善管注意義務は類推自体の理由ではない
(令和6年司法試験民事系第2問)

1.令和6年司法試験民事系第2問設問1小問1。385条1項に気が付いて、本問は株主招集だから取締役の行為じゃないよね、と判断して直接適用を否定するところまでが合格レベル。類推適用を検討していれば上位、みたいな感じだろうと思います。385条1項に気付かなかったり、平然と同項を直接適用してしまった人は、どうしてそうなってしまったのか、次にそのような凡ミスを避けるにはどうすればよいか、真剣に考えるべきでしょう。

(参照条文)会社法385条(監査役による取締役の行為の差止め)

 監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

2 (略)

2.さて、385条1項類推適用については、さいたま地決令2・10・19があるところです。

(さいたま地決令2・10・19より引用。太字強調は当サイトによる。)

 少数株主が裁判所の株主総会招集許可を受けている場合、招集株主は、単なる株主としての地位にとどまらず、当該株主総会における決議が法831条1項1号所定の取消原因に該当する瑕疵を帯びることのないように株主総会を開催すべき善管注意義務を負うと解されるところ、それに違反し、又は違反するおそれがあるときは、監査役は、当該株主総会の開催について、法385条の類推適用により、同条に定める差止請求権を有すると解することが相当である。

(引用終わり)

 上記裁判例を形式的に読むと、招集株主が善管注意義務を負うことが、「株主招集の場合の招集行為にも385条1項を類推適用できること」の理由になっているようにみえます。しかし、招集株主が善管注意義務を負うか否かは、「株主招集の場合の招集行為にも385条1項を類推適用できること」の理由ではありません。「株主招集の場合の招集行為にも385条1項を類推適用できるとした場合に、831条1項1号の決議取消事由を生じさせることは、385条1項の法令違反といえるか。」という点に関する理由です。すなわち、385条1項が類推適用できるとしても、同項の要件を充足しなければ、差止請求をすることはできません。招集株主が法の定める招集手続を怠った場合には、容易に法令違反の要件を充足するといえるでしょう。でも、831条1項1号の決議取消事由を生じさせるようなことをやっていた、というだけならどうか。385条1項の「法令」は、360条1項の「法令」と同様に、取締役の善管注意義務を含むと解釈されています(『司法試験定義趣旨論証集会社法【第2版】』「360条1項の法令違反に善管注意義務違反を含むか」の項目を参照)。そうだとすれば、385条1項を招集株主の招集行為に類推適用する場面でも、「法令」には招集株主の善管注意義務違反を含むと解釈できるだろう。その上で、831条1項1号の決議取消事由を生じさせないようにすることも招集株主の善管注意義務の内容に含まれるぞ、と解釈すれば、「831条1項1号の決議取消事由を生じさせることは、385条1項の法令違反といえる。」と理解でき、同項の類推適用によって差し止めることができる、という帰結を導くことができます。上記裁判例は、このことをざっくりと判示しているのです(※1)。
 ※1 ちなみに、そもそも論として、どうして招集株主が会社との関係で善管注意義務を負うのかについては、上記裁判例は何ら理由を示していません。取締役の場合は、会社から取締役就任を依頼されて承諾したということから、委任関係にある(330条)とされるので、民法644条によって善管注意義務が導かれるのでした。これに対し、招集株主は会社から頼まれてやっているわけではない(むしろ、会社からは嫌がられている。)ので、委任関係があるとはいいにくいでしょう。そこで、これを事務管理と構成して、民法698条(緊急事務管理)の反対解釈から善管注意義務を導出しようとするが、学説では多数という感じになっています。

 そのことを理解して本問をみると、本問では、「株主招集の場合の招集行為にも385条1項を類推適用できるとした場合に、831条1項1号の決議取消事由を生じさせることは、385条1項の法令違反といえるか。」という点については問われていないことが分かります。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔小問1〕

