本件都市計画変更の違法
(令和6年司法試験論文式公法系第2問)
1.令和6年司法試験論文式公法系第2問設問1(2)の違法事由。前回(「「変更に伴う」の意味(令和6年司法試験論文式公法系第2問)」)までは、そのうちの縦覧・意見書提出手続を欠く違法について説明しました。今回は、もう1つの違法事由。すなわち、本件都市計画変更の違法について説明します。
(問題文より引用。太字強調は筆者。)
〔設問1〕
(1) (略) (2) 本件事業計画変更認可が違法であることについて、Dはどのような主張をすることが考えられるか、検討しなさい。
(中略)
【S市都市計画課の会議録】
(中略)
課長:次に、本件事業計画変更認可の違法性ですが、第一に、変更認可の申請があった後、法第16条が定める縦覧及び意見書提出手続が履践されていないようです。これで問題はないのでしょうか。
係長:検討して御報告します。
課長:第二に、第一種市街地再開発事業の施行区域は都市計画として定められるため、「一体的に開発し、又は整備する必要がある土地の区域について定めること」という都市計画基準(都市計画法第13条第1項第13号)を満たさなければなりません。加えて、法第3条各号が掲げる施行区域の要件をも満たさなければなりません。これらは、施行地区を変更する都市計画にも同様に適用されます。まず、C地区の立地条件からみて、上記の都市計画基準を満たしているといえるのか、さらに、C地区は公園として整備される予定ですが、そのようにすることで法第3条第4号に定める施行区域の要件が満たされることになるのか、それぞれ疑問があります。
係長:本件都市計画変更の違法性の問題ですね。最高裁判決(最高裁判所昭和59年7月16日第二小法廷判決・判例地方自治9号53頁)は第一種市街地再開発事業に関する都市計画決定の処分性を否定していますから、その違法性は後続の処分の違法事由として主張することになります。本件事業計画変更認可に処分性が認められると仮定して、お示しいただいた事情を具体的に考慮し、同認可の違法事由となるかどうか検討してみます。
(引用終わり)
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2.まず、大前提として、都市計画の違法が後続の処分の違法事由となるのは、どのような場合か。関係法令に摘示すべき条文が掲載されているわけなので、上位を狙う人は、一応触れておくべきでしょう。事前に論証を知っていれば、貼るだけのことです。
(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』より引用。下線及び※注は原文による。)
・行政計画の違法は関連する処分の違法事由となるか 重要度:B
計画適合性が処分要件であるときは、計画を基礎とする処分といえるから、計画の違法は処分の違法事由となる(小田急本案事件判例参照)。
※ 最判平18・11・2。
※ 上記判例は、「都市計画法……(略)……は、都市計画事業認可の基準の一つとして、事業の内容が都市計画に適合することを掲げているから(61条)、都市計画事業認可が適法であるためには、その前提となる都市計画が適法であることが必要である。」と判示している。
(参照条文)都市計画法61条(認可等の基準) 国土交通大臣又は都道府県知事は、申請手続が法令に違反せず、かつ、申請に係る事業が次の各号に該当するときは、第59条の認可又は承認をすることができる。
一 事業の内容が都市計画に適合し、かつ、事業施行期間が適切であること。
二 事業の施行に関して行政機関の免許、許可、認可等の処分を必要とする場合においては、これらの処分があつたこと又はこれらの処分がされることが確実であること。
※ 上記判例のように文言上明確な場合だけでなく、制度の仕組みから処分の対象が計画に適合しない場合には処分をすべきでない趣旨が読み取れるときも、計画を基礎とする処分といえるから、行政計画の違法は処分の違法事由となる。
(引用終わり)
(問題文より引用。太字強調は筆者。)
【資料 関係法令】
(中略)
○ 都市再開発法(昭和44年法律第38号)(抜粋)
(中略)
(認可の基準)
第17条 都道府県知事は、第11条第1項(中略)の規定による認可の申請があつた場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その認可をしなければならない。
一、二 (略) 三 事業計画(中略)の内容が当該第一種市街地再開発事業に関する都市計画に適合せず、又は事業施行期間が適切でないこと。
四 (略)
(中略)
(定款又は事業計画若しくは事業基本方針の変更)
第38条 組合は、定款又は事業計画(中略)を変更しようとするときは、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けなければならない。
2 (中略)第14条(中略)の規定は組合が事業計画(中略)を変更して新たに施行地区に編入しようとする土地がある場合に、(中略)第16条の規定は事業計画の変更(政令で定める軽微な変更を除く。)の認可の申請があつた場合に、(中略)第17条及び第19条の規定は前項の規定による認可について準用する。この場合において、(中略)第16条第1項中「施行地区となるべき区域(中略)」とあるのは「施行地区及び新たに施行地区となるべき区域」と、(中略)第19条第1項中「認可」とあるのは「認可に係る定款又は事業計画についての変更の認可」と(中略)読み替えるものとする。
(引用終わり)
(参考答案(その2)より引用)
計画適合性が処分要件であるときは、計画を基礎とする処分といえるから、計画の違法は処分の違法事由となる(小田急本案事件判例参照)。
都市計画適合性は、事業計画変更認可の要件である(法38条2項、17条3号)。したがって、都市計画の違法は、事業計画変更認可の違法事由となる。このことは、都市計画の変更の違法にも当てはまる。
(引用終わり)
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もっとも、これに関しては、書けなくても大きな差は付かないと思います。
3.その上で、検討すべき条文が、都計法13条1項13号と法3条4号だ、ということを、「【S市都市計画課の会議録】」から読み取らなければなりません。これは誰もが読み取れるところでしょうから、ここで脱落して、各条文を摘示することなく、抽象的に裁量逸脱濫用を論じた人は、大きく評価を落とすでしょう。
