会員の声を無視しない
(令和6年予備試験憲法)

1.令和6年予備試験憲法。問題文の最後の方で、A町内会の会員達が好き勝手なことを言っています。

問題文より引用)

 A町内会総会ではXの提案に対する否定的意見が多く示された。会員Eは「A町内会は任意の私的団体なのだから、私たちが決めたやり方でいいはずだ。」と言い、会員Fは「祭事はA集落の重要な年中行事だ。集落を支えている町内会の会費から支出しなければ、集落に伝えられてきた伝統舞踊も続けられなくなる。」と発言した。また、氏子意識の強い会員Gは「私のような氏子にとって、祭事は信仰に基づく大切な宗教的活動だ。祭事ができなくなると私の信教の自由はどうなるのか。」と述べた。さらに会員Hは「一括して一律に徴収するのが楽である。一人一人が都合を言い始めたら話が収まらない。」と意見を言うなど、種々様々であった。そこでA町内会会長は、知り合いの法律家に、憲法上の問題について意見を求めることにした。

(引用終わり)

 「やかましーわ。無視、無視。」とまでは思わないにしても、「何これ、意味わからん。」という感じで、そんなに重要だと思わずに無視してしまった人が多かったのだろうと思います。なので、結果的には、これを無視しても合否には影響しないでしょう。

2.しかし、本来は、上記の部分を目にしたときに、「これは無視したらヤバいんじゃね。」ということを読み取る必要がありました。まず、会員ひとりひとりに、名前が付いている、という点です。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 A町内会総会ではXの提案に対する否定的意見が多く示された。会員Eは「A町内会は任意の私的団体なのだから、私たちが決めたやり方でいいはずだ。」と言い、会員Fは「祭事はA集落の重要な年中行事だ。集落を支えている町内会の会費から支出しなければ、集落に伝えられてきた伝統舞踊も続けられなくなる。」と発言した。また、氏子意識の強い会員Gは「私のような氏子にとって、祭事は信仰に基づく大切な宗教的活動だ。祭事ができなくなると私の信教の自由はどうなるのか。」と述べた。さらに会員Hは「一括して一律に徴収するのが楽である。一人一人が都合を言い始めたら話が収まらない。」と意見を言うなど、種々様々であった。そこでA町内会会長は、知り合いの法律家に、憲法上の問題について意見を求めることにした。

(引用終わり)

 Eさん、Fさん、Gさん、Hさん。ちゃんと固有名詞が付いている。一見すると、「そんな必要ある?」と思うところです。民法などであれば、何らかの法律関係が帰属しそうな人に固有名詞が付く。しかし本問では、この人らの人権とか、法律関係は全然問題になりません。なんでわざわざ名前が付いているのか。それで、各人の発言内容をみてみると、どうも、Xの主張に対する反論みたいになっている。この辺りで、気が付きたい。過去問を解いていた人は、似たような記述があったことを思い出すでしょう。これは予備試験特有のヒント、ないしは、言及してほしいポイントを示す記述なのです。

令和4年予備試験憲法問題文より引用。太字強調は筆者。)

 立案担当者の説明によれば、特別公的管理鉄道会社の従業員が争議行為を禁止され、争議行為のあおり、そそのかしが処罰される理由は以下のとおりである特別公的管理鉄道会社を財政的に支えるために地方鉄道維持税を負担している住民に対して、争議行為によりその生活に重大な悪影響を与えることは不適切である。争議行為により鉄道の利用客が減少すると、特別公的管理鉄道会社の経営再建に支障が生ずる。特別公的管理鉄道会社の従業員も団体交渉を行い、労働協約を締結することができるが、従業員の賃金その他の基本的な労働条件の決定については国土交通大臣の承認が必要であり、労使だけで決定することができないので、従業員が労働条件をめぐって特別公的管理鉄道会社に対して争議行為を行うのは筋違いである。禁止されている争議行為をあおり、又はそそのかした者は、争議行為の開始、遂行の原因を作り、争議行為に対する原動力を与えた者として、単に争議行為を行った者に比べて社会的責任が重いから、その者を処罰の対象とすることは、十分に合理性がある。

