準抗告認容の処理
(令和5年予備試験刑事実務基礎)

1.令和5年予備刑事実務基礎設問2(2)。ほとんどの人が、単に「準抗告が認容されれば身体拘束の解放を実現できるから」のようなことを解答したでしょう。まあ、それでも合格レベルではあるのですが、本来であれば、どのようなプロセスで身体拘束の解放を実現できるのかについても、説明することが求められていたのでしょう。すなわち、勾留決定に対する準抗告が認容される場合、どのような手続を経るのか、ということです。

2.準抗告を認容する場合、まず、原決定である勾留決定を取り消します。勾留決定が取り消されると、勾留請求について何ら判断がされない状態になる。そこで、改めて、勾留請求について却下決定をする。通常の訴訟の上訴審の処理と同じです。したがって、主文は以下のようになるわけです。

高知地決平23・8・23より引用)

 主 文

 原裁判を取り消す。
 本件勾留請求を却下する。

(引用終わり)

 関連条文を確認しておきましょう。

(参照条文)刑事訴訟法

207条 前3条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
2~4 (略)
5 裁判官は、第1項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき……(略)……は、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない

429条 裁判官が左の裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。
 一 (略)
 二 勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判
 三~五 (略)
2~5 (略)

432条 ……(略)……第426条……(略)……の規定は、第429条……(略)……の請求があつた場合にこれを準用する。

426条 (略)
2 抗告が理由のあるときは、決定で原決定を取り消し、必要がある場合には、更に裁判をしなければならない。

 207条5項の「勾留の理由がないと認める」旨の判断の表示が勾留請求却下決定に相当するわけですが、通常は、その後に釈放命令まではしないのが通例です。わざわざ釈放命令をしなくても、当たり前のように釈放されるからでしょう。いずれにせよ、勾留決定を取り消して、改めて勾留請求却下決定をするプロセスを経ることで、被疑者の身体拘束解放が実現できるんですよ、ということまで説明して、初めて解答としてはパーフェクトといえるのです。「各手続の根拠条文を挙げつつ答えなさい。」という設問の指示には、上記各条文の摘示をすべき趣旨も含まれていたのだろうと思います。

3.上記の理解をコンパクトに答案の形にしたのが、当サイトの参考答案です。

(参考答案より引用)

2.小問(2)

 被疑者勾留は裁判官の決定による(同項本文)から、裁判官がした勾留の裁判(同法429条1項2号)として準抗告の対象となり、認容決定で原決定が取り消され、改めて勾留請求却下決定がされる(同法432条、426条2項)ことにより、身体拘束解放を実現できる(同法207条5項ただし書)からである。

(引用終わり)

 ここまで書かなくても余裕で合格できますが、本来はここまでの解答が期待されていたんだろうね、ということで、参考にしてもらえればと思います。

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