(問題文より引用。太字強調は筆者。)
【S市都市計画課の会議録】
(中略)
課長:第二に、第一種市街地再開発事業の施行区域は都市計画として定められるため、「一体的に開発し、又は整備する必要がある土地の区域について定めること」という都市計画基準(都市計画法第13条第1項第13号)を満たさなければなりません。加えて、法第3条各号が掲げる施行区域の要件をも満たさなければなりません。これらは、施行地区を変更する都市計画にも同様に適用されます。まず、C地区の立地条件からみて、上記の都市計画基準を満たしているといえるのか、さらに、C地区は公園として整備される予定ですが、そのようにすることで法第3条第4号に定める施行区域の要件が満たされることになるのか、それぞれ疑問があります。
係長:本件都市計画変更の違法性の問題ですね。最高裁判決(最高裁判所昭和59年7月16日第二小法廷判決・判例地方自治9号53頁)は第一種市街地再開発事業に関する都市計画決定の処分性を否定していますから、その違法性は後続の処分の違法事由として主張することになります。本件事業計画変更認可に処分性が認められると仮定して、お示しいただいた事情を具体的に考慮し、同認可の違法事由となるかどうか検討してみます。
(中略)
【資料 関係法令】 ○ 都市計画法(昭和43年法律第100号)(抜粋)
(中略)
(都市計画基準)
第13条 都市計画区域について定められる都市計画(中略)は、(中略)当該都市の特質を考慮して、次に掲げるところに従つて、土地利用、都市施設の整備及び市街地開発事業に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを、一体的かつ総合的に定めなければならない。(以下略)
一~十二 (略) 十三 市街地開発事業は、市街化区域又は区域区分が定められていない都市計画区域内において、一体的に開発し、又は整備する必要がある土地の区域について定めること。
十四~二十 (略) 2~6 (略)
(中略)
○ 都市再開発法(昭和44年法律第38号)(抜粋)
(中略)
(第一種市街地再開発事業の施行区域)
第3条 都市計画法第12条第2項の規定により第一種市街地再開発事業について都市計画に定めるべき施行区域は、(中略)次に掲げる条件に該当する土地の区域でなければならない。
一~三 (略) 四 当該区域内の土地の高度利用を図ることが、当該都市の機能の更新に貢献すること。
(引用終わり)
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4.都計法13条1項13号と法3条4号が検討事項であると読み取ったら、さらに、前者はC地区の立地条件の観点から検討すべきであり、後者はC地区を公園として整備することとの関係で検討すべきであることを読み取らなければなりません。ここで脱落して、「立地条件」や「C地区を公園として整備すること」というキーワードを示さずに、これらと無関係に事実を書き写した人は、相対的に評価を落とすでしょう。
(問題文より引用。太字強調は筆者。)
【S市都市計画課の会議録】
(中略)
課長:第二に、第一種市街地再開発事業の施行区域は都市計画として定められるため、「一体的に開発し、又は整備する必要がある土地の区域について定めること」という都市計画基準(都市計画法第13条第1項第13号)を満たさなければなりません。加えて、法第3条各号が掲げる施行区域の要件をも満たさなければなりません。これらは、施行地区を変更する都市計画にも同様に適用されます。まず、C地区の立地条件からみて、上記の都市計画基準を満たしているといえるのか、さらに、C地区は公園として整備される予定ですが、そのようにすることで法第3条第4号に定める施行区域の要件が満たされることになるのか、それぞれ疑問があります。
係長:本件都市計画変更の違法性の問題ですね。最高裁判決(最高裁判所昭和59年7月16日第二小法廷判決・判例地方自治9号53頁)は第一種市街地再開発事業に関する都市計画決定の処分性を否定していますから、その違法性は後続の処分の違法事由として主張することになります。本件事業計画変更認可に処分性が認められると仮定して、お示しいただいた事情を具体的に考慮し、同認可の違法事由となるかどうか検討してみます。
(引用終わり)
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理論的には、どうして都計法13条1項13号は立地条件で、法3条4号は公園整備という観点になるのか、という点に疑問の余地がないわけではないのですが、そんなの現場で考えちゃいけません(※1)。問題文にそう書いてあるんだから、それに従う。それだけのことです。
※1 都計法13条1項13号の段階でも、「再開発ビルには不向きな立地条件であるが、公園整備が予定されているということならアリ。」という判断の余地がありそうです。仮に、同号不該当なら、法3条4号以前に違法になってしまうので、後者の段階で初めて公園整備を考慮するのは変であるともいえるでしょう。
5.さて、本問を現場で見たときに、「Dの主張だから裁量を書くべきじゃないんじゃないの?」と思った人もいたかもしれません。
(問題文より引用。太字強調は筆者。)
〔設問1〕
(1) (略) (2) 本件事業計画変更認可が違法であることについて、Dはどのような主張をすることが考えられるか、検討しなさい。
(引用終わり)
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たまに目にする言説として、「裁量は適法を主張する側が言うべきことであって、違法を主張する側が裁量に言及するのは敵に塩を送ることになるから、違法を主張する側が裁量を主張してはいけない。」というものです。これはまあ、いいたいことはわからんでもない、という話なのですが、残念ながら考査委員はそのように考えていません。令和5年の例を確認しておきましょう。
(令和5年司法試験論文式公法系第2問問題文より引用。太字強調は筆者。)
〔設問2〕
Aが適法に本件取消訴訟を提起したことを前提に、以下の点を検討しなさい。
