後方の客も考えてあげて
(令和6年司法試験刑事系第2問)
1.令和6年司法試験刑事系第2問。捜査①では、さりげなく後方の客が映り込んでいることがポイントでした。
(問題文より引用。太字強調は筆者。)
5 他方、Pが本件アパート201号室に関する捜査を実施したところ、同室の賃貸借契約の名義人が乙であること、乙には覚醒剤取締法違反(所持)の前科があり、その前科に係る事件記録の捜査報告書によれば、乙の首右側に小さな蛇のタトゥーがあることが判明した。Pは、同年9月27日午後11時30分頃、本件アパート201号室の玄関ドアが見える公道上において、本件アパートの張り込みを開始した。Pは、同月28日午前1時30分頃に男性1名が、同日午前2時頃に別の男性2名がそれぞれ本件アパート201号室に入る様子を目撃した。Pは、これらの男性のうち、同日午前1時30分頃に本件アパート201号室に入った男性の顔が乙の顔と極めて酷似していたことから、同男性の首右側にタトゥーが入っているか否か及びその形状を確認できれば、同男性が乙であると特定できると考えた。同日午前8時頃、Pが本件アパート201号室から出てきた同男性を尾行したところ、同男性は本件アパート付近の喫茶店に入店した。そこで、Pは、同男性が乙であることを特定する目的で、同喫茶店において、同店店長の承諾を得た上で、店内に着席していた同男性から少し離れた席から、ビデオカメラを用いて、同男性を撮影した【捜査①】。Pが撮影した映像は、全体で約20秒間のものであり、そこには、小さな蛇のタトゥーが入った同男性の首右側や同男性が椅子に座って飲食する様子のほか、その後方の客の様子が映っていた。
(中略)
〔設問1〕
下線部の【捜査①】及び【捜査②】のビデオ撮影の適法性について、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
(引用終わり)
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もっとも、ほとんどの人が、「そんなの関係ねぇ!」とばかりに、パチンコ店内撮影に関する判例(最決平20・4・15)の規範を貼り付けて当てはめたことでしょう。
(最決平20・4・15より引用。太字強調は筆者。)
これらのビデオ撮影は,捜査目的を達成するため,必要な範囲において,かつ,相当な方法によって行われたものといえ,捜査活動として適法なものというべきである。
(引用終わり)
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当サイト作成の参考答案(その1)は、そんな感じで書いています。後方の客については、「消極方向として一応挙げといてやるよ。」という感じの扱いです。
(参考答案(その1)より引用。太字強調は筆者。)
公道等における被疑者の容ぼう等の撮影は、捜査目的を達成するため、必要な範囲において、かつ、相当な方法によって行われたものである限り、適法である(公道及びパチンコ店内における撮影に関する判例参照)。
ア.本件アパート201号室の賃貸借契約の名義人が乙であること、乙には覚醒剤取締法違反(所持)の前科があり、乙の首右側に小さな蛇のタトゥーがあることが判明した。Pは、同室玄関ドアが見える公道上において、本件アパートの張り込みを開始し、同日午前1時30分頃に同室に入った男性の顔が乙の顔と極めて酷似していたことから、同男性の首右側にタトゥーが入っているか否か及びその形状を確認できれば、同男性が乙であると特定できると考えた。Pが同室から出てきた同男性を尾行したところ、同男性は本件アパート付近の喫茶店に入店した。そこで、Pは、同男性が乙であることを特定する目的で捜査①をした。捜査目的を達成するためといえる。
イ.確かに、ビデオカメラを用い、後方の客の様子が映っていた。
しかし、被疑事実は覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で法定刑は1年以上の有期懲役又は1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金(41条の2第2項)である。同店店長の承諾を得た上で、店内に着席していた同男性から少し離れた席から撮影した。Pが撮影した映像は、全体で約20秒間のものであり、そこには、小さな蛇のタトゥーが入った同男性の首右側が映っていた。必要な範囲において、かつ、相当な方法によって行われたといえる。
ウ.よって、捜査①は、適法である。
(引用終わり)
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ここは多くの人が単なる書写しではなく、評価もしてくるところなので、これだけではちょっと物足りないというか、「もっと頑張れよ。」という感じもしますが、判断枠組みとしては、これで十分合格答案になり得るのだろうと思います。判例の存在を指摘することなく、「任意処分だから、必要性・相当性でヨロ。」という感じで書いた人もいたかもしれません。これは、ちょっと危ないです(後記立命館大学法科大学院入試講評も参照)。それでも、当てはめがきちんとしていれば、合格答案にはなり得るでしょう。
