問題文から論点構造を読み取る
(令和5年司法試験公法系第1問)

 今年の憲法は、問題文が長文である反面、丁寧に書くべき論点を明示してくれているので、素早く、かつ、適切に書くべき論点を読み取ることができたかで、差が付くでしょう。
 論点は大きく分けて2つ、すなわち、年齢要件の問題と、旧遺族年金の受給資格喪失の点であることは、資料1のXの第3発言から読み取れます。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

X:まず、死亡した被保険者によって生計を維持してきた配偶者が、被保険者死亡時に、一定の年齢以上でなければ遺族として新遺族年金を受給できないとされていることが、憲法上問題となります。妻の場合、現行制度では年齢に関係なく遺族年金を受給できますが、新制度案では、被保険者死亡時に40歳以上でないと受給が認められなくなります。例えば、妻が39歳の時に夫が死亡した場合には、妻は40歳になっても受給資格は得られません。夫の場合には、被保険者死亡時に55歳以上でなければ受給できません。それから、現行制度の下で遺族年金の給付を受けている人が、新遺族年金の受給資格要件を満たさない場合、経過措置はあるものの、受給資格を喪失するとしている点も、憲法違反でないかが問題となります

(引用終わり) 

 

 そして、年齢要件の問題は、年齢要件そのものの合憲性と、年齢要件の男女格差の合憲性に分かれていることが、甲の第4発言及びXの第6発言から読み取れるでしょう。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

甲:なるほど。では、遺族の範囲から検討していきましょう。まず、配偶者について一定の年齢以上でないと受給者として認めていないことですが、Bさんの説明では、被保険者の死亡後の遺族の生活を守るという遺族年金の趣旨を踏まえつつも、遺族が就労によって自ら収入を確保することを促進することを目的とするものだとのことです。これまで被保険者の収入によって生活をしてきた人について、就労して収入を得るようになってもらいたいが、年齢が高くなると職を得ることが難しくなるので、遺族年金を支給する、という考え方ですね。特に、女性の就労促進が期待されているように思います。

 (中略)

X:それから、男性と女性とで受給資格が認められる年齢について区別をしていることも問題となります。夫は妻の場合よりも15歳も年齢が高くなくては遺族年金を受給できないというのは、男性は十分な収入を得ることができる職に就いて働くものだが、女性はそうでない、という男女の役割についてのステレオ・タイプの発想に基づいている疑いがあります。

(引用終わり)

 

 甲の第4発言において、「遺族の範囲から検討していきましょう」とされていますが、この「遺族の範囲」は、資料2の骨子第3の表題に対応するものです。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

第3 遺族の範囲

 遺族年金を受けることができる遺族の範囲は、被保険者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、子又は父母であって、被保険者の死亡の当時その者によって生計を維持していたものとする。ただし、次に掲げる要件に該当した場合に限る。

1 妻については、被保険者の死亡のとき40歳以上であること。

2 夫又は父母については、被保険者の死亡のとき55歳以上であること。

3 子については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと。

(引用終わり)

 

 こうしたことを読み取ることができれば、答案構成の大枠は、概ね以下のようになることがわかるでしょう。当サイト作成の参考答案(「令和5年司法試験論文式公法系第1問参考答案」)も、この構成に依っています。

【答案構成例】

第1.設問1

1.遺族の範囲(骨子第3)

(1)年齢要件そのもの

(2)年齢要件の男女格差

2.旧遺族年金受給者の受給資格喪失

第2.設問2

1.遺族の範囲(骨子第3)

(1)年齢要件そのもの

(2)年齢要件の男女格差

2.旧遺族年金受給者の受給資格喪失

 細かいことを考える前に、この大枠の構造を把握することができたか。これが、本問の入り口におけるポイントの1つです。

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