(1) (略) (2) 本件取消訴訟において、Aはどのような違法事由を主張すべきか、想定されるB県の反論を踏まえて、検討しなさい。解答に当たっては、本件改善勧告及び本件改善命令が適法であること、並びに本件解散命令に手続的違法はないことを前提にしなさい。
(引用終わり)
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「裁量は適法を主張する側が言うべきことであって、違法を主張する側が裁量に言及するのは敵に塩を送ることになるから、違法を主張する側が裁量を主張してはいけない。」という理論によれば、Aの主張では裁量は書いてはいけなくて、想定される反論で裁量を書くべきだ、ということになるはずです。しかし、採点実感によれば、Aの主張において、裁量統制の枠組みを示すべきことが指摘されています。
(令和5年司法試験論文式公法系第2問採点実感より引用。太字強調は筆者。)
(4) 設問2(2)
・ 社会福祉法人に対する解散命令について、根拠となる条文の文言、専門性等を挙げて所轄庁の行政裁量の存否を検討し、これが違法となる場合の判断枠組みを示した上で、想定されるB県の反論を念頭に、㋐CがAの運営改善に向けて努力するなどしており、改善が期待できないとするB県知事の判断が誤りであること、㋑本件不正はDの行為に起因しているにもかかわらず、本件解職勧告をAが拒否した事実を重視するのは誤りであることなどを述べて相応の検討をし、さらに、過去の例に照らし、本件解散命令が比例原則等に反するかを検討しているものなどは、一応の水準に達しているものと判断した。
・
これに加えて、上記㋐及び㋑の検討において、前提として示した判断枠組みに具体的に当てはめ、いかなる点で裁量権の逸脱・濫用となるのかを明確に論じるものなどは、良好な答案と判断した。
・
以上に加えて、上記㋐及び㋑のほかに、例えば、法第24条、第61条第1項第2号によると、どのような監督措置を講じるかを判断するに当たっては、対象となる社会福祉法人の自主性・自立性を尊重する必要がある旨など、法の条文構造、趣旨、理念を踏まえて、Aの主張すべき違法事由を説得的に論じているものなどは、優秀な答案と判断した。
(引用終わり)
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過去問をきちんと解いていれば、こうしたところで無駄に悩む必要がなくなります(※2)。過去問を解くことには、このような効果もあるのです。
※2 実務ないし訴訟法の観点から考えても、一般に裁量が認められる事項については、その違法を主張する当事者が裁量逸脱濫用を基礎付ける事実の主張をするのは当たり前です(その前提として裁量統制の枠組みも示すことになるでしょう。)。裁判所から、「裁量逸脱濫用の主張はしないんですか?」と水を向けられているのに、「敵に塩を送るのはイヤです!」などと言って頑なに要件不充足の主張しかしない場合には、違法を基礎付ける事実の主張がないと扱われて敗訴しても仕方がないでしょう。
そんなわけで、裁量の肯否、判断枠組みを書く。これはもう頻出なので、事前に論証を覚えて貼り付けるべきでしょう。ここは、地味に差が付くところだと思います。
(『司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】』より引用。下線及び※注は原文による。)
・裁量範囲の判断に係る考慮要素 重要度:AA
法律の文言・趣旨、権利利益の制約、専門技術・公益判断の必要性、制度・手続上の特別規定等から判断する(群馬バス事件、マクリーン事件等判例参照)。
※ 最判昭50・5・29。最大判昭53・10・4。
※ 群馬バス事件判例は、「原審は、まず、一般乗合旅客自動車運送事業を独占の一形態でありその免許を公企業の特許であるとしたうえで、運輸大臣は、道路運送法6条1項に定める基準のすべてに適合し、かつ、同法6条の2の欠格事由に該当しない場合でなければこれを免許することができず、右基準のいずれかに適合しないときは申請を却下しなければならないものであり、また、右免許基準に適合するかどうかの判断は覊束裁量に属すると解し、この見解に基づき、本件免許申請につき同法6条1項1号の基準に適合しないとした被上告人の判断の適否について検討し、右判断は相当であるとするとともに、他方、行政庁が行政処分を行うにあたつては、事実の認定、法律の適用等の実質的判断はもとより、その手続についても公正でなければならないと解し、この見解に基づき、本件免許申請に対する審理手続を検討し、右審理手続上においても違法は認められないとしたのである。」、「しかしながら、自動車運送事業の免許の性質を公企業の特許と解するかどうかは、必ずしも、本件の結論に影響があるものとは考えられない。すなわち、自動車運送事業は高度の公益性を有し、その経営は直接社会公共の利益に関係があるものであるから、憲法22条1項にいう職業選択の自由に対する公共の福祉に基づく制限として、道路運送法は、4条において、自動車運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならないとし、6条1項において、免許基準を設け、また、6条の2において、欠格事由を定めているのであり(当裁判所昭和35年(あ)第2854号同38年12月4日大法廷判決・刑集17巻12号2434頁参照)、これにより、運輸大臣は、右免許基準のすべてに適合し、かつ、右欠格事由に該当しない場合でなければ免許を付与してはならない旨の拘束を受けるものと解されるのであつて、自動車運送事業の免許の性質を公企業の特許と解するかどうかによりこの理が左右されるものではない。もつとも、右免許基準は極めて抽象的、概括的なものであり、右免許基準に該当するかどうかの判断は、行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし、ある程度の裁量的要素があることを否定することはできないが、このことも、自動車運送事業の免許の性質を公企業の特許と考えるかどうかによつて差異を生ずるものではない。また法は、道路運送法122条の2、運輸省設置法6条1項7号、8条以下、運輸審議会一般規則等において、右免許の許否の決定の適正と公正を保障するために制度上及び手続上特別の規定を設け、全体として適正な過程により右決定をなすべきことを法的に義務づけているのであり、このことから、右免許の許否の決定は手続的にも適正でなければならないものと解されるのであつて、自動車運送事業の免許の性質を公企業の特許と解するかどうかによつてこれが左右されるものではない。」と判示している。
