書き方を決めておく
(令和6年司法試験刑事系第2問)

1.令和6年司法試験刑事系第2問設問1では、違法収集証拠排除法則に加えて、派生証拠の処理が問われていることが明らかです。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 甲がいきなりその場から走って逃げ出したので、Pは、これを追い掛け、すぐに追い付いて甲の前方に回り込んだ。甲は、立ち止まって、「何で追い掛けてくるんですか。任意じゃないんですか。」と言ったが、Pは、「何で逃げたんだ。そのかばんの中を見せろ。」と言いながら、いきなり本件かばんのチャックを開け、その中に手を差し入れ、その中をのぞき込みながらその在中物を手で探った。そして、Pが本件かばんの中に入っていた書類を手で持ち上げたところ、その下から注射器が発見された。Pが同注射器を取り出し、甲に対し、「これは何だ。一緒に署まで来てもらおうか。」と言ったところ、甲は警察署への同行に応じた。そこで、Pは、同注射器を本件かばんに戻した上、同日午後8時30分頃、甲をI警察署まで任意同行した。

3 I警察署への任意同行後、甲が本件かばんやその在中物の任意提出に応じなかったことから、Pは、捜索差押許可状を取得して、本件かばんやその在中物を差し押さえる必要があると考えた。そこで、Pは、甲に職務質問を実施した経緯に関する捜査報告書(以下「捜査報告書①」という。)及び注射器発見の経緯に関する捜査報告書(以下「捜査報告書②」という。)を作成した。
 捜査報告書①には、覚醒剤の密売拠点と疑われる本件アパートから出てきた人物から甲が本件封筒を受け取って本件かばんに入れたこと、甲には覚醒剤取締法違反(使用)の前科があること、甲が覚醒剤常用者の特徴を示していたこと及び甲は本件封筒の中を見せるように言われると逃げ出したことが記載されていた。これに対して、捜査報告書②には、本件かばんのチャックを開けたところ注射器が入っていた旨記載されていたが、Pが本件かばんの中に手を入れて探り、書類の下から同注射器を発見して取り出したことは記載されていなかった。

4 Pは、同日午後9時30分頃、捜査報告書①及び捜査報告書②等を疎明資料として、H地方裁判所裁判官に対し、「捜索すべき場所、身体又は物」を甲の身体及び所持品、「差し押さえるべき物」を本件かばん及びその在中物並びに覚醒剤等とする捜索差押許可状の発付を請求し、その旨の捜索差押許可状の発付を受けた
 同日午後10時30分頃、Pが同許可状に基づき捜索を実施したところ、本件かばん内側のサイドポケットから本件封筒が発見された。Pがこれを取り出して中身を確認すると、覚醒剤様の白色結晶入りのチャック付きポリ袋が入っていたことから、Pは、同結晶の簡易検査を実施した。その結果、同結晶から覚醒剤の陽性反応が出たことから、Pは、同日午後11時頃、覚醒剤取締法違反(所持)の事実で甲を現行犯逮捕するとともに、同許可状に基づき、同結晶入りのチャック付きポリ袋を差し押さえた
 その後、同結晶の鑑定が実施され、同結晶が覚醒剤である旨の【鑑定書】が作成された。

(中略)

〔設問1〕

 【鑑定書】の証拠能力について、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

(引用終わり)

 ここで、「違法の承継論で書くか、毒樹の果実論で書くか、どっちにしようかなー。」などと現場で悩んでいたとしたら、それは準備不足です。

2.派生証拠の処理については、「手続→手続→証拠なら違法承継論、証拠→証拠なら毒樹の果実論」というように使い分ける見解(※1)もあるものの、そのような使い分けをする理論的根拠が明らかでないとか、米国における本来の意味の「毒樹の果実」とは、違法な手続を「毒樹」、それによって獲得した証拠を「果実」とするのであって、端的に「手続→証拠」とすればよいなどとして、どんな場合でも、違法な手続との密接関連性で判断すればいいじゃん、とするのが通説になりつつあります(※2)。
 ※1 河村有教『入門 刑事訴訟法 第2版』(晃洋書房 2022年)407頁。
 ※2 川出敏裕「いわゆる『毒樹の果実論』の意義と妥当範囲」『松尾浩也先生古稀祝賀論文集(下)』(有斐閣 1998年)、吉開多一ほか『基本刑事訴訟法Ⅱ 論点理解編』(日本評論社 2021年)222、223、231頁[緑大輔]、斎藤司『刑事訴訟法の思考プロセス』(日本評論社 2019年)386、389頁、緑大輔『刑事訴訟法入門[第2版]』(日本評論社 2017年)326頁。

