令和6年司法試験論文式公法系第2問参考答案

【答案のコンセプト等について】

1.現在の論文式試験においては、基本論点についての規範の明示と事実の摘示に極めて大きな配点があります。したがって、①基本論点について、②規範を明示し、③事実を摘示することが、合格するための基本要件であり、合格答案の骨格をなす構成要素といえます。下記に掲載した参考答案(その1)は、この①~③に特化して作成したものです。規範と事実を答案に書き写しただけのくだらない答案にみえるかもしれませんが、実際の試験現場では、このレベルの答案すら書けない人が相当数いるというのが現実です。まずは、参考答案(その1)の水準の答案を時間内に確実に書けるようにすることが、合格に向けた最優先課題です。
 参考答案(その2)は、参考答案(その1)に規範の理由付け、事実の評価、応用論点等の肉付けを行うとともに、より正確かつ緻密な論述をしたものです。参考答案(その2)をみると、「こんなの書けないよ。」と思うでしょう。現場で、全てにおいてこのとおりに書くのは、物理的にも不可能だと思います。もっとも、部分的にみれば、書けるところもあるはずです。参考答案(その1)を確実に書けるようにした上で、時間・紙幅に余裕がある範囲で、できる限り参考答案(その2)に近付けていく。そんなイメージで学習すると、よいだろうと思います。

2.参考答案(その1)の水準で、実際に合格答案になるか否かは、その年の問題の内容、受験生全体の水準によります。令和6年公法系第2問についていえば、前提となる制度や事実関係が複雑であったために、パニックになってしまい、ヒントをヒントと認識できなかった受験生が少なくないと思われること、判例の原文を読み、各要素の方向性(「令和6年司法試験論文式公法系第2問の参考判例等」参照)を把握していることが、書き写すべき対象を判断するための前提知識となっているところ、受験生の多くは高額な予備校教材や合格者等が独自に作成した教材を熱心に課金して読む一方で、無料で読める判例原文を軽視して読まない傾向にあることから、本問でどの部分を書き写せばよいかすら適切に判断できなかった受験生が圧倒的であったと思われます。なので、参考答案(その1)は、合格答案はおろか、超上位答案にすらなってしまいかねないでしょう。

3.参考答案中の太字強調部分は、『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』に準拠した部分です。 

【参考答案(その1)】

第1.設問1

1.小問(1)

(1)狭義の処分とは、公権力主体たる国・公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(ごみ焼却場事件判例参照)
 事業計画変更認可公告(法38条2項、19条1項)後、施行地区内において建築行為等が制限される(法66条1項)。同認可には一般処分の性質がある。
 しかし、狭義の処分は法執行作用を前提とするところ、一般処分は不特定多数人に対する一般抽象の効果を生ずるにとどまり、立法行為に準ずるから、狭義の処分には当たらない(用途地域指定事件判例参照)
 以上から、本件事業計画変更認可は狭義の処分に当たらない。

(2)狭義の処分以外にも、権力的事実行為など抗告訴訟の対象とすべきものは、「公権力の行使に当たる行為」として処分性がある(行訴法3条2項かっこ書)。施行地区内宅地所有者等の権利義務・法的地位に対する法的効果の点から検討する。
 一般処分における相手方の地位に及ぼす影響については、後続の個別処分を受けるべき地位に立たされるかを考慮する(第2種市街地再開発事業計画決定事件、浜松市事件各判例参照)
 新たに編入される施行地区は公告され(法38条2項、19条1項)、設計の概要は設計説明書及び設計図を作成して定められ、設計説明書には、再開発ビルの概要等が記載され、設計図は500分の1以上の縮尺で、再開発ビルの各階について柱、外壁、廊下、階段及びエレベータの位置を示す平面図、再開発ビルの床及び各階の天井の高さを示す断面図、再開発ビルの敷地についてビルの位置や主要な給排水施設の位置等を示す平面図等が記載される。法66条1項で制限されるのは施行の障害となるおそれがある建築行為等である。事業計画変更認可公告から権利変換不希望申出等期間(法71条4項、5項)経過後に遅滞なく権利変換計画認可がされる(法72条1項)。権利変換計画認可後、遅滞なく権利変換処分がされる(法86条1項、2項)。権利変換で、各所有者は宅地価額割合に応じて権利床が与えられる。事業計画変更認可によって権利床に変換されるべき宅地の総面積が増加した結果、所有者等が本来取得できたはずであった権利床が減少しうる。
 以上から、事業計画変更認可により、新たに施行地区に編入された所有者等は建築行為等制限を伴う権利変換処分を受けるべき地位に立たされ、それ以外の所有者等は権利変換で与えられる権利床が減少しうる地位に立たされる。
 したがって、事業計画変更認可は「公権力の行使に当たる行為」に当たり、処分性がある。