※ かつての行政法学においては、自由裁量・き束裁量の二分法を前提に、処分の法的性質と自由裁量・き束裁量の帰結とが直結する解釈が採られていた。例えば、警察許可であれば、き束裁量である、という具合である。しかし、上記判例が繰り返し判示しているとおり、最高裁は、行政行為の性質論から直ちに裁量の範囲が定まるという解釈を採っていない。
※ マクリーン事件判例は、「憲法上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん、所論のように在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものでもないと解すべきである。そして、上述の憲法の趣旨を前提として、法律としての効力を有する出入国管理令は、外国人に対し、一定の期間を限り……(略)……特定の資格によりわが国への上陸を許すこととしているものであるから、上陸を許された外国人は、その在留期間が経過した場合には当然わが国から退去しなければならない。もつとも、出入国管理令は、当該外国人が在留期間の延長を希望するときには在留期間の更新を申請することができることとしているが(21条1項、2項)、その申請に対しては法務大臣が「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り」これを許可することができるものと定めている(同条3項)のであるから、出入国管理令上も在留外国人の在留期間の更新が権利として保障されているものでないことは、明らかである。」、「右のように出入国管理令が原則として一定の期間を限つて外国人のわが国への上陸及び在留を許しその期間の更新は法務大臣がこれを適当と認めるに足りる相当の理由があると判断した場合に限り許可することとしているのは、法務大臣に一定の期間ごとに当該外国人の在留中の状況、在留の必要性・相当性等を審査して在留の許否を決定させようとする趣旨に出たものであり、そして、在留期間の更新事由が概括的に規定されその判断基準が特に定められていないのは、更新事由の有無の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広汎なものとする趣旨からであると解される。すなわち、法務大臣は、在留期間の更新の許否を決するにあたつては、外国人に対する出入国の管理及び在留の規制の目的である国内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持の見地に立つて、申請者の申請事由の当否のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲など諸般の事情をしんしやくし、時宜に応じた的確な判断をしなければならないのであるが、このような判断は、事柄の性質上、出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければとうてい適切な結果を期待することができないものと考えられる。このような点にかんがみると、出入国管理令21条3項所定の「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」があるかどうかの判断における法務大臣の裁量権の範囲が広汎なものとされているのは当然のことであつて、所論のように上陸拒否事由又は退去強制事由に準ずる事由に該当しない限り更新申請を不許可にすることは許されないと解すべきものではない。」と判示している。
・裁量逸脱濫用の判断基準 重要度:AA
重要な事実の基礎を欠くか、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くかで判断する(マクリーン事件、呉市学校施設使用不許可事件、小田急本案事件等判例参照)。
※ 最大判昭53・10・4。最判平18・2・7。最判平18・11・2。
※ マクリーン事件判例は、「法が処分を行政庁の裁量に任せる趣旨、目的、範囲は各種の処分によつて一様ではなく、これに応じて裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつたものとして違法とされる場合もそれぞれ異なるものであり、各種の処分ごとにこれを検討しなければならないが、これを出入国管理令21条3項に基づく法務大臣の「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」があるかどうかの判断の場合についてみれば、右判断に関する前述の法務大臣の裁量権の性質にかんがみ、その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつたものとして違法となるものというべきである。したがつて、裁判所は、法務大臣の右判断についてそれが違法となるかどうかを審理、判断するにあたつては、右判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつたものとして違法であるとすることができるものと解するのが、相当である。」と判示している。
※ 呉市学校施設使用不許可事件判例は、「管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性など許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である。」と判示している。
※ 小田急本案事件判例は、「裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては、当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。」と判示している。