 平成27年司法試験出題趣旨では、「どっちでもいーよ。」という感じで書かれています。

平成27年司法試験論文式試験問題出題趣旨より引用。太字強調は筆者。)

 派生証拠の証拠能力をどのような判断枠組みで考えるかが問題になる。この点については,最判昭和53年9月7日(刑集32巻6号1672頁)が一般論として採用する違法収集証拠排除法則を前提に,最高裁及び下級審による多数の裁判例が蓄積されているところ(代表的な判例としては,最判昭和61年4月25日刑集40巻3号215頁,最判平成15年2月14日刑集57巻2号121頁等が存在する。),本設問の解答に当たっても,それらを踏まえつつ,本問の具体的事例に即した検討・論述がなされることが望ましい。派生証拠の証拠能力の判断枠組みとしては,大別すると,先行手続の違法の後行手続への承継という枠組みのもと,先行手続と後行手続との間に一定の関係(前記昭和61年最判によれば,同一目的,直接利用関係)が認められる場合には,先行手続の違法の有無,程度も考慮して後行手続の適法・違法を判断するという考え方と,そのような違法の承継というステップを踏むことなく,先行手続の違法の内容・程度と,先行手続と証拠(証拠収集手続)との関連性の程度とを総合して判断するという考え方とが見られる。前記昭和61年最判は,前者の考え方によるものといえるのに対し,前記平成15年最判については,後者の考え方に親和的であるとの見方もあるいずれの判断枠組みに従うにせよ,本問の具体的事例に即して,……(略)……検討する必要があり,それらを踏まえ,また,前記昭和53年最判の示す証拠排除の基準にも留意しつつ,結論を導くに至った思考過程を説得的に論述することが求められる

(引用終わり)

 どっちでもいいなら、簡単に書ける方がいい。簡単に書けるのは、後者の判断枠組みでしょう(※3)。なので、後者の判断枠組みを準備して、「派生証拠が出たらこれで行くぞ。」と心に決めておけばよかったのでした。この事前準備ができていれば、本問は何も迷うことはなかったのです。
 ※3 当サイト作成の『司法試験定義趣旨論証集刑訴法』も、この立場を採用しています(「違法収集証拠排除法則の対象となる証拠の範囲(毒樹の果実論)」、「違法収集証拠排除法則の対象となる証拠の範囲の理由」、「違法な手続と証拠の関連性の判断基準」、「違法な手続と証拠の関連性が密接であるか否かの考慮要素」、「同一目的、直接利用による違法性の承継に関する判例との関係」の各項目を参照)。

3.本問で、「時間が足りなくて途中答案になっちゃったよ。」という人の中には、ここの事前準備がなくて、何分も迷って時間をロスした人が結構いただろうと思います(※4)。ここは、事前準備で差が付く。違法収集証拠排除法則や派生証拠の論点は、平成27年にも出題されていますし、問題集、答練等でも頻出でしょうから、一度は目にしたことがあるはずです。一度解いたときに、「悩んでいたら時間足りなくなりましたわwwこれは書き方を決めておかないとヤバイですわww」などと思うでしょうから、復習の際に、書き方を決めておく。演習をしていても、「あーできなかった。終わり終わり。」という感じで解きっぱなしにしていたら、このような事前準備には至りません。よく、演習は「アウトプット」と言われますが、そうではなく、「自らのアウトプットの過程・結果からインプットすべき事項を検証し、復習を通じてインプットする。」という営みです。なお、インプットについては、以前の記事(「ガチ暗記する方法」)も参考にしてみてください。
 ※4 本問を違法の承継論で書こうとすると、「所持品検査ないし捜索→任意同行→捜索差押え→鑑定」の各過程の承継を検討する感じになって、「承継しすぎワロタ」となるわけで、仮に事前準備がなくても、「違法の承継はないわ。」と秒で判断できたかもしれません。ただ、証拠→証拠の毒樹の果実を考えようとしたとき、「注射器って証拠じゃなくね?」という疑問が湧くでしょうから、ここでまた思考が止まることになりやすいでしょう(「違法収集証拠を押収の疎明資料になしうるか」という論点に気が付いてしまうとなおさらです。)。端的に「手続→証拠」で考える立場からは、このような悩みが一切なく、余裕で処理できたのでした。

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