令和6年予備試験短答式試験の結果について(2)

1.以下は、直近5年の科目別平均点の推移です。一般教養だけは60点満点ですから、比較のため、括弧内に30点満点に換算した数字を記載しました。

令和
2年
令和
3年
令和
4年
令和
5年
令和
6年
憲法 21.5 16.7 19.8 15.2 13.6
行政 14.4 10.7 12.8 10.0 11.2
民法 12.7 17.3 15.2 17.3 16.5
商法 12.8 16.0 10.9 14.3 14.3
民訴 15.1 14.6 15.1 16.6 15.6
刑法 14.5 17.3 17.1 18.2 18.2
刑訴 13.5 14.6 15.9 14.5 14.6
教養 24.3
(12.15)
24.9
(12.45)
21.2
(10.6)
28.4
(14.2)
25.1
(12.55)
合計 128.8 132.0 127.9 134.5 129.2

 例年の大まかな傾向として、以下の2つを挙げることができます。

 ① 基本三法(憲法、民法、刑法)は易しくそれ以外の科目は難しい
 ② 易し過ぎたり、難し過ぎた科目は、翌年に修正される。

 これを踏まえて直近の数字をみると、憲法の異様さが際立ちます。昨年ですら、基本三法にしては難しかったのに、今年はそれが修正されるどころか、輪を掛けて難しくなっている。とはいえ、イレギュラーなものは、そんなに続かない。司法試験の方で多数の最低ライン未満者を出したこともあり、来年は、さすがに反動で易しめになるでしょう。
 その憲法より平均点が低いのが行政法で、こっちはこれがデフォルトになりつつあります。もともと低めの平均点になりがちだったのですが、かつては翌年修正される傾向でした。それが、最近は修正されずに難しいまま、という傾向です。もっとも、その難しさは憲法とは異質で、憲法は微妙な言葉使いの問題で正誤が判定しにくいという要素が強いのですが、行政法は、単に多くの受験生の手が回っていないという要素と、1、2問題では4つ正解しないと満額の配点がもらえない(憲法は3つで足りることが多い。)という要素が強いのです。なので、憲法は確実な得点源にはなりにくいのに対し、行政法は、きちんと勉強して、すべての肢を正確に切れるようになってくれば、得点源にできなくはない科目だと思います。とはいえ、これはより確実に点が取りやすい民法・刑法を制圧した後の話です。民法・刑法が平均点くらいしか取れない人は、まずは民法・刑法を潰す方を優先すべきでしょう。

 2.予備試験の短答は、司法試験本体よりも科目数が多いだけでなく、一般教養があるのが、厄介な点です。一般教養対策をどうするかというのは、予備試験における短答の学習戦略を考える上で、重要なポイントとなります。以下は、一般教養の得点と、法律科目で1科目当たり何点を取れば合格できるか、ということの対応をまとめたものです。

一般教養
の得点
法律科目
1科目当たりの
得点
57点
(今年の最高得点)
15.4点
54点
(9割)
15.8点
48点
(8割)
16.7点
42点
(7割)
17.5点
36点
(6割)
18.4点
30点
(5割)
19.2点
25.1点
(今年の平均点)
19.9点
12点
(実質零点)
21.8点

