1.今年の民法設問1(1)で、「Dが1階を勝手に改築して惣菜屋にしたのは「変更」に当たり、D単独ではできない行為である。したがって、B単独で明渡請求できる。」と考えた人がいたかもしれません。しかし、結論からいうと、それは適切とはいえません。
2.まず、問題なのは、「Dが単独ではできない行為をしたから」という点。そもそも、少数持分権者が勝手に共有物を単独使用する行為自体、「単独ではできない行為」です。最判昭41・5・19は、そのような場合でも、当然には(※)他の持分権者が単独で明渡請求をすることはできないとしているのです。
※ これが、「管理に係る持分過半数の決定によらないで」という趣旨であることは、令和3年法律第24号による改正後の252条1後段によって明確にされました。
(最判昭41・5・19より引用。太字強調は筆者。) 共同相続に基づく共有者の一人であつて、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(以下単に少数持分権者という)は、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物(本件建物)を単独で占有する権原を有するものでないことは、原判決の説示するとおりであるが、他方、他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて(以下このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することができるものではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によつて、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従つて、この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。 (引用終わり)
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なので、「Dは協議を経ないで勝手に変更をする権原はないのだから、B単独で明渡請求できる。」という論理は、成立しないのです。
「えー、それじゃあ、Dはやりたい放題じゃん。」と思うかもしれません。しかし、Dは惣菜屋やりたい放題というわけではない。Bは、共有持分権に基づいて、単独で原状回復請求をすることができるからです。店舗への改築が変更行為に当たるということは、ここで意味を持ちます。
(最判平10・3・24より引用。太字強調は筆者。) 共有者の一部が他の共有者の同意を得ることなく共有物を物理的に損傷しあるいはこれを改変するなど共有物に変更を加える行為をしている場合には、他の共有者は、各自の共有持分権に基づいて、右行為の全部の禁止を求めることができるだけでなく、共有物を原状に復することが不能であるなどの特段の事情がある場合を除き、右行為により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めることもできると解するのが相当である。けだし、共有者は、自己の共有持分権に基づいて、共有物全部につきその持分に応じた使用収益をすることができるのであって(民法249条)、自己の共有持分権に対する侵害がある場合には、それが他の共有者によると第三者によるとを問わず、単独で共有物全部についての妨害排除請求をすることができ、既存の侵害状態を排除するために必要かつ相当な作為又は不作為を相手方に求めることができると解されるところ、共有物に変更を加える行為は、共有物の性状を物理的に変更することにより、他の共有者の共有持分権を侵害するものにほかならず、他の共有者の同意を得ない限りこれをすることが許されない(民法251条)からである。もっとも、共有物に変更を加える行為の具体的態様及びその程度と妨害排除によって相手方の受ける社会的経済的損失の重大性との対比等に照らし、あるいは、共有関係の発生原因、共有物の従前の利用状況と変更後の状況、共有物の変更に同意している共有者の数及び持分の割合、共有物の将来における分割、帰属、利用の可能性その他諸般の事情に照らして、他の共有者が共有持分権に基づく妨害排除請求をすることが権利の濫用に当たるなど、その請求が許されない場合もあることはいうまでもない。 (引用終わり) |
逆にいえば、「勝手に変更行為がされても、原状回復請求ができるだけで、明渡請求はできない。」のです。もっとも、本問では、原状回復請求の可否は問われていませんから、このことを正面から解答する必要はありません。
3.では、例外的に明渡請求が認められる場合が全然ないかというと、そうでもない。それは、一部の共有者による単独使用の継続によって、共有物の価値がどんどん下がっていくような場合です。その場合は、そいつの占有を排除しない限り、共有物がどんどん減価していくわけだから、明渡請求が保存行為の性質を有するに至るからです。このことは、配偶者短期居住権の文脈でも当てはまります。
(「補足説明(要綱案のたたき台(4))」(民法(相続関係)部会 資料 25-2)より引用。太字強調は筆者。下線は原文による。) 従前は,短期居住権が消滅した場合には配偶者は居住建物の返還義務を負うとするものであり,返還義務を負う場合について特段の限定を設けていなかった。しかし,配偶者が居住建物の共有持分を有するときは持分に応じて居住建物の全部を使用することができ(民法第249条),共有持分の過半数を超える者でも配偶者に対して当然に居住建物の明渡しを請求することができるわけではない(注1)。配偶者が共有持分を有し,かつ,短期居住権を有していた場合に,短期居住権が終了すると他の共有者に対して返還義務を負うとすることは,配偶者が共有持分のみを有していた場合と均衡を失すると考えられる。 そこで,本部会資料では,配偶者が居住建物の共有持分を有する場合には,短期居住権が消滅した場合であっても,配偶者は居住建物の返還義務を負わないこととし,この場合の法律関係については,一般の共有法理に委ねることとした(注2)。 (注1)最判昭和41年5月19日民集20巻5号947頁 共同相続に基づく共有者の一人であつて,その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(以下単に少数持分権者という)は,他の共有者の協議を経ないで当然に共有物(本件建物)な単独で占有する権原を有するものでないことは,原判決の説示するとおりであるが,他方,他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると,その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて(以下このような共有持分権者を多数持分権者という),共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し,当然にその明渡を請求することができるものではない。けだし,このような場合,右の少数持分権者は自己の持分によつて,共有物を使用収益する権原を有し,これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従つて,この場合,多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには,その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。 (注2)例えば,配偶者が善管注意義務に違反して居住建物を使用しており,その使用の継続を認めることにより,建物の価値を減少させるおそれがあるような場合には,他の共有持分権者は,建物の明渡しを求めることができる場合もあり得るものと考えられる。 (引用終わり) |
ここで大事なことは、過去に「変更」に当たる行為があったか否か、ではなく、現在の態様による使用の継続によって共有物の価値が減少するか、ということです。本問では、改築は既に終わっていて、Dの惣菜屋営業については、それが継続したから甲建物がどんどん減価する、という事情は見当たりません。そうすると、上記の考え方によっても、明渡請求は認められないということになるでしょう。
4.以上のことを踏まえると、Dが勝手に改築した行為に着目した論述をするとすれば、「変更だから明渡請求できる。」とするのではなく、当サイトの参考答案(その2)のように書くべきことがわかるでしょう。
(参考答案(その2)より引用)
使用継続によって建物価値が減少する場合には、使用者に対し、直ちに明渡請求することが建物価値保全に必要といえるから、明渡請求は保存行為といえ、各共有者が単独でできる(252条5項)。 (引用終わり)
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