被侵害利益の主体を読み取る
(令和6年司法試験公法系第1問)

1.憲法では、被侵害利益(どの人権か)、利益の主体(誰の人権か)を確定するのが出発点となります(※1)。令和6年司法試験公法系第1問でいえば、被侵害利益は規制①が職業選択の自由、規制②が商業広告(※2)の自由という点で、あまり迷わないでしょう。他方で、利益の主体については、問題文から正しく読み取る必要があります。
 ※1 「基本権」や「憲法上の人権」ではなく、単に「人権」と表記する理由については、『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』「人権の意義」の項目の※注を参照。
 ※2 「営利的言論」や「営利的表現」と呼称されることも多いのですが、この名称だと、マス・メディアのニュース報道も営利活動だから「営利的言論」ないし「営利的表現」だ、という誤解を生じさせることから、当サイトでは、「商業広告」の表記を用いています。なお、単に「広告の自由」と表記すると、典型的な表現である意見広告(サンケイ新聞事件判例参照)も含まれてしまうので、「商業広告の自由」と表記するのが的確です。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

規制① 犬猫の販売業を営もうとする者は、販売場ごとに、その販売場の所在地の都道府県知事から犬猫の販売業を営む免許(以下「犬猫販売業免許」という。)を受けなければならない。犬猫販売業免許の申請に対して、都道府県知事は、販売場ごとに犬猫飼養施設(犬猫の飼養及び保管のための施設をいう。)に関する要件が満たされているかどうかを審査する。加えて、都道府県知事は、当該都道府県内の需給均衡及び犬猫シェルター収容能力を考慮し、犬猫販売業免許の交付の許否を判断する。

規制② 犬猫販売業免許を受けた者(以下「犬猫販売業者」という。)は、犬猫の販売に関して広告するときは、犬猫のイラスト、写真及び動画を用いてはならない。議連の担当者Xは、本件法案について、法律家甲に相談した。その際の甲とXとのやり取りは、以下のとおりであった。

 (中略)

甲:犬猫販売業免許の発行数を限定するとなると、新規参入者だけではなく、既に犬猫を販売しているペットショップにも関係しますね。

X:はい。ですが、規制の対象は犬猫に限られていますので、それ以外の動物、例えばうさぎや鳥、観賞魚等を販売して営業を続けることは可能です。統計資料によれば、ペットとして動物を飼養している者のうち、犬を飼っているのは31パーセント、猫については29パーセントですから、やはり犬や猫の割合は多いといえます。ただし、犬猫以外の多種多様なペットを飼う人も増加傾向にあり、現在その割合が50パーセント近くになっています。犬猫販売業免許を取得できなかったとしても、ペットショップとしての営業の継続は可能だと議連では考えています。

 (中略)

第2 犬猫販売業免許
 犬猫の販売業を営もうとする者は、販売場ごとに、その販売場の所在地の都道府県知事から犬猫販売業免許を受けなければならない。次の各号のいずれかに該当するときは、都道府県知事は、犬猫販売業免許を与えないことができる。

1~3 (略)

 (中略)

第4 広告の規制
 犬猫販売業者は、犬猫の販売に関して広告するときは、犬猫のイラスト、写真及び動画を用いてはならない。

(引用終わり)

 上記問題文から、規制①では「犬猫の販売業を営もうとする者」及び「既に犬猫を販売しているペットショップ」が主体であり、規制②では「犬猫販売業者」が主体です。「既に犬猫を販売しているペットショップ」については、ちょっと長いし、「ペットショップ」が法令用語として適確とはいいがたいので、「既存犬猫販売業者」のように表記してもよいでしょう。当サイトの参考答案は、そのような表記を用いています。

(参考答案(その1)より引用。太字強調は筆者。)

 犬猫販売業を営もうとする者既存犬猫販売業者の職業選択の自由を侵害し22条1項に反するか。

(引用終わり)

(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

 犬猫販売業を営もうとする者又は既に業として犬猫を販売している者(以下「既存犬猫販売業者」という。)の職業選択の自由を侵害し22条1項に反するか。

(引用終わり)

2.注意したいのは、「犬猫の販売業を営もうとする者」と「犬猫販売業者」の区別です。これらをごっちゃにしてはいけません。問題文で、「犬猫販売業免許を受けた者(以下「犬猫販売業者」という。)」とされているとおり、両者は明らかに異なる概念だからです。答案で、ここがごちゃごちゃになっていると、「問題文をよく読んでいませんね。」ということで、地味ではあるものの、マイナスに評価されることになるでしょう。

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