2.そんなわけで、合否を分けたりする要素ではないのですが、本来、この後方の客はヤバいやつです。なぜかというと、そのせいで、被疑者の容ぼう等に限定して撮影した上記平成20年決定の射程外となり、京都府学連事件判例の射程が及んでくるかもしれない事態になるからです。
(最決平20・4・15より引用。太字強調は筆者。)
所論引用の各判例(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁(※注:京都府学連事件判例を指す。),最高裁昭和59年(あ)第1025号同61年2月14日第二小法廷判決・刑集40巻1号48頁(※注:オービス事件判例を指す。))は,所論のいうように,警察官による人の容ぼう等の撮影が,現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合のほかは許されないという趣旨まで判示したものではない……(略)……。
(中略)
本件は,金品強取の目的で被害者を殺害して,キャッシュカード等を強取し,同カードを用いて現金自動預払機から多額の現金を窃取するなどした強盗殺人,窃盗,窃盗未遂の事案である。
平成14年11月,被害者が行方不明になったとしてその姉から警察に対し捜索願が出されたが,行方不明となった後に現金自動預払機により被害者の口座から多額の現金が引き出され,あるいは引き出されようとした際の防犯ビデオに写っていた人物が被害者とは別人であったことや,被害者宅から多量の血こんが発見されたことから,被害者が凶悪犯の被害に遭っている可能性があるとして捜査が進められた。
その過程で,被告人が本件にかかわっている疑いが生じ,警察官は,前記防犯ビデオに写っていた人物と被告人との同一性を判断するため,被告人の容ぼう等をビデオ撮影することとし,同年12月ころ,被告人宅近くに停車した捜査車両の中から,あるいは付近に借りたマンションの部屋から,公道上を歩いている被告人をビデオカメラで撮影した。さらに,警察官は,前記防犯ビデオに写っていた人物がはめていた腕時計と被告人がはめている腕時計との同一性を確認するため,平成15年1月,被告人が遊技していたパチンコ店の店長に依頼し,店内の防犯カメラによって,あるいは警察官が小型カメラを用いて,店内の被告人をビデオ撮影した。
(中略)
捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在していたものと認められ,かつ,前記各ビデオ撮影は,強盗殺人等事件の捜査に関し,防犯ビデオに写っていた人物の容ぼう,体型等と被告人の容ぼう,体型等との同一性の有無という犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため,これに必要な限度において,公道上を歩いている被告人の容ぼう等を撮影し,あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ぼう等を撮影したものであり,いずれも,通常,人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである。以上からすれば,これらのビデオ撮影は,捜査目的を達成するため,必要な範囲において,かつ,相当な方法によって行われたものといえ,捜査活動として適法なものというべきである。
(引用終わり)
(京都府学連事件判例より引用。太字強調は筆者。)
憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであつて、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。
これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。しかしながら、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法2条1項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。
そこで、その許容される限度について考察すると、身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影を規定した刑訴法218条2項のような場合のほか、次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになつても、憲法13条、35条に違反しないものと解すべきである。
(引用終わり)
(オービス事件判例より引用。太字強調は筆者。)
速度違反車両の自動撮影を行う本件自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいつて緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法13条に違反せず、また、右写真撮影の際、運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになつても、憲法13条、21条に違反しないことは、当裁判所昭和44年12月24日大法廷判決(刑集23巻12号1625頁(※注:京都府学連事件判例を指す。))の趣旨に徴して明らかである