 今年の一般教養トップは、57点でした。一般教養でトップになれば、法律科目は5割強でも合格できます。9割の54点でも、法律科目は6割未満(正確には52.6%)で合格できる。ただ、このような受かり方は推奨できません。そもそも一般教養で9割以上取ることが難しい、というだけでなく、合格した後の司法試験で苦しむことになりやすいからです。
 逆に、一般教養が12点で、法律科目を7割強(21.8点)取って合格というのは、十分にあり得る戦略です。一般教養はすべて5択ですから、デタラメに選んでも大体2割は取れてしまう。12点を、「実質零点」と表現しているのは、そのためです。つまり、これは一般教養を完全に捨てる戦略といえます。その上で、法律科目はガチガチに固めて7~8割を取る。これは、簡単とは言いませんが、決して不可能ではないことです。予備の段階で短答の知識をガチガチに固めておけば、その後の司法試験の学習が非常に楽になります。「司法試験は憲民刑以外の科目に短答がないのに、そこまでする意味があるの?」と思うかもしれませんが、短答の知識があると、論文の事例分析を速く、正確に行うことができるようになります。一般教養は、範囲が広すぎて対策を取ろうと思っても難しいということを考えると、中途半端な一般教養対策をするくらいなら、「法律科目7~8割」を目指す方が、予備の短答対策としては得策だろうと思います。予備の場合は、短答と論文の間に2か月程度の余裕があることも、この戦略を採りやすくしています。短答まではひたすら短答知識を詰め込んで、短答終了後にすばやく規範の詰め込みと答案の速書きの練習に切り替えれば、何とか間に合うだけの時間的余裕があるというわけです。
 実際には、一般教養の対策を何もしていなくても、大学入試時代の知識や、たまたま知っている英語や時事的な知識等で解ける問題、それから、毎年1問は出題される論理問題(今年は第12問)を拾っていけば、30点くらいは取れることが多いでしょう(※1)。一般教養で30点を確保できれば、法律科目は65%程度で合格できます。とはいえ、それでも65%は必要ですから、やはり、法律科目で安定して7割以上を取れる実力は付けておく必要があるといえるでしょう。その意味でも、「法律科目7~8割」は、予備短答における王道の目標といえるのです。
 ※1 今年、平均点以下しか取れなかったぞ、という人は、今から一般教養の勉強をするというよりも、改めて今年の問題冊子を見て、自分でも解ける問題があったのに、それを見逃して選択できなかった、ということがないか、再確認する方がよいでしょう。物理や経済学のように、自分が全く知識のない問題でも、社会常識で解答できてしまう問題はあったりします。完全に正解がわからなくても、2択、3択まで絞り込めるものがあれば、「②」、「③」のように印を付けておいて、より高い確率で正答できそうなものから順に選択する。そのような方法論を事前に考えておくことの方が、現実的な対策だと思います。

3.「法律科目7~8割」を目指すためには、何をすればよいか。当サイトは、肢別問題集を解きまくる、ということで、議論の余地はないと考えています。「肢別最強伝説」といってよいでしょう。
 短答は、過去問で問われた知識が繰り返し問われるのが特徴です。なので、過去問ベースの肢別問題集を解く。昔は、紙媒体の肢別問題集が複数市販され、毎年内容が更新されていましたが、最近は、そうしたものが市販されなくなっています(※2)。現在のところ、辰已法律研究所のアプリ(「辰巳の肢別」)が、最も有力な学習ツールでしょう(※3)。筆者も試しに利用してみましたが、ゲーム感覚で解くことができ、正解・不正解等の記録も残すことができるので、使い勝手は悪くないと感じました。スマホがあればすぐ学習できるので、空き時間に手軽に学習できる点が大きな魅力です。ただ、アプリの起動から前回の続きの学習の開始までに複数回のタップを要するとか、操作感や視覚効果が一般の人気アプリと比較して明らかに劣っている等、不満を感じる部分は少なくありません。また、一般に、アプリには端末との相性による動作不良等が付きものです。本格的に問題を購入して利用する前に、レビュー等を参考にしたり、サンプル問題で操作感を確認する等して、自分の環境で使用に耐え得るものか確認すべきでしょう。
 ※2 現在は、辰已法律研究所のオンライン販売Amazonで肢別本を購入できるようです。もっとも、持ち運びなどの利便性を考えると、アプリの方が勝ると感じます。
 ※3 各予備校で、受講生のみが利用できる短答対策用のアプリやオンライン学習システムを提供している場合があります。そのようなものが利用できるのであれば、それも有力な選択肢です。

