消滅請求の認定・単独行使
(令和5年司法試験民事系第1問)

1.今年の民法設問1では、Bの下記発言が、配偶者短期居住権消滅請求(1038条3項)の意思表示といえるのかが問われました。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

3.甲建物の改築及び1階部分での開店の事実を知ったBは、令和5年8月10日、Dに対し、「あなたには甲建物に住む権利はない。直ちに出て行くように。」と述べた。

(引用終わり) 

 

(参照条文)民法1038条(配偶者による使用)

 配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。
2 配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。
3 配偶者が前2項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる

 

 合否を分けるのは、消滅請求に気付いて、上記発言を摘示し、消滅請求があった旨を答案に書けるかという点。上位か否かを分けるのは、Bの発言は、「民法第1038条3項に基づいて消滅請求スル!」のようなダイレクトなやつじゃないよね、という点に気が付いて、軽く意思解釈の当てはめをしたか否かです。具体的には、当サイトの参考答案(その2)のような感じです。

(参考答案(その2)より引用)

 Bは、同年8月10日、Dに「あなたには甲建物に住む権利はない。直ちに出て行くように。」と述べた。消滅請求(同条3項)の意思表示と評価できるか。
 確かに、上記発言は居住権の発生自体を認めない趣旨で、一度発生した居住権を消滅させる趣旨でないともみえる。しかし、前記1のとおり、客観的にDの居住権が発生しており、Bが甲建物改築及び1階部分での開店の事実を知って上記発言をしたことから合理的に解釈すれば、上記発言は消滅請求の意思表示と評価できる。

(引用終わり)

 

 筆力に自信があれば、こういうところを丁寧に認定できるので、上位になりやすいのです。筆力に自信がないと、無理はできないので、結論だけになる。合格レベルという意味ではそれで足りますが、上位を狙いたいのであれば、このような細かい認定をしても時間不足にならない程度の筆力を身につける必要があります。

2.加えて、応用論点として、「配偶者短期居住権消滅請求は、居住建物の共有持分権者が単独行使できるか。」というものがあります。共有建物の賃貸借の場合に共同賃貸人が解除するには管理として持分過半数が必要だったよね、という知識を想起できれば、「解除と消滅請求って似てるよね。」という発想で気が付いた人もいたかもしれません。実際のところ、消滅請求は、配偶者短期居住権が法定債権であって、契約の規定である解除の規定が適用されないことから、解除に代わるものとして規定されたものでした。

法制審議会民法(相続関係)部会第24回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

笹井朋昭(法務省民事局参事官)幹事 賃貸借や使用貸借につきましては……(略)……債務不履行の規定を通じて解除ができるということになるわけですけれども,居住権につきましては契約ではないので,解除というものがございません。そのために,それに代わるものとして消滅請求を設けたわけです

(引用終わり)

 だからといって、単純に共同賃貸人の解除と同様に考えてよいかというと、そうではない。消滅請求の場合に持分過半数が必要だと考えると、おかしなことになるからです。配偶者は、法定相続分に従えば、大体半分の持分を持っています。仮に、持分過半数が必要だとすると、配偶者がやりたい放題やっても、半分の持分を持つ配偶者が反対すれば、消滅請求できない(※)。これでは、消滅請求を認める意味がありません。この点に現場で気が付けば、これは保存行為として単独行使できるってすべきだよね、という立案担当者の見解と同じ結論に至り得るのですが、まあ現場でそれができる人は、ほとんどいないでしょう。
 ※ 下記引用の部会資料では、配偶者以外の相続人の意見が一致しない場合が例として挙がっていますが、これは、別案として、「配偶者以外の相続人の共有持分の過半数をもって決する。」という規定を置く考え方が念頭に置かれていたためです(「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」6頁(PDFファイルでは9頁)参照)。そのような規定がない現行法で持分過半数を要求すると、権利濫用等の法理を用いない限り、配偶者が反対しただけで消滅請求できないという帰結に至ります。

「配偶者の居住権を保護するための方策等」(民法(相続関係)部会資料15)より引用。太字強調は筆者。)

 短期居住権の趣旨は,配偶者が相続開始を契機として早期の建物退去を迫られる事態を防止することにあり,かつ,配偶者は短期居住権の取得により無償で当該建物に居住することができるという利益を得ることからすれば,配偶者が用法遵守義務に違反している場合にまで短期居住権による保護を図る必要はなく,むしろ,遺産の一部である当該建物の資産価値が毀損されることを防止する観点から,短期居住権を早期に消滅させて当該建物の資産価値を保全する必要性が高いものと考えられる。その意味で,用法遵守義務違反を理由とする消滅請求については,保存行為としての性格を有するものも含まれ得ると考えられる。
 また,仮に消滅請求に当たって持分の過半数を要求するものとした場合には,例えば,相続人間で感情的な対立がある事案(例えば,配偶者のほか子2人が相続人である場合に,2人の子の間で感情的な対立がある場合等)において,他の相続人が消滅請求をすることが事実上困難となることも懸念される。
 以上を踏まえ,本部会資料においては,中間試案と同様,他の相続人が各自短期居住権の消滅請求をすることができるとしているが,この点についてどのように考えるか。

(引用終わり)

 

 答案に書くとすると、当サイトの参考答案(その2)のような感じになるでしょう。

(参考答案(その2)より引用)

 共同賃貸人による賃貸借契約解除は管理に当たり、持分過半数を要する(252条1項前段)が、消滅請求も同様に持分過半数を要するか。
 確かに、1038条3項の消滅請求は、居住権が法定債権で直接には契約の規定が適用されず、解除はできないことから認められたもので、解除と同様の機能を有する。
 しかし、賃貸借は有償契約で、その解除は他の共有者の賃料を受ける利益を失わせるから管理として持分過半数を要するが、居住権は無償で消滅請求は単に他の共有者の義務を免れさせるだけであるし、配偶者の用法遵守義務違反から建物価値を保全するから、保存行為といえ、各共有者は単独行使できる(252条5項)。
 したがって、Bは持分過半数を要せず単独行使できる。

(引用終わり)

 

 しかし、ここは書く人がほとんどいないので、配点はとても低いでしょう。こんなところに高い配点を置いてしまうと、適切な平均点、得点分布を実現できません。なので、このようなものは、書くのが大変な割に、書いてもほとんど加点されない。1文字当たりの得点効率がとても悪いということです。配点の高い基本部分を書いても時間が余る、という筆力自慢の上位者は、このようなものをいくつか書いて、細かい加点を積み重ねることで上位になっていきます。これを一般人が真似しようとすると、設問3を書き切れずに時間切れになって、合格レベルにも達しなくなる。「良い子はマネしない。」というやつです。

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