過去問から学ぶ
(令和6年司法試験論文式公法系第2問)

1.令和6年司法試験論文式公法系第2問設問2。「【S市都市計画課の会議録】」に、違法性の承継が問題だというだけでなく、判例の判断基準まで書いてあるので、「何これ当てはめして終わりじゃん。こんなの差が付かないんじゃね?せっかく判例覚えたんだから係長お前もうちょっと黙ってろよ。」と思った人もいるかもしれません。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問2〕

 Dは、本件取消訴訟において、本件事業計画変更認可の違法性を主張することができるか。実体法的観点及び手続法的観点の双方から、想定される被告B地区組合の反論を踏まえて、Dの立場から検討しなさい。ただし、本件事業計画変更認可及び本件権利変換処分がいずれも取消訴訟の対象となる処分に当たることを前提としなさい。

 (中略)

【S市都市計画課の会議録】

 (中略)

課長:もっとも、本件事業計画変更認可については、処分性が認められたとしても既に認可の公告があった日から6か月以上経過しています。そのため、本件取消訴訟において同認可の違法性を主張することが考えられますが、可能でしょうか。

係長:いわゆる違法性の承継の問題ですね。この問題に関する最高裁判決(最高裁判所平成21年12月17日第一小法廷判決・民集63巻10号2631頁)は違法性の承継の可否を検討する際の手掛かりとして、先行行為と後行行為が同一目的を達成するために行われ、両者が相結合して初めてその効果を発揮するものであるかという実体法的観点と、先行行為の適否を争うための手続的保障が十分に与えられているかという手続法的観点の二つを挙げています

課長:本件において被告B地区組合にとっては違法性の承継が否定される方が有利ですが、我々としては念のためにDの立場から、あり得る反論を踏まえつつ検討した上で、上記の二つの観点のいずれからも違法性の承継が肯定されるという主張を考えてみましょう。

係長:検討して御報告します。

(引用終わり)

2.しかし、はっきり差が付くポイントがある。それは、「本件事業認可は~。」、「Dは~。」のような個別具体の事情を書いてしまっていないか、ということです。このことは、令和元年司法試験公法系第2問の採点実感において指摘されています。

令和元年司法試験公法系第2問採点実感より引用。太字強調は筆者。)

違法性の承継が認められるかどうかを検討するに当たっては,判例に照らし,手続的保障の十分性についても検討すべきであり,同検討においては,土地収用法の一般的制度論から導かれる根拠が論じられるべきであるが,答案においては個別事案に基づく事情(任意売却の交渉が行われていること)のみを挙げるものも多く,一般的制度論から導かれる根拠について十分に検討するものは少数にとどまった

違法性の承継は,個別的な事情に結論が左右される性質の論点ではなく,制度自体に内在する救済の必要性,許容性を論ずるものであるから,本件における違法性の承継の可否も,事業認定及び収用裁決の制度一般を前提に論ずる必要があるにもかかわらず,それらの制度の目的を道路の建設と指摘するなど,個別の事情に引き付けて論ずるものが少なからず見られた。……(略)……このように,違法性の承継が,どのような理由で許容されるのかという問題の本質に関する理解が不足している答案が多く見られた。

(引用終わり)

 当サイト作成の『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』でも、説明していました(※1)。
 ※1 ちなみに、重要度がCになっているのは、「規範ではなく、考慮要素に過ぎないので、無理に覚えてそのとおりに答案に書き写さなくても、十分合格はできますよ。」という趣旨です。当サイト作成の参考答案(その1)でも、この部分を答案に書き写していません。ただ、一読して理解しておけば、問題文のどこを書き写すかを考えるに当たり、大きなヒントになるでしょう。このように、当サイト作成の定義趣旨論証集は、合格するために覚えるという観点からはAランクだけで十分ですが、B・Cも、理解しておくと役に立つことが書いてあるので、空き時間などにざっくり一読するのをおすすめします。

(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』より引用。太字強調は筆者。)

・先行処分を争う手続保障が十分に与えられているかの考慮要素
重要度:C
 制度の仕組み上、先行処分を知りうるか、知ったとしても後行処分で争うのが合理的かを考慮する(たぬきの森事件判例参照)。
 ※ 最判平21・12・17。
 ※ 上記判例は、「安全認定があっても、これを申請者以外の者に通知することは予定されておらず、建築確認があるまでは工事が行われることもないから、周辺住民等これを争おうとする者がその存在を速やかに知ることができるとは限らない(これに対し、建築確認については、工事の施工者は、法89条1項に従い建築確認があった旨の表示を工事現場にしなければならない。)。そうすると、安全認定について、その適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられているというのは困難である。仮に周辺住民等が安全認定の存在を知ったとしても、その者において、安全認定によって直ちに不利益を受けることはなく、建築確認があった段階で初めて不利益が現実化すると考えて、その段階までは争訟の提起という手段は執らないという判断をすることがあながち不合理であるともいえない。」と判示している。
 ※ 先行処分を争う手続保障が十分に与えられているか否かの判断は、制度の仕組みに基づいて判断されるものであって、原告固有の事情によって左右されない。したがって、太郎には先行処分を争う手続保障が十分に与えられたから違法性の承継が認められないが、花子には先行処分を争う手続保障が十分に与えられなかったから違法性の承継が認められる、ということはない。そのような個別事情は、先行処分の出訴期間における「正当な理由」の判断において考慮される(行訴法14条1項、2項各ただし書)。