 具体的な学習法としては、まず、2回全体を回して解く。その際、単に○か×かが合っているだけでなく、正しい肢なら、それは判例なのか、条文なのか、学説なのか誤りの肢なら、どの部分が誤りで、正しくはどのような内容か。そうした部分まで正しく記憶していたかを、解説をみて確認します。たまたま○×が合っていても、そうした部分まで正確に覚えていなければ、「不確実」をタップして、記録に残しておく。そして、3回目以降に解くときには「出題設定」で、「正答率70~80%以下」(最初「100%」と表示されているものを、隣のスライダーをタップすることで操作できるのですが、細かい数字の操作が難しいので、70~80%の間の数字になればよしとします。)と「不確実」を表示するように設定します。この段階で、2回連続正解し、かつ、「不確実」をタップしていないものは除外されるでしょう。ですので、それ以外のものだけを解くことになります。そうやって再度解いていくわけですが、「不確実」のマークが付いていたものについては、上記に示した部分まで正しく記憶して正解できたときは、マークを外すようにします。続けているうちに、自分がどうしても覚えられない特定の肢だけが残ります。そればかりを繰り返し解くことになりますから、いずれはそれらの肢も自然と覚えていく。目標は、「正答率70~80%以上」と「不確実」を選択しても、1問も表示されない状態にすることですが、予備は学習期間が限られる上に7科目あるので、時間的にそこまで詰めるのは難しいかもしれません。短答当日までにできる限り詰める、という感覚でよいのだろうと思います。そして、短答終了直後に一気に論文に切り替える。短答の学習で、基礎的な知識は頭に入っているはずなので、論文対策は、主として規範の記憶と時間内に答案を書き切る訓練に特化して行うことになる。これは、短答と論文の間の2か月でギリギリやれるだろうと思います。