※ 国公立大学の学生に対する懲戒、公務員に対する懲戒が問題となる場合には、「社会通念に照らし」の表現に代えて、「社会観念上」の表現が用いられるが、これは、源流となる判例(京都府立医大退学処分事件判例(最判昭29・7・30)、神戸税関事件判例(最判昭52・12・20))が「社会観念上」の表現を用いており、同様の事例においてこれらが参照されるためである。現代の用語法としては「社会通念」の方が適切であることから、本書では、「社会通念に照らし」の表現を用いている。なお、法令用語として「社会観念」の語は用いられないが、「社会通念」の語は用いることがある。いわゆる債権法改正(平成29年法律第44号)により、現行民法では「取引上の社会通念」の語が9か所で用いられている(民法95条1項柱書、400条、412条の2第1項、415条1項ただし書、478条、483条、504条2項、541条ただし書、548条の2第2項)。その意味について、「社会通念という用語の意義自体は、一般的には、社会一般に受け入れられ通用する常識などと言われておりますので……(略)……取引上の社会の常識ということでよろしいかというふうに考えております。」と説明されている(衆院法務委員会平28・12・2小川秀樹法務省民事局長答弁)。したがって、「社会通念に照らし著しく妥当性を欠く」とは、「社会常識から考えてとてもおかしい」という程度の意味ということになる。
・考慮不尽・他事考慮による裁量逸脱 重要度:A
考慮不尽・他事考慮がなければ異なった結論に至る可能性があったときは(日光太郎杉事件高裁判例参照)、処分が社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたといえる(剣道実技受講拒否事件、呉市学校施設使用不許可事件、小田急本案事件等判例参照)。
※ 東京高判昭48・7・13。最判平8・3・8。最判平18・2・7。最判平18・11・2。
※ 日光太郎杉事件高裁判例は、「本来最も重視すべき諸要素、諸価値を不当、安易に軽視し、その結果当然尽すべき考慮を尽さず、または本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れもしくは本来過大に評価すべきでない事項を過重に評価し、これらのことにより同控訴人のこの点に関する判断が左右されたものと認められる場合には、同控訴人の右判断は、とりもなおさず裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるものとして、違法となるものと解するのが相当である。」、「控訴人建設大臣の判断は、この判断にあたつて、本件土地付近のもつかけがいのない文化的諸価値ないしは環境の保全という本来最も重視すべきことがらを不当、安易に軽視し、その結果右保全の要請と自動車道路の整備拡充の必要性とをいかにして調和させるべきかの手段、方法の探究において、当然尽すべき考慮を尽さず……(略)……オリンピツクの開催に伴なう自動車交通量増加の予想という、本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れ……(略)……暴風による倒木(これによる交通障害)の可能性および樹勢の衰えの可能性という、本来過大に評価すべきでないことがらを過重に評価した……(略)……点で、その裁量判断の方法ないし過程に過誤があり、これらの過誤がなく、これらの諸点につき正しい判断がなされたとすれば、控訴人建設大臣の判断は異なつた結論に到達する可能性があつたものと認められる。してみれば、本件事業計画をもつて土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものと認められるべきであるとする控訴人建設大臣の判断は、その裁量判断の方法ないし過程に過誤があるものとして、違法なものと認めざるをえない。」と判示している。
※ 剣道実技受講拒否事件判例は、「信仰上の理由による剣道実技の履修拒否を、正当な理由のない履修拒否と区別することなく、代替措置が不可能というわけでもないのに、代替措置について何ら検討することもなく、体育科目を不認定とした担当教員らの評価を受けて、原級留置処分をし、さらに、不認定の主たる理由及び全体成績について勘案することなく、二年続けて原級留置となったため進級等規程及び退学内規に従って学則にいう「学力劣等で成業の見込みがないと認められる者」に当たるとし、退学処分をしたという上告人の措置は、考慮すべき事項を考慮しておらず、又は考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠き、その結果、社会観念上著しく妥当を欠く処分をしたものと評するほかはなく、本件各処分は、裁量権の範囲を超える違法なものといわざるを得ない。」と判示している。
※ 呉市学校施設使用不許可事件判例は、「裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である。」、「本件中学校及びその周辺の学校や地域に混乱を招き、児童生徒に教育上悪影響を与え、学校教育に支障を来すことが予想されるとの理由で行われた本件不許可処分は、重視すべきでない考慮要素を重視するなど、考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており、他方、当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる。そうすると……(略)……本件不許可処分が裁量権を逸脱したものであるとした原審の判断は、結論において是認することができる。」と判示している。
※ 小田急本案事件判例は、「事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合」と判示している。
※ 考慮不尽・他事考慮があったとしても、当然に処分が違法となるわけではなく、それが処分の結果・内容に影響を及ぼしたといえる場合に限り、処分が社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたと評価できるものとされる。日光太郎杉事件高裁判例はこれを明確に判示しており、最高裁判例も、「その結果」、「によりその内容が」という文言を加えることにより、その趣旨を示しているものと考えられる。これは、考慮不尽・他事考慮は判断過程に関するものであって、手続統制と構造を同じくするためである(「手続違反が処分の違法事由となるかの判断基準」の項目も参照)。
