1.令和6年司法試験短答式試験憲法第11問、同年予備試験短答式試験憲法・行政法第7問。当サイトでは、112が正解なんじゃないの?という記事を書いていました(「令和6年司法短答憲法11問、予備短答憲法・行政法7問について」)。これに対し、法務省が公表した正解は、212。イウはともかく(※1)、アはどうして2になるんだ。今回は、その点について当サイトが考えたことを説明しておきたいと思います。
※1 ウについては、「立憲主義」と「国民主権」が、本来はどのような方向を向いた概念なのか、という、ベクトル感覚で解くことが重要で、これは旧司法試験時代から伝統的に通用する統治の解法です。具体的には、以前の記事(「令和6年司法短答憲法11問、予備短答憲法・行政法7問について」)を参照してください。
2.改めて、アの内容を確認しておきましょう。
(令和6年司法試験短答式試験憲法第11問、同年予備試験短答式試験憲法・行政法第7問) 法の支配に関する次のアからウまでの各記述について、bの見解がaの見解の根拠となっている場合には1を、そうでない場合には2を選びなさい。
ア.a.イギリスで20世紀までに成立した法の支配は、制定法とコモン・ローを中心とした「正規の法」による支配を意味しており、裁判所による法の適用を保障することを要求している。 イ.(略) ウ.(略) |
正解が2、ということは、bの記述はaの記述の根拠にはならないよね、ということですね。それは、なぜなのか。まず、考えられることとして、「bは歴史的事実を述べただけで、およそ論理的な根拠にはなりえないから」ということが考えられます。仮に、これが正しいなら、「bが歴史的事実であれば、絶対に根拠にならないのだから、aを読まずに2を解答すればいい。」という解法が成立することになる。しかしながら、そのような解法は成立しません。先例として、令和元年司法試験短答式憲法第6問、同年予備試験短答式試験憲法・行政法第3問のアを挙げましょう。
(令和元年司法試験短答式試験憲法第6問、同年予備試験短答式試験憲法・行政法第3問) 憲法第21条に関する次のアからウまでの各記述について,bの見解がaの見解の根拠となっている場合には1を,そうでない場合には2を選びなさい。
ア.a.「検閲」とは,行政権が主体となって,思想内容等の表現物を対象とし,その全部又は一部の発表の禁止を目的として,対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に,発表前にその内容を審査した上,不適当と認めるものの発表を禁止することを,その特質として備えるものであり,絶対的に禁止される。 イ.(略) ウ.(略) |
仮に、「bが歴史的事実なら、正解は必ず2になる。」という解法が成立するなら、これも2が正解となるはず。しかし、法務省が公表した正解は、1です。それはなぜかというと、aは検閲の意義に関する判例の立場であるところ、判例がbを根拠として挙げているからです。
(札幌税関事件判例より引用。太字強調は筆者。)
憲法21条2項前段は、「検閲は、これをしてはならない。」と規定する。憲法が、表現の自由につき、広くこれを保障する旨の一般的規定を同条1項に置きながら、別に検閲の禁止についてかような特別の規定を設けたのは、検閲がその性質上表現の自由に対する最も厳しい制約となるものであることにかんがみ、これについては、公共の福祉を理由とする例外の許容(憲法12条、13条参照)をも認めない趣旨を明らかにしたものと解すべきである。けだし、諸外国においても、表現を事前に規制する検閲の制度により思想表現の自由が著しく制限されたという歴史的経験があり、また、わが国においても、旧憲法下における出版法(明治26年法律第15号)、新聞紙法(明治42年法律第41号)により、文書、図画ないし新聞、雑誌等を出版直前ないし発行時に提出させた上、その発売、頒布を禁止する権限が内務大臣に与えられ、その運用を通じて実質的な検閲が行われたほか、映画法(昭和14年法律第66号)により映画フイルムにつき内務大臣による典型的な検閲が行われる等、思想の自由な発表、交流が妨げられるに至つた経験を有するのであつて、憲法21条2項前段の規定は、これらの経験に基づいて、検閲の絶対的禁止を宣言した趣旨と解されるのである。 (引用終わり) |