4.短答はひたすら肢別問題集をやればいい、という「肢別最強伝説」に対しては、批判的な意見も案外あるものです。例えば、「肢別問題集だけでは網羅性がないので基本書やテキストを読むべきだ。」という考え方もあるでしょう。しかし、これはなぜ肢別問題集が有効か、ということを理解できていません。短答は、過去問で出た知識が繰り返し出題されます。「過去に出た知識はもう出ないのではないか。」と思う人もいるかもしれませんが、そうではないのです。過去問ベースの肢別問題集は、過去問で出た肢をダイレクトに習得できるので、効率がよい。つまり、「過去問で出たところに特化し、網羅性がないこと」こそが、過去問ベースの肢別問題集の長所なのですね。基本書やテキストを読む勉強法だと、短答で繰り返し出題されている部分がどこなのか、わからないまま漫然と学習することになりやすい。「基本書やテキストに過去問で出題された部分をマーカーしておき、それを見直すという勉強法ならいいはずだ。」と言う人もいるかもしれませんが、過去問で出題されたものを確認してマーカーを引く時間があれば、既に過去問ベースで肢別に整理された問題集を解いた方がよいでしょう。また、知識はただ眺めているだけでは、頭に入ってきません。肢単位で正誤を考えるという作業をして初めて、うっかりしやすいポイントなどがわかるのです。基本書やテキストは、肢別問題集を解く前のざっくりした知識の確認や、間違った肢の知識の確認に使う程度にした方がよいと思います。ただ、憲法判例に関しては、過去問ベースの肢別問題集だけでは少し足りないかもしれません。司法試験の場合は、当サイトでも論文の学習を兼ねて判例の原文を読むことを推奨しています(「令和6年司法試験短答式試験の結果について(2)」)。ただ、予備の場合は、短答と論文の試験日にブランクがあり、短答と論文の学習期間が分離しやすいので、短答学習段階でじっくり原文を読む時間的余裕は、あまりないように思います。間違えた判例問題の肢を確認する際に、原文も確認してみる、という程度でもやむを得ないかな、という印象です。
 また、「過去問を解けばいいから、肢別問題集は不要である。」という意見もあるでしょう。過去問を解くのは、基本書やテキストで勉強するよりは効率的です。しかし、設問ごとの正解・不正解ということになるので、肢ごとの緻密な知識のチェックがやりにくいのです。「それぞれの肢ごとにきちんと記録を残していけば、過去問を解く方法でもいいはずだ。」という意見もあるでしょうが、それなら最初から肢ごとに整理されたものを使った方が速いでしょう。1つの設問に5つの肢があるとして、そのうちの3つは既に覚えていて改めて確認する必要はないが、残りの2つの肢はまだ覚えきれていない、という場合も、設問全体を無駄に解くことになります。「1つの肢の正誤を考えて、正解を見て確認」という1対1対応の学習ができないのも、意外と学習効率に影響します。「これどっちだったっけー。あっそうかー。」とピンポイントですぐ知識を確認できるというのは、重要なことです。設問全体を解いて解答を見るという方法だと、1つ1つの肢との対応が散漫になるので、個別の知識を集中して記憶しにくいのですね。これは、細かいことのようで、結構重要だと思います。なお、時間を測って本試験と同じ時間内に解く、という訓練は、予備校の模擬試験を何回か受ける程度で十分だろうと思います。現在の短答では複雑な論理問題は出題されないので、試験時間全体を設問の数で割った1問当たりの時間を把握しておけば、それほど時間配分で困ることはないからです。それから、「本試験は肢の組み合わせで解くことが前提だから、肢ごとにバラしてしまっては意味がない。」という意見もあります。これは、主として旧司法試験時代の合格者に多い意見です。確かに、旧司法試験時代は、肢の組み合わせで解くことが前提の出題がされていて、わざと正誤がわからない肢が入ったりしていました。また、当時は憲法・民法・刑法がまとめて実施され、刑法を中心に複雑な論理問題が出題されたので、民法の知識問題を高速で解いて、論理問題に時間を回す必要がありました。そのためのテクニックとして、「すべての肢を見ないで早く正解する。」ということが必要だったのです。そういった理由があったので、当時としては、肢の組み合わせで解く訓練をした方がよい、という指導がされ、それは正しかったのです。しかし、現在では、民事系以外ではそもそも肢の組み合わせで解ける形式ではなくなっていますし、民事系も、旧司法試験時代のような肢の組み合わせを前提にした出題は、あまりされていません。また、公法系・民事系・刑事系が別の時間に実施され、刑事系もかつてのような複雑な論理問題は出題されなくなりましたから、「すべての肢を見ないで早く正解する。」というよりは、「すべての肢を確認してケアレスミスをなくす。」ことの方が重要になっています。なので、肢ごとの正誤を判断することに特化してよいのです。他に、「過去問集には正答率が記載されているから」という意見もありますが、これについては、以前の記事(「短答過去問集の正答率について」)で説明しました。
 そして、非常に多いのが、「肢別問題集のような安易な方法で力が付くはずがない。もっと本質を理解する勉強をするべきだ。」というもので、大学教授やローの教官だけでなく、予備校の講師でも、このようなことを言う人はいるようです。これは、具体的な根拠を欠く主張であって、考慮するに値しないことは明らかなのですが、意外とこのような言説に惑わされる受験生が多いことも事実です。このような言説に出会ったなら、その人が短答の出題形式や出題傾向をどの程度踏まえているか、その人の推奨する勉強法で得点が取れるメカニズムはどのようなものか、それは現実味があるか、というようなことを、考えてみるとよいでしょう。短答試験の肢は、本質に遡って考えると、○とも×ともいえる、というものが結構あります。本質に遡って一生懸命考える人は、○×を判断できず、無駄に迷うことになる。このような場合、「この肢は過去問で誤りの肢として出題されていたのだから、×だよね。」と素早く判断できる方が、はるかに楽に受かります。たとえ本質を理解していても、○×を短時間で正確に判断できなければ、短答には合格できない、ということを、肝に銘じておくべきでしょう。
 以上のとおり、「肢別最強伝説」は、全く揺らぐことはない。当サイトは、そう考えています。

5.予備試験の短答式試験は、法律科目だけでも7科目あります。肢別問題集を解きまくるという勉強法に特化したとしても、膨大な時間がかかります。できる限り、早い段階で着手する必要がある。来年の予備試験の受験を考えているのなら、今から着手しなければ間に合いません。短答は、時間を掛ければ、素直に得点に結び付きます。その時間をいかに確保するか、毎日の生活の中で、上手に時間を作っていけるかどうかということも、合否を分ける1つのポイントになるでしょう。

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