偽造文書による登記だけど
(令和6年予備試験民法)

1.令和6年予備試験民法設問1(1)。ほとんどの人が気付かなかったようですが、Dの登記は無効で対抗力がありません。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

5.令和4年8月24日、Bは、遺産分割協議書等の必要な書類を偽造して、乙土地について相続を原因とする自己への所有権移転登記手続をした。その上で、Bは、Dに対して、 同月25日、乙土地を代金2000万円で売り渡し、その旨の登記がされた。Dは、現在も乙土地を占有している。

(引用終わり)

 偽造文書による登記は、表見代理が成立するような例外的場合を除き、無効になるのでした(※1、※2)。
 ※1 当サイト作成の『司法試験定義趣旨論証集物権【第2版補訂版】』でも、地味に論証化しています(「偽造文書による登記の効力」の項目を参照)。
 ※2 登記権利者が全くの無権利である場合だけでなく、Aが土地をB及びCに二重譲渡し、Bが偽造文書を用いて先に登記を具備したという場合でも、その登記は無効とされています(最判昭50・7・15)。

最判昭41・11・18より引用。太字強調は当サイトによる。)

 偽造文書による登記申請が受理されて登記を経由した場合に、その登記の記載が実体的法律関係に符合し、かつ、登記義務者においてその登記を拒みうる特段の事情がなく登記権利者において当該登記申請が適法であると信ずるにつき正当の事由があるときは、登記義務者は右登記の無効を主張することができないものと解するのが相当である。
 本件についてこれをみるに、原判決は、本件根抵当権設定登記は訴外Dの偽造にかかる申請書に基づきなされたものであるが、右根抵当権設定契約は、前述のとおり、表見代理の法理の適用により、上告人に対し有効であり、原審の確定した事実関係のもとでは、被上告人の代理人である訴外Eにおいて右Dが上告人を代理して前記登記申請をする権限を有するものと信ずるにつき正当の事由があつた旨判示している。原審の右判断は、前記説示に照らして、正当である。してみると、上告人は被上告人に対し、本件根抵当権設定登記の無効を主張してその抹消を請求することはできないものといわなければならない。

(引用終わり)

 本問では、表見代理が成立しないのはもちろん、Cに何ら帰責性がないので、94条2項類推適用の余地もない(※3)。なので、Bへの所有権移転登記は無効であって、それを前提とするDへの所有権移転登記も無効です。
 ※3 そうだとすると、いつまでも無効の登記が残って取引の安全が害されるじゃん、と思うかも知れませんが、ある程度時間が経過すると、「長期間放置した。」という評価が可能になるので、その時以降の転得者は94条2項類推適用で保護されることになるでしょう。

2.もっとも、本問で、これが結論に影響するかというと、Cが明渡しを請求する事案なので、影響しません。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問1(1)〕

 【事実Ⅰ】及び【事実Ⅱ】(1から6まで)を前提として、 Cは、Dに対して、所有権に基づき、乙土地の明渡しを請求した。Dからの反論にも言及しつつ、Cの請求が認められるかについて論じなさい。

(引用終わり)

 Cが明渡しを請求する場合には、CがDに対して所有権を対抗する場面なので、「Cが登記を具備すること」が必要です。Dとしては、「お前登記ないじゃん。」と言えば勝つる。なので、Dの登記の有効性は、問題にならないのです。これが、仮に、DがCに明渡しを請求したり、共有持分権の確認を求めたりする事案であったなら、Dが対抗要件を備えていなければいけないので、Dの登記の有効性が正面から問題になるところでした。

3.そんなわけで、Dの登記の有効性について何も触れなくても、合否に影響はないでしょう。ただ、ちょっと書き方に気を付ける必要がある。例えば、当サイトの参考答案(その1)は、やっちゃいけない書き方の一例です。

(参考答案(その1)より引用。太字強調は筆者。)

 乙土地につきDが先に登記したとの反論が考えられる。
 特定財産承継遺言による権利承継のうち法定相続分超過部分を第三者に対抗するには、対抗要件を要する(899条の2第1項)。
 Aの相続人は子BCで(887条1項)、法定相続分は各2分の1である(900条4号本文)。Cは、本件遺言書(1)による乙土地所有権承継につき、2分の1を超える部分についてDと対抗関係となる。Dが先に登記した以上、同部分につきDが優先する
 以上から、乙土地はCDで持分各2分の1の共有となる。

(引用終わり)

 堂々と、「Dが優先する。」と書いてしまっています。ここまでを読んだ人なら、「D名義登記は無効なんだから、Cが対抗できないというだけで、Dが優先するわけじゃないよね。」とすぐ分かることでしょう。しかし、この記事を読む前に参考答案を読んだときには、何も気にならなかった人が多かったのではないかと思います。現場だと、うっかりやってしまっても、書いた本人も気付かない。そんな感じのミスです。とはいえ、これはそんなに評価を大きく左右しないだろうと思っています。参考答案(その1)でも、余裕で合格答案でしょう。

4.ちなみに、登記の有効性をどうしても書きたい、という困った人は、「対抗要件の抗弁は成立するが、対抗要件具備による持分喪失の抗弁は成立しない。」という文脈で書くことになるでしょう。当サイトの参考答案(その2)は、その例です。

(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

2.抗弁

(1)対抗要件の抗弁

ア.Bは、Aの子(900条4号本文)である。Bは、Dに対して、令和4年8月25日、乙土地を代金2000万円で売り渡した。
 乙土地のうち、Cの法定相続分を超える持分2分の1については、上記売買契約により、DはCと対抗関係に立つ(899条の2第1項)。

イ.Dは、乙土地につき、Cが登記をするまで、乙土地のうち上記部分の取得を認めないとの権利主張により、対抗要件の抗弁が成立する(権利抗弁説)。
 なお、所有権に基づく明渡請求に持分権に基づく明渡請求を含むと考えたとしても、各共有者は自己の持分の限度で共有地を占有する権原を有する(249条1項)以上、他の各共有者は、共有地を占有する共有者に対し、当然にはその明渡しを請求できない(判例)から、上記抗弁の成立を妨げない。

(2)以下のとおり、対抗要件具備による乙土地持分2分の1喪失の抗弁は成立しない
 Bの相続登記は偽造文書による登記であって、実体関係に符合し、かつ、登記義務者において登記申請を拒むことができる特段の事情がなく、登記権利者においてその登記申請を適法と信ずる正当の事由がある場合でない限り、無効である(判例)ところ、前記1(2)の特定財産承継遺言がある以上、実体関係に符合せず、後記(3)のとおり94条2項類推適用の余地もないから、Cにおいて登記申請を拒むことができる。
 したがって、Bの相続登記は無効であり、これを前提とするDの所有権移転登記も無効であって、対抗力を有しないから、Cの持分喪失の効果は生じない

(引用終わり)

 とはいえ、普通はこんなの書いていたら4頁で収まるわけないので、こんなもん書いちゃいけません。

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