(引用終わり)

令和3年予備試験憲法問題文より引用。太字強調は筆者。)

 まず第一に,特別規制区域に指定された日以降に,特別規制区域内で広告物(看板,立看板,ポスター等。表札など居住者の氏名を示すもので,規則で定める基準に適合するものを除く。)を新たに掲示することは禁止される(違反者は罰金刑に処せられる。)。しかし,市長が「特別規制区域の歴史的な環境を向上させるものと認められる」として許可を与える場合には,広告物を掲示することができる。
 条例案の取りまとめに携わったB市の担当者Eによれば,この広告物規制の趣旨は,江戸時代に宿場町として栄えたC地区の歴史的な環境を維持し向上させていくためには,屋外広告物は原則として認めるべきではない,ということにある。また,Eは,「特別規制区域の歴史的な環境を向上させるものと認められる」かどうかは,当該広告物が伝えようとしているテーマ,当該広告物の形状や色などを踏まえて総合的に判断されるが,単に歴史的な環境を維持するにとどまる広告物は「向上させるもの」と認められない,と説明している。第二に,特別規制区域内の路上での印刷物(ビラ,チラシ等)の配布は禁止される(違反者は罰金刑に処せられる。)。しかし,特別規制区域内の店舗の関係者が自己の営業を宣伝する印刷物を路上で配布することは禁止されない。これは,担当者Eの説明によれば,そのような印刷物はC地区の歴史・伝統に何らかの関わりのあるものであって,C地区の歴史的な環境を損なうとは言えないからである

(引用終わり)

令和元年予備試験憲法問題文より引用。太字強調は筆者。)

 しかし,乙中学校の校長は,検討の上,水泳の授業については,代替措置を一切とらないこととした。その理由として,まず,信仰に配慮して代替措置をとることは教育の中立性に反するおそれがあり,また,代替措置の要望が真に信仰を理由とするものなのかどうかの判断が困難であるとした。さらに,上記のように,乙中学校の生徒にはB教徒も相当割合含まれているところ,戒律との関係で葛藤を抱きつつも水泳授業に参加している女子生徒もおり,校長は,Xらの要望に応えることはその意味でも公平性を欠くし,仮にXらの要望に応えるとすると,他のB教徒の女子生徒も次々に同様の要望を行う可能性が高く,それにも応えるとすれば,見学者が増える一方で水泳実技への参加者が減少して水泳授業の実施や成績評価に支障が生じるおそれがあるとも述べた。

(引用終わり)

平成29年予備試験憲法問題文より引用。太字強調は筆者。)

 条例の制定過程では,Xについて一定割合を一律に廃棄することを命ずる必要があるのか,との意見もあったが,Xの特性から,事前の生産調整,備蓄,加工等は困難であり,迅速な出荷調整の要請にかなう一律廃棄もやむを得ず,また,価格を安定させ,Xのブランド価値を維持するためには,総流通量を一律に規制する必要がある,と説明された。この他,廃棄を命ずるのであれば,一定の補償が必要ではないか等の議論もあったが,価格が著しく下落したときに出荷を制限することはやむを得ないものであり,また,本件条例上の措置によってXの価格が安定することにより,Xのブランド価値が維持され,生産者の利益となり,ひいてはA県全体の農業振興にもつながる等と説明された

(引用終わり)

 いずれも、単なる状況説明ではなく、「この点については答案で何らかの応答(反論)をしてよね。」という意図であることがうかがえます。このことを踏まえて本問を改めて見れば、答案で、「会員Eの発言については~。」のように、答案で何らかの応答をすべきだった、ということが理解できるでしょう。

問題文より引用)

