弁明手続の意味
(令和5年司法試験公法系第2問)

1.今年の行政法設問1(1)では、以下の誘導の使い方で悩んだ人が多かったでしょう。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

弁護士E:そうですか。ただ、本件解職勧告に関しては、法第56条第9項により、「弁明の機会」が設けられています弁明手続は、処分に関して設けられることが多いようにも思うのですが。

弁護士F:しかし、行政手続法第13条第1項第1号の聴聞手続の対象を見ると、本件解職勧告が処分として法定されているとは一概には言えないかもしれません。

(引用終わり) 

 

 まず、気付くべきは、行手法上、弁明手続は不利益処分をしようとする場合の手続の1つとされている、ということです。

(参照条文)行政手続法13条(不利益処分をしようとする場合の手続)

 行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。

 一 次のいずれかに該当するとき 聴聞

  イ~ニ (略)

 二 前号イからニまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与

2 (略)

 「弁明手続は、処分に関して設けられることが多い」ということの意味は、概ねこれを指しているのだろう、ということは、現場でもすぐ判断できるでしょう。
 問題は、「しかし、行政手続法第13条第1項第1号の聴聞手続の対象を見ると、本件解職勧告が処分として法定されているとは一概には言えない」の部分です。とりあえず、素直に行手法13条1項1号を見てみましょう。

(参照条文)行政手続法13条(不利益処分をしようとする場合の手続)

 行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。

 一 次のいずれかに該当するとき 聴聞

  イ 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
  ロ イに規定するもののほか、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。
  ハ 名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分、名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。
  ニ イからハまでに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。

 二 前号イからニまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与

2 (略)

 「ヤバイのが列挙されとる。」ということに気付く。ここで、「弁明手続は、しようとする不利益処分が軽微であることから、聴聞手続より簡易な手続で足りるとする趣旨で設けられたものだったよね。」という知識を思い出した人もいたでしょう。この程度までは、初学者でも現場で気付きたいところです。ここまで気付いただけでも、最低限、当サイト作成の参考答案(その1)のレベルのものは書けたのではないかと思います。このレベルが書けなかった人は、「現場の頑張りが足りない。」と言われても仕方がないでしょう。

(参考答案(その1)より引用)

(イ)解職勧告に「弁明の機会」(同条9項)が設けられているから、処分性が認められるとの見解が想定される。
 確かに、弁明手続は処分に関して設けられることが多い(行手法13条1項2号)。
 しかし、同法13条1項1号の聴聞手続の対象をみると、重大なものであり、弁明手続の対象は軽微といえる。したがって、弁明手続が設けられただけでは処分として法定されたとはいえない。

(引用終わり)

2.ここから先は、やや上級者向けです。会議録のヒントは、行手法13条1項1号までしか教えてくれていませんが、イロハニを落ち着いて1つ1つ読めば、重要なのは、そのうちの「ハ」であることに気付くでしょう。

(参照条文)行政手続法13条(不利益処分をしようとする場合の手続)

 行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。

 一 次のいずれかに該当するとき 聴聞

  イ 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
  ロ イに規定するもののほか、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。
  ハ 名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分、名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。
  ニ イからハまでに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。

 二 前号イからニまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与

2 (略)

 普通の人は、イロハニを「ざっくり斜め読み」するだけで、個別に1つ1つ読まないので、通常はこれに気付かない。ある程度の余裕があって初めて、「あれっ『役員の解任を命ずる不利益処分』って本問と関係ありそうじゃね?」というところまで意識が回るわけですね。このようなことは、演習慣れしていないと気付きにくいでしょう。「論証集グルグル」のようなインプット重視では対応できない部分です。
 仮に、今回の役員解職勧告に何らかの法効果、より具体的には、相手方であるAに、「Cを解職しなければならない。」という義務(遵守義務)を発生させる効果がある(※1)とすれば、それは実質において役員解職命令といえるので、行手法13条1項1号ハの「名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分」に当たるのではないか。そうであれば、聴聞手続を要するはず。聴聞手続でなく弁明手続で足りるとしているということは、解職勧告に法効果がないことを前提にしているといえるのではないか。このことに気が付けば、これは法効果を否定する文脈で使うべき話なんだ、ということがわかるでしょう。当サイト作成の参考答案(その2)は、このような理解に立っています。
 ※1 このように、相手方に一定の義務(作為義務・不作為義務・受忍義務)を負わせる行政行為を、講学上、「下命」と呼びます(不作為義務を負わせる場合を区別して「禁止」、「禁止下命」と呼ぶこともある。)。「命令」の語を用いないのは、「命令」の語は法規命令(委任命令・執行命令)を指す言葉として用いられるからです(行手法2条1号、8号イ参照)。

