原告適格を基礎付ける利益の特定
(令和5年予備試験行政法)

1.今年の予備行政法設問1(1)では、合否を分けるほどではないけれども、それなりに大事なポイントがあります。それは、「原告適格を基礎付ける利益をどのようなものとして特定しているか。」です。

2.まず、本問のようなケースは、「いわゆる競業者の原告適格」と分類されていて、「経営上の利益」ないし「営業上の利益」が問題になるんだ、と覚えていたので、単に「経営上の利益」とか、「営業上の利益」と書いた人もいたでしょう。それで間違いということはありません。ただ、的確とはいい難い。なぜなら、漠然とした「経営上の利益」や「営業上の利益」では、例えば、「赤字になったら補助金を貰える利益」とかも含んでしまうからです。

3.次に、問題文の事実に着目して、「担当区域で独占営業する利益」のようなものを想定した人もいたでしょう。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 令和2年4月以降、Dは従来Cが担当していた区域においてCからの乗換客を獲得しつつあり、それによりCの売上げは徐々に減少している。そこで、Cは、同年9月30日、本件許可の取消訴訟(以下「本件取消訴訟」という。)を提起した。

(引用終わり)

 これは、漠然と「経営上の利益」ないし「営業上の利益」を問題にする答案よりも、問題文の事実に着目しているという点では、優れています。もっとも、この筋で考える場合には、乗り越えるべき課題がある。それは、「その担当区域はBCが勝手に決めたものだけど、法律上の利益になり得るの?」という点です。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 BとCは、過当競争の結果として経営状態が悪化し、それにより一般廃棄物収集運搬業務に支障が生じる事態を回避することで、その適正な運営を継続的かつ安定的に確保するため、それぞれの担当区域を取り決める事実上の区域割りを行ってきた。

(引用終わり)

 この点に配慮することなく、漫然と「担当区域で独占営業する利益」をもって法律上の利益であるとする答案は、評価を下げるでしょう。

4.事実上の区域割りに基づく担当区域をもって原告適格を基礎付けるのは危ないと考えて、「A市区域内でBC2社体制を維持することによる寡占利益」とすることも考えられます。BC2社体制は旧計画に明記されているので、法律上の利益という点に障害はない(※)。担当区域は事実上のもので、そこでの独占利益は法律上の利益とはいえない旨を述べた上で、この考え方を採用する答案は、相応に高く評価されるでしょう。
 ※ 一廃計画の趣旨を考慮すべき点については、別の記事で説明する予定です。

 ただ、この考え方によると、BC間で競争が生じて共倒れになるようなケースは保護対象としていないことになる。それなのに、「新たな許可によって入ってきた業者との関係でのみ競争から保護されるのはなぜ?」という疑問は生じ得るでしょう。「BC2社の競争は大丈夫だけど、BCD3社みたいになると共倒れになるから」という感じの説明はあり得ますが、BCの取決めは、「過当競争の結果として経営状態が悪化し、それにより一般廃棄物収集運搬業務に支障が生じる事態を回避する」目的でされているので、「BC2社の競争は大丈夫」というわけでもなさそう。このように考えてくると、やっぱりBCがそれぞれ担当区域で独占営業する利益が保護されていると考えた方が素直なように思えてきます。

5.そのような視点で改めて問題文を見ると、手掛かりになりそうな事実があることに気付きます。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 A市では、浄化槽(便所と連結してし尿等を処理し、公共下水道以外に放流するための設備又は施設をいう。)の設置による便所の水洗化が進んだ昭和50年代に、それまで十数社存在していたし尿収集業者がB、Cの2社に集約され、それ以後、当該2社が浄化槽汚泥の収集運搬に従事してきた。一般に、浄化槽汚泥の発生量は浄化槽の設置世帯数に応じてほぼ一定しており、また、その収集運搬に支障が生じると、衛生状態が悪化し、住民の健康と生活環境に被害が生じるおそれがある。そのためA市は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)第6条に規定する一般廃棄物処理計画に当たる計画(以下「旧計画」という。)の中で、「一般廃棄物の適正な処理(中略)を実施する者に関する基本的事項」(同条第2項第4号)として、「一般廃棄物(浄化槽汚泥)の収集運搬についてはB、Cの2社に一般廃棄物収集運搬業の許可を与えてこれを行わせる。」と記載するとともに、「大幅な変動がない限り、新たな許可は行わないものとする。」と記載していた。その結果、この2社体制の下で、A市の区域内で発生する浄化槽汚泥の量に対しておよそ2倍の収集運搬能力が確保され、適切な収集運搬体制が維持されていた。A市では、公共下水道の普及が十分でない中、便所のくみ取り式から水洗式への改修が進んでいるため、浄化槽の設置世帯数は微増しているが、将来の人口及び総世帯数は減少が予想されているため、旧計画中の「発生量及び処理量の見込み」(同項第1号)においては、浄化槽汚泥について、今後は発生量及び処理量の減少が見込まれる旨記載されていた。BとCは、過当競争の結果として経営状態が悪化し、それにより一般廃棄物収集運搬業務に支障が生じる事態を回避することで、その適正な運営を継続的かつ安定的に確保するため、それぞれの担当区域を取り決める事実上の区域割りを行ってきた。