 A町内会総会ではXの提案に対する否定的意見が多く示された。会員Eは「A町内会は任意の私的団体なのだから、私たちが決めたやり方でいいはずだ。」と言い、会員Fは「祭事はA集落の重要な年中行事だ。集落を支えている町内会の会費から支出しなければ、集落に伝えられてきた伝統舞踊も続けられなくなる。」と発言した。また、氏子意識の強い会員Gは「私のような氏子にとって、祭事は信仰に基づく大切な宗教的活動だ。祭事ができなくなると私の信教の自由はどうなるのか。」と述べた。さらに会員Hは「一括して一律に徴収するのが楽である。一人一人が都合を言い始めたら話が収まらない。」と意見を言うなど、種々様々であった。そこでA町内会会長は、知り合いの法律家に、憲法上の問題について意見を求めることにした。

(引用終わり)

 これらに対して何らかの応答ないし反論をするぞ、という意識を持てば、以下のような応答ないし反論は、現場でも思い付くことは不可能ではなかったのだろうと思います。

会員E ← 確かに任意の私的団体だけど、事実上の強制加入団体なんだから全くの自由にはならないです。
会員F ← 任意の徴収はできるわけで、現状は住民がみんな祭事を重要と思ってるんだから、任意にしたら全然金が集まらないってことはないでしょ。仮に、誰も払わないんなら、そんなの町内会でやらんでいい。ちなみに、伝統舞踊は文化財として神事と切り離して保存する余地もあるよね。
会員G ← 信教の自由の保障は公権力の介入を許さないってことであって、自分の信仰のために他人に費用負担を求める請求権じゃないから。
会員H ← 協力義務の限界を超える方法で徴収することはできないから、徴収の便宜を理由にOKにはならないよね。

3.後は、上記を答案にうまく溶け込ませて入れる。簡単にやるなら、当サイトの参考答案(その1)みたいにすればいいでしょう。

(参考答案(その1)より引用。太字強調は筆者。)

1.確かに、会員Hの意見のとおり、一括して一律に徴収するのが楽である
 しかし、町内会費8000円を一律に徴収するためには、公序良俗違反(民法90条)など協力義務を否定すべき特段の事情がないことを要する(群馬司法書士会事件判例参照)。

 (中略)

 確かに、会員Eの言うとおり、A町内会は任意団体で、法令上、直接・間接に加入を強制されていないから、強制加入団体ではない。
 しかし、A集落は人口約170人、世帯数約50戸である。現在のA町内会加入率は100パーセントである。生活道路・下水道の清掃、ごみ収集所の管理、B市の「市報」等の配布については、日常生活に不可欠であり、A集落に住む以上はA町内会に加入せざるを得ない。したがって、A町内会への加入が重要な利益であって、脱退の自由に事実上大きな制約がある。
 以上から、強制加入団体に準じて考える。

 (中略)

 構成員が市民としての個人的な政治的思想等に基づいて自主的に決定すべき事柄(国労広島地本事件、南九州税理士会事件各判例参照)について協力義務を課すことは、構成員の政治的立場を害する。同様に、構成員が市民としての個人的な宗教観等に基づいて自主的に決定すべき事柄について協力義務を課すことは、構成員の宗教的立場を害する。なお、会員Gは自己の信教の自由をいうが、他の会員の宗教的立場を害することまで許容する理由にはならない

 (中略)

 上記のように考えても、住民のほとんどがC神社の祭事をA集落の重要な年中行事と認識しているから、祭事挙行費を別途任意に住民から徴収すればよく、会員Fの懸念は当たらない

(引用終わり)

 これでも、最低限の応答にはなっているでしょうから、ガン無視野郎よりはマシです。上記を見れば分かるとおり、各会員に固有名詞が付いているおかげで、各発言をそのまま書き写す必要がなく、例えば、「会員Fの懸念」と記載すれば、「祭事はA集落の重要な年中行事だ。集落を支えている町内会の会費から支出しなければ、集落に伝えられてきた伝統舞踊も続けられなくなる。」という懸念を指すことが分かるようになっています。わざわざ固有名詞を付していることには、このような意味もあるのでしょう。
 もうちょっとだけ丁寧に応答するなら、参考答案(その2)のような感じでしょう。