(引用終わり)

 同様のことは、処分性についてもいえることでした。

(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』「狭義の処分以外の行為の処分性の考慮要素」の※注より引用。太字強調は筆者。)

 ある行政機関の行為が処分であるか否かは、制度的・一般的に決まる。すなわち、ある行政機関の行為が、太郎との関係では処分であるが、花子との関係では処分ではないとされることはない。花子については処分とすると酷な事情があるとして、花子との関係でのみ処分性を否定するという論述は、誤りである。この点については、司法試験の出題趣旨、採点実感において繰り返し指摘されている(令和2年司法試験採点実感公法系第2問、令和3年司法試験採点実感公法系第2問参照)。

(引用終わり)

3.このような場合、「問題文の書き写し」をする際には、注意を要します。例えば、本問において、手続法的観点のところで書き写したいのは、以下の部分でしょう。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 令和5年3月6日、Q県知事は、B地区組合の申請のとおりに事業計画の変更を認可し(以下「本件事業計画変更認可」という。)、同認可に係る施行地区等を公告した(法第38条第2項、第19条第1項)。
 Dは、C地区がB地区と何ら一体性を持たず、また、空き地のまま放置されているにもかかわらず、突如として本件事業の施行地区に編入されたことに不審を覚えたが、この段階では、本件事業計画変更認可によっても自分に割り当てられる権利床の面積には影響がないと誤解していたこともあり、争訟の提起等は考えなかった。同年9月上旬、権利変換計画の公告縦覧手続が行われ(法第83条第1項)、Eが多くの権利床を取得することが明らかになったDは、本件事業にとって無益と思われるC地区の編入により、権利床に変換されるべき宅地の総面積が増加した結果、自己が本来取得できたはずであった権利床が減少したことを知り、かかる事態を生じさせた本件事業計画変更認可に不満を持つに至った

(引用終わり)

 これをこのまま書き写してしまっては、令和元年採点実感で指摘されたような厳しい評価を受けることになる。なので、ここは「Dがそうだった。」という話を、「一般的抽象的な制度がそうなっているよね。」という話に置き換えて書き写す必要があるのです(※2)。
 ※2 単なる書き写しにとどまらず、制度の仕組みを適切に分析して書けるなら、参考答案(その2)のように書けばよいでしょうが、ここまで書ける人は上位者でもいないと思います。

参考答案(その1)より引用)

 事業計画変更認可は公告され(法38条2項、19条1項)、権利変換不希望申出等(法71条4項、5項)の手続があるとの反論が想定される。
 しかし、事業計画変更認可によって権利床に変換されるべき宅地の総面積が増加した結果、自己が本来取得できたはずであった権利床が減少したことを知り、かかる事態を生じさせた同認可に不満を持つのは、権利変換計画公告縦覧(法第83条第1項)によってである
 以上から、先行行為の適否を争うための手続的保障が十分に与えられているとはいえない。

(引用終わり)

 もともとの問題文の「同年9月上旬、権利変換計画の公告縦覧手続が行われ(法第83条第1項)、Eが多くの権利床を取得することが明らかになった。 Dは、本件事業にとって無益と思われるC地区の編入により、権利床に変換されるべき宅地の総面積が増加した結果、自己が本来取得できたはずであった権利床が減少したことを知り、かかる事態を生じさせた本件事業計画変更認可に不満を持つに至った。」の部分から、「同年9月上旬」、「Eが多くの権利床を取得することが明らかになった」、「Dは、本件事業にとって無益と思われるC地区の編入により」の部分を削除すれば、一般的な記述っぽくなる。後は、前後の文章を辻褄が合う感じで調整すればよい。こうした方法は、基本書をどんなに読んでも説明されていません。問題を解きまくることで、限られた時間内に処理できるよう、方法論を体得する必要がある。過去問を解いていれば、令和元年の採点実感を読むでしょうし、復習で、「どんなやり方なら自分にも書けるか?」を真剣に考えれば、上記のような方法論を思い付くでしょう。何も訓練しなくても、先天的にできちゃう人もいますが、そうでない人は、こうした試行錯誤を繰り返して、自分なりの方法論を確立していくしかありません。試験当日までにどこまで詰め切れたか。その差が、合否となって現れます。

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