1.今年の民訴設問3課題1では、多くの人が、「何か拘束力認めないとヤバいんじゃね?」という、強迫観念に駆られたようです。しかし、冷静に問題文を読めば、そんなことは全然ないことがわかります。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) L2:Zの説明によると、XがZに対して保証債務の履行を求めて訴えを提起する可能性があります。その場合、Zとしては甲債権の存在を争うことになると思いますので、XのZに対する上記訴えに係る訴訟手続において、甲債権の存在を認めた前訴確定判決に基づく何らかの拘束力が作用するか否かが問題になります。そこで、この点を検討してください。これを「課題1」とします。 (引用終わり) |
「何らかの拘束力が作用するか否か」が問われているわけですから、「何らの拘束力も作用しない。」という解答も当然あり得る。なので、既判力否定、反射効否定、参加的効力否定で終わり、という答案でも、合格点でしょう。やってはいけないのは、無理やり参加的効力を拡張する、ということです。通説は、参加的効力は被参加人・補助参加人間にしか及ばないとするので、これは通説を理解していない、と評価されても仕方がありません。「少数説で相手方にも効力を及ぼす説があるからセーフ!」という人もいるかもしれませんが、アウトでしょう。ここでいう少数説とは新既判力説を指すわけですが、この説からは、補助参加人と相手方との間に生じるのは参加的効力ではなくて、既判力と争点効です。なので、参加的効力を補助参加人と相手方との間に及ぼすという考え方は、新既判力説ですらありません。仮に、通説でも新既判力説でもない第三の説なのだ(※1)、というのであれば、その旨の相応の説明が必要です。答案を書いている時に、「自分は通説でも新既判力説でもない第三の説を採るぞ。」と思っている人はいないはずなので、「第三の説に立つこと」を説得的に論じている答案なんてあるはずないと思います。なので、強引に参加的効力を拡張した人は、素直に反省すべきでしょう。
※1 参加的効力をそのまま拡張するものとして、鈴木説(鈴木重勝「参加的効力の主観的範囲限定の根拠」『民事訴訟の法理(中村宗雄先生古稀祝賀記念論集)』(敬文堂 1965年) 427~429頁)が一応あったりしますが、物凄いレアな説です。ちなみに、鈴木重勝教授は、当サイトの記事で過去に登場したことがあります(「令和4年司法試験の結果について(12)」における衆院法務委員会平成03年03月19日引用部分)。
2.とはいえ、「何か拘束力認めないとヤバいんじゃね?」という強迫観念に駆られること自体は、理解できる。そう感じさせる事実が、問題文にあるからです。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) Zは、第一審の第3回口頭弁論期日において、甲債権については、Yからの要請により、Xが債務を免除した事実(以下「免除の事実」という。)を、丙債権については、ZがYに代わってBに対して弁済した事実(以下「弁済の事実」という。)を主張した上で、免除の事実を証明するためにZ自身の証人尋問の申出をした。しかし、Yは、Yが主張する甲債権の弁済時期よりも免除の事実の時期の方が遅かったことから、同期日において、免除の事実はない旨を主張するとともに、Zの証人尋問の申出を撤回した。なお、弁済の事実は、Xにより争われ、証拠調べが実施されたが、第一審、控訴審のいずれにおいても認められなかった。 (引用終わり) |
「少なくとも弁済の事実については、もう一回争わせる必要なくね?」と思うのは自然です。そう思ったなら、採るべき方法は、通説を強引にねじ曲げるのではなくて、「困った時の信義則」です。
(参考答案(その1)より引用) (3)信義則によって甲債権不存在の主張が否定されるか。 ア.確かに、Zは本件訴訟に補助参加し、免除の事実を証明するためにZ自身の証人尋問の申出をしたが、Yはこれを撤回した。ZがXとの間で改めてこれを争うことが信義則に反するとはいえない。 イ.しかし、弁済の事実については、Xにより争われ、証拠調べが実施されたが、第一審、控訴審のいずれにおいても認められなかった。ZがXとの間で改めてこれを争うことは信義則に反する。 ウ.以上から、Zは、免除の事実について信義則の拘束を受けないが、弁済の事実については、後訴でXに対し主張することが許されないという拘束を受ける。 (引用終わり) |
事実の摘示だけでなく、評価も入れればこんな感じ。
(参考答案(その2)より引用) (4)信義則によって甲債権不存在の主張が否定されるか。 ア.確かに、Zは本件訴訟に補助参加しただけで、当事者として手続保障を受けていない。Zは免除の事実を証明するためにZ自身の証人尋問の申出をしたが、Yはこれを撤回した。免除の事実については、補助参加人の従属性によって十分な手続保障が与えられなかったと評価でき、信義則による拘束の基礎を欠く。 イ.しかし、弁済の事実については、Xにより争われ、証拠調べが実施されたが、第一審、控訴審のいずれにおいても認められなかった。補助参加人の従属性によってZが十分に争うことができなかった事実はない。弁済の事実については十分な手続保障があり、ZがXとの間で改めてこれを争うことは信義則に反する。 ウ.以上から、Zは、免除の事実について信義則の拘束を受けないが、弁済の事実については、後訴でXに対し主張することが許されないという拘束を受ける。 (引用終わり) |
以上のように、当サイトは、既判力否定、反射効否定、参加的効力否定、信義則一部肯定が設問3課題1の「正解筋」であるとみます。
3.通説の立場からも、信義則によって相手方・補助参加人間に拘束力を及ぼし得ることについて、最近は学生向けの概説書等でも説明されるようになっています。例えば、長谷部由起子『民事訴訟法第3版』(岩波書店 2020年) 355~356頁(※2)では、[例1]として、本問と同様の事例を挙げて説明がされています。なので、書ける人は書ける。とはいえ、同書でも、通説からは何ら拘束力が及ばない旨が一般論として説明され、信義則は括弧書きで書かれているだけなので、信義則を書いたかどうかは、合否を分けないでしょう。合否を分けるのは、「強引に参加的効力を拡張しちゃってないか否か」だろうと思います。
※2 同書が学生向け概説書であることは、同書「初版 はしがき」の項目を参照。