※ 学説は、「社会通念に照らし著しく妥当性を欠く」という判断基準を「社会観念審査」、考慮不尽・他事考慮による審査を「判断過程審査」と呼んで区別し、前者より後者の方がより審査密度が厳格であるという説明をするが、判例は、そのような審査密度に応じた区別をしていない。このことは、小田急本案事件判例が、「都市計画法は、都市計画について、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと等の基本理念の下で(2条)、都市施設の整備に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを一体的かつ総合的に定めなければならず、当該都市について公害防止計画が定められているときは当該公害防止計画に適合したものでなければならないとし(13条1項柱書き)、都市施設について、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するように定めることとしているところ(同項5号)、このような基準に従って都市施設の規模、配置等に関する事項を定めるに当たっては、当該都市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。そうすると、このような判断は、これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられているというべきであって、裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては、当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。」と判示して、広範な裁量を肯定しつつ、判断過程審査に相当する考慮不尽・他事考慮の審査が妥当するものとしていることからも読み取れる。
(引用終わり)
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上記のうち、考慮不尽・他事考慮のところは、この枠組みを使ってしまうと書くべき文字数が急激に増えます。なので、筆力自慢の上位者のみが書くべきでしょう。
6.後は、「【本件の事案の内容】」をみて、C地区の立地条件に関係ありそうなものを都計法13条1項13号のところで書き写し、公園整備に関係ありそうなものを法3条4号のところで書き写す。問題文を見れば、以下の太字強調部分を書き写せばよさそう、ということは、すぐ分かるでしょう。
(問題文より引用。太字強調は筆者。)
【本件の事案の内容】
Q県R市は、その区域の全域が都市計画法上の都市計画区域に指定されている。R市内にあるA駅東口地区のうち、Dの所有する宅地を含む約2万平方メートルの土地の区域(以下「B地区」という。)について、組合施行による第一種市街地再開発事業(以下「本件事業」という。)の実施が目指された。R市は、平成27年中に、B地区を施行区域とする第一種市街地再開発事業に関する都市計画を決定した。B地区内の宅地の所有者らは、これによりB地区市街地再開発組合(以下「B地区組合」という。)の定款及び事業計画を定め、平成28年3月1日、Q県知事から組合設立認可(以下「平成28年認可」という。)を受け、B地区組合が設立された。同日、Q県知事は、本件事業の施行地区等を公告した(法第19条第1項)。
その後、本件事業が停滞している中、令和4年になって、R市は、B地区から見て河川を越えた対岸にある約2千平方メートルの空き地(以下「C地区」という。)を施行区域に編入するために、上記平成27年に決定された都市計画を変更した(以下「本件都市計画変更」という。)。本件都市計画変更に際しては、B地区内の宅地の所有者としてB地区組合の組合員であり、かつ、C地区内の宅地を全て所有するEが、R市長やB地区組合の理事らに対し、C地区を本件事業の施行地区に編入するよう働き掛けを行っていた。C地区は河川沿いの細長い形状の空き地であり、地区周辺の人通りも少なかった。また、C地区については、その周辺からB地区側へ橋が架かっていないためにB地区側からの人の流入も期待できず、A駅方面へ行くにはかなりの遠回りをしなければならないという状況であった。そのため、EはC地区の土地の活用に長年苦慮していた。
(引用終わり)
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上記を書き写して、「都計法13条1項13号、法3条4号を充足するとの判断は社会通念に照らし著しく妥当性を欠く。」とでも言っておけば、とりあえずは合格ラインなのだろうと思います。もっとも、それだと、Eの働き掛けを落としてしまうことになる。
(問題文より引用。太字強調は筆者。)
【本件の事案の内容】
Q県R市は、その区域の全域が都市計画法上の都市計画区域に指定されている。R市内にあるA駅東口地区のうち、Dの所有する宅地を含む約2万平方メートルの土地の区域(以下「B地区」という。)について、組合施行による第一種市街地再開発事業(以下「本件事業」という。)の実施が目指された。R市は、平成27年中に、B地区を施行区域とする第一種市街地再開発事業に関する都市計画を決定した。B地区内の宅地の所有者らは、これによりB地区市街地再開発組合(以下「B地区組合」という。)の定款及び事業計画を定め、平成28年3月1日、Q県知事から組合設立認可(以下「平成28年認可」という。)を受け、B地区組合が設立された。同日、Q県知事は、本件事業の施行地区等を公告した(法第19条第1項)。
その後、本件事業が停滞している中、令和4年になって、R市は、B地区から見て河川を越えた対岸にある約2千平方メートルの空き地(以下「C地区」という。)を施行区域に編入するために、上記平成27年に決定された都市計画を変更した(以下「本件都市計画変更」という。)。本件都市計画変更に際しては、B地区内の宅地の所有者としてB地区組合の組合員であり、かつ、C地区内の宅地を全て所有するEが、R市長やB地区組合の理事らに対し、C地区を本件事業の施行地区に編入するよう働き掛けを行っていた。C地区は河川沿いの細長い形状の空き地であり、地区周辺の人通りも少なかった。また、C地区については、その周辺からB地区側へ橋が架かっていないためにB地区側からの人の流入も期待できず、A駅方面へ行くにはかなりの遠回りをしなければならないという状況であった。そのため、EはC地区の土地の活用に長年苦慮していた。
(引用終わり)