(3)よって、本件事業計画変更認可は、取消訴訟の対象となる処分に当たる。

2.小問(2)

(1)縦覧・意見書提出手続を欠く違法

ア.事業計画変更認可をするには、「軽微な変更」を除き、縦覧・意見書提出手続を要する(法38条2項、16条)。
 本件事業計画変更認可につき、Q県の担当部局は「軽微な変更」に当たると判断した。確かに、本件事業計画変更認可は、本件都市計画変更を受けて申請され、設計の概要のうち公園新設以外は変更しない内容であるから、「都市計画の変更に伴う設計の概要の変更」(法施行令4条1項1号)に当たるとみえる。
 しかし、都市計画で定めるのは市街地開発事業の種類、名称及び施行区域で(都計法12条2項)、本件都市計画変更はC地区を施行区域に編入するものである。C地区を本件事業の施行地区に編入して公共施設である公園とすることは本件都市計画変更で決まっておらず、「都市計画の変更に伴う」とはいえない。
 以上から、「都市計画の変更に伴う設計の概要の変更」(法施行令4条1項1号)に当たらない。Q県知事がR市長に縦覧・意見書提出手続を実施させなかったのは違法である。

イ.手続違反が処分の違法事由となるかは、手続違反が重大か、処分内容に影響するかで判断する(一級建築士事件、個人タクシー事件、群馬バス事件各判例参照)
 縦覧・意見書提出手続違反は重大である。後記(2)のとおり本件都市計画変更には違法事由があり、処分内容に影響する。

ウ.よって、違法かつ取消事由となる。

(2)本件都市計画変更の違法

ア.都市計画基準(都計法13条1項13号)充足判断の裁量逸脱

 裁量の広狭は、法律の文言・趣旨、権利利益の制約、専門技術・公益判断の必要性、制度・手続上の特別規定等から判断する(群馬バス事件、マクリーン事件等判例参照)
 「一体的に」、「必要がある」の文言の抽象性、都市計画における公益判断の必要性から、都市計画基準の判断には裁量がある。その違法性は、重要な事実の基礎を欠くか、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くかで判断する(マクリーン事件、呉市学校施設使用不許可事件、小田急本案事件等判例参照)
 市街地再開発事業とは、細分化された敷地を共同化して、再開発ビルを建築する事業である。しかし、B地区は約2万㎡であるのに対し、C地区はその10分の1の約2千㎡しかなく、河川沿いの細長い形状で、B地区から見て河川を越えた対岸にあるという立地条件にある。本件都市計画変更は本件事業が停滞している中、令和4年になってなされ、それに際しては、B地区内の宅地所有者としてB地区組合員であり、かつ、C地区内宅地を全て所有するEが、R市長やB地区組合理事らに対し、C地区を本件事業の施行地区に編入するよう働きかけを行っていた。EはC地区の土地の活用に長年苦慮していた。
 以上から、「一体的に開発し、又は整備する必要がある土地」と判断するのは社会通念に照らし著しく妥当性を欠く。
 よって、裁量逸脱の違法がある。

イ.施行区域要件(法3条4号)充足判断の裁量逸脱

 「高度利用」、「貢献」の文言の抽象性、市街地再開発事業における公益判断の必要性から、施行区域要件の判断には裁量がある。
 C地区は公園として整備される予定である。市街地再開発事業とは、細分化された敷地を共同化して、道路や公園等の公共施設の用地を生み出す事業でもある。しかし、C地区内の宅地はEが全て所有している。C地区はB地区から見て河川を越えた対岸にあるが、B地区側へ橋が架かっていないためにB地区側からの人の流入も期待できず、A駅方面へ行くにはかなりの遠回りをしなければならない。Eは、上記アの働きかけを行っていた。
 以上から、C地区公園整備について、「当該区域内の土地の高度利用を図る」と判断すること、それによって「当該都市の機能の更新に貢献する」と判断することは、いずれも社会通念に照らし著しく妥当性を欠く。
 よって、裁量逸脱の違法がある。

