裁量は書かない
(令和6年予備試験行政法)

1.令和6年予備試験行政法。設問2(2)のうち、「行政事件訴訟法第37条の2第1項の要件」の部分は、特定性、重損要件について規範を明示して当てはめをし、補充性については民事上の請求が可能でも充足し得ることを書けばよい。いずれも、論証を準備していれば楽勝といったところでした。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問2〕

 Xが本件訴訟1における原告適格を有することを前提として、以下の各小問に答えなさい。

(1) Xは、本件訴訟2において、国家賠償法第1条第1項の「違法」及び「過失」についてどのような主張をすべきか、検討しなさい。

(2) Xは、本件訴訟3において、行政事件訴訟法第37条の2第1項の要件及び農地法第51条第1項の処分の要件が充足されることについてどのような主張をすべきか、検討しなさい。

(引用終わり)

(参照条文)行政事件訴訟法37条の2(義務付けの訴えの要件等)

 第3条第6項第1号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。

2~5 (略)

(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』より引用。太字強調は筆者。)

・「一定の」(行訴法37条の2第1項)の判断基準
重要度:B
 裁判所の判断が可能な程度に特定されているかで判断する(政府見解)。

・「重大な損害」(行訴法37条の2第1項)の判断基準
重要度:A
 事後の金銭賠償等(行訴法37条の2第2項)で容易に救済を受けられるかで判断する(北総鉄道事件地裁裁判例参照)。

・民事上の請求は「適当な方法」(行訴法37条の2第1項)に当たるか
重要度:A
 補充性要件(行訴法37条の2第1項)の趣旨は、他の行政上の救済手段が予定されている場合には、それによるべきとする点にあるから、民事上の請求は「適当な方法」には当たらない(裁判例)。

(引用終わり)

2.一方で、「農地法第51条第1項の処分の要件」の部分については、単に処分要件の当てはめをすればよいのか、裁量の有無、範囲についても触れるべきか、迷った人が多かったことでしょう。結論としては、裁量は書くべきではなかったのだろうと思います。なぜか。それは、設問の問い方にあります。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問2〕

 Xが本件訴訟1における原告適格を有することを前提として、以下の各小問に答えなさい。

(1) Xは、本件訴訟2において、国家賠償法第1条第1項の「違法」及び「過失」についてどのような主張をすべきか、検討しなさい。

(2) Xは、本件訴訟3において、行政事件訴訟法第37条の2第1項の要件及び農地法第51条第1項の処分の要件が充足されることについてどのような主張をすべきか、検討しなさい。

(引用終わり)

 予備校等では、「Xの主張を書けばいいんだから、裁量はいらないです。」と説明されるかもしれませんが、それは誤りでしょう。Xの主張であっても、それが処分が違法であることの主張であるなら、行政庁の裁量の有無・範囲を踏まえた主張をすべきだからです。この点については、以前の記事でも説明しました(「本件都市計画変更の違法(令和6年司法試験論文式公法系第2問)」の項目5を参照)。
 裁量を書くべきでない真の理由は、「行政事件訴訟法第37条の2第1項の要件及び同条5項の要件」ではなく、「行政事件訴訟法第37条の2第1項の要件及び農地法第51条第1項の処分の要件」とされている点にあります。

(参照条文)行政事件訴訟法37条の2(義務付けの訴えの要件等)

 第3条第6項第1号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。

2 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。

3 第1項の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。

4 前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第9条第2項の規定を準用する。

5 義務付けの訴えが第1項及び第3項に規定する要件に該当する場合において、その義務付けの訴えに係る処分につき、行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分をすべき旨を命ずる判決をする。

 仮に、「行政事件訴訟法第37条の2第1項の要件及び同条5項の要件が充足されることについてどのような主張をすべきか」という問い方であったなら、裁量について触れるべきは当然です。問い方としても、別におかしくない。考査委員が裁量について触れてほしいと思ったなら、このような問い方にしたはずです。それが、わざわざ「農地法第51条第1項の処分の要件が充足されることについてどのような主張をすべきか」という問い方にされている。これは、「単に農地法51条1項の要件を充足することだけを書いてくれたらいいですよ。」という趣旨で読むべきでしょう。だから、裁量は書くべきでない、といえるのでした。

3.裁量に関しては、書くべき場合は結構配点があるので、落とすと辛いし、書くべきでない場合に書いてしまうと、結構な余事記載になって、これも辛い。なので、判断を誤ると、ときに致命傷になります。過去問と予備校答練等とでは、書くべきか否かの基準が異なったりしますので、答練等ではなく、過去問に合わせて判断方法を確立しておくことが必要です。

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