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ある程度勉強していれば、これは他事考慮で拾うんだな、ということが分かるでしょう。なので、とりあえず書き写す。前にも触れたとおり、他事考慮の枠組みは真面目に書くと文字数がかなり増えるので、筆力に自信がなければ、摘示だけにとどめるべきでしょう。
7.本問では、書き写すべき事実が分かっても、ちょっと腑に落ちない点があったかもしれません。「確かに、C地区は不便な立地かもしれないけど、空き地のままよりは公園にした方がマシじゃないの。どうしてダメなん?」という素朴な疑問です。それとの関係で、気付けば差が付くヒントが問題分にあります。それが、冒頭の「【市街地再開発事業の制度の概要】」のところに書いてある最初の1文です。
(問題文より引用。太字強調は筆者。)
【市街地再開発事業の制度の概要】
市街地再開発事業とは、都市計画法上の都市計画区域内で、細分化された敷地を共同化して、いわゆる再開発ビル(法上の「施設建築物」)を建築し、同時に道路や公園等の公共施設の用地を生み出す事業であり、原則として、都市計画において市街地開発事業の種類(本件の場合は後述する第一種市街地再開発事業)、名称及び施行区域等が定められている場合に実施される(都市計画法第12条第1項第4号・第2項)。
(引用終わり)
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この部分に気が付けば、どうしてC地区が全然ダメかが分かります。C地区は、B地区と川を挟んでいるので、B地区とC地区を共同化して再開発ビルの敷地にする、というには無理な立地です(厳密には川幅が不明なので、川をまたぐような画期的なビルも不可能じゃなさそうですが、ここではそういうのは考えないことにしましょう。)。では、C地区を公園にするとしたらどうか。そもそも、C地区だけを公園にする予定なので、B地区と共同化する気が初めからありません。仮に、C地区が、多数の宅地所有者が所有する細分化された土地の集合であったなら、これを一本化して公園の敷地とするために本件事業を利用するという余地がないではないでしょう(それでも利便性の点でダメそうですが。)。しかし、C地区の宅地は、その全部をEがひとりで所有していて、全然細分化されてない。
(問題文より引用。太字強調は筆者。)
本件都市計画変更に際しては、B地区内の宅地の所有者としてB地区組合の組合員であり、かつ、C地区内の宅地を全て所有するEが、R市長やB地区組合の理事らに対し、C地区を本件事業の施行地区に編入するよう働き掛けを行っていた。
(引用終わり)
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C地区に公園を作りたいなら、本件事業とは別に、Eと個別に交渉して譲渡を受けるなり、利用権の設定を受けるなりすればいい。本件事業を利用する意味が全然ないよね。こういうことに気が付いたなら、それを書けばよいでしょう。これに気が付いた人はほとんどいないでしょうから、「市街地再開発事業とは、細分化された敷地を共同化して、再開発ビルを建築する事業である。」、「市街地再開発事業とは、細分化された敷地を共同化して、道路や公園等の公共施設の用地を生み出す事業でもある。」旨の書き写しをしただけでも、全然気付いてなさそうな答案よりは高く評価されるだろうと思います。
8.普通の人なら、以上の説明で指摘した箇所をひたすら書き写すだけで精一杯でしょう。そうすると、当サイト作成の参考答案(その1)のようになるはずです。
(参考答案(その1)より引用)
(2)本件都市計画変更の違法
ア.都市計画基準(都計法13条1項13号)充足判断の裁量逸脱
裁量の広狭は、法律の文言・趣旨、権利利益の制約、専門技術・公益判断の必要性、制度・手続上の特別規定等から判断する(群馬バス事件、マクリーン事件等判例参照)。
「一体的に」、「必要がある」の文言の抽象性、都市計画における公益判断の必要性から、都市計画基準の判断には裁量がある。その違法性は、重要な事実の基礎を欠くか、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くかで判断する(マクリーン事件、呉市学校施設使用不許可事件、小田急本案事件等判例参照)。
市街地再開発事業とは、細分化された敷地を共同化して、再開発ビルを建築する事業である。しかし、B地区は約2万㎡であるのに対し、C地区はその10分の1の約2千㎡しかなく、河川沿いの細長い形状で、B地区から見て河川を越えた対岸にあるという立地条件にある。本件都市計画変更は本件事業が停滞している中、令和4年になってなされ、それに際しては、B地区内の宅地所有者としてB地区組合員であり、かつ、C地区内宅地を全て所有するEが、R市長やB地区組合理事らに対し、C地区を本件事業の施行地区に編入するよう働きかけを行っていた。EはC地区の土地の活用に長年苦慮していた。
以上から、「一体的に開発し、又は整備する必要がある土地」と判断するのは社会通念に照らし著しく妥当性を欠く。
よって、裁量逸脱の違法がある。
イ.施行区域要件(法3条4号)充足判断の裁量逸脱
「高度利用」、「貢献」の文言の抽象性、市街地再開発事業における公益判断の必要性から、施行区域要件の判断には裁量がある。
C地区は公園として整備される予定である。市街地再開発事業とは、細分化された敷地を共同化して、道路や公園等の公共施設の用地を生み出す事業でもある。しかし、C地区内の宅地はEが全て所有している。C地区はB地区から見て河川を越えた対岸にあるが、B地区側へ橋が架かっていないためにB地区側からの人の流入も期待できず、A駅方面へ行くにはかなりの遠回りをしなければならない。Eは、上記アの働きかけを行っていた。
以上から、C地区公園整備について、「当該区域内の土地の高度利用を図る」と判断すること、それによって「当該都市の機能の更新に貢献する」と判断することは、いずれも社会通念に照らし著しく妥当性を欠く。
よって、裁量逸脱の違法がある。
(引用終わり)
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筆力お化けであれば、以下のように、大魔神全開で書いてもいいでしょう。でも、普通の人は真似しちゃいけません。
(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)