このことから分かることは、「仮に歴史的事実であっても、a説の論者が根拠として挙げていれば、1が正解になる。」ということです。すなわち、ab見解・根拠対応問題というのは、「a説の論者がbを根拠として挙げていましたか?」という知識を問う問題であって、純粋な論理を問う問題ではないのです。
3.次に、「aの見解はダイシーの見解であるところ、ダイシーが挙げるbは、当時からも批判があったし、現在ではこれを支持する論者はほとんどいないから、bをaの根拠とするダイシーの主張は論理的に誤っている。だから、bはaの根拠にはならない。」というものが考えられます。仮に、これが正しいなら、「a説の論者がbを根拠として挙げていても、他の学者が『そんなの根拠にならないよ。』と批判していたら、2を解答すべきである。」という解法を採るべきことになる。しかしながら、そうはなりません。先に挙げた令和元年司法試験短答式憲法第6問、同年予備試験短答式試験憲法・行政法第3問のアをもう一度みてみましょう。
(令和元年司法試験短答式試験憲法第6問、同年予備試験短答式試験憲法・行政法第3問) 憲法第21条に関する次のアからウまでの各記述について,bの見解がaの見解の根拠となっている場合には1を,そうでない場合には2を選びなさい。
ア.a.「検閲」とは,行政権が主体となって,思想内容等の表現物を対象とし,その全部又は一部の発表の禁止を目的として,対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に,発表前にその内容を審査した上,不適当と認めるものの発表を禁止することを,その特質として備えるものであり,絶対的に禁止される。 イ.(略) ウ.(略) |
判例のいう検閲の意義に対しては、学説は概ね批判的です。そして、判例以外の説を採る論者も、判例の挙げた歴史的経験は当然踏まえている。そのような論者からすれば、「判例の挙げる歴史的経験があるからといって、判例のように解すべき根拠にはならない。」と考えているわけですね。それでも、正解は1になっている。このように、「a説の論者がbを根拠として挙げていても、他の学者が『そんなの根拠にならないよ。』と批判していたら、2が正解になる。」というわけではないのです。
上記2でも説明したとおり、ab見解・根拠対応問題というのは、単に「a説の論者がbを根拠として挙げていましたか?」という知識を問うだけの問題です。「bはaの根拠にはならない。」という批判がどれほど有力に存在していたとしても、a説の論者がbを根拠として挙げているときは、1が正解になる。このことは、全く揺らぎません。a説の論者がbを根拠として挙げている限り、絶対真理として、「bがaの根拠となる。」といえる必要は全くないわけです。もっと極端にいえば、普通に考えて全然根拠にならないものであっても、a説の論者が公然とbを根拠として挙げていれば、1を解答すべきことになる。例えば、札幌税関事件判例の判示が以下のようなものだったとしましょう。
(札幌税関事件判例より引用。太字強調部分は筆者が改変したもの。)
憲法21条2項前段は、「検閲は、これをしてはならない。」と規定する。憲法が、表現の自由につき、広くこれを保障する旨の一般的規定を同条1項に置きながら、別に検閲の禁止についてかような特別の規定を設けたのは、検閲がその性質上表現の自由に対する最も厳しい制約となるものであることにかんがみ、これについては、公共の福祉を理由とする例外の許容(憲法12条、13条参照)をも認めない趣旨を明らかにしたものと解すべきである。けだし、阪神タイガースは昭和60年にランディ・バース、真弓明信、掛布雅之、岡田彰布らの活躍によって日本一に輝くに至った経験を有するのであって、憲法21条2項前段の規定は、これらの経験に基づいて、検閲の絶対的禁止を宣言した趣旨と解されるのである。 (引用終わり) |
その場合には、以下のアは、1、すなわち、根拠となる、と判断しなければならないのです。
(設問の例) 憲法第21条に関する次のアからウまでの各記述について,bの見解がaの見解の根拠となっている場合には1を,そうでない場合には2を選びなさい。