(引用終わり)
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平成20年決定は、京都府学連事件判例及びオービス事件判例について、「警察官による人の容ぼう等の撮影が,現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合のほかは許されないという趣旨まで判示したものではない」と言います。それは、同決定が被疑者限定撮影の事案なので、無関係の第三者まで巻き込んで撮影した京都府学連事件やオービス事件のように厳格に考える必要はないことをいう趣旨として理解できる。では、無関係の第三者が映り込んだ場合は、どうなるか。この場合について、平成20年決定は何も言っていないので、現時点では京都府学連事件判例及びオービス事件判例以外に参照できる最高裁判例はない、ということになるわけですね。そうなると、各判例どおりに考えるか、その射程を外す、ないしは、例外を許容する論理を考えなければならない。その好例が、山谷ビデオ撮影事件高裁判例です。
(山谷ビデオ撮影事件高裁判例より引用。太字強調及び※注は筆者。)
弁護人は、犯罪の証拠とするためのテレビカメラによる人の容貌の撮影・録画は強制捜査であって、警察法2条1項を根拠としてはこれを行うことはできず、その根拠は憲法及び刑事訴訟法に求めざるをえず、その具体的基準は最高裁昭和44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁(※注:京都府学連事件判例を指す。)によるべきであると主張する。
前掲各証拠によれば、本件当日のテレビカメラによる撮影・録画行為は、山谷通りにおいて犯罪が発生した場合に備えてその証拠を保全するため、すなわち犯罪捜査のために主としてなされていたものと認められるが、犯罪捜査のためのテレビカメラによる人の容貌・姿態(以下「容貌等」という。)の撮影・録画が強制捜査であるのか任意捜査であるのかは別として、何人もその承諾なしにみだりにその容貌等を撮影されない自由を有し、少なくとも警察官が正当な理由もないのに個人の容貌等を撮影することが憲法13条の趣旨に反することからすると、警察官が犯罪捜査のため人の容貌等を撮影・録画することが許容される要件については、警察官による犯罪捜査のための写真撮影についての要件を示した右最高裁判決の趣旨に従って判断すべきは当然であって、警察法2条1項もその限度で意味を持つにすぎない。
右最高裁判決は、集団示威行進に際し公安委員会の付した許可条件に違反するなどの違法状況の視察採証のため予め写真機を準備して待機していた警察官が許可条件違反の状況を現認しこれを写真撮影したという事案につき、①現に犯罪が行われ又は行われたのち間がないと認められる場合であって、②証拠保全の必要性及び緊急性があり、③その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われるとき、という要件を満たせば、憲法13条、35条に違反しない旨判示するが、右判示は必ずしもこの3要件を満たさない限りすべて警察官による犯罪捜査のための写真撮影が違憲であるとする趣旨ではないと解される。そして、右事案において①の要件が存する時点で写真撮影が可能となったのは、警察官が予め犯罪の発生を予測して十分の準備をしていたからであり、逆に右のような準備をしていなければ①の要件の存する時点で写真撮影ができるなどはまったくの僥倖としか考えられないことに照らすと、右最高裁判決の趣旨は、少なくとも予め犯罪の発生が予測されるときには、①②の要件が備わった時点で撮影が可能となるように十分の準備をしておくことを捜査機関に許容するものということができる。
ところで、右事案の場合には許可条件違反などの犯罪はその集団示威行進のなされる日時場所において発生することが予測されるのであるから、捜査機関において右犯罪の発生に備えて撮影の準備をすることは比較的容易であるということができるが、予めある場所で犯罪が発生することは予測されるもののその時点は不明であるという場合にあっては、犯罪発生の時点で撮影が可能となるよう捜査機関において撮影の設備のみならず人員まで準備しておくのは相当困難と考えられるから、犯罪の発生自体は予測されるもののその時点の予測が困難であるため予め撮影のための人員の手配をしておくことが捜査機関にとって不相当な負担になり、かつ①②の要件が備わった時点でその手配にかかるのでは撮影の間に合わなくなるような場合にあっては、①の要件が備わる前から犯罪発生の予測される場所を自動的に撮影し、その映像を録画しておくことも許容される場合があるというべきである。