(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

(1)法56条7項は行政指導を指す文言である「勧告」を用い、不遵守に対する罰則規定はない。解職勧告によって遵守義務が発生するとすれば、下命(解職命令)の性質を有するから聴聞を要する(行手法13条1項1号ハ)はずであるが、法56条9項は弁明手続で足りるとするから、遵守義務は発生しないことが前提とされている

(2)したがって、解職勧告の性質は法的効果のない行政指導(行手法2条6号、32条1項)であって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものでないから、狭義の処分に当たらない(医療法勧告事件判例における藤田宙靖補足意見参照)。

(引用終わり)

 ちなみに、弁明手続があるからといって、処分とする趣旨とは限らないことについては、行手法36条の2第1項ただし書からも読み取れます。

(参照条文)行政手続法

2条(定義)

 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 一 (略)

 二 処分 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう

 三~五 (略)

 六 行政指導 行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。

 七、八 (略) 

 

36条の2(行政指導の中止等の求め)

 法令に違反する行為の是正を求める行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)の相手方は、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと思料するときは、当該行政指導をした行政機関に対し、その旨を申し出て、当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることができる。ただし、当該行政指導がその相手方について弁明その他意見陳述のための手続を経てされたものであるときは、この限りでない。

2、3 (略)

 弁明手続は、不利益処分をしようとする場合だけでなく、行政指導をしようとする場合にも、されることのある手続です。なので、「弁明手続は不利益処分の事前手続だから、弁明手続がある以上は処分なんだ。」というゴリ押しの論述は、評価を下げるでしょう。

3.解職勧告を処分でないと考えると、法56条9項は特に弁明手続を要する旨を定める規定(創設規定)としての意味を持ちます。他方、解職勧告を処分と考えると、行手法13条1項2号で弁明手続が必要となる(※2)ので、法56条9項は確認規定の意味しかないことになる。行手法制定当時の政府の考え方は、前者でした。
 ※2 社会福祉法人は行手法4条2項の適用除外対象とはされていない(同法施行令1条)ので、行手法がそのまま適用されます。

行政手続法の施行及び関係法令の改正について(平6・10・3社援企第129号各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生省社会・援護局長通知)より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 行政手続法は、平成5年11月12日法律第88号をもって公布され、「行政手続法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律」(平成5年法律第89号)、「行政手続法施行令」(平成6年政令第265号)、「行政手続法及び行政手続法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令」(平成6年政令第303号)、「行政手続法及び行政手続法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律の施行に伴う関係省令の整理に関する省令」(平成6年厚生省令第60号)とともに、平成6年10月1日から施行されたところである。
 これに伴う当局所管に係る関係法令の改正の概要は次のとおりであるので留意されたい。

第1 社会福祉事業法(※注:平成12年法律第111号による改正前の題名)の一部改正

(1) 社会福祉法人に対する業務停止命令等に係る事前手続について、行政手続法の規定が一般的に適用されることとなるため、重複規定の削除等を行ったこと。(第54条、第56条、第68条、第70条、第70条の12、第70条の15及び第70条の20関係)

(2) 社会福祉法人の役員解職勧告及び補助金・貸付金返還命令に係る事前手続について、弁明の聴取等の現行手続を特例として存置したこと。(第54条及び第56条関係)

 (以下略)

 もっとも、近時の判例の傾向を踏まえれば、これを処分とみる余地は十分あります。当サイト作成の参考答案(その2)は、そのような理解に立って、当時の政府見解とは異なり、処分性を肯定する立場を採用しています。 

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