第2.設問2

1.実体法的観点

 事業計画変更認可は都道府県知事がする(法38条1項)のに対し、権利変換処分は施行者がする(法86条1項、2項)との反論が想定される。
 しかし、事業計画変更認可と権利変換処分は、細分化された敷地を共同化して、再開発ビルを建築し、同時に道路や公園等の公共施設の用地を生み出すという同一目的達成のために行われる。事業計画変更認可公告後に法66条1項で制限されるのは施行の障害となるおそれがある建築行為等である。権利変換不希望申出等期間(法71条4項、5項)後に遅滞なく権利変換計画認可がされる(法72条1項)。権利変換計画認可後、遅滞なく権利変換処分がされる(法86条1項、2項)。権利変換で、各所有者は宅地価額割合に応じて権利床が与えられる。事業計画変更認可によって権利床に変換されるべき宅地の総面積が増加した結果、所有者等が本来取得できたはずであった権利床が減少しうる。
 以上から、両者は相結合して初めてその効果を発揮する。

2.手続法的観点

 事業計画変更認可は公告され(法38条2項、19条1項)、権利変換不希望申出等(法71条4項、5項)の手続があるとの反論が想定される。
 しかし、事業計画変更認可によって権利床に変換されるべき宅地の総面積が増加した結果、自己が本来取得できたはずであった権利床が減少したことを知り、かかる事態を生じさせた同認可に不満を持つのは、権利変換計画公告縦覧(法第83条第1項)によってである。
 以上から、先行行為の適否を争うための手続的保障が十分に与えられているとはいえない。

3.よって、本件事業計画変更認可の違法性は、本件権利変換処分に承継される。

以上

【参考答案(その2)】

第1.設問1

1.小問(1)

(1)本件事業計画変更認可は平成28年認可の一部を変更するものである。
 処分の変更に係る処分性は、当初の処分と一体となるか、変更に固有の処分性があるかで判断する
 本件事業計画変更認可は、C地区を本件事業の施行地区に編入して公共施設である公園とする一方で、設計の概要のうち当該公園新設以外は変更しないという内容である。したがって、同認可は、平成28年認可と抵触することなく両立・併存する別個の行為である。
 そこで、本件事業計画変更認可に固有の処分性があるかという観点から、以下、検討する。

(2)狭義の処分とは、公権力主体たる国・公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(ごみ焼却場事件判例参照)
 事業計画変更認可公告(法38条2項、19条1項)後、施行地区内において建築行為等が制限される(法66条1項)。同認可には一般処分の性質がある。
 しかし、狭義の処分は法執行作用を前提とするところ、一般処分は不特定多数人に対する一般抽象の効果を生ずるにとどまり、立法行為に準ずるから、狭義の処分には当たらない(用途地域指定事件判例参照)
 以上から、本件事業計画変更認可は狭義の処分に当たらない。

(3)ア.狭義の処分以外にも、権力的事実行為など抗告訴訟の対象とすべきものは、「公権力の行使に当たる行為」として処分性がある(行訴法3条2項かっこ書)。「公権力の行使に当たる行為」は非類型的で行為自体の性質のみからは判断できないから、制度の仕組み全体から判断する(医療法勧告事件等判例参照)。そこで、第一種市街地再開発事業制度の仕組み全体を踏まえ、施行地区内宅地所有者等の権利義務・法的地位に対する法的効果の点から検討する。