ア.a.「検閲」とは,行政権が主体となって,思想内容等の表現物を対象とし,その全部又は一部の発表の禁止を目的として,対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に,発表前にその内容を審査した上,不適当と認めるものの発表を禁止することを,その特質として備えるものであり,絶対的に禁止される。 イ.(略) ウ.(略) |
4.他には、「bの国会主権は、aのうち制定法に関する部分には妥当するが、コモン・ローに関する部分については直接の根拠にならないからではないか。」ということも考えられます。
(令和6年司法試験短答式試験憲法第11問、同年予備試験短答式試験憲法・行政法第7問。太字強調は筆者。) 法の支配に関する次のアからウまでの各記述について、bの見解がaの見解の根拠となっている場合には1を、そうでない場合には2を選びなさい。
ア.a.イギリスで20世紀までに成立した法の支配は、制定法とコモン・ローを中心とした「正規の法」による支配を意味しており、裁判所による法の適用を保障することを要求している。 イ.(略) ウ.(略) |
仮に、これが正しいなら、「1が正解になるためには、aの記述全体を余すことなく根拠付ける必要があり、少しでも欠けていたら2と解答すべきである。」という解法を採るべきことになる。しかしながら、そうはなりません。先例として、令和4年司法試験短答式憲法第14問、同年予備試験短答式試験憲法・行政法第9問のアを挙げておきましょう。
(令和4年司法試験短答式試験憲法第14問、同年予備試験短答式試験憲法・行政法第9問。太字強調は筆者。) 政党に関する次のアからウまでの各記述について、bの見解がaの見解の根拠となっている場合には1を、そうでない場合には2を選びなさい。
ア.a.政治資金の授受の規正その他の措置を講ずることを定めた政治資金規正法は、会社が政党及び政治資金団体に対して政治活動に関する寄附をすることを、一定の限度で認めている。 イ.(略) ウ.(略) |
bの記述は、会社が政党に対して寄付することを肯定する根拠になるでしょう。しかし、「政治資金団体」に対する寄付については直接の根拠となりませんし、「一定の限度」という限界を肯定する根拠にもなりません。しかし、法務省の公表した正解は、1です。
これまでに繰り返し説明しているとおり、ab見解・根拠対応問題というのは、単に「a説の論者がbを根拠として挙げていましたか?」という知識を問うだけの問題です(※2)。a説の論者が複数の根拠を挙げていて、それぞれがa説の一部分を根拠付けているが、1つだけで全体を根拠付けているわけではない、という場合であっても、a説の論者が根拠の1つとしてbを挙げていれば、1が正解になるのです。
※2 令和4年司法試験短答式憲法第14問、同年予備試験短答式試験憲法・行政法第9問のアの場合は、政治資金規正法の趣旨ないし立法理由として挙げられているか、という意味で理解することになります。
5.さて、ここまでの説明で明らかになったとおり、1が正解となるか、2が正解となるかは、「a説の論者が根拠としてbを挙げているか。」という一点だけをみればよい。本問でいえば、aはダイシーの見解ですから、ダイシーがbをaの根拠としていれば、1が正解、そうでなければ、2が正解となるはずです。そして、この点に関して詳しめの文献を調査すると、ダイシーはbをaの根拠としているので、1を正解とすべきだ、という結論に至ります。このことは、当サイトも以前の記事(「令和6年司法短答憲法11問、予備短答憲法・行政法7問について」)で説明しているところですが、より強力な文献上の根拠を示したのが、ダイシーの著作『憲法序説』の原著の翻訳を提示した木下昌彦神戸大教授です。
憲法短答問題11の論争が続いているようなので、ダイシー(伊藤・田島訳)『憲法序説』から関連する部分を引用しておきます。aは孫引きの可能性はありますが明らかにダイシーの言説(邦訳183頁)をもとにしています。そして、ダイシーは国会主権は法の支配を支持すると明確に述べています(邦訳388) pic.twitter.com/RqOe7DqUeh
— Masahiko Kinoshita (@Con_Law_Masa) July 20, 2024
