「珍しい構図」の意味
(令和5年司法試験民事系第3問)

1.今年の民訴設問3課題2では、多くの受験生が、「?」となったであろう部分があります。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

L2:そうです。ただ、この場合は、前訴である本件訴訟の補助参加人が被参加人に対して前訴確定判決を援用するという珍しい構図になっており、このような援用が許されるか、という問題も含んでいそうです。そこで、このような問題があることに留意しつつ、ZのYに対する上記訴えに係る訴訟手続において、前訴確定判決の効力が作用するか否かについて検討してください。これを「課題2」とします。なお、「課題2」については、民事訴訟法第46条の効力以外の効力を検討する必要はありません。

(引用終わり)

 「は?何が珍しいの?普通じゃん。」と思った人が多かったことでしょう。それは、ほとんどの人が、参加的効力の趣旨について、「敗訴責任分担」というキーワードで覚えていて、「誰に負担させるものか」という点を意識していないことによります。

最判昭45・10・22より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 民訴法70条(※注:現在の46条に相当する。)の定める判決の補助参加人に対する効力の性質およびその効力の及ぶ客観的範囲について考えるに、この効力は、いわゆる既判力ではなく、それとは異なる特殊な効力、すなわち、判決の確定後補助参加人が被参加人に対してその判決が不当であると主張することを禁ずる効力であつて、判決の主文に包含された訴訟物たる権利関係の存否についての判断だけではなく、その前提として判決の理由中でなされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断などにも及ぶものと解するのが相当である。けだし、補助参加の制度は、他人間に係属する訴訟の結果について利害関係を有する第三者、すなわち、補助参加人が、その訴訟の当事者の一方、すなわち、被参加人を勝訴させることにより自己の利益を守るため、被参加人に協力して訴訟を追行することを認めた制度であるから、補助参加人が被参加人の訴訟の追行に現実に協力し、または、これに協力しえたにもかかわらず、被参加人が敗訴の確定判決を受けるに至つたときには、その敗訴の責任はあらゆる点で補助参加人にも分担させるのが衡平にかなうというべきであるし、また、民訴法70条が判決の補助参加人に対する効力につき種々の制約を付しており、同法78条(※注:現在の53条4項に相当する。)が単に訴訟告知を受けたにすぎない者についても右と同一の効力の発生を認めていることからすれば、民訴法70条は補助参加人につき既判力とは異なる特殊な効力の生じることを定めたものと解するのが合理的であるからである。

(引用終わり)

 上記判例を読めば、「敗訴責任を分担するやつ」として名指しされているのは補助参加人だ、ということがわかるでしょう。このことは、46条各号からも読み取れます。

(参照条文)民訴法

45条(補助参加人の訴訟行為)
 補助参加人は、訴訟について、攻撃又は防御の方法の提出、異議の申立て、上訴の提起、再審の訴えの提起その他一切の訴訟行為をすることができる。ただし、補助参加の時における訴訟の程度に従いすることができないものは、この限りでない。
2 補助参加人の訴訟行為は、被参加人の訴訟行為と抵触するときは、その効力を有しない。
3、4 (略)

46条(補助参加人に対する裁判の効力)
 補助参加に係る訴訟の裁判は、次に掲げる場合を除き、補助参加人に対してもその効力を有する。
 一 前条第1項ただし書の規定により補助参加人が訴訟行為をすることができなかったとき。
 二 前条第2項の規定により補助参加人の訴訟行為が効力を有しなかったとき。
 三 被参加人が補助参加人の訴訟行為を妨げたとき。
 四 被参加人が補助参加人のすることができない訴訟行為を故意又は過失によってしなかったとき。

 同条各号は、概ね補助参加人がやりたくても出来なかった場合が列挙されていて、「補助参加人がやりたくても出来なかったんだから、敗訴責任を補助参加人に分担させるのは酷だよね。」という趣旨だとわかる。こうしたことから、参加的効力というものは、本来、補助参加人が負うもので、被参加人が補助参加人に対して援用するのが普通なんだよね、ということがわかるでしょう。課題2では、それが逆になっている。これが、「珍しい構図」の意味です。

2.だからといって、補助参加人からの援用を否定すべきかというと、そうではないでしょう。当事者としてガチで争った被参加人が拘束を受けないというのは、どう考えてもおかしい。結論としては、援用を肯定すべきだ、ということで、これは現場でも容易に判断できるだろうと思います(※)。この点は、マイナー論点ではあるものの、問題文で明示に問われているので、避けて通ることはできません。
 ※ この点を明示に説明する文献はあまりありませんが、補助参加人からの援用を認めるのが普通です(例えば、瀬木比呂志『民事訴訟法[第2版]』(日本評論社 2022年)  612頁注(7))。他方で、援用を否定する見解は、見たことがありません。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

L2:そうです。ただ、この場合は、前訴である本件訴訟の補助参加人が被参加人に対して前訴確定判決を援用するという珍しい構図になっており、このような援用が許されるか、という問題も含んでいそうです。そこで、このような問題があることに留意しつつ、ZのYに対する上記訴えに係る訴訟手続において、前訴確定判決の効力が作用するか否かについて検討してください。これを「課題2」とします。なお、「課題2」については、民事訴訟法第46条の効力以外の効力を検討する必要はありません。

(引用終わり)

 このような場合、「とりあえず趣旨が及ぶ」とするのが、定番のテクニックです。「敗訴責任分担」の趣旨は初学者でも覚えているでしょうから、その趣旨が及ぶ、とすればよい。それだけで、当サイトの参考答案(その1)程度の論述は可能だったでしょう。

(参考答案(その1)より引用)

(2)46条の趣旨は、公平のため敗訴責任を補助参加人に分担させる点にある。敗訴責任を分担すべきことは被参加人も同様であるから、前訴の補助参加人が被参加人に援用することも許される。
 したがって、Zは、Yに参加的効力を援用できる。

(引用終わり)

 上記1で説明した「珍しい構図」の意味を理解していれば、参考答案(その2)のような書き方をしてもよいでしょう。

(参考答案(その2)より引用)

(2)前訴の補助参加人は、被参加人に参加的効力を援用できるか。
 確かに、46条の趣旨は、公平のため敗訴責任を補助参加人に分担させる点にあり、同条各号は補助参加人に敗訴責任を分担させるべきでない場合を列挙しているから、補助参加人が被参加人に援用することを想定していないともみえる。
 しかし、当事者である被参加人が敗訴責任を負担することは当然であり、「補助参加人に対して『も』」(同条柱書)の文言はその表れである。同条各号は被参加人が援用する典型場面を想定したにすぎず、補助参加人からの援用を否定する趣旨とは思われない。
 以上から、前訴の補助参加人は、被参加人に参加的効力を援用できる。

(引用終わり)

 ここは、わざわざ問題文で明示されているので、マイナー論点ではあっても、それなりに配点があったでしょう。「言ってる意味がわからんから無視無視」という態度で答案に書かなかった人は、厳しい評価になってもやむを得ないと思います。

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