(引用終わり)

 BC2社体制になったのは、昭和50年代。「すっげー昔からずっとこれでやってんじゃん。」ということがわかる。その間、旧計画の下で、新たな許可は原則行わないとされてきた。それは競争を制限して共倒れを防ぐ趣旨だろう。そうだとすると、BCが競争して共倒れになることも、当然容認しているはずがない。BCが競争して共倒れになれば、旧計画は破たんしてしまうでしょう。これは、旧計画の策定において、BCの事実上の取決めが暗黙のうちに前提とされてきたということではないか。そうすると、この担当区域は、旧計画の関知しない全くの事実上のものではなくて、むしろ、旧計画の不可欠の前提をなす内容を構成していたといえるのではないか。こう考えれば、「その担当区域はBCが勝手に決めたものだけど、法律上の利益になり得るの?」という点はなんとかクリアーできます。それが、当サイトの参考答案(その2)です。

(参考答案(その2)より引用)

ウ.A市では、昭和50年代以降、新計画への変更がされるまでの長期にわたり、旧計画の下でBC2社体制が維持されてきた。BCは、過当競争の結果として経営状態が悪化し、それにより収運支障が生じる事態を回避することで、適正運営の継続・安定確保のため、それぞれの担当区域を取り決める事実上の区域割りを行ってきた。BCが上記取決めに反して競争し、共倒れする事態となれば、収運支障が生じるから、旧計画は、BCの各担当区域における独占状態を前提とし、その独占利益が侵害される事態を想定していない。そうすると、各担当区域は事実上の区域割りにすぎないとしても、長期間定着した運用として当然の前提とされ、旧計画において黙示に不可欠の内容とされてきたと評価できる。

(引用終わり)

6.問題文末尾の参照条文では記載がないので、答案で触れる必要はありませんが、許可の段階で、BCの担当区域を定めることもできます。本来であれば、BCの事実上の取決めに任せるのではなく、許可の段階できっちり決めておくべきだったともいえるしょう。

(参照条文)廃棄物の処理及び清掃に関する法律7条11項

 第1項又は第6項の許可には、一般廃棄物の収集を行うことができる区域を定め、又は生活環境の保全上必要な条件を付することができる。

 このことは、一廃業(小浜市)事件判例でも判示され、同判例の論理において、それなりに重要な意味を持っていたのでした。

(一廃業(小浜市)事件判例より引用。太字強調は筆者。)

  一般廃棄物処理業は,市町村の住民の生活に必要不可欠な公共性の高い事業であり,その遂行に支障が生じた場合には,市町村の区域の衛生や環境が悪化する事態を招来し,ひいては一定の範囲で市町村の住民の健康や生活環境に被害や影響が及ぶ危険が生じ得るものであって,その適正な運営が継続的かつ安定的に確保される必要がある上,一般廃棄物は人口等に応じておおむねその発生量が想定され,その業務量には一定の限界がある。廃棄物処理法が,業務量の見込みに応じた計画的な処理による適正な事業の遂行の確保についての統括的な責任を市町村に負わせているのは,このような事業の遂行に支障を生じさせないためである。そして,既存の許可業者によって一般廃棄物の適正な処理が行われており,これを踏まえて一般廃棄物処理計画が作成されている場合には,市町村長は,それ以外の者からの一般廃棄物処理業の許可又はその更新の申請につき,一般廃棄物の適正な処理を継続的かつ安定的に実施させるためには既存の許可業者のみに引き続きこれを行わせるのが相当であり,当該申請の内容が当該一般廃棄物処理計画に適合するものであるとは認められないとして不許可とすることができるものと解される(最高裁平成14年(行ヒ)第312号同16年1月15日第一小法廷判決・裁判集民事213号241頁参照)。このように,市町村が市町村以外の者に許可を与えて事業を行わせる場合においても,一般廃棄物の発生量及び処理量の見込みに基づいてこれを適正に処理する実施主体等を定める一般廃棄物処理計画に適合すること等の許可要件に関する市町村長の判断を通じて,許可業者の濫立等によって事業の適正な運営が害されることのないよう,一般廃棄物処理業の需給状況の調整が図られる仕組みが設けられているものといえる。そして,許可業者が収集運搬又は処分を行うことができる区域は当該市町村又はその一部の区域内(廃棄物処理法7条11項)に限定されていることは,これらの区域を対象として上記の需給状況の調整が図られることが予定されていることを示すものといえる。