 上記3の時点で、甲社の監査役Dは、本件臨時株主総会1の招集通知と本件書面を見て、本件臨時株主総会1の開催には法令違反があり、監査役として何らかの対応をする必要があるのではないかと考えた。Dほか2名の甲社の監査役3名が協議した結果、仮に本件臨時株主総会1の開催に法令違反があったとしても、本件臨時株主総会1の開催をやめるように求める手段の有無が別途問題となることが判明したため、Dは、弁護士に相談することとした。Dの相談を受けた弁護士は、Dが会社法に基づいて本件臨時株主総会1の開催をやめるように求める手段の有無についてどのように回答すべきか、論じなさい。なお、本件臨時株主総会1の開催に法令違反があるかどうかについては、論じなくてよい

(引用終わり)

 なので、本問では、「株主招集の場合の招集行為にも385条1項を類推適用できること」の理由のみを論じれば足り、招集株主に善管注意義務が認められるかどうかを論じる必要はない、というのが純理論的な説明です。もっとも、この点は合否を分けるような話ではないので、たまたま上記裁判例を知っていたので善管注意義務を理由付けとして書いちゃった、という人であっても、余裕で上位になり得るでしょう。

3.では、「株主招集の場合の招集行為にも385条1項を類推適用できること」の理由は何か。理論的な理由としては、株主招集の場合の招集株主は会社の機関として取締役の招集権限を代行してるよね、ということが挙げられるでしょう(※2)。それから、実質的な妥当性という観点からは、取締役が招集した場合は当たり前に差止めの対象になるのに、株主が招集した場合はやりたい放題になるというのはおかしい、ということがいえます。答案で書くときは、後者を不都合性として先に示した上で、前者の理論的な理由に繋げて結論を導くのがスマートでしょう。そのようにして書いたのが、当サイト作成の参考答案(その2)です。なお、本問の場合、仮処分まで書かなくても類推論を書くだけで余裕で上位でしょうが、酔狂にも仮処分まで書く場合には、債務者が甲社ではなく、乙社(総会開催者)になることと、保全の必要性は結構無理そうだし、ガチで検討すると小問2と被るので、「課題がある」くらいにとどめるなどの工夫を要することが、ちょっとした注意点です。
 ※2 一般に、類推適用を考える場合、類推適用したい規定の趣旨を書いて、その趣旨が及ぶ、とするのが普通です。ただ、ここでその書き方を考えると、書きにくいと感じた人が多かったでしょう。それはなぜかというと、ここでの類推適用は、純粋な類推解釈というよりも、「準用」に近いものだからです。すなわち、「Aを適用対象とする規定の趣旨がBにも及ぶから、Bにも類推適用する。」という通常の類推解釈というよりは、「Bは、適用対象であるAそのものではないが、Bの性質上Aと同視できるから、Aに準じて扱う。」という解釈論に近いということです。なので、385条1項の趣旨から書くよりも、株主招集の性質論から書く方が理論的ですし、その方が書きやすいのです。

参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

1.本件臨時株主総会1の開催をやめるように求める手段としては、Dを債権者、乙社を債務者とし、違法行為差止請求権(385条1項)を被保全権利(民保法13条1項)とする株主総会開催禁止の仮処分(同法23条2項)の申立て(同法2条)が考えられる。

2.385条1項は差止対象を「取締役」の行為とする。被保全権利が認められないのではないか。

(1)本件臨時株主総会1を開催するのは、甲社取締役ではなく、株主である乙社である。また、298条1項柱書かっこ書は、385条の「取締役」について招集株主とする旨の読替えを認めていない。
 したがって、本件臨時株主総会1の開催は「取締役」の行為ではないから、同項の直接適用によることはできない。

(2)もっとも、取締役の招集行為が差止対象となるのに、招集株主の招集行為が差止対象とならないことは均衡を欠く
 297条4項の趣旨は、本来の権限を有する取締役(296条3項)が招集を怠っているときに、その権限を株主に代行させる点にある。招集株主は、一種の取締役の職務代行者といえる。
 そうすると、当該株主総会の招集に関する限り、招集株主の行為は取締役の行為に準じるといえるから、385条1項が類推適用される(裁判例)。

(3)以上から、被保全権利が認められる。

3.もっとも、決議への影響の事前疎明は困難であり、事後の決議取消訴訟の手段がある(後記第2参照)ことから、保全の必要性の疎明に課題がある

4.よって、上記1の手段はあるが、保全の必要性の疎明に課題がある。

(引用終わり)

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