それにもかかわらず、正解が2となったのはなぜか。おそらくは、作問者が依拠した文献が、簡略な解説をするにとどめるものだったからでしょう。ダイシーの見解は、簡潔に言及されるときは、国会主権と法の支配を並列で説明されることもまれではないからです。
(岡田正則『行政法I- 行政法総論』(日本評論社 2022年)24頁より引用。太字強調は筆者。) イギリスの著名な憲法学者A.V.ダイシーは「憲法序説」(初版・1885年)で、イギリス憲法の基本原理は議会主権、法の支配、憲法的習律にあるとし……(略)…… (引用終わり) (中村民雄「欧州人権条約のイギリスのコモン・ロー憲法原則への影響 ―「法の支配」の変・不変―」早法87巻3号(2012)659頁より引用。太字強調は筆者。) はじめに イギリスは、成文の憲法典をもたない。しかし19世紀の憲法学者ダイシーが論じたように、「国会主権の原則」と「法の支配」が判例・通説においてコモン・ロー上の憲法原則とされて今に至っている。しかし今日、二大憲法原則は、EU法と欧州人権条約というヨーロッパ法によって変容を迫られている。 (引用終わり) (山田邦夫「英国の議会主権の変容と対話的司法審査の可能性」レファレンス788号(2016年)8頁より引用。太字強調は筆者) ダイシーは、議会主権は「法の支配」……(略)……と並んで、英国憲法における大原則であると定式化した。 (引用終わり) |
aとbの関係が並列なら、bはaの根拠とはならない。作問者は、「ダイシーはbの国会主権をaの法の支配と並列の原理として主張していたのだから、これは根拠にならないよね。」と考えて、出題したのだろうと思います。しかし実際には、木下教授が明確に指摘するように、ダイシーは国会主権を法の支配の根拠として主張していた。作問者は、もう少し丁寧に文献調査をすべきだった、ということになります。これは、出題の不備といってもよいでしょう。とはいえ、短答式試験の試験問題を作るだけのために、個々の肢について、研究者と同様の調査研究をせよ、というのは過度な要求といえなくもなく、これはもう仕方がないよね、というのが、当サイトの感想です。今後もこのようなことは起き得ることなので、その都度キレていても仕方がないでしょう。筆者も全然キレてません。
6.本問は、1か2かの二択ですから、「なんとなく変」というフィーリングで2を選んで正解した人もいたでしょう。それはそれで、結果オーライというところなのですが、「フィーリングで適当に選ぼう。」と思っていても、案外悩んでしまって、気が付いたら結構時間が経っていた、ということもあり得ます。なので、このような場合の解法は、ある程度決めていた方がよい。知識で解けない場合の解法としては、「形式論理で解く。」というのが、穴埋め、並び替え問題が多用され、「国語のようだ。」と形容された旧司法試験時代からの伝統的な解法です。今年の問題でいえば、司法試験の刑法第8問は、この方法論が有効な例です。
(令和6年司法試験短答式試験刑法第8問) 刑罰論に関して、学生A、B及びCが次の【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から ⑥までの( )内に後記アからカまでの【発言】から適切なものを選んだ場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。なお、①から⑥までの( )内にはそれぞれ異なるものが入る。 【会 話】 学生A.私は、刑罰とは、(①)であると考えます。行為者の責任に応じた刑罰のみを正当化することによって、責任主義に沿い、罪刑の均衡を図ることができると考えるからです。 学生B.Aさんの見解に対しては、(②)という批判がありますね。私は、刑罰とは犯罪防止の手段であると考えますが、その目的は、行為者の危険性に着目して、(③)にあると考えます。 学生A.Bさんの見解に対しては、(④)という批判がありますね。 学生C.私も、刑罰とは犯罪防止の手段であると考えますが、その目的は、(⑤)にあると考えます。 学生A.Cさんの見解に対しては、(⑥)という批判がありますね。もっとも、私は、BさんとCさんの考えを否定するものではなく、刑罰とは、(①)であると考えつつ、(③)や(⑤)に配慮することはできると考えます。 【発 言】 1.①ア ②カ ④エ ⑤ウ |