イ.一般処分における相手方の地位に及ぼす影響については、後続の個別処分を受けるべき地位に立たされるかを考慮する(第2種市街地再開発事業計画決定事件、浜松市事件各判例参照)。これに準じて、後続処分に代わる選択を迫られる地位や、後続処分で付与される権利が縮小する等の不利益を受けるべき地位に立たされるかも考慮する。
 事業計画変更認可の公告により、設計の概要を構成する設計説明書の記載から権利変換処分で付与される区分所有権に係る再開発ビルの概要等が、設計図の記載から上記再開発ビルの具体的構造等がわかり、新たに編入される施行地区の宅地所有者等は自らの宅地が権利変換の対象となること及びどのような再開発ビルについて権利床を取得できるのかを予測可能になる(法施行規則11条3項2号)とともに、権利変換不希望申出等期間内に、権利変換を受け入れるか、金銭給付を申し出るかの選択を迫られる(法71条1項、4項、5項)。
 事業計画変更認可公告から権利変換不希望申出等期間経過後に遅滞なく権利変換計画認可がされる(法72条1項)。権利変換計画認可後、遅滞なく権利変換処分がされる(法86条1項、2項)。法66条1項が事業施行の障害となるおそれがある建築行為等を制限した趣旨は、変更された事業計画に基づく権利変換処分を含む事業施行を支障なく実現する点にある。施行地区内の宅地所有者等は事業計画変更認可公告後権利変換処分に至るまで継続的にこれを課され続ける。したがって、事業計画変更認可がされると、特段の事情のない限り、当然に、変更された事業計画に従った権利変換処分が行われるといえる。
 権利変換処分で、各所有者は宅地価額割合に応じて権利床が与えられる。事業計画変更認可によって権利床に変換されるべき宅地の総面積が増加するときは、所有者等が本来取得できたはずであった権利床が減少しうる。
 以上から、事業計画変更認可により新たに編入された施行地区の所有者等は、建築行為等制限を伴う権利変換処分を受けるべき地位及びそれを望まないときは金銭給付の申出をすべき地位に立たされ、それ以外の所有者等は権利変換処分で与えられる権利床が減少しうる地位に立たされる。

ウ.したがって、新たな施行地区の編入に係る事業計画変更認可は「公権力の行使に当たる行為」に当たり、処分性がある。

(4)本件事業計画変更認可は、新たに本件事業の施行地区にC地区を編入するものである。

(5)よって、本件事業計画変更認可は、取消訴訟の対象となる処分に当たる。

2.小問(2)

(1)縦覧・意見書提出手続を欠く違法

ア.事業計画変更認可をするには、「軽微な変更」を除き、縦覧・意見書提出手続を要する(法38条2項、16条)。
 本件事業計画変更認可につき、Q県の担当部局は「軽微な変更」に当たると判断した。確かに、本件事業計画変更認可は、C地区を施行区域に編入する本件都市計画変更を受けて申請され、C地区を本件事業の施行地区に編入して公共施設である公園とする一方で、設計の概要のうち当該公園新設以外は変更しないという内容であるから、「都市計画の変更に伴う設計の概要の変更」(法施行令4条1項1号)に当たるとみえる。

イ.しかし、縦覧・意見書提出手続の趣旨は、関係土地権利者(16条2項)に意見提出の機会を与えるとともに、その意見を認可の判断資料とする点にある。もっとも、認可の判断資料として上記意見を聴く意味に乏しい場合がありうることから、法38条2項は「軽微な変更」を例外とし、その具体的内容の決定を政令に委任したと考えられる。
 これを踏まえて法施行令4条1項各号をみると、3号及び4号は関係土地権利者の利害を直接左右しないことから、その意見を聴く意味に乏しい。2号及び5号は関係土地権利者の利害への影響が小さく、その意見を聴く意味に乏しい。他方、1号については、都市計画変更を契機にして申請された設計の概要の変更には、関係土地権利者の利害に直接に大きな影響を与えるものも含まれうるから、そのすべてが関係土地権利者の意見を聴く意味に乏しいとはいえない。仮に、1号が都市計画変更を契機にして申請された設計の概要の変更をすべて含むとすれば、法38条2項の委任の趣旨を逸脱する。
 そこで、以下のとおり、上記委任の趣旨に適合的に解釈する。すなわち、変更された事業計画の内容は都市計画に適合することを要する(38条2項、17条3号)ところ、都市計画の変更に伴い、変更後の都市計画に適合させるため不可欠な事業計画変更については、これを認可しないときは、都市計画不適合状態を生じさせることになるから、関係土地権利者の意見がいかなるものであれ、都道府県知事は必ずこれを認可することを要する。法施行令4条1項1号の趣旨は、このような場合には関係土地権利者の意見を聴く意味に乏しい点にある。
 以上から、同号の「都市計画の変更に伴う設計の概要の変更」は、変更後の都市計画に適合するため不可欠なものに限られる。

