弁論準備手続の条文を引いて粘る
(令和6年司法試験民事系第3問)

1.令和6年司法試験民事系第3問設問2。「なんじゃこりゃあ」と思った人も多かったことでしょう。このようなときは、パニックになって問題文の指示を無視してしまいがち。きちんと問題文の指示を読み取って、これを手掛かりに現場で作業ができたかで、差が付くでしょう。

2.まず、「裁判上の自白が成立しないとの立場」か、「これが成立するとしても撤回が許されるとの立場」のどっちかじゃないとダメです。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

L2:そうですね。第2回弁論準備手続期日においてXらの準備書面を陳述させるべきでないと主張することが考えられますが、裁判所が陳述を許すことも想定しておく必要があります。そこで、次善の策として、裁判上の自白は成立しない、又はこれが成立するとしても撤回が許されるとの主張を準備しておきましょう。この点について検討してもらえますか。検討に当たっては、まず裁判上の自白の意義及び要件に触れ、それを前提に、本件陳述がされた場面や当該手続の目的等を踏まえ、本件陳述について裁判上の自白が成立しないとの立場又はこれが成立するとしても撤回が許されるとの立場のいずれかを選択して論じてください。これを「課題」とします。

(引用終わり)

 普通に淡々と当てはめをすると、「裁判上の自白が成立し、撤回の要件も満たさない。」ということになりそうですが、それではダメなわけですね。指定された結論に反する場合でも、考慮する要素が重なっていればそれなりに評価されることもあるのですが、本問の場合、淡々と当てはめて自白不成立・撤回不可の結論で解答すると、問題意識に全然答えられなくなってしまうので、結果的に大きく評価を下げるでしょう。ちなみに、SNS等では、「これはノン・コミットメントルールだよね。実務家なら常識ですよ。これを知っていたら楽勝でした。」のようなことが一部で言われているようですが、上記のように、本問は、自白不成立又は撤回可という結論が既に示されています。問われているのは、その理論的な整理ないし根拠です。すなわち、「実務において、『ノン・コミットメントルール』と称して運用されているものを、理論的に説明してみせろ。」という趣旨の出題です。実務家も、「このような発言には拘束されない。」ということは分かっていても、それが自白不成立という意味なのか、自白成立だけど撤回可という意味なのか、はたまた単なる紳士協定なのか、分かっていないのが普通なので、「ノン・コミットメントルール」を知っていたから楽勝ということは全然ありません。

3.次に、裁判上の自白の意義と要件の両方を書かないとダメです。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

L2:そうですね。第2回弁論準備手続期日においてXらの準備書面を陳述させるべきでないと主張することが考えられますが、裁判所が陳述を許すことも想定しておく必要があります。そこで、次善の策として、裁判上の自白は成立しない、又はこれが成立するとしても撤回が許されるとの主張を準備しておきましょう。この点について検討してもらえますか。検討に当たっては、まず裁判上の自白の意義及び要件に触れ、それを前提に、本件陳述がされた場面や当該手続の目的等を踏まえ、本件陳述について裁判上の自白が成立しないとの立場又はこれが成立するとしても撤回が許されるとの立場のいずれかを選択して論じてください。これを「課題」とします。

(引用終わり)

 裁判上の自白の意義については、結構バリエーションがあったりするので、必要な要素がすべて取り込まれていれば、多少ブレがあっても問題ないでしょう。とはいえ、覚えていないと何かしらの要素を落としてしまいがちです。ここは、さすがに覚えている人の方が多いはずなので、結構差が付くところでしょう。意義が書ければ、そこから要件は導出できるはずなので、それを明示すれば足ります。ここも、慌てていて明示を怠った人は、評価を下げるでしょう。
 それから、このような問題文の指示があるときは、それがヒントになっているのだ、ということに、現場で気が付かなければなりません。「裁判上の自白が成立しないとの立場」があり得るわけだから、どれかの要件については微妙なものがある、ということだろう。また、自白不成立の結論を採る場合には、どの要件を充足しないのか、明確にしないといけないのだろう。どの要件の話か明示しないまま、「自由で柔軟な議論をする必要があるから、自白は不成立と考えるべきである。」のように書いたのではダメだ、ということですね。ここは、自分の採用する裁判上の自白の意義の内容によって、論理的にあり得る筋が変わります。裁判上の自白の意義の中に意思的要素、すなわち、「認めて争わない意思で」のようなものを含めるなら、これに対応する要件を欠くと考えるのが素直でしょう。「弁論としての陳述」という要素を含める場合には、本件陳述を訴訟資料の提出そのものとみるか、それ以前の「提出予定の訴訟資料の予告ないし方針の開示」とみるかによって要件充足の肯否が変わるでしょうが、どちらもありそうです。他方、それらの要素を含めないなら、要件で引っ掛かる部分がないので、撤回で考える方が素直ということになります。ここが、事前に裁判上の自白の意義を書かせようとした趣旨ですね。ここの論理性が一貫していないと、評価を下げるでしょう。