 また,市町村長が一般廃棄物処理業の許可を与え得るのは,当該市町村による一般廃棄物の処理が困難である場合に限られており,これは,一般廃棄物の処理が本来的には市町村がその責任において自ら実施すべき事業であるため,その処理能力の限界等のために市町村以外の者に行わせる必要がある場合に初めてその事業の許可を与え得るとされたものであると解されること,上記のとおり一定の区域内の一般廃棄物の発生量に応じた需給状況の下における適正な処理が求められること等からすれば,廃棄物処理法において,一般廃棄物処理業は,専ら自由競争に委ねられるべき性格の事業とは位置付けられていないものといえる。

 そして,市町村長から一定の区域につき既に一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けている者がある場合に,当該区域を対象として他の者に対してされた一般廃棄物処理業の許可又はその更新が,当該区域における需給の均衡及びその変動による既存の許可業者の事業への影響についての適切な考慮を欠くものであるならば,許可業者の濫立により需給の均衡が損なわれ,その経営が悪化して事業の適正な運営が害され,これにより当該区域の衛生や環境が悪化する事態を招来し,ひいては一定の範囲で当該区域の住民の健康や生活環境に被害や影響が及ぶ危険が生じ得るものといえる。一般廃棄物処理業の許可又はその更新の許否の判断に当たっては,上記のように,その申請者の能力の適否を含め,一定の区域における一般廃棄物の処理がその発生量に応じた需給状況の下において当該区域の全体にわたって適正に行われることが確保されるか否かを審査することが求められるのであって,このような事柄の性質上,市町村長に一定の裁量が与えられていると解されるところ,廃棄物処理法は,上記のような事態を避けるため,前記のような需給状況の調整に係る規制の仕組みを設けているのであるから,一般廃棄物処理計画との適合性等に係る許可要件に関する市町村長の判断に当たっては,その申請に係る区域における一般廃棄物処理業の適正な運営が継続的かつ安定的に確保されるように,当該区域における需給の均衡及びその変動による既存の許可業者の事業への影響を適切に考慮することが求められるものというべきである。

 以上のような一般廃棄物処理業に関する需給状況の調整に係る規制の仕組み及び内容,その規制に係る廃棄物処理法の趣旨及び目的,一般廃棄物処理の事業の性質,その事業に係る許可の性質及び内容等を総合考慮すると,廃棄物処理法は,市町村長から一定の区域につき一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けて市町村に代わってこれを行う許可業者について,当該区域における需給の均衡が損なわれ,その事業の適正な運営が害されることにより前記のような事態が発生することを防止するため,上記の規制を設けているものというべきであり,同法は,他の者からの一般廃棄物処理業の許可又はその更新の申請に対して市町村長が上記のように既存の許可業者の事業への影響を考慮してその許否を判断することを通じて,当該区域の衛生や環境を保持する上でその基礎となるものとして,その事業に係る営業上の利益を個々の既存の許可業者の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。したがって,市町村長から一定の区域につき既に廃棄物処理法7条に基づく一般廃棄物処理業の許可又はその更新を受けている者は,当該区域を対象として他の者に対してされた一般廃棄物処理業の許可処分又は許可更新処分について,その取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

(引用終わり)

 「区域」という文言に着目して上記判例を読んでいけば、判例のいう「一定の区域」とか「当該区域」というのは、許可の際に定められた区域を指すということが理解できるでしょう。本問におけるBCの担当区域は、許可の際に定められたものではない。なので、あたかも上記判例のいう「一定の区域」や「当該区域」に相当するものであるかのように答案で書いてしまえば、評価を落とすでしょう。法7条11項を敢えて参照条文として示さなかったのは、意味を理解しないまま判例の文言を丸暗記して、「担当区域における需給の均衡を……」のように書く人をハメる意図だったのかもしれません。

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