本件解職勧告の違法は除外されていないが
(令和5年司法試験公法系第2問)

1.今年の行政法設問2(2)。多くの受験生が、「本件解職勧告の違法は検討対象から除外されている。」と誤解して解答していたのではないかと思います。それは、問題文に以下のような記載があるからです。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

(2) 本件取消訴訟において、Aはどのような違法事由を主張すべきか、想定されるB県の反論を踏まえて、検討しなさい。解答に当たっては、本件改善勧告及び本件改善命令が適法であること、並びに本件解散命令に手続的違法はないことを前提にしなさい

 (中略)

弁護士E:次に、本件取消訴訟の本案部分を検討しましょう。B県は、本件解散命令に関して法第56条第8項が定める解散命令の要件を満たす旨の理由を提示しています。Aは、AのDへの貸付けが法第27条で禁止されている行為に該当することを認めており、また、本件改善勧告及び本件改善命令の適法性を争うつもりもありません。以上を踏まえて、Aとしては、本件解散命令の違法事由として何を主張することになりますか。

(引用終わり) 

 上記記載を斜め読みすると、「あー(本件解職)勧告の違法は書かなくていいのね。」となる。ちょっとよく見て欲しい。除外されているのは、「本件『改善』勧告」です。「本件解職勧告」は、除外されていない。設問2(2)及び会議録の記載から形式的に判断するなら、「本件解職勧告は違法であり、これを重視してされた本件解散命令は違法である。」という構成が解答としてあり得るのです。

2.もっとも、本件解職勧告の違法性については、直接の配点はないんじゃないかな、というのが、当サイトの判断です。理由は3つ。
 1つは、会議録の記載です。仮に、本件解職勧告の違法性の検討が求められているのであれば、それを示唆する記載をするでしょう。本件解職勧告に関する会議録の記載は、違法性の検討というよりも、他事考慮を示唆しています。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

弁護士F:はい。本件解散命令は、法第27条違反及び本件改善命令違反を理由とするものですが、Cが退任しないならばAには適正な法人運営が期待できず、「他の方法により監督の目的を達することができない」として、直ちに本件解散命令を選択したB県知事の判断には問題があると主張することができると考えます。C自身はAの運営改善に向けて努力はしており、今回の貸付けの事実経緯も一部判明してきたようです。また、B県知事は、今回の不正がDに起因することを認識しているにもかかわらず、本件解職勧告の拒否を本件解散命令において重視しているようなので、Cがこれに反発するのは無理もありません。

弁護士E:御指摘の点は、本件解散命令を選択したB県知事の判断が正しかったのかどうかに影響しそうですね。ところで、法第56条の監督措置に関して処分基準はあるのでしょうか。

(引用終わり) 

 もう1つは、設問1(1)との関係です。仮に、本件解職勧告の違法性を検討するとなれば、公定力や違法性の承継との関係が絡んできます(※)。設問1(1)で本件解職勧告に処分性を認めるのか、そうでないのかによって、検討すべき事項が変動する。処分性肯定の人だけ、公定力や違法性の承継を論じなければならないとすれば、配点の置き方等で色々と取扱いが面倒になります。本件解職勧告の違法性の検討を求めるのであれば、会議録において、「本件解職勧告は処分でないものとして」等の記載をして、公定力や違法性の承継との関係は検討しなくていいよ、という示唆をするのが普通でしょう。会議録にはそんな記載はないわけなので、まあ検討の対象にはなっていないよね、という感じです。
 ※ 本件解職勧告には法効果はないので、現代行政法学の立場からは公定力や違法性の承継は問題にならなそうですが、処分性を認めるということは事実上の通用力を認めたということであり、それを取消訴訟で排除しなくてよいのか、というややこしい話を含んでいます。

 3つ目の理由は、他事考慮で検討する場合、適法か違法かはあまり関係がない、ということです。もちろん、違法な行政指導を重視したらヤバいのでしょうが、適法であっても、処分要件と関係の薄い事項であれば他事考慮に変わりがありません。その意味では、本件解職勧告の違法性は、検討の実益が薄いといえます。

3.そんなわけで、当サイトの参考答案(その2)では、少し微妙な書き方をしたのでした。

(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

(2)解散を命じなかった例では、貸付金が回収されるなど、改善措置が採られたが、Aは改善命令の期限までに改善措置を採らなかった以上、直ちに解散命令をしても著しく妥当性を欠くとまではいえないとのB県の反論が想定される。
 しかし、本件貸付金はその例より5000万円少ない。加えて、B県知事は、今回の不正がDに起因することを認識しているにもかかわらず、本件解職勧告の拒否を本件解散命令において重視した。一般に、解職勧告不遵守が解散命令の考慮要素となるとしても、本件解職勧告については、Cが退任してもDの態度が変わらない限り改善措置を期待できないから、本件解職勧告拒否は監督目的達成を直接左右しない。その点で本件解職勧告は手段の必要性・相当性を欠く違法の疑いがあるが、仮に適法であるとしても、これを重視して解散命令をすることは他事考慮である。他方で、上記(1)に示した事情を十分に考慮すれば、現時点で改善措置がなくても、将来採られる蓋然性があると判断でき、上記解散を命じなかった例と同様の評価に至る可能性があったのに、B県知事は十分に考慮しなかった。考慮不尽である。考慮不尽・他事考慮がなければ異なった結論に至る可能性があった以上、上記反論を踏まえても、本件解散命令は社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたといえる。

(引用終わり)

 結論として、本件解職勧告の違法性は正面から検討する必要はないし、逆に、本件解職勧告の違法性を大展開してしまうと、他の論述の余裕を失いやすく、評価を下げる可能性が高い。結果論ですが、「本件解職勧告の違法性の検討は除外されている。」と誤解した人の方が、悩みが少なくてよかった、ということになりそうです。

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