4.最後に、「本件陳述がされた場面や当該手続の目的等」、すなわち、弁論準備手続がポイントになってるんだ、ということに気が付かないといけません。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

L2:そうですね。第2回弁論準備手続期日においてXらの準備書面を陳述させるべきでないと主張することが考えられますが、裁判所が陳述を許すことも想定しておく必要があります。そこで、次善の策として、裁判上の自白は成立しない、又はこれが成立するとしても撤回が許されるとの主張を準備しておきましょう。この点について検討してもらえますか。検討に当たっては、まず裁判上の自白の意義及び要件に触れ、それを前提に、本件陳述がされた場面や当該手続の目的等を踏まえ、本件陳述について裁判上の自白が成立しないとの立場又はこれが成立するとしても撤回が許されるとの立場のいずれかを選択して論じてください。これを「課題」とします。

(引用終わり)

 ここに気が付いたなら、弁論準備手続の条文にマッハで目を通し、関係しそうなものを猛烈にピックアップする作業に入るべきです。問題文の事実を書き写すのに加えて、ピックアップした条文も放り込んでおく。行政法の処分性や原告適格の当てはめで、末尾資料の関係法令の条文を書きまくるのと同じ発想ですね。弁論準備手続に関する条文は168条から174条までしかありませんから、これは普通の受験生でも難しくはない。ただ、実際には、この発想に至らない受験生が多かったはずで、ここは合否を分けるというよりは、上位か否かを分ける感じになってしまうのかもしれません。当サイト作成の参考答案(その1)は、これを「弁論としての陳述」の要件においてやってみた例です。撤回構成で書く場合には、弁論準備手続では撤回要件を緩和できる要素として、放り込めばよいでしょう。

(参考答案(その1)より引用。太字強調は筆者。)

 確かに、本件陳述がされた場面は、「弁論」準備手続である。第1回弁論準備手続期日では、解除の可否に関して議論することとされた。弁論準備手続にも擬制自白がある(170条5項、159条1項本文)
 しかし、本件陳述がされた場面は、弁論「準備」手続であり、争点及び証拠の整理が目的である(168条)。第1回弁論準備手続期日では、議論するのは賃料不払による無催告解除の可否に関してであった。口頭で自由に議論し、その結果を踏まえ、第2回弁論準備手続期日以降に準備書面を提出して具体的な争点を確定することとされた。特定の事項に関する主張を記載した準備書面の提出(170条5項、162条)はまだなされていない。Yは弁護士L2に訴訟委任をしたが、本件陳述はYの発言である。Yは、本件陳述はXらとの間の信頼関係が破壊されていないことを裏付ける事実として述べたにすぎない。弁論準備手続は終了しておらず、攻撃防御方法の提出制限は生じない(174条、167条)し、証明事実の確認(170条5項、165条1項)口頭弁論における結果の陳述(173条)もされていない
 以上から、本件陳述は弁論としての陳述とはいえない。

(引用終わり)

 関係ありそうなものを一応文脈に合わせて列挙しただけですが、それなりの迫力です。これが基本論点なら、不適切な条文はマイナスにしかならない。だけど、本問のような応用論点なら、それほどマイナスにならないし、かえって考査委員が善意解釈してくれて、思わぬ加点になる可能性が出てきます。だから、とりあえず放り込む。それぞれの意味を深く考えてはいけません。論文式試験の試験時間というのは、真面目に考えるには短すぎます。「腰を据えて本質からじっくり考えましょう。」などという指導は、非現実的なのです。上記のようなテクニックを駆使しないと、マトモに答案を書くのが難しい。短期合格者は、無意識のうちにこうした作業ができてしまうのですが、そうでない人は、演習を積み重ねる過程で、こうしたテクニックを体得するしかありません。

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