ウ.都市計画で定めるのは市街地開発事業の種類、名称及び施行区域である(都計法12条2項)ところ、本件都市計画変更はC地区を第一種市街地再開発事業の施行区域に編入するものである。施行区域に編入されれば、組合は施行に係る事業の対象とすることができる(第2条の2第2項)ようになるが、当然に事業の対象となるわけではない。事業の対象とするには、事業計画において施行地区とする必要がある(法2条3号、7条の11第1項)。施行区域内のどの地区を施行地区とするかにつき施行者に一定の裁量があり、施行区域の全域を常に施行地区としなければ、直ちに都市計画不適合となるわけではない。また、施行地区に編入した後の利用態様については、施行区域に編入する都市計画変更によって直ちに一義的に定まるわけではない。
 したがって、C地区を本件事業の施行地区に編入して公共施設である公園とする一方で、設計の概要のうち当該公園を新設すること以外は変更しないという内容の事業計画変更は、認可しなければ変更された都市計画に適合しないとはいえない。なお、この判断は手続に係る規制規範に関するもので、客観的かつ形式的に判断できる事柄であるから、裁量を観念する余地はない。

エ.以上から、「都市計画の変更に伴う設計の概要の変更」(法施行令4条1項1号)、ひいては「軽微な変更」に当たらない。Q県知事がR市長に縦覧・意見書提出手続を実施させなかったのは違法である。

オ.手続違反が処分の違法事由となるかは、手続違反が重大か、処分内容に影響するかで判断する(一級建築士事件、個人タクシー事件、群馬バス事件各判例参照)手続は実体の適正を担保するもので、改めて手続をとれば同じ処分がされうることを考慮すべきだからである。
 縦覧・意見書提出手続の趣旨は、関係土地権利者に意見提出の機会を与えるとともに、その意見を認可の判断資料とする点にあり、認可の適正担保措置というだけでなく、関係土地権利者への手続保障という意味もあるから、その違反は、認可の適正を害するおそれがあり、かつ、関係土地権利者の手続的権利を侵害するもので、重大である。後記(2)のとおり本件都市計画変更には違法事由があり、その点を指摘する関係土地権利者の意見を考慮することで、Q県知事が本件事業計画変更認可をしない判断に至った可能性は否定できない。とりわけ、本件都市計画変更はR市長やB地区組合理事らへのEの働きかけの影響が大きいと思われるところ、Q県知事は直接にはEの働きかけを受けておらず、上記指摘があれば、改めて事業計画変更の適正性を調査した可能性がある。したがって、仮に違反が重大でないと考えたとしても、処分内容に影響する以上、取り消しを免れない。

カ.よって、縦覧・意見書提出手続を欠いた違法があり、取消事由となる。

(2)本件都市計画変更の違法

 計画適合性が処分要件であるときは、計画を基礎とする処分といえるから、計画の違法は処分の違法事由となる(小田急本案事件判例参照)
 都市計画適合性は、事業計画変更認可の要件である(法38条2項、17条3号)。したがって、都市計画の違法は、事業計画変更認可の違法事由となる。このことは、都市計画の変更の違法にも当てはまる。