(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

1.町内会費8000円を一律に徴収するためには、公序良俗違反(民法90条)など協力義務を否定すべき特段の事情がないことを要する(群馬司法書士会事件判例参照)。会員Hの意見のとおり、一括徴収が便宜であるとしても、上記特段の事情があるときは、そのような徴収方法は許されない

 (中略)

2.会員Eの言うとおり、一般に、任意の私的団体の構成員は、団体の活動に参加し、妨害せず、会費等を納入するなどの協力義務を負う。もっとも、強制加入団体においては、団体の活動に賛同して加入し、団体の決定に反対であれば脱退できるという前提を欠くため、構成員の利益との考量を要する。したがって、構成員の協力義務を否定すべき特段の事情は、政治的・宗教的立場や思想信条の自由を害し、又は社会通念上過大な負担かで判断する(国労広島地本事件、南九州税理士会事件、群馬司法書士会事件各判例参照)。

 (中略)

ア.会員Eの言うとおり、A町内会は任意団体であり、加入・脱退は自由であるから、強制加入団体そのものではない。

イ.しかし、A集落は人口約170人、世帯数約50戸と極めて小規模で、現在のA町内会加入率は100パーセントである。A集落に居住しながら加入せず、又は脱退すれば、A集落では異端視されることとなり、現実に差別等を受けるか否かを別としても、強い疎外や心理的圧迫ないし負担を感じざるをえない。A町内会の活動のうち、B市「市報」配布については、B市役所等へ赴けば入手できるはずであるし、そもそも閲読が生活に必要不可欠とまではいえないが、生活道路・下水道の清掃、ごみ収集所の管理については、生活道路・下水道が利用できなくなったり、ごみ出しができなくなったりすれば日常生活に支障をきたすから、不可欠のサービスといえる。したがって、A町内会への加入は重要な利益であって、脱退の自由に事実上大きな制約がある。
 以上から、強制加入団体に準じて考える。

 (中略)

 国労広島地本事件判例は、選挙における投票の自由と表裏をなし、構成員が市民としての個人的な政治的思想等に基づいて自主的に決定すべき事柄について協力義務を課すことは、構成員の政治的立場を害するとし、強制は金銭の出捐だけで、反対の意見表明をする自由が奪われるわけではないが、一定の政治活動との個別的関連性が明白に特定された資金の拠出を強制することは、その活動に対する積極的協力の強制にほかならず、その活動に表れる一定の政治的立場への支持を強制するに等しいとする。南九州税理士会事件判例も直接には目的の範囲における判示であるが同旨と思われる。上記各判例は、構成員の思想・良心の自由(19条)との関係を考慮したものであるところ、信仰は、思想・良心の宗教的側面であるから、構成員の信教の自由(20条1項前段)との関係を考慮すべき場面でも当てはまる。
 したがって、特定の宗教活動との個別的関連性が明白に特定された資金の拠出を強制することは、構成員の宗教的立場を害するものとして、協力義務が否定される。
 なお、会員Gは自らの信教の自由をいうが、同自由の保障は、公権力によって内心の信仰、宗教的行為及び宗教的結社の自由を妨げられない点にあり、自己の信仰を全うするために他者に費用負担を求める権利まで保障するものではないから、上記協力義務を肯定する理由とはならない

 (中略)

 上記のように考えても、祭事挙行費を別途任意に徴収することは可能であり、住民のほとんどがC神社の祭事をA集落の重要な年中行事と認識している現状の下においては、祭事や伝統舞踊が継続できなくなる事態は想定しがたく、また、伝統舞踊については、神事と切り離して保存する余地もある。したがって、会員Fの懸念は当たらない

(引用終わり)

 おそらく、考査委員としては、各会員の発言のような素朴な意見に対して、憲法論を踏まえた応答ができるかどうかを問いたかったのでしょう。「町内会で色々な意見があったことを踏まえて法律家に意見を求めたって設定なんだから、各意見の評価についても当然答えてくれるだろう。」と期待している。しかし実際には、ほとんどの人がこれを無視するでしょうから、考査委員は、泣きながら採点することになるでしょう。

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