(2)本件都市計画変更の違法
計画適合性が処分要件であるときは、計画を基礎とする処分といえるから、計画の違法は処分の違法事由となる(小田急本案事件判例参照)。
都市計画適合性は、事業計画変更認可の要件である(法38条2項、17条3号)。したがって、都市計画の違法は、事業計画変更認可の違法事由となる。このことは、都市計画の変更の違法にも当てはまる。
ア.都市計画基準(都計法13条1項13号)充足判断の裁量逸脱
裁量の広狭は、法律の文言・趣旨、権利利益の制約、専門技術・公益判断の必要性、制度・手続上の特別規定等から判断する(群馬バス事件、マクリーン事件等判例参照)。
一般に、都市計画を定めるには将来予測を含んだ土地の調和的利用の観点から、高度の専門技術・公益判断が必要とされること、土地は財産の性質上調和的利用の必要を内在しており、憲法29条2項が「公共の福祉に適合するやうに」とした趣旨は都市計画に伴う利用制限のような社会的制約を広く容認する点にあることから、広範な裁量(計画裁量)があるとされる。都計法13条1項13号が「一体的に」、「必要がある」という抽象的で評価的要素を含む文言を用いたのも、計画裁量を認める趣旨である。同号該当性判断について、裁量をき束する趣旨の特別の規定は見当たらない。同号該当性判断には広範な裁量がある。その違法性は、重要な事実の基礎を欠くか、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くかで判断する(マクリーン事件、呉市学校施設使用不許可事件、小田急本案事件等判例参照)。考慮不尽・他事考慮がなければ異なった結論に至る可能性があったときは(日光太郎杉事件高裁判例参照)、処分が社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたといえる(剣道実技受講拒否事件、呉市学校施設使用不許可事件、小田急本案事件等判例参照)。
市街地再開発事業は細分化された敷地を共同化して再開発ビルを建築する事業であるから、「一体的に開発し、又は整備する必要がある土地」の判断に当たっては、細分化された敷地を共同化できる立地条件であるかを考慮する。
B地区は約2万㎡であるのに対し、C地区はその10分の1の約2千㎡しかなく、河川沿いの細長い形状で、B地区から見て河川を越えた対岸にあるという立地条件にある。共同化して再開発ビルを建築するには全く不適といわざるをえない。本件都市計画変更に当たり、これを考慮すれば、C地区が「一体的に開発し、又は整備する必要がある土地」とはいえないとの結論に至るのは容易であった。
本件都市計画変更は、本件事業が停滞している中、令和4年になってなされ、それに際しては、B地区内の宅地所有者としてB地区組合員であり、かつ、C地区内宅地を全て所有するEが、R市長やB地区組合理事らに対し、C地区を本件事業の施行地区に編入するよう働きかけを行っていた。Eは、C地区の土地の活用に長年苦慮していた。上記立地条件を無視してR市が本件都市計画変更をしたのは、考慮すべきでないEの働きかけを重視したためと考えられる。
以上から、都市計画基準を充足するとの判断には考慮不尽・他事考慮があり、これがなければ異なった結論に至る可能性があったから、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたといえる。
よって、裁量逸脱の違法がある。
イ.施行区域要件(法3条4号)充足判断の裁量逸脱
「高度利用」、「貢献」という抽象的で評価的要素を含む文言を用いたのは、計画裁量を認める趣旨である。同号該当性判断について、裁量をき束する趣旨の特別の規定は見当たらない。同号該当性判断には広範な裁量がある。
本件都市計画変更はC地区公園整備の予定を前提にされた。市街地再開発事業は、細分化された敷地を共同化して、道路や公園等の公共施設の用地を生み出す事業でもあり、公共施設は新たに建築する再開発ビルの効用を増進させることが期待されるから、「当該区域内の土地の高度利用を図る」、「当該都市の機能の更新に貢献する」といえるかの判断に当たっては、細分化された敷地を共同化して公共施設の用地を生み出すか、公共施設が再開発ビルの効用を増進するかを考慮する。
C地区は、当初からEが地区内宅地を全て所有し、細分化された敷地でないから、C地区内宅地を共同化することで公共施設の用地が新たに生み出される余地はない。C地区は単独で公園とする予定であり、B地区と共同化して新たに用地が生み出されることもない。公共施設を設置したければ、Eと個別に交渉し、C地区の譲渡を受けるか、利用権の設定を受ければ足り、上記アの立地条件からすれば、C地区単独の地価は極めて低廉と考えられるから、その方が費用の面からも有利である。C地区はB地区から見て河川を越えた対岸にあるが、現況ではその周辺から再開発ビルが建築されるB地区側へ橋が架かっていないためにB地区側からの人の流入も期待できず、A駅方面へ行くにはかなりの遠回りをしなければならない。したがって、C地区に公共施設を設置することが再開発ビルの効用を増進するかを判断するに当たり、BC地区間の架橋が可能であるかは重要な要素であるところ、その点を検討した形跡がない。現に、その後の事業計画変更の内容は設計の概要のうち公園新設以外は変更しないという内容で、BC地区間の架橋計画がないから、本件都市計画の段階でも何ら検討されなかったと推認される。本件都市計画変更に当たり、上記各点が何ら考慮されておらず、これを考慮すれば、C地区が施行区域要件を満たさないとの結論に至るのは容易であった。それにもかかわらず、本件都市計画変更がされたのは、考慮すべきでないEの働きかけを重視したためであると考えられる。
以上から、C地区公園整備の予定を前提に、「当該区域内の土地の高度利用を図る」と判断すること、それによって「当該都市の機能の更新に貢献する」と判断することにつき、いずれも考慮不尽・他事考慮があり、これがなければ異なった結論に至る可能性があったから、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたといえる。
よって、裁量逸脱の違法がある。
(引用終わり)
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