1.当サイトでは、規範の明示と事実の摘示が重要だ、と繰り返し説明しています。もっとも、それは常に必ずすべての事項について行うべきだ、という趣旨ではありません。当然ながら、配点がないところを丁寧に書いても、余事記載にしかならない。例えば、典型的な殺人の事例で、「『人』とは~」と定義を書いて、「~から、Vは『人』に当たる。」などと当てはめても、それは単なる余事記載です。「人」を真顔で検討するのは、胎児や脳死の場合くらいです。それ以外の場合に、考査委員が「人」に当てはまる事実の抽出・評価を試そうとして配点を置く、ということは考えられません。このように、どの部分を丁寧に書くかを考えるに当たっては、考査委員がそこに配点を置いているだろうか、ということを見極める必要があるのです。
2.今年の刑法設問2でいえば、強盗致傷罪の前提となる強盗罪の成否については、それほど配点はないと判断できます。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 4 ……(略)……乙及び丙は、Bの手足を縛るためのロープと口を塞ぐための粘着テープを準備した上、同日午後1時、B宅へ赴き、インターホンを鳴らして警察官であることを告げ、Bに玄関ドアを開けさせた。乙及び丙は、直ちにB宅内に押し入り、Bの手足をそれぞれロープで縛り、口を粘着テープで塞ぎ、Bを床の上に倒した。そして、リビングルームに移動した乙及び丙は、Bが預金口座から引き出してテーブル上に置いていた上記300万円を見付け、同日午後1時10分、同300万円を持ってB宅を出た。 (引用終わり) |
まず、こんなもん強盗成立に決まってるだろ、というくらい、肯定方向の事実しかない。それも、事実が最低限のことしか記載されていなくて、「事実の抽出・評価を試そう。」という感じではありません。例えば、Bは抽象的に「高齢」とされているだけで、具体的な年齢、体格等の記載がない。「高齢」の点も、本問では高齢者を狙う詐欺だからという話なので、強盗で積極に使う感じではない。また、暴行の記述も、たった一文であっさり書いてある。過去問を検討していれば、強盗の当てはめを丁寧にして欲しいとき、考査委員は被害者の体格、犯人の発言内容、用いた凶器の形状(刃渡り何cmとか)等を詳しく書いてくることを知っているでしょう。それとの比較で考えれば、ここはあっさりでいいね、と判断することができるのです。また、被害品も、300万円の現金だけです。この場合には、財物性の定義を書いて当てはめても余事記載でしょう。クレジットカードやキャッシュカードが被害品になっている場合には、「それで買った商品や降ろしたお金には財産的価値があるけど、カード自体は単なるプラスチック片じゃね?」という問題意識があるから、その理解を試す意味で、考査委員は配点を置いてくる。だから、財物性の定義を書いて当てはめるのです。同様に、故意とか不法領得の意思なんてアリアリなので、触れる必要はない(※1)。暴行については、一応、「縛る」、「口を塞ぐ」、「倒す」の3つの行為がわざわざ書いてあるので、暴行だけは定義を書いて簡潔に事実だけ摘示して当てはめておくか、という程度の感覚が、過去の傾向からいって一番受かりやすい感覚だろうと思います(※2)。なので、最大限書くとしても、当サイトの参考答案(その2)の程度にとどめるべきだったでしょう。
※1 実務における犯罪事実の記載においても、窃盗・強盗が既遂に至っていて、客観面から故意や不法領得の意思が明らかなときは、記載しないのが通例です。
※2 ただし、ここでの暴行の態様は、その後の因果関係で使うのでちょっとだけ詳しい、というのが、本当のところだろうとは思います。
(参考答案(その2)より引用) 強盗罪における暴行・脅迫は、被害者の反抗を抑圧する程度のものであることを要する。 (引用終わり) |
強盗についてはあっさり当てはめた上で、致傷との因果関係、共謀の射程ないし因果性について、事実を摘示しまくりで当てはめ大魔神。これが、本問で適切な大局観だと思います。