特定財産承継遺言の当てはめ
(令和6年予備試験民法)

1.令和6年予備試験民法。「相続させる」旨の遺言については、平成30年法律第72号による改正後は、特定財産承継遺言(1014条2項括弧書)を当てはめる形で書けば足りるのでした。

(参照条文)民法1014条(特定財産に関する遺言の執行)

 前3条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。

2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

3、4 (略)

 その中で、特に規範を示して当てはめをすることを要するのは、「遺産の分割の方法の指定として」という部分です。ここは、最判平3・4・19が生きています。

最判平3・4・19より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。)

 被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については、遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものであるところ、遺言者は、各相続人との関係にあっては、その者と各相続人との身分関係及び生活関係、各相続人の現在及び将来の生活状況及び資力その他の経済関係、特定の不動産その他の遺産についての特定の相続人のかかわりあいの関係等各般の事情を配慮して遺言をするのであるから、遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば、遺言者の意思は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。そして、右の「相続させる」趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、前記の各般の事情を配慮しての被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法908条(※注:現行の同条1項に相当する。)において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。

(引用終わり)

 上記判例から規範を読み取ると、「遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り」(※1)、「遺産の分割の方法の指定として」といえる。ここで、「遺贈であることが明らかである」場合は、「遺贈と解すべき特段の事情」がある場合ということもできる(※2)でしょうから、文字数節約の観点からは、「遺贈と解すべき特段の事情」だけを規範にしておけばよいでしょう。
 ※1 厳密には、「遺贈であることが明らか」な場合は、当然に遺贈と解すべき場合であって、「特段の事情」は、遺贈であることが明らかでなくても遺贈と解すべき例外的な場合というニュアンスを伝えようとして敢えてこの文言にされているものなので、文字数を全然気にしないなら、そのまま忠実に書いた方がよいのです。ですが、試験現場ではそんなこと言ってられないんです。
 ※2 上記判例は、「遺言書の記載から」とするのですが、厳密には、遺言書の記載以外が全く考慮要素とならないわけではないので、規範ではここは省いた方がよいでしょう。ただし、遺言書の記載が意思解釈の基本になることは意識して当てはめをすべきです。

2.こうして、「規範明示と事実摘示」という形式で書くなら、当サイトの参考答案(その1)のように書くべきだったのでした。本件遺言書に(2)があるのは、ここで使うためなのですね。

(参考答案(その1)より引用。太字強調は筆者。)

 本件遺言書(1)は、特定財産承継遺言(1014条2項)か。
 同(1)は、「遺産に属する特定の財産」である乙土地を「共同相続人の1人」であるCに「承継させる旨」をいう。
 遺贈と解すべき特段の事情がない限り、「遺産の分割の方法の指定として」されたといえる(判例)
 同(2)で、「各相続人の法定相続分に従って相続させる。」とするから、同(1)の「相続させる。」について、遺贈と解すべき特段の事情はない。「遺産の分割の方法の指定として」されたといえる。
 以上から、同(1)は、特定財産承継遺言である。

(引用終わり)

 理由付けと評価を付すなら、参考答案(その2)のように書きましょう。

(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

 上記遺言は、「遺産に属する特定の財産」である乙土地をAの子(887条1項)で「共同相続人の1人」であるCに「承継させる旨」の遺言である。
 遺言の趣旨は遺言書で表明された遺言者意思を尊重して合理的に解釈すべきところ、共同相続人は遺産を当然に相続する地位にあるから、遺贈と解すべき特段の事情がない限り、「遺産の分割の方法の指定として」されたといえる(判例)
 同(2)で「各相続人の法定相続分に従って相続させる。」とされており、ここでの「相続させる。」が遺贈でなく、遺産分割方法の指定の趣旨であることは明らかである。同(1)の「相続させる。」についても、遺産分割方法の指定の趣旨と考えるのがAの意思解釈として合理的である。遺贈と解すべき特段の事情はない。「遺産の分割の方法の指定として」されたといえる。
 以上から、同(1)は特定財産承継遺言である。

(引用終わり)

 もっとも、本問は設問が4つもあり、設問1(1)は軽くやっつけたいところなので、普通の人は、ここまで厚く書いている余裕はないでしょう。ここは、「遺産の分割の方法の指定として」の当てはめすらしない人が多数になりそうなので、規範明示と事実摘示だけでも、余裕で上位になりそうです。

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