まず、ざっくり見て、アイウが見解、エオカが批判になっていることが分かります。ここで、アイには、「予防」という語があるのに、ウには「予防」がない。その上で、エを見ると、「犯罪予防のために必要な刑であっても」とある。アイは犯罪予防が入っているけど、ウは入っていないのだから、犯罪予防を考慮しないのは、ウだけ。そうすると、形式論理だけで、エはウに対する批判にしかならないと判断できます。そうして、見解と批判は、①と②、③と④、⑤と⑥という対応になっているわけだから、「ウ」と「エ以外」の組み合わせや、「ウ以外」と「エ」の組み合わせは即排除できる。その目でみると、2の肢は、③ウと④オが一緒になっているから、これは正解にならない。次に、3を見ると、①ウ、②エで、ここは正しい。じゃあ、他の⑤イ⑥カの組み合わせで合っているかを確認してみよう。ここで、大事なことは、「比較」の視点です。批判のうち、エは既に使ったので、イの批判となり得るのは、オかカということになる。イの「一般人を威嚇し、一般人による将来の犯罪を予防すること」の批判として、オ「刑罰と保安処分の区別がなくなってしまう」と、カ「刑罰は重ければ重いほどよいということになってしまう」のどっちが妥当なのか。知識がないと、オの「刑罰と保安処分の区別」って何?という感じでしょう。他方で、カは、「一般人を威嚇して犯罪予防するっていうなら、全部死刑にするのが一番威嚇できていいってことになるね。」という感じになりそうで、確かに批判になりそう。ということで、⑤イ⑥カの組み合わせでいいんじゃね?ということで、3を解答すれば、それで正解です。この問題は、知識で解いた方がより確実ですが、知らなければこんな感じで解く。時間不足になりがちな人は、まず上記のようにざっくり解いて、「☆」マークなどを付けておく。そして、全体を解いて時間が余ったら、「☆」マークを再度精読して知識も加味してより確実に正解できるようにする。そんな方法も有効でしょう。ちなみに、旧司法試験時代は、マトモに解くと確実に時間不足になるので、上記のようなテクニカルな解法を用いるのがむしろ普通で、「穴埋めは全部埋めない。」が常識でした。現在は、短答が得意な人なら全部埋めても時間が余るくらいの時間設定なので、そこまでシビアにやる必要はない。なので、上記のようなテクニカルな解法は、あまり説明されなくなったし、説明できる人も少なくなっているのですね。とはいえ、現在でも一定程度通用し、かつ、有効な方法論であることは間違いありません。
もう1つ。刑法第9問をみてみましょう。
(令和6年司法試験短答式試験刑法第9問) 学生A、B及びCは、承継的共同正犯に関する次の【事例】について、後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から⑧までの( )内に後記【語句群】から適切なものを入れた場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。なお、①から⑧までの( )内にはそれぞれ異なるものが入る。 【事 例】 【会 話】 学生B.Aさんの見解では、詐欺罪で金銭受領のみに関与した後行者が不可罰となってしまいませんか。私は、承継的共同正犯については(③)と考え、その成立を(④)すべきだと考えます。 学生C.私も、承継的共同正犯の成立を(④)すべきだと思います。私は、(⑤)と考え、この【事例】については、後行者に(⑥)の共同正犯の成立を認めます。 学生B.Cさんの見解では、共謀加担前の結果に対する因果性の欠如を埋め合わせることができないのではないでしょうか。私は、Cさんが承継的共同正犯の成立根拠とする事情は、判例が言うように(⑦)と評価すべきであって、(⑥)の責任を問う理由とはいえないと考えます。私は、Cさんと異なり、この【事例】の後行者に(⑧)の共同正犯の成立が認められると考えます。 【語句群】 1.①a ④f ⑦d |
