設問の指示を守る
(令和5年予備試験民事実務基礎)

1.令和5年予備試験民事実務基礎。要件事実や執行・保全で理由の説明をさせる設問の多くは、「簡潔に」と書いてあるので、文字どおり簡潔に答えれば足ります。目安としては、「~からである。」の一文で済ますイメージです。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問1〕

 (中略)

(4) 【Xの相談内容】のうち下線部の事実について、請求を理由づける事実として本件訴状に記載すべきか否かについて、①結論を答えた上で、②その理由を簡潔に説明しなさい。

(5) 弁護士Pは、Xの権利の実現を確実なものとするため、本件訴訟を提起するに当たり、Yの財産に対する仮差押命令の申立てを行うこととした。調査の結果、Yはα銀行に対する預金債権を有するほか、自宅の土地建物(以下「自宅不動産」という。)を所有しているが、自宅不動産については2年前(令和3年)に抵当権(被担保債権はいわゆる住宅ローン債権で、当初債権額は3000万円)が設定されていることが判明した。なお、α銀行の銀行取引約定書によれば、預金債権に対する仮差押えは銀行借入れがあった場合にその期限の利益喪失事由とされている。
 弁護士Pは、Yの財産のうち、α銀行の預金債権に対し仮差押命令の申立てを行うこととしたが、その申立てに当たり、Yの自宅不動産の時価を明らかにする必要があると考えた。その理由を民事保全法の関係する条文に言及しつつ簡潔に説明せよ。

〔設問2〕

 (中略)

(2) 弁護士Qが、上記(う)が必要であると考えた理由を、民法の関係する条文に言及しつつ、簡潔に説明しなさい。

(引用終わり)

 

当サイトの参考答案より引用)

4.小問(4)

 記載すべきでない。期限の利益喪失を基礎づける事実であり、期限の抗弁に対する再抗弁となるからである。

5.小問(5)

 一般に、預金債権の仮差押えは、仮差押えの範囲で預金の引出しができなくなり(民保法50条1項、民法481条)、本件のように銀行借入れの期限の利益喪失事由ともなるなど、保全債務者に与える不利益が大きいため、保全債務者が他に保全余力のある不動産を有する場合には、「強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれ」(民保法20条1項)、すなわち、仮差押えの必要性を欠くからである。

第2.設問2

 (中略)

2.小問(2)

 民法457条3項は「保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。」として保証債務の履行を拒むか否かを保証人の意思にかからせているため、同項の抗弁は権利抗弁であって、権利行使の意思表示を基礎づけるものとして、権利主張の摘示を要するからである。

(引用終わり)

 他方で、設問3小問(2)は「簡潔に」ではなく、「実体法上の法律効果を踏まえて」としています。これは、「法定追認に取消権の了知を含むかというような要件論や、了知の主張立証責任の所在とかは論点として説明しなくていいよ。」というメッセージであるとともに、「追認をしたのはAなのに、どうしてYの抗弁の成否に影響するの?」という問いを含んでいるので、実体法上の観点からその点を答える。「簡潔に」ではないのだから、「実体法上の効果の説明」→「結論」という感じで段落分けをしてちょっと丁寧に書く。実務基礎は一問一答が基本なので、「規範→当てはめ」のような形式にこだわる必要はありません。なので、「再抗弁とは~」のように規範を書いて形式的に当てはめるのではなく、端的に問われたことだけ答えれば足ります。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問3〕

 (中略)

(2) 上記各事実の主張が再抗弁として機能すると判断した理由を、実体法上の法律効果を踏まえて説明しなさい。

(引用終わり)

 

(当サイトの参考答案より引用)

第2.設問2

 (中略)

2.小問(2)

  追認権者が取消権を了知して一部の履行をしたときは、追認したとみなされる(法定追認、民法125条1号)。追認により、取消権は消滅する(同法122条)。取消権を有する主債務者が追認したときは、「主たる債務者が債権者に対して…取消権…を有するとき」(同法457条3項)の要件を欠くに至るから、同項の抗弁権も消滅する。
 本小問の各事実主張は、主債務者Aについて法定追認があることを基礎づけるから、設問2の抗弁権が消滅したことを意味し、同抗弁に対する消滅の再抗弁として機能する。

(引用終わり)

2.予備校等の答案例では、このような問題文の指示に対する意識が薄いと感じます。「簡潔に」とされているのに長々と書いていたり、「実体法上の法律効果を踏まえて」のような指示があっても無視していたりする。こうした点は、真似をしないよう、気を付けたいところです。

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