特に予測される犯罪が多数人からなる集団によって行われ、その中に人身傷害を伴うような相当に重大なものが含まれ、その現場に行為者以外にも多数の者がいるような場合においては、一旦犯罪が発生すると、これが予想外に拡大し、長時間にわたり現場の平穏が害される事態も生じうるので、その行為者の適正な処罰は、同種事犯の再発防止の観点からも必要不可欠というべきであるところ、このような事案においては、現場の混乱や多数人の交錯等のため、特定人が犯罪に関与していたか否か、していたとすれば具体的にどのような行為に及んだかなどの事項を適切に立証することは、通常の目撃証言や被疑者供述のみによっては著しく困難と考えられるから、予め犯行現場の状況をできる限り正確に撮影・録画し、後日これを詳細に分析・検討することによって、行為者とその行為を特定・識別し、真犯人とその犯罪行為を適確に立証する必要性と緊急性はきわめて高いといわなければならない。以上のような考察に基づき、前記許容される場合の要件を検討すると、前記最高裁判決の趣旨に従うならば、(1)当該場所で犯罪が発生する相当高度の蓋然性が認められる場合であって、(2)予め証拠保全の手段・方法をとっておく必要性及び緊急性があり、(3)その撮影・録画が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われるときであるというべきであり、特に(2)の必要性及び緊急性については、予測される犯罪の重大性、行為者の数、行為態様、当該場所の状況等を総合考慮してこれを決することになる。
以上のとおりであるから、本件決定が前記最高裁判決の趣旨に反するとの弁護人の主張は採用することができない。
(引用終わり)
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京都府学連事件との違いを指摘して、判例の趣旨に従いつつ、要件を変容させている。そのために、かなり必死になって頑張っていることが分かるでしょう。本問でも、これをやれるだろうか。そんな観点から、考えてほしかったのでしょう。立命館大学法科大学院2019年度入学試験(前期日程)の講評でも、この問題意識をうかがわせる指摘がされています。
(立命館大学法科大学院2019年度入学試験(前期日程)講評より引用。太字強調は筆者。)
捜査手段として行われた無承諾の写真撮影については、強制処分か、任意処分か、問題となります。任意処分の限界、任意処分と強制処分の異同などを問題とするときに挙げられる典型的事例の1つが、この無承諾の写真撮影です。
判例の立場、とくに、無承諾の写真撮影を任意処分として許容する判例の規範を理解し、敷衍できなければなりません。関連の最高裁判例として、少なくとも、つぎの2判例を知っておく必要があるでしょう。
①最大判昭和44・12・24刑集23巻12号1625頁は、「警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない〔。〕」「警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうる〔。〕」「撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、(A)現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも(B)証拠保全の必要性および緊急性があり、かつ(C)その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。/このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになつても、憲法13条、35条に違反しない」と判示しました。
②最決平成20・4・15刑集62巻5号1398頁は、①の最高裁判例について、「警察官による人の容ぼう等の撮影が、現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合のほかは許されないという趣旨まで判示したものではない」としたうえで、「(A-1)捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在していたものと認められ、かつ、(A-2)前記各ビデオ撮影は、強盗殺人等事件の捜査に関し、防犯ビデオに写っていた人物の容ぼう、体型等と被告人の容ぼう、体型等との同一性の有無という犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため、(B)これに必要な限度において、(C-1)公道上を歩いている被告人の容ぼう等を撮影し、あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ぼう等を撮影したものであり、(C-2)いずれも、通常、人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるもの〔ビデオ撮影〕である。以上からすれば、これらのビデオ撮影は、(A)捜査目的を達成するため、(B)必要な範囲において、かつ、(C)相当な方法によって行われたものといえ、捜査活動として適法なものというべきである」と判示しました。
(中略)
設問の事例の場合、……(略)……公道上の、被疑者以外の第三者を無承諾で撮影した事実……(略)……などを挙げ、肖像権ないしプラバシー侵害の程度が強制処分の検証のレヴェルに至っていないか、また、至っていないとしても、上記のように比例原則に違反していないか、を具体的に論ずべきことになります。
