歳 | 262 | 12 | 4.58% |
50~54歳 | 241 | 7 | 2.90% |
55~59歳 | 212 | 7 | 3.30% |
60~64歳 | 136 | 4 | 2.94% |
65~69歳 | 67 | 0 | 0% |
70~74歳 | 31 | 0 | 0% |
75~79歳 | 6 | 0 | 0% |
80歳以上 | 1 | 0 | 0% |
短答では強かった高齢受験者が壊滅し、若手が圧倒的有利になっています。以前の記事(「令和4年司法試験の結果について(12)」)で説明した若手優遇策は、予備試験の論文式試験でも用いられているのです。法律の知識・理解だけで勝負させてしまうと、短答のように高齢受験者が有利になり、40代前半が最も受かりやすい試験になってしまう。「40代まで勉強を続けた者が一番受かりやすい試験」など、誰も受けたくないでしょう。だから、そのような年代層が受からないような出題、採点をする。具体的には、長文の事例問題を出題し、規範と事実、当てはめ重視の採点をするということです。規範も、判例の規範であれば無条件に高い点を付けるが、学説だとかなり説得的な理由を付していなければ点を付けない。若手は、とにかく判例の規範を覚えるので精一杯です。しかし、勉強が進んでくると、判例の立場の理論的な問題点を指摘する学者の見解まで理解してしまいます。「そうか判例は間違いだったのか。」と、悪い意味で目から鱗が落ちる。こうして、年配者は、「間違った」判例ではなく、「正しい」学説を書こうとします。この傾向を逆手に取れば、若手優遇効果のある採点ができるというわけです。この採点方法は、「理論と実務の架橋という理念からすれば、まず判例の立場を答案に示すことが求められる。」という建前論によって、正当化することができる点でも、優れています。このことを知った上で、正しく対策をしないと、知識・理解をどんなに深めても、合格することは極めて困難になります。一方で、正しく対策し、訓練すれば、高齢受験者でも、不利を克服できることがわかっています(「令和4年司法試験の結果について(8)」)。前にも説明したとおり、漫然と受験を繰り返すだけでは、計算上、40代以上の受験者は合格に95年かかっても不思議ではない。合格に必要とされる知識・理解の程度は、19歳以下でも習得できるレベルになっているのが現状です。その程度の知識・理解を習得した後に合否を分けるのは、配点の高い規範と事実を重視した答案スタイルと、それを最後まで書き切る筆力です。意識して答案スタイルを変え、限られた時間で必要な文字数を書き切るだけの訓練をすることが必要です。「こんなことは法曹に必要な能力なのか。」とか、「こんな非本質的な作業はつまらない。」等と思っているうちは、合格は極めて難しいでしょう。