ア.都市計画基準(都計法13条1項13号)充足判断の裁量逸脱

 裁量の広狭は、法律の文言・趣旨、権利利益の制約、専門技術・公益判断の必要性、制度・手続上の特別規定等から判断する(群馬バス事件、マクリーン事件等判例参照)
 一般に、都市計画を定めるには将来予測を含んだ土地の調和的利用の観点から、高度の専門技術・公益判断が必要とされること、土地は財産の性質上調和的利用の必要を内在しており、憲法29条2項が「公共の福祉に適合するやうに」とした趣旨は都市計画に伴う利用制限のような社会的制約を広く容認する点にあることから、広範な裁量(計画裁量)があるとされる。都計法13条1項13号が「一体的に」、「必要がある」という抽象的で評価的要素を含む文言を用いたのも、計画裁量を認める趣旨である。同号該当性判断について、裁量をき束する趣旨の特別の規定は見当たらない。同号該当性判断には広範な裁量がある。その違法性は、重要な事実の基礎を欠くか、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くかで判断する(マクリーン事件、呉市学校施設使用不許可事件、小田急本案事件等判例参照)。考慮不尽・他事考慮がなければ異なった結論に至る可能性があったときは(日光太郎杉事件高裁判例参照)、処分が社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたといえる(剣道実技受講拒否事件、呉市学校施設使用不許可事件、小田急本案事件等判例参照)
 市街地再開発事業は細分化された敷地を共同化して再開発ビルを建築する事業であるから、「一体的に開発し、又は整備する必要がある土地」の判断に当たっては、細分化された敷地を共同化できる立地条件であるかを考慮する。
 B地区は約2万㎡であるのに対し、C地区はその10分の1の約2千㎡しかなく、河川沿いの細長い形状で、B地区から見て河川を越えた対岸にあるという立地条件にある。共同化して再開発ビルを建築するには全く不適といわざるをえない。本件都市計画変更に当たり、これを考慮すれば、C地区が「一体的に開発し、又は整備する必要がある土地」とはいえないとの結論に至るのは容易であった。
 本件都市計画変更は、本件事業が停滞している中、令和4年になってなされ、それに際しては、B地区内の宅地所有者としてB地区組合員であり、かつ、C地区内宅地を全て所有するEが、R市長やB地区組合理事らに対し、C地区を本件事業の施行地区に編入するよう働きかけを行っていた。Eは、C地区の土地の活用に長年苦慮していた。上記立地条件を無視してR市が本件都市計画変更をしたのは、考慮すべきでないEの働きかけを重視したためと考えられる。
 以上から、都市計画基準を充足するとの判断には考慮不尽・他事考慮があり、これがなければ異なった結論に至る可能性があったから、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたといえる。
 よって、裁量逸脱の違法がある。

イ.施行区域要件(法3条4号)充足判断の裁量逸脱

 「高度利用」、「貢献」という抽象的で評価的要素を含む文言を用いたのは、計画裁量を認める趣旨である。同号該当性判断について、裁量をき束する趣旨の特別の規定は見当たらない。同号該当性判断には広範な裁量がある。
 本件都市計画変更はC地区公園整備の予定を前提にされた。市街地再開発事業は、細分化された敷地を共同化して、道路や公園等の公共施設の用地を生み出す事業でもあり、公共施設は新たに建築する再開発ビルの効用を増進させることが期待されるから、「当該区域内の土地の高度利用を図る」、「当該都市の機能の更新に貢献する」といえるかの判断に当たっては、細分化された敷地を共同化して公共施設の用地を生み出すか、公共施設が再開発ビルの効用を増進するかを考慮する。
 C地区は、当初からEが地区内宅地を全て所有し、細分化された敷地でないから、C地区内宅地を共同化することで公共施設の用地が新たに生み出される余地はない。C地区は単独で公園とする予定であり、B地区と共同化して新たに用地が生み出されることもない。公共施設を設置したければ、Eと個別に交渉し、C地区の譲渡を受けるか、利用権の設定を受ければ足り、上記アの立地条件からすれば、C地区単独の地価は極めて低廉と考えられるから、その方が費用の面からも有利である。C地区はB地区から見て河川を越えた対岸にあるが、現況ではその周辺から再開発ビルが建築されるB地区側へ橋が架かっていないためにB地区側からの人の流入も期待できず、A駅方面へ行くにはかなりの遠回りをしなければならない。したがって、C地区に公共施設を設置することが再開発ビルの効用を増進するかを判断するに当たり、BC地区間の架橋が可能であるかは重要な要素であるところ、その点を検討した形跡がない。現に、その後の事業計画変更の内容は設計の概要のうち公園新設以外は変更しないという内容で、BC地区間の架橋計画がないから、本件都市計画の段階でも何ら検討されなかったと推認される。本件都市計画変更に当たり、上記各点が何ら考慮されておらず、これを考慮すれば、C地区が施行区域要件を満たさないとの結論に至るのは容易であった。それにもかかわらず、本件都市計画変更がされたのは、考慮すべきでないEの働きかけを重視したためであると考えられる。
 以上から、C地区公園整備の予定を前提に、「当該区域内の土地の高度利用を図る」と判断すること、それによって「当該都市の機能の更新に貢献する」と判断することにつき、いずれも考慮不尽・他事考慮があり、これがなければ異なった結論に至る可能性があったから、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたといえる。
 よって、裁量逸脱の違法がある。