まず、一見して、ABCの見解が、fghに対応するのだろう、ということは、すぐ分かるでしょう。ただ、穴の数が①~⑧までの8つであるのに対し、語句群はaからjまでの10個なので、余りが出ることに留意が必要です。そんなことを頭の片隅に置きつつ、Bの第1発言を見ると、「不可罰となってしまいませんか」と言っている。また、Bは第2発言で、「後行者に(⑧)の共同正犯の成立が認められる」と言っており、Cも、「私は……(略)……後行者に(⑥)の共同正犯の成立を認めます。」と言っているから、Aは全面否定説でないと辻褄が合わない。Aの見解は②に入るわけであって、②にhが入ると分かります。次に、BCの採る説は?と思って見ると、Bは第1発言で、「私は、承継的共同正犯については(③)と考え、その成立を(④)すべきだと考えます。」と言っていて、Cも、「私も、承継的共同正犯の成立を(④)すべきだと思います。」と言っている。つまり、BCは④の見解に立つ、という点では同じだということです。ここで、仮に④にfの全面肯定が入るとすると、その後の成立範囲で対立が生じようがない。なので、④はgだ、ということが分かるわけですね。この時点で、④fとなっている1の肢が切れます。また、fは余るんだろうな、ということも分かるわけですね。さて、その上で、Bの第2発言に着目すると、「Cさんの見解では……(略)……因果性の欠如を埋め合わせることができない」と言っている。因果性の欠如というのは成立否定の方向なので、それをCに対する批判とするということは、Bは、Cを「成立範囲広すぎワロタ」と批判しているわけで、Cは、Bより成立範囲の広い説だろう。事例の結論について、Cの見解は⑥、Bの見解は⑧に対応する。肢を見ると、iかjの二択です。どっちが広いか。その目でみれば、iの方が広いとわかる。だから、⑥にはiが、⑧にはjが入るだろう。この時点で、4の肢が切れる。残るは、2、3、5です。これらの肢を見比べて、⑤がキーになると読み取る。⑤がaなら、③aとする2と、⑤cとする5が同時に切れるので、正解は3と確定。⑤がcなら、5が正解で確定です。それ以外なら、2が正解となる。そんな目で、⑤を見ると、「私は、(⑤)と考え、この【事例】については、後行者に(⑥)の共同正犯の成立を認めます。」というわけですから、これはiの根拠ですね。そこで、aとcを比較する。一見してすぐ判断できるかというと、ちょっと微妙です。ただ、Bは、Cに対し、「因果性の欠如を埋め合わせることができない」と批判していましたから、因果性を重視する立場だろう。それなら、「因果性」、「因果的影響」のキーワードが入っているa又はbが、Bの見解で、因果性を理由に批判されるCの見解は、因果性に関するキーワードのないcではないか。ただ、まだちょっと自信がない。C発言には、「この【事例】については」とあるので、ここで【事例】を見てみよう(いきなり【事例】を読む人は、甘いのです。)。ここで、重要なキーワードとして、「自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思で」があることに気が付くでしょう。これによって、Cの見解の理由である⑤は、「積極的に利用する場合に限って」とするcで間違いない、との自信を得るのでした。こうして、5が正解だ、という結論に至るのです。文章にすると長いのですが、脳内でやっていると、結構瞬殺のレベルだと思います。個々の文章をマトモに読んでいないのに、正解できてしまうのでした。本問は知識で解いた人の方が多いでしょうが、形式論理で解くことも十分可能だったといえます。
7.以上のように、形式論理を用いる解法は、相応に有効です。しかし、令和6年司法短答憲法11問、予備短答憲法・行政法7問のアでこれを用いると、1を解答すべきという結論が出力されてしまいます(「令和6年司法短答憲法11問、予備短答憲法・行政法7問について」)。このように、この解法は、必ずしも万能ではない。とはいえ、使えるようにしておくと、役に立つことも多いでしょう。
8.最近の短答は、知識の物量で押し倒してしまえば合格できるので、敢えてテクニカルな解法に頼る必要もないのが普通です。なので、短答対策は、ひたすら肢別問題集を切りまくれば足りる。「肢別最強伝説」です。そうしたこともあって、最近は、当サイトで短答の解法を敢えて取り上げる機会はほとんどなくなっています。今回は、たまたまよい機会だったので、久しぶりに、短答の解法について説明してみました。