1.令和5年の予備行政法では、設問1で2つの小問があり、設問2では、法7条5項2号違反事由と同項3号違反事由の解答が求められていました。実質4つの問いがあったといえます。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 〔設問1〕 〔設問2〕 (引用終わり) |
それぞれの比重をどうするか。これを考えないで構成し、書き出す人がいます。そうして、途中答案になったり、誰もが厚く書く部分がスカスカになったりする。本人は、「今年はたまたまバランスが崩れちゃっただけだから、来年は大丈夫。」などと言っていたりするのですが、そんな人は、毎年どこかの科目で同じように論述のバランスを崩し、同じように点を落とします。「受かりにくい人」の一例です。
2.さて、本問では、どう考えたらよいか。設問1(1)の原告適格は、確立した定義・規範があるところなので、その明示に文字数を使うし、問題文の前半部分の事実はかなりここで使いそう。加えて、条文も摘示する必要がある。単純に書き写すだけでも、膨大な文字数です。完全に大魔神ゲーム。しかも、ここは「処分の相手方以外の者の原告適格」という意味では超典型論点(※1)なので、誰もがそれなりに書いてくる。普通に考えれば、厚く書くべきところです。
※1 ただし、その中身はあり得ないほど難易度が高く、理論的に正しいという意味での「正解」を書けた人は1人もいないと思います。この点については、別の記事で詳しく説明する予定です。
一方で、小問(2)の方は、単純に考えると、「更新してるんだから訴えの利益が失われるわけなくね?」というだけで終わりそうだし、事実をがっつり当てはめる感じが全然ない。摘示する条文も、せいぜい法7条2項から4項までくらいでしょう。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) (一般廃棄物処理業) 第7条 一般廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域(中略)を管轄する市町村長の許可を受けなければならない。(以下略) 2 前項の許可は、1年を下らない政令で定める期間ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によつて、その効力を失う。 3 前項の更新の申請があつた場合において、同項の期間(以下この項及び次項において「許可の有効期間」という。)の満了の日までにその申請に対する処分がされないときは、従前の許可は、許可の有効期間の満了後もその処分がされるまでの間は、なおその効力を有する。 4 前項の場合において、許可の更新がされたときは、その許可の有効期間は、従前の許可の有効期間の満了の日の翌日から起算するものとする。 5 (略) 6~16 (略) (引用終わり) |
訴えの利益喪失はそれなりに有名な論点ですが、この更新のケースは典型論点という感じでもない。ここはかなり薄くていいと判断できるでしょう。
3.さて、設問2の方ですが、法7条5項2号違反事由の方は、裁量の肯否とか新計画への変更の合理性のようなところで、問題文を結構使ってそれなりの大魔神ゲームになりそう。一方で、同項3号違反事由の方は、定番の規範もないし、問題文で使いそうな事実を見ても、最後の方に取って付けたように書いてある部分しか見当たりません。
(問題文より引用) Dの代表者はBの代表者の実弟であり、従来、一般廃棄物収集運搬業に従事した経験はなかった。Dの営業所所在地は、Bの営業所所在地と同一の場所になっており、D単独の社屋等は存在せず、Dの代表者はBの営業所内で執務を行っていた。さらに、BとDは業務提携契約を締結し、その中で、Bが雇用する人員が随時Dに出向すること、Bが保有している運搬車をDも使用し得ることが定められていた。 (引用終わり) |
考査委員のやる気が感じられない。ならば、こっちはコンパクトに施行規則との対応だけ示せば足りるだろう。よほどの筆力自慢でない限りは、そんな判断になるはずです(※2)。
※2 よほどの筆力自慢なら、施行規則の各要件の趣旨から判断基準を導出し、当てはめるという作業に入ります(当サイトの参考答案(その2)参照)。でも、本問でそんな余裕なんてあるはずないと思います。
4.こうして、設問1(1)と、設問2の法7条5項2号違反事由は事実・条文をがっつり摘示しつつ分厚く書いて、他は極力コンパクト。そんな戦略が妥当かな、という判断に至るわけです。もっとも、設問1(1)と、設問2の法7条5項2号違反事由は、どちらも、ガチで書いたら2頁くらいになりそう。当然ながら、両方を2頁にするわけにはいきません。両方を半々にするというのも考えられますが、それはどっちも中途半端になりそう。そこで、どちらに比重を置くか、現場で判断することになるわけです。どっちが書いやすいと感じるかには個人差があるでしょうが、普通は、設問2の法7条5項2号違反事由の方が書きやすいと感じるでしょう。新計画の予測が不合理、というのは、誰でも思い付くからです。他方で、設問1(1)は、条文の趣旨から保護法益の具体性・個別性を導出するのが難しく、どの事実をどう使っていいのかもわかりにくい。そう考えれば、設問2の法7条5項2号違反事由の方を重視することになるでしょう。構成段階で、このようなことを素早く判断する必要がある。この辺りの大局観は、行政法に限らず、論文で合否を分ける要素の1つです。