(中略)
無承諾の写真撮影を任意処分として許容した上記①や②の最高裁判例の趣旨にはまったく言及しなかった答案も少なくありませんでした。①②の最高裁判例に言及することは、無承諾の写真撮影の適法性を論じるさいの「各論」として必要であり、重要なことですので、なお勉強を深めてほしいと思います。
(引用終わり)
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3.以上の理解を答案として示したのが、当サイト作成の参考答案(その2)です。
(参考答案(その2)より引用)
判例は、パチンコ店内における被疑者の容ぼう等を撮影した事案において、捜査目的を達成するため、必要な範囲において、かつ、相当な方法によって行われたものである限り、適法であるとする。被疑者に限定して撮影する場合には、単純な任意捜査であるから、必要かつ相当な範囲において許容されると考えられるからである。
しかし、捜査①では、無関係の後方の客の様子まで映っていた。被疑者以外の第三者は事件と無関係なのであるから、第三者の容ぼう等を除外せずに撮影することもやむを得ないといえる場合に限り、撮影が許容されるというべきである。京都府学連事件、オービス事件各判例において、現に犯罪が行なわれ、又は行なわれたのち間がないと認められる場合であって、証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつ、その撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行なわれるときは、被疑者の容ぼう等のほか、被疑者の身辺又は被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者の容ぼう等を含めて撮影することが許されるとされたのは、その趣旨といえる。なお、山谷ビデオ撮影事件高裁判例は、第三者が映り込んだビデオ撮影を適法としたが、同事件は将来捜査の事案に関するもので、いまだ発生していない犯罪について現行犯又は準現行犯的状況を観念することはできないから、上記各判例の趣旨をそのまま妥当させることができないことによるものである。同高裁判例は、既に発生した事件の捜査である本件とは事案を異にする。
本件アパート201号室から出てきた男性は椅子に座って飲食しただけであり、現に犯罪が行なわれ、又は行なわれたのち間がないと認められる場合ではない。したがって、第三者の容ぼう等を含めて撮影することが許される場合に当たらない。
確かに、上記各判例は、一切の例外を認めない趣旨とはいえない(前記パチンコ店内撮影に関する判例参照)。捜査①は、同室を拠点とする覚醒剤密売情報があり、同室賃借名義人が乙で、乙には覚醒剤取締法違反(所持)の前科があるため、乙が同法違反(営利目的所持)という長期20年の懲役(41条の2第2項、刑法12条1項)に当たる重大で密行性の高い犯罪を犯した合理的な疑いがあり、乙の首右側に小さな蛇のタトゥーという通常人にはない顕著な特徴があるため、同男性の首右側にタトゥーが入っているか否か及びその形状を確認できれば、同男性が乙であると特定できるという状況の下でされ、かつ、全体で約20秒間と短時間にとどまる点は、捜査の必要性や撮影方法の相当性を基礎付けるものとして、上記各判例の例外を許容すべき方向の要素といえる。
しかし、捜査①の必要性について、既に甲が逮捕・起訴されており、乙において自らが捜査対象とされることを予測できる状況にあるから、隠密捜査の必要性は減退しており、乙に職務質問をするなどの他に首右側タトゥーを確認する方法があったと考えられるところ、そのような他の手段が困難であった事情はうかがわれない。同一犯とみられる殺人、放火等が連続して発生しており、新たな被害者が出ることを防止するため犯人検挙の緊急の必要性があるという事案でもない。撮影方法の相当性につき、後方の客を除外する撮影が不可能であったとか、撮影後直ちに後方の客に係る映像データをマスキング処理した等の事情はうかがわれない。したがって、上記各判例の例外を認めるべき場合には当たらない。
以上から、任意処分として許される範囲を逸脱した違法がある。
(引用終わり)
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現場でこんなのを書いた人は、ほとんどいないでしょう。なので、合否どころか、上位か否かすら分けない。もっとも、この問題意識は、知っておいてもよいと思います。今回はビデオ撮影の事案で、あまりにさりげない感じだったので、誰も問題意識を持たなかったわけですが、例えば、ごみ集積所のゴミを領置する際に、被疑者以外のゴミもまとめて領置した、というような事案なら、単純に被疑者のゴミ限定でした領置と同じに考えてよいか、より高度の必要性・緊急性を要求する必要はないか、そんな点に気が付く人も増えてくるかもしれません。本問を過去問として解くときには、そんな問題意識を持つ契機にするとよいでしょう。
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