1.今年の商法設問1小問1の間接取引(356条1項3号)該当性。以下の論述例を見て下さい。
【論述例】 「利益が相反する取引」(356条1項3号)とは、外形的・客観的にみて、取締役に利益が生じ、会社に不利益を及ぼす取引行為をいう。 |
上記の論述例は、問題文の事情を丁寧に拾って、評価も付しつつ書いています。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 3.Aは、平成29年夏頃、Aの住居に隣接する土地(以下「本件土地」という。)を所有するEとの間でトラブルとなり、それを解決するため、Eから本件土地を買い取るよう要求されるようになった。Aは、そのような要求に応じる義務はないと考えたが、今後平穏に暮らしていくためにはEとの関係を断つのがよいと考え、Eの要求に応じることにした。Aは、自身で本件土地を買い取るための資金を調達することは難しいと考え、甲社に本件土地を買い取らせることにした。
4.Eは、本件土地の代金として5000万円を提示してきたので、Aは、その金額で本件土地を買い取ることにした。もっとも、近隣の不動産の相場に照らせば、当時の本件土地の評価額は高く見積もっても1000万円程度であり、Aもそのことを知っていた。Aは、平成29年10月2日、甲社を代表して、Eとの間で、本件土地を5000万円で購入する契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、本件土地の所有権移転登記手続を受けるのと引換えに代金5000万円を支払った。なお、甲社においては、本件売買契約の締結に先立ち、取締役会の決議等の会社法所定の手続が行われた。 (引用終わり)
|
「う~ん、丁寧な当てはめだねぇ。言うことなし!」と思った人は、大事なことを見落としています。上記のような論述をしてしまえば、予想外の低い評価になることもあり得るでしょう。
2.なぜか。自分で明示した規範と、当てはめが論理的に対応していないからです。上記論述例は、「外形的・客観的にみて」という限定を加えているのに、当然のようにAE間のトラブル等の経緯を考慮している。これらの経緯は、どうみても純粋な内部事情で、本件売買契約の外形から客観的に読み取れるものではありません。それにもかかわらず、簡単にこれを考慮して間接取引該当性を認めてしまっているので、「外形的・客観的にみて」という限定を加えた規範の意味を全然理解していないと判断されるというわけです。
3.間接取引該当性のような基本事項で、しかも、「外形で判断するか否か」というような規範の主要部分において当てはめが対応していないと、本試験では、予想以上に厳しい評価になることがあります。筆力自慢でモリモリ当てはめる若手がやられてしまう例外場面の1つです(※1)。自分では自信があったのに、思った以上に低い評価だった、というときは、このような点も再確認してみるとよいでしょう。予備校答練等の採点では、この辺が軽視されがちで、規範と当てはめが対応していなくても、「丁寧です!GOOD!」とか、「もう少し接続詞を使ったり一文を短くして読みやすくすれば(※2)合格答案です。あと一歩です。頑張って下さい。」などとコメントされたりする。このようなことも、答練等と本試験の違いの1つです。
※1 このような例を取り上げて、「ほら見ろ!やっぱり文字数とか筆力は関係ないんだ!」という人もいますが、これは飽くまで例外であることに留意する必要があります。
※2 それが大事だったのは旧司法試験の話で、現在ではそんなのどうでもいい感じになっています。
4.ちなみに、上記の論述例は、当サイトの参考答案(その2)から部分的に抜粋したものです。参考答案(その2)は、外形に限定しない立場を採るので、上記のように書いてもよいのです。
(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)
(イ)「利益が相反する取引」とは、取締役に利益が生じ、会社に不利益を及ぼす取引行為をいう。 (ウ)間接取引該当性は外形で判断すべきとするAの反論が考えられる。 (引用終わり) |
間接取引該当性について、予備校等の解説では、「結論はどっちもあります。」くらいの雑な説明しかされないかもしれませんが、「規範と当てはめが対応していれば」という条件をクリアする必要がある、というのが正確です。なお、「事実の摘示がほとんどなくてスッカスカ」な答案は、結論がどうとか規範と当てはめの対応がどうとか関係なく、ほとんど点が付かないことは、いうまでもありません。「問題文の事実から明らかなんだから、答案で改めて指摘する必要はない。」と思った人は、現在の司法試験ではとても受かりにくい人です。