第2.設問2

1.実体法的観点

(1)事業計画変更認可による直接の実体法的効果として、事業施行の障害となるおそれがある建築行為等が制限される(法66条1項)。その趣旨は、変更された事業計画に基づく権利変換処分を含む事業施行を支障なく実現する点にある。新たに施行地区を編入する事業計画変更認可の公告により、改めて権利変換不希望申出等期間が設定され、施行地区の宅地所有者等は、その期間内に、権利変換を受け入れるか、金銭給付を申し出るかの選択をする(法71条1項、4項、5項)。その趣旨は、変更後の事業計画において権利変換を望まない者に対し、金銭給付を対価に宅地を手放す機会を与えることで、変更された事業計画に基づく権利変換処分を含む事業施行を支障なく実現する点にある。以上のように、事業計画変更認可の実体法上の効果は、いずれも権利変換処分を含む事業施行を支障なく実現することに向けられており、それと異なる独自の意義を持たない。
 他方、権利変換処分は土地の明渡しを経て実際の工事に着手するために必要な権原を取得するもので、事業施行に不可欠な処分である一方で、事業施行以外の目的を有しない。権利変換処分によって付与される権利床は各所有者の宅地価額割合に応じて定まるから、新たに施行地区を編入する事業計画変更認可によって権利床に変換されるべき宅地の総面積が増加するときは、所有者等が本来取得できたはずであった権利床が減少しうる。このように、権利変換処分は、事業計画変更認可によって変更された事業計画を基礎として行われるという実体法上の依存関係にある。
 以上から、両者は事業施行という同一目的達成のために行われ、相結合して初めてその効果を発揮する。

(2)事業計画変更認可は都道府県知事がする(法38条1項)のに対し、権利変換処分は施行者がする(法86条1項、2項)との反論が想定される。
 しかし、組合施行の場合において、事業計画変更は施行者である組合が認可を申請し、都道府県知事が認可することによって、その効力が完成するのであって、認可は補充的意味しか有しない。
 したがって、事業計画変更及び権利変換の主体はいずれも施行者である組合といえる。上記反論は妥当でない。

2.手続法的観点

 制度の仕組み上、先行処分を知りうるか、知ったとしても後行処分で争うのが合理的かを考慮する(たぬきの森事件判例参照)

(1)以下のような反論が想定される。
 事業計画変更認可に係る変更の内容は公告される(法38条2項、19条1項、法施行規則11条3項2号)から、先行処分を知りうる。権利変換不希望申出等(法71条4項、5項)の手続があり、30日の熟慮期間が設けられている。その期間も公告される(法施行規則11条3項5号)。その期間中に、権利変換を受け入れることも、金銭給付で代えることも適切でないと判断したときは、事業計画変更認可を争うとの判断に至ることが十分期待できるのであって、後行の権利変換処分で争うのが合理的とはいえない。
 以上から、先行行為の適否を争うための手続的保障が十分に与えられている。

(2)しかし、事業計画変更認可公告では、新たに編入された施行地区がわかるにとどまる。自己が取得できる権利床を具体的に知ることになるのは、権利変換計画公告縦覧(法第83条1項)によってである。すなわち、仮に、事業計画変更認可によって権利床に変換されるべき宅地総面積が増加した結果、本来取得できたはずであった権利床が減少する蓋然性が生じたとしても、同認可の公告によってはそれを具体的に知ることはできない。権利変換計画公告縦覧の段階で初めて、自己が本来取得できたはずであった権利床が減少したことを具体的に知ることができ、そのような事態を生じさせた事業計画変更認可に不満を持つに至ることになる。したがって、事業計画変更認可を知ったとしても、その時点で直ちに同認可を争うのが合理的とはいえない。
 以上から、先行行為の適否を争うための手続的保障が十分に与えられているとはいえない。

3.よって、本件事業計画変更認可の違法性は、